きのこに名前をつける ② 種とはなにか

チャールズ・ダーウィン 「種の起源」(1859) に収められた“進化の木”

種とはなにか?

同じレイアウトで同じように整理整頓された「自分の部屋」はほかにはないと①では書いたが、
生物分類にも命名規約があるのだし、ひとつだけルールを設けよう。

「勉強で使うもの」と「遊びで使うもの」箱を作って、そこにそれぞれを収納するとする。

せっせとそのどちらかの箱に散乱しているモノを収納していくのだが、
子どもの頃の思い出やら友だちにもらったいらないものやら~・・
かならず どちらにも属さないモノがでてくる。

その場合、新しく箱を作るか、いやそれでは無限に箱が増えてしまう、、、

2つの箱のどちらかに無理やり収納してしまおうか、もう見なかったことにしようか・・・、

そんな風に悩んだ経験は、きっとあるはずだ。

きのこに名前をつける ① 分類ってなに

「生物種」を整理整頓する分類学にとって、

種とはなにか?

は、大きなテーマのひとつで、長い間議論されてきた。

その種の区切りで、収納する箱のラベルの文字も変わり、用意する箱の数も変わり

全体的な分類体系も変わってくるからだ。

時代の価値観や科学技術の発展により、その答えは変容し続けている。

まず、リンネが二名法を定着させ、

おのおの自由に分類していた生物種の分類を世界共通仕様にして、

世界中の生物種の存在を分類学的に知ることができるようになった。

そしてから、ダーウィンの進化論の出現だ。

生物は進化している、という衝撃的な事実により、

共通祖先をもつと推測される類似した形態の種をひとつの箱に入れるようになった。

それから、顕微鏡技術の発展により、形態の分類がさらに細分化され、

環境や個体差に影響されやすい部位よりも遺伝的に変化しない形質を重視した分類になり、

メンデルの法則から、DNAの発見につながり、いまやDNA解析により系統分析が行われ、

系統による分類手法までも取り入れられるようになった。

小学生のころと、オトナのいまでは、自分の部屋の整頓方法も変わっているはずだ。

なにを基準にして、どのように整理するかは、変わっていくのが自然だし、これもまた正解がない。

現在の“正解”は、10年後には“不正解”になるかもしれない。

それを念頭にいれて、種とはなにか?についてもう少し深く考えてみよう。

きのこの種定義

種とはなにか?に触れた文献はいくつかあるが、

わたしは、「菌類の事典」がいちばんわかりやすくて参考になると思っている。

「菌類の事典」日本菌学会(編集)

この菌類の事典から種定義を引用しよう。

種定義
「種」とは生物分類学上の基本単位である。
現在、地球上で名前がつけられている種として約200万種あるが、
種の定義は専門家の間でもさまざまであり、統一した定義はない。
これまでに提唱された種概念だけでも20種類以上あると言われている。

高松 進 (2013)「1-6 種の定義」,菌類の事典, 日本菌学会(編), 東京: 朝倉書店, 16–17 pp.

種定義が20以上ある、というのは意外なようでも、

種定義というのを冒頭にあげた生理整頓するための「箱」と考えれば、ナットクするはずだ。

たとえば、大腸菌と赤痢菌は、見た目はまったく一緒、さらにDNA間を比べても相同である。

大腸菌のように病原性を持つ細菌は、「病原性を持つ」「病原性を持たない」箱があり、
形態や遺伝子型がまったく同じでも、別種として扱われる。

ちなみに、きのこの分類では「毒がある」「毒をもたない」の箱は、いまのところわたしは、きいたことがない。

実は、千葉産のアミヒカリタケは光らない、と知られている。

光らなくても、形態などが光るアミヒカリタケと一致しているので、
光らなくても「アミヒカリタケ」なのである。

もしかしたら、この先のだれかが
「光る」「光らない」箱を提唱し、それが認められたら、それらは別種となるかもしれない。

種定義とはそういうものである。

けっこう頻繁に分類体系が変わります、
ちょっと油断するとおいていかれちゃう・・・
っていうか、もうすでにおいていかれちゃってるかも

きのこの分類における主要な種概念 4つ

現在、菌類で用いられている主要な種概念は4つあるとしている。
(同:高松 進 (2013)「1-6 種の定義」,菌類の事典, 日本菌学会(編), 東京: 朝倉書店, 16–17 pp.)

① 生物学的種概念

② 形態学的種概念

③ 生態学的種概念

④ 系統学的種概念

分類学の世界では、さまざまな生物群の研究論文が毎年、数多く発表されている。

常に分類は動いていて、新種発表のみならず分類体系さえも何度も見直され、

既存のグループが解体されたり、新しい科や属が作られたり、それは目まぐるしい。

わたしが科学的信憑性が高いと評価できる分類について研究論文は、

「生物学的種概念」「形態学的種概念」「生態学的種概念」「系統学的種概念」

これらのすべてもしくは3つ以上を、正しく評価し、客観性を持った考察をしている論文だ。

なかには、これらひとつだけの種概念をとりあげての考察もあるが
(新種発表や分類再検討の手法や考察には、”決まり”がない。
科学的根拠があり、国際藻類・菌類・植物命名規約に基づいていると判断されればいい)
採用した種概念以外での考察ではどうだろうか?とやっぱり考えてしまう。

Wiki : 国際藻類・菌類・植物命名規約

最近は、系統学的種概念を取り入れる論文が多くなった。

これまでの形態学的種概念での分類体系と、
系統学的種概念での分類と整合しないことがしばしばおこり、大きな課題になっている。

形態の差異による分類群と、分子系統の推測による分類群が整合しなかった場合(普通によくあります)
どこに落としどころを見つけたか?を論文から読み解いていくと
その分類学者の分類に対する理念や理想が垣間見える。

わたしは、どちらかというと形態学的種概念に重点を置きたいな~・・・・!!

だって、分類ってヒトが使うもので、
ヒトのためにあるものでしょ?

遺伝子の塩基配列の違いによる分類なんて、
特別な道具や機械がないとわからないぢゃん~!
手間もお金もかかるしさ~!!

・・・なんて思っているんだけど、分子系統の威力はすごすぎ!!で・・・
分子系統で分類したら、使えない分類になっちゃいますよ!と言いたいんだけど、
なかなか言えんわな~・・・(ボソボソ

ほなほな、次は

細かく4つの種概念について解説していこうと思っています。

→ きのこに名前をつける ③ 4つの種概念

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