南方熊楠菌類図譜

『南方熊楠菌類図譜』

明治から昭和初期にわたる激動の時代を、好奇心が導くままに突きすすんだ「巨人」、日本史上最強の菌類学者・南方熊楠(みなかたくまぐす)の手によるキノコのドローイング集。

この本を開いて真っ先に感じるのはその奔放さ。ラフなようでいて細密とも見えるキノコの水彩画を、ことこまかに記された英字の記載が縦横入り乱れてウジャウジャと取り巻いており、さらに、ところどころにキノコの標本が押し花よろしく、ぺっとり直貼り。

うーん、なんだかすごい。

正直いえば、スケッチだけを見るかぎり、熊楠にあまり絵の才能はない。だが、そんなこととははるかに違う次元で、彼がキノコを求めていたことが、これらの図譜に新たな意味を与える。

熊楠は菌類や粘菌の研究をライフワークとした他にも、多くの学問に関心をよせ、また、国内・国外を問わず、その破格さを示すエピソードが数多く知られている。あくなき好奇心、あくなき行動力、あくなき人間エネルギー。その精神的質量の巨大さはいったいどこから湧き出てくるものか……。彼の生涯を知るにつけ、小惑星探査機「はやぶさ」が回収してきた0.1ミリ以下の塵にも劣る自分の小ささに愕然とするほかない。

無論、この図譜は菌類の学問的資料として一級なのだが、熊楠の英字記載は解読不能なので、この本から情報を読み取るのはあきらめたほうがいい。私のごとき凡人は、ただ漫然と眺めるしかないのだが……それでも熊楠ファンには、たまらんだろうな。

こういうのもありました。

「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2010年08月25日に掲載分を再掲載

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