二階建てきのこの謎を解く
9月の事。
Facebookのきのこ部にこんな写真が投稿された。
フクロツルタケのと思われるキノコの上に小さめのフクロツルタケが載っているのだ。
きのこ on きのこ
最初は「これ載せたんじゃない?」と密かに思っていたのであるが、どうもそうではないようだ。
撮影した井上さんが小さい方を突っついても落ちなかったという。
たぶん、これは、あれだよな~二階建てキノコ~(ドラえもん風に)。
僕はまだ見たことは無いのだが、キノコの上からキノコが発生するのは超珍しいというわけではないが、珍しい部類には入ると思われますな、、だってキノコ歴が長い僕でさえまだ見たことないもんね。
この二階建てキノコ、古くは江戸時代後期の旗本で、本草学者でもある毛利梅園が作った「梅園図譜」という中にも描かれています。「櫓茸(ヤグラタケ」という名前が書かれておりますが、明らかにそれはベニタケの仲間であり、その傘の上に同じ種類の小さいベニタケたちが発生しております。
梅園は本当のヤグラタケ(クロハツの仲間の上に発生する白いキノコ)を描きたかったのでしょうか、それともベニタケの上に発生する二階建てキノコを描きたかったのでしょうか?
どちらにせよ、この二階建てキノコを当時「櫓茸(ヤグラタケ」と称していたのだろうという事は想像できます。
さて、そんな二階建てキノコですが、梅園の絵にあるようにベニタケ類ではSNSなどに時々アップされているのを拝見しますし、実は杏美ちゃんも以前こんな記事を書いておりました。
懐かしい~!!
ではどんなキノコが二階建てになりやすいのでしょうか?
同じくFacebookのきのこ部で「二階建ての写真を募集します」と投稿したところ沢山の写真が投稿されましたので、その中の一部をピックアップして掲載します。
二階建てキノコ写真
これはなかなかユニークですよね?(#^.^#)
親のヤマドリタケモドキは倒れているにも関わらず、二階建て部分は地面に対して90度で立とうとしております。
これはもしかして「上」という方向が分かっているのかもしれませんね!
ムラサキヤマドリタケから発生している二階建てキノコですね。
これも親のムラサキヤマドリタケがやや倒れ気味に成長しているのですが、その傘の横の部分から発生し、やはり上を意識している様に成長しております。
クロハツの仲間の二階建てです。
何だろう?今までと雰囲気が違いますね~!!
そもそもクロハツの仲間は柄が短く太いので、二階建てキノコになったとしてもほぼ柄がないのかな?
しかし絵にはなりにくいね(笑)
クサハツモドキから二階建てキノコが出ておりますね。
これもヤマドリタケモドキなどと同じように傘の中央ではなく、傘の横辺りから出ておりますね。
しかもこいつ、子実体の大きさが親とさほど変わらないですねぇ~(笑)
さて、これは定番と言っていいかもしれないベニタケの仲間ですね。
親の方の傘が地面と平行ではないためか、それとも自分自身で曲がってしまったのか、柄が少し傾き傘が親の傘とくっついてしまっています。
そしてやはり傘の中央から出るのではなく、端っこの方から子実体を形成していますね。
そしてこれはチチタケの仲間でしょうか?
見事に傘の上から綺麗にでておりますね~。
まるで傘の上にくっつけたようです。
さて、いろいろ二階建てキノコを見てもらいましたが、では何故二階建てキノコというものが出来るのでしょうか?キノコの上にキノコを作ることに何か「意味」でもあるのでしょうか?
いずれにせよ、「このキノコは発生しやすい」というものはなさそうですが、一つにはある程度大型であること、そしてなぜかほとんどが菌根菌であること。
大型はやはり傘の大きさがある程度十分でないとその上から発生するだけの菌糸量が得られないこと。
また、菌根菌であるというのは菌根菌の方が子実体を生成する余力が沢山あるのだろうか???
次の章ではその理由について考えてみます。
二階建てキノコと呼ばれているモノは何故生まれるのか?
想像を巡らせてみてください・・・。
何故この様な二階建てキノコが生まれてくるのだろうか?
どの様な順序でこの形が作られるのだろうか?
この様な出方をして何かメリットがあるのだろうか?
では、ちょっと整理してみましょう。
キノコは「菌糸」という肉眼では見えない細い糸から作られてきます。
その細い糸はいつもは土の中にいたり、腐朽の進んだ木の中にいたりするのですが、あるきっかけから「ヨシ!キノコを作るぞ」というエネルギーが働きます。そして蓄えられた菌糸を総結集させて、この様なキノコ(子実体と呼ばれます)という自分の子孫である胞子を放出するための構造物を作り上げていくのです。
その際に使用される子実体を作るための「設計図」は遺伝子の中に組み込まれており、環境の変化によって多少は異なるものの、我ら人間が見て「これはヤマドリタケモドキだよね」と判断できるぐらいの類似性を持った子実体を作り出すことが出来るのですね。
しかしその創造過程において、何らかの「ハプニング」が発生します。
そのハプニングがこのヤマドリタケモドキの子実体を生成している時に発生すると奇形という形で表れてくるのでしょうね、きっと。
では、こんな奇形が生まれてくるほどのハプニングというのはどんなケースが考えられるでしょうか?
二つの仮説を立ててみました。
- 子実体の成長過程で「間違えて」傘の上に子実体が作られた(成長ミス説)
- 先に作られていた子実体の下から新しい子実体が作られた(押上げ説)
どうでしょう?あくまでも仮説に過ぎませんが。
最初僕は1の仮説しか考えていませんでした。
それは以前こんなキアミアシイグチを見たからでした。
これは傘の上になんと小さな管孔があるのですね。
管孔は通常傘の下に作るものですが、なにかの間違いで傘の上に作っちゃったんですね。
その時の切断面がこれです。
少し画像が悪いですが、半分に割られたキアミアシイグチの傘の上下に管孔が見えますね。
これから察するに、キノコはある確率で子実体を作る際に「作り方を間違える」ことがあるのでは?と考えていましたし、その考えは今も変わりません。
がしかし、、、
井上さんの写真を拝見してその考えが少しグラつきました。
この写真を見て「え?」と思うことはありませんか?
その「え?」の部分をアップしてみます。
フクロツルタケの仲間の袋である「ツボ」の部分に注目してください。
土とか腐朽した葉っぱが付着しているのがわかりますでしょうか?
ツボ全体に土らしきものが付着しており、親であるフクロツルタケの傘には付いておりません。
何故ツボに土が付いているのでしょうか?
それに対する答えは唯一これだけしか考えられません。
小さい方のフクロツルタケも土から発生していたから
ということになります。
少なくともこのフクロツルタケに関しては、傘の上に乗っている小さいフクロツルタケが先に出ていたのでしょう。その後、下のフクロツルタケが真下から出てきて、成長していくもんだから、仕方なく上に張り付いたものの、菌糸の供給が途絶えてしまったので小さなままでいるしかない、、、
なんていう状態じゃないでしょうか?
つまり仮説2の「キノコが押上げられた説」というのが俄然有力になってきました。
しかしそこで、ある方から「ものいい」がつきました。
どんぐりキノコの達人
「どんぐりキノコ」というものをご存じでしょうか?
どんぐりを粉砕して、それを菌床にしてキノコを栽培する、、という誰も思いつかなかった栽培を10年以上も続けている達人なのですね。
詳しいことは「千葉菌類談話会通信」の36号をご覧ください。
http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou36/p24-26donguri.pdf
この中の木下さんの記事「どんぐりキノコ10周年」の中にどんぐりキノコを作ることに至ったエピソードが書いてあるのですが、それと共に「二階建てキノコ」の謎を解く凄いエピソードが書かれているのでした。
また、これについて詳しい事は木下さんのブログ【黒いうさぎのれおんくん∂⍵∂】の中でも詳しく書かれていますので、こちらの記事をご覧ください。
https://kurousaleon.blog.jp/20180726
それでは、写真掲載の許可をもらいましたので、ここでもその凄いエピソードを簡単に紹介したいと思います。
ちなみに今回栽培されているのはヒマラヤヒラタケというウスヒラタケの近縁種だそうです。
(1) 傘の天辺を傷つける
傘にゴミが付いたときに爪で傷をつけてしまったそうです。
この写真のはその時のものとは違うそうなのですが、同じように故意に傷をつけたものだそうです。
(2) 唇の様なものが出来てくる
傷をつけたところの両脇が盛り上がってきて、まるで唇の様な形になってきます。
なんじゃこりゃ~
(3) なんだか突起の様なものが出てくる
唇の部分から突起物がいくつももこもこと出てきておりますね。
これは子実体の「原基」だと考えていいでしょう。
(4) きのこの幼菌っぽい形になってきた
いよいよもこもこがキノコの傘の形になってきましたね~!!
(5) 沢山でている中の1本が大きくなり始める
いくつかもこもこしていたものから1本だけが突出してきていますね。
この写真では大きさの差は少しだけですが、その1本からは勢いを感じますね~
(6) 1本だけが最大化して、他のもこもこは消える
そしてこの写真では他の幼菌たちは1本の幼菌に飲み込まれているようです。
しかしここまでくると「幼菌」とは言えず、親よりも大きくなっておりますな(笑)
改めて考える、二階建てキノコは何故生まれるのか?
どんぐりキノコの生みの親である木下さんはFacebookのコメントで
「二階建てキノコの作り方知ってる」
と言われました。
そして紹介された千葉菌類談話会の記事では「人工的に作られた」二階建てキノコがそこにありました。
この原理は恐らく「菌掻き(かき)」の原理と同じだと考えています。
すなわち菌掻きとは栽培ビンなどで培養され菌糸が回っている菌床にたいして、スプーンなどで菌床の上の部分を引っ掻くとそこから刺激を受けて子実体の原基形成を促しキノコが発生してくる、というものなのである。
これは傷つけられた受けた部分で細胞分裂と分枝が促進され、子実体が発生しやすくなるものである。
ただし木下さんのやったことは菌床を引っ掻いたのではなく、キノコそのものの傘を引っ掻いたわけなので、栽培ビンで行われたこととは異なるかもしれない。
しかしキノコ自体が菌糸で出来ているため、例えば成長過程の子実体などはそういった刺激に対して菌掻きされたのと同じような反応をするのかもしれませんね。
例えばこのヤマドリタケモドキの場合を考えてみよう。
下になっている親のヤマドキタケモドキが土から出て大きくなっていく際に何か障害となるもの、例えば石などが傘の上にあって傷がついてしまったとしよう。
するとその傷から刺激を受けた今まさに傘を作っている菌糸が、細胞分裂を起こしてそこに子実体作成のシグナルが点灯したのではないか?と考えられる。
先に以下の二つの仮説を考えていた。
- 子実体の成長過程で「間違えて」傘の上に子実体が作られた(成長ミス説)
- 先に作られていた子実体の下から新しい子実体が作られた(押上げ説)
しかし、この2つの説ではなく、もう一つの説が存在したわけである。
つまり
子実体の成長過程で何かに傷をつけられる事により別の子実体が傘の上に作られた(傷つけ説)
ということですね。
これだと納得いきますねぇ、、ただ一つの例外を除いて ( ゚Д゚)
さて今回の記事を書くきっかけになったこの井上さんの二階建てキノコ。
これにつきましては「ツボに土がついている」という理由で「押上げ説」が優勢になりましたね。
そこでもう一度改めて考えてみましょう。
このフクロツルタケが成長過程で何ものかに傷つけられてこの様な土付きの二階建てキノコを生成した可能性は考えられないだろうか?
うーん、うーん、うーん
この結論は先送りにしよう・・・。
誰か思いついたら教えてください <m(__)m>
『参考』
梅園菌譜(国立国会図書館デジタルコレクションより)「櫓茸(ヤグラタケ」
https://dl.ndl.go.jp/pid/1286916/1/53/
「二階建て」いわまあみ
https://kinokobito.com/archives/1308
「千葉菌類談話会通信」36号
http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou36/p24-26donguri.pdf
「どんぐりキノコ10周年」木下裕美さん
http://chibakin.la.coocan.jp/kaihou36/p24-26donguri.pdf
「どんぐりきのこ記録更新中〜 2017年度 年越して現在」木下裕美さん
https://kurousaleon.blog.jp/20180726
Youtube「どんぐり料理研究家/どんぐりキノコ研究所」
https://www.youtube.com/@kurousaleon