キノコの魅力と不思議

『キノコの魅力と不思議』 小宮山勝司 著

「21世紀を賢く生きるための科学の力を培う」というポリシーの下、創刊された『サイエンス・アイ新書』の一冊。
近年のブーム(といっても消費者のではなく出版サイドでのブーム)で、新書の創刊が相次ぎ、新書という枠組みが随分拡張された感があるが、この本も新書でありながらオールカラーで画質のいいキノコ写真をバリバリ載せており、ヘタなハンディ図鑑ならばビジュアル勝負でも負けそうなシロモノ。ひと昔前から見れば隔世の感、といったところか。

さて本書、サブタイトルに『見た目の特徴・発生時期・場所から食感・毒の有無・中毒症状まで』などとやたらと長い能書きがついており、「お、硬派。やる気マンマンじゃないの」と思いながらページを繰ってみると

ちょっと待てー、中身めっちゃ軟派やん。

一種類ごとにキノコを紹介していく、という体裁をとっているものの、内容はぶっちゃけ、きのこエピソード集。『ペンションきのこ』のオーナーであり、名だたるキノコ人とも古くから親交のある著者の多彩な経験談が、軽妙、というかザクザクポワッというか(意味不明)、まあそんな感じで語られていく。『見た目の特徴・発生時期…云々』は写真の下にチョロっと。これでよかったのか?ソフトバンク編集部。

ひとつひとつのエピソードもかなり内容が濃く、特にキノコ中毒体験談はゲリベンなどの描写が妙にリアル過ぎて、凄い内容となっておりますです。他にもゲロが飛び散ったり、女性にタケリタケ持たせたり、しまいには「ボクのキノコ」などと言いだしたり…もはや、やりたい放題。これでよかったのか?ソフトバンク編集部。

この本がこのようになってしまったいきさつは、前書きのところに丁寧過ぎるほどことわってあり、まあ私個人としては大いにうなずけることではあるのだが……いたずらっぽそうな笑顔の著者近影が「してやったり」という顔に見えて、妙に合点がいくのだった。

ということで、タイトルで買ってしまった人は「なんじゃこりゃー」となること請け合いの、素晴らしいきのこエッセイ集というのが偽らざるこの本の評価かと。どんな知識も経験の厚みには勝てませんなー。

「月刊きのこ人」(こじましんいちろう)2011年02月09日に掲載分を再掲載

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