兵庫のキノコ
六甲山系という地の利を有し、西日本でも有力と見られるキノコサークル「兵庫きのこ研究会」の手によるローカルきのこ図鑑。
なんといっても「キノコが好きなんじゃ!文句あるか!」とでも聞こえてきそうな趣味全開の作りがすばらしい。従来の「採る・食べる」だけにとどまらず、「見る・撮る」のコーナーに力を入れたところにその想いが感じ取れる。
持ち寄りの写真と文章も力作ぞろい。各人が個性的で活き活きとしていて、いかにもキノコ好きな人々が楽しみながら作ったという雰囲気が伝わってくる。
以下引用。
『このキノコとの初めての出会いは2月、にわか雪がちらつく寒い日だった。腐朽の進んだ倒木に、寒さにも負けず凛とした姿で群生していたのには感動した。』(センボンクヌギタケ:田中實)
『幼菌のころ、青緑色の傘にこってりとヌメリをまとった姿はまるで和菓子のようだ。低地からブナ帯でも見かけたことがあるが、その色から意外に見つけにくい。落ち着いた黄緑色のこのキノコを見つけると何故かホッとする』(モエギタケ:土屋規麻太)
『早春の残雪の中で見つけたときには、鮮やかな紅色と真っ白な雪のコントラストに心が躍る。形もお椀形で可愛らしく、見つけるといつも採取してしまう。』(ベニチャワンタケ:松谷寧子)
いやー、温かみのある文章の図鑑というのはシロウトにしか成し得ないこと。悪いことばかりがクローズアップされがちな現代だけど、こんな楽しいこともできるようになったんだから、なかなか捨てたモンじゃないよ、今の世の中。
写真・文章・レイアウト、いずれもレベル高し。後ろ半分の『キノコを楽しむ』コーナーの構成も出色。実用的というより娯楽的図鑑だが、この開放的な雰囲気は捨てがたい。西日本のキノコファンには断然オススメの五つ星。
「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2010年04月23日に掲載分を再掲載