検証!まさか!あのアミガサタケが??
ある日、突然 ナット氏から、「すごいニュースあるよ!」と、こんな情報が寄せられました。
わたしが育てているアミガサタケ(イエローモレル)が、培地上に子実体を発生させました!!
https://www.facebook.com/groups/WildGreenMemesForEcologicalFiends/permalink/3053736398188923/
なんと!!!
あの!アミガサタケが?? 培養シャーレの中で??
子実体を形成した!??
よく写真を見てみると、たしかにアミガサタケらしからぬモノが・・・🍄
これって、本当にスゴいことなのですよ!!
でも、まわりの人に話してみると、
心なしか 「ふぅ~~ん、そなんだ」で軽くスルーされているような??
そこで!
今回は、このニュースの「どこがそんなにすごいのか??」を掘り下げてみたいと思います。
アミガサタケは もはや人工栽培できる時代になった
つい最近では、
日本産のアミガサタケの人工栽培が成功した!という報告があったんですよ~
『国内あみがさたけの試験に成功 今後は栽培化に向けて研究』
特産情報 8月号(2021年) “きのこ特産情報 交差点” 掲載
(岩手県林業技術センター)
岩手県林業技術センターは、このほど、国内93か所で採取したあみがさたけの栽培試験を行っていたところ、今春になって初めて屋外での発生を確認した。
実は、アミガサタケの人工栽培については、
100年以上前からたくさんの研究者が挑戦してきたという歴史がある。
しかしなかなかどうして技術的に人工栽培といえるまで完成しなかった・・・けど!
ついに!!中国でその技術が開発され、一気に流れが変わった。
そして日本でも、国内で採取された栽培品種に近い “ブラックモレル” 系のアミガサタケを、その中国で開発された栽培技術で挑戦してみたところ、発生が確認されたということらしい。
もうご存じかもしれませんが、中国で開発されたアミガサタケの人工栽培については、きのこびとでも取り上げている。
まだという方は、ぜひ見て欲しい!!!
なぜ、アミガサタケは人工栽培が難しいのか?
ちょっとここで「なぜアミガサタケは人工栽培が難しいのか?」を整理しておこう。
きのこの生理や生態やら~考慮すれば、おそらくいくつも要因が考えられるのだろうが、
ここでは、ざっくりと2つの要因をあげたいと思う。
まず、ひとつめは、
1.あみがさたけは、木材腐朽菌ではない。
これまで、人工栽培が成功し、流通にのってスーパーなどで簡単に手に入るきのこ・・
シイタケもヒラタケもキクラゲもすべて木材腐朽菌である。
(ホンシメジは、菌根菌なのだが、菌根共生しなくても成長し子実体を発生させる株を見つけだしてそれを利用しているそうな)
木材腐朽菌は、そのきのこが大好きな“死んだ木材”を用意して住まわせてやり、
子実体を発生させる環境を人為的に作り出してやることで、子実体を生産できる。
ポルチーニの仲間と言われるヤマドリタケ属の食用キノコ(注1)も、
タマゴタケ(注2)も、あのマツタケ(注3)も、
植物と栄養のやりとりをして生きているので、死んだ木材に接種しても育たない。
植物と共生しているきのこは、木材腐朽菌に比べて栽培がおそろしくムズカシイ。
それどころか、培養シャーレで菌糸を育てることさえ、まだ成功していないきのこばかりだ。
お目当てのきのこがなくても、なにかしらベニタケの仲間だけは見つけることがあるだろう、
そのベニタケの仲間のきのこも、培養がおそろしくムズカシイ。
子実体からDNAを抽出して塩基配列データを取り出し、それを基にした研究は数多くあるのだが、
培養出来ないためか、どんな生態を持っているのか?どんな栄養の授受を行っているのか?
そういった研究はほとんどなく(出来ない💦)、
あんなに身近なベニタケの仲間もよくわかっていないことばかりなのである。
つまり培養出来ないということは、研究も狭まってしまう、ということだ。
どんな生理特性があるのか?どんな生態を持っているのか?
どんな刺激でどんな反応がおこるのか?どんな交配系をもっているのか?
すべて、人工栽培につながる知見である。
それが解明する研究がなかなか出来ない、というのはかなりイタい・・・・💦💦
ところが、アミガサタケは、木材腐朽菌ではない。
しかも、培養が比較的容易である。(林:経験からの感想)
それでは、菌根菌なのか?といわれると、
元気よく「菌根菌です!」と答えられるような生態ではどうやらないようだ。
アミガサタケは、いまだ生態についても生理特性についても、
わかっていないことが多い・・・謎だらけ!
木材腐朽菌のような振る舞いを見せるけど、どうやら植物ともなにかしらの関係を持っているようだ、
そこらへんが充分に解明されていないのだけど、まだ定義付けられていない中間的な生態を持っているようだ。
だけど、木材腐朽菌のように、木材だけ与えていれば子実体を形成するかといったら、それはない。
・・・・なかった、となるだろうか。
だから、これまで人工栽培がまったくうまくいかなかった。
ちなみに、アミガサタケの生態に関しても、いろいろ書いているので、
興味がある方は、参照してください。↓
アミガサタケは腐生菌か?菌根菌か?(千葉菌類談話会通信に投稿文)
http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou34/p30-33amigasa.pdf
(注1)* ヤマドリタケモドキなどは培養できるのだが菌糸伸長がおそろしく遅く、
継代培養をしているうちに死んでしまう。。。(林:経験からの感想)
(注2)* タマゴタケの培養による研究は、ある程度の培養が可能になってきた。
でも・・・・培養液の作成はめちゃくちゃ大変そう・・(興味のある方は調べてみてください)
http://www.fb.fr.a.u-tokyo.ac.jp/theme/endo.html
(注3)* マツタケは難しいが培養ができる。(長年の研究の賜物!)
人工的に菌根を作ることまでは可能だが、子実体形成までの技術の確立までにはなかなか至っていない。
https://www.nara.kindai.ac.jp/labo/research/007.html
2.子実体形成の条件がわからない
たしか、アカヒダワカクサタケの菌株を先生にもらって培養をはじめたのが、
わたしが培養実験にハマるきっかけだったように思う。
三角フラスコに培地を作り、そこにアカヒダワカクサタケの菌糸を接種すると、
すぐに菌糸が伸びて子実体(きのこ)を形成する。
三角フラスコの中でにょろにょろときのこが発生するのが面白かった。
きのこの中には、このように培地上でも子実体を形成する種がある。
ヒトヨタケの仲間も、狭い試験管のなかでも子実体を形成したりする。
でも、そんなきのこは、きのこ全体の中ではほんの一握りにしかすぎない。
ブナシメジもシイタケも、試験管の中では子実体を形成しない。
子実体を形成させるためには、
子実体を形成するぞ!というシグナルがなければならないといわれている。
それは、光による刺激だったり、温度による刺激だったり、多要素にわたる。
もちろん、まだ解明されていないことばかりである。
いまでも、それは研究が続けられている。
(三重県林業研究所だより 2021年 第26号 「研究紹介 ハナビラタケの子実体原基形成と光環境の関係」)
しかも、それぞれの刺激を与えても、思うように子実体を形成しないことも多い。
わたしもいろいろなきのこを栽培したが、
ブナシメジでさえも 子実体を発生させるのは難しかった。
菌糸を栽培することが出来ても、子実体まで発生させるのは難しいものばかりなのに、
アミガサタケがシャーレで?なぜ??なぜなんだ???
わかってもらえただろうか?
きのこは、人間がいろいろコントロールして環境や条件を整えてやっても
そう やすやすと子実体を作ってくれない、ってことが!
考えられる要因をあげてみた。
- たまたま、子実体形成刺激を感受する機能を失った
- たまたま、子実体発生させるような遺伝的な変異を起こした
- たまたま、子実体発生刺激になるシグナル的ななにかがそこに起こった。
ほかにも、いくつもの ”たまたま” があるのかもしれない。
それら、すべての ”たまたま” がなにかしらの要因ですべてONになってしまった、としか思えない。
アミガサタケを培地で培養していたら、ある日突然子実体を作り始めるなんて・・・
こんなことは普通では、
ぜったいに起こり得ない・・・!!
そんな ”ぜったい” が起こってしまった・・・・
この世には、奇跡って本当にあるんだな 🍄
(2021.9.9 Chie, H. )