きのこのほん
今年刊行されたばかりのキノコ写真集。
鈴木氏は御殿場在住のアーティスト(というとなんだか漠然としているが)。富士山麓をフィールドとして撮影したキノコの写真を集めたのが本書だ。文字は最低限といった感じで、大小さまざまなキノコ写真が、わりと気ままな感じでちりばめられている。一点、普通にイメージする写真集とおもむきが違うのは、光沢の少ない印刷を使用しているところ。絹目調というんだろうか、やや紙っぽい質感を残した印刷方法を採っている。ピカピカ光る光沢紙は綺麗だと思うけど、よそ行きじゃないありのままのキノコを表現したいというのであれば、こういう選択もおもしろい。
そういう意図があるのかないのかは別としても、写真から感じる全体的な印象は、やはりどちらかと言えば誠実、純朴といったところ。アーティストを自称するくらいだから、もっと先鋭的な表現があるのかな、とも思ったけど、そのへんは人柄も関係してるのかな?本の帯にある、クマっぽい(失礼)著者の姿とはうらはらに、抑制のきいたスタイルだと思う。キノコのアップ写真ばかりではなく、周囲の背景を広くとったアングルも織り交ぜ、富士山麓の林内のしっとりした雰囲気をうまくつたえている。
分量は200ページ弱とかなりのボリューム。これを光沢紙にしたらすごい厚みになったろうから、そのへんの議論があったものかなかったものか。45ページのタマゴタケ写真(表紙のタマゴタケの別カット)がやはりピカイチだとおもうのだが如何に。
……それにしても富士山はずるいなー。どこに行ってもコケだらけだからキノコ撮影しやすいし。こちとら背景にいかに緑を取り入れるかでいつも苦心惨憺しているのに……などとやっかみを言いつつ、実は苦労して撮るのが楽しかったりする。
「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2010年12月18日に掲載分を再掲載