ナラタケ(楢茸)の仲間たち

時期

春~秋にかけて
(福岡県では4~5月、9月~12月にかけて観察できます。)

発生環境

木材腐朽菌で、針葉樹(アカマツやカラマツなど)、広葉樹(ブナ科、カエデ科、バラ科など)、果樹、生垣や野菜など…さまざまな植物から栄養を取って生活しています。

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広葉樹の切り株に発生していたナラタケの仲間

特徴

ブログのタイトルのように…一言に「ナラタケ」といってもその種類は多様で、いまのところ日本国内で約10種に分かれているようです。ナラタケの種類は見分け方が複雑なため、このブログでは詳しい種名は書かず「ナラタケの仲間」として紹介します。

【傘】

傘の大きさは初め4cmほどの半球形で、その後平らな饅頭形になります。大きいものでは15cmの皿型に開いていきます。傘の色は種類によってさまざまですが、黄土色、茶色、淡茶色などさまざまで、表面の鱗片も違いが見られます。

ナラタケの仲間の幼菌。傘の表面に黒い鱗片をつけています。
ナラタケの仲間の幼菌。傘の表面は白い鱗片をつけています。
成菌。全体的に茶色味が強いナラタケの仲間です。
成菌。全体的に黄土色のナラタケの仲間です。

【柄】

ナラタケの柄には共通して「つば」があります。

白い綿毛状のつば
マントのような形のつば

ちなみに、属名のArmillariaは「腕輪」を意味する言葉から来ています。胞子を守るために若いナラタケのヒダを覆う膜が、柄の上にリング状に残っている様子を指しています。

また、本種は「ナラタケモドキ」という似ているきのこがありますが、こちらは柄にツバがないことで見分けることができます。

【ヒダ】

ヒダは初め白色からクリーム色。成熟すると黄色味が強くなったり、淡褐色になる種類がいます。

淡肌色をしていたヒダ
黄色味が強いヒダ

【根状菌糸束】
地中や枯木内に広がっているナラタケの菌糸は、真っ黒いひも状の形をしていて、菌糸の集合体である根状菌糸束(こんじょうきんしそく)と呼ばれるものを形成します。

樹皮の間から見える黒い根状菌糸束。触ると硬くしっかりしている。
樹皮を引き剥がすと根状菌糸束がびっしり

好き嫌いがある「ナラタケ」

ナラタケは古くから人々に親しみのあるきのこでもあり、きのこ狩りの対象として人気も高いです。しかし農家さんや園芸家さん・造園家さんにとっては植物を枯らしてしまう原因菌でもあり、周囲の植物にも感染してしまうため嫌われ者の一面も持っています。

森の中は秋に入り、木々の葉っぱが色づき始めるころ、ナラタケもこの季節を待っていたかのようにたくさん顔を出してくれます。確かに、沢沿いに倒れている枯木にブワッ!と生える風景は圧巻で、今年も出会えたことに嬉しくなります。
ナラタケには、日本各地で様々な方言があります。「きのこの語源・方言辞典」を見てみると4~5ページにわたりナラタケの方言が記載されていました。
〈方言〉
・ボリボリ(北海道)
柄を折るとボリッと音がするからこの名前がついたという説が知られています。
・サワモダシ(秋田県)
沢沿いに生えるから。
また、秋田県南部では山や沢地に生えるものを「サワボダシ」、平地に生えるものを「クネボダシ」と呼んでいる地域もあるようです。

ちなみに、ナラタケの黒い根状菌糸束は「ハリガネ」「クツノヒモ」と呼ばれることもあるようです。

ナラタケは外国でも国内でも食用きのことして知られています。ただ消化しにくいことがあるため、冠山に火を通す必要があります。ちなみに、ドイツ語ではHalli-masch「お尻の苦脳」という意味で、下痢を指すのでしょう。


一方で、ナラタケは植物を枯らしてしまう「ならたけ病」を引き起こしてしまう原因菌として知られています。庭木や公園木などを管理している管理者や造園家にとっては嫌われているきのこのひとつです。

ピラカンサの根元付近から生えていたナラタケの仲間

ちょうど、ナラタケが感染しているクスノキの定点観察をしているのでご紹介します。最初に子実体を目視で確認したのは2020年11月19日。それから4年後の2024年10月27日では葉もつかず、枯れてしまいました。

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2021年11月19日この木の根元からナラタケが発生していました
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2024年10月27日木はすっかり枯れてしまい、ナラタケは幹から発生していました。

地球最大の生きものは「ナラタケ!?」

「地球上で最も大きな生きものはなんでしょうか?」
そう質問されたとき、あなたはどのように答えますか?
海ならばシロナガスクジラ(体長約30m、体重約160t)、陸上ならばアフリカゾウ(体高約4m、体重約10t)だろうか…。

…そう思っていましたが、地球上で最も大きな生きものは「ナラタケの菌糸」であることがわかりました。

1992年、科学雑誌「ネイチャー」にアメリカのミシガン州の森林に発生(生息)しているナラタケ属のきのこが紹介されて話題になりました。
ナラタケは様々な場所から栄養をとって生活するために、地面や枯木のなかに黒い根状菌糸束を広げています。アメリカのミシガン州で見つかった巨大なナラタケの仲間は、1個体で面積約15haに広がり、重さは少なくとも100t、約1500年前から生きているといわれています。(東京ドーム約3個分)
そして、その6年後にさらに大きなナラタケが見つかりました。アメリカのオレゴン州マルール国有林に生息する「オニナラタケ(Armillaria ostoyae)」は1個体で面積約890ha、推定重量600t、生存期間は推定2400年以上といわれています。

私たちの足元…土壌の中にはまだまだ大きなナラタケの菌糸が住んでいるかもしれません。

ナラタケの天敵

様々な場所で菌糸を張り巡らしているナラタケですが、そんな「ナラタケ」を栄養にして生活している生き物もいるのです。
【菌従属植物】
よく知られているのは「ツチアケビ」や「オニノヤガラ」といったラン科植物です。私はまだ「ツチアケビ」しか見たことはありませんが、あの赤々しい植物体はよく目立ちますしなかなか印象に残る植物ですよね。

渓流沿いで見つかったツチアケビの実。地中に広がるナラタケの菌糸から栄養をもらって生活しています

こういった植物は葉緑素を持たず、菌類に頼って生活をしています。このような菌類から栄養を取って生活している植物を「菌従属栄養植物」と呼びます。(菌従属栄養植物は「ユウレイタケ」をご参考ください)


【菌寄生菌】
「ミミブサタケ」や「タマウラベニタケ」のようにナラタケの根状菌糸束に寄生して養分をとっている「寄生菌類」の存在も知られています。

奇形したタマウラベニタケ(周囲にはきのこの形をした子実体もありました)。ナラタケの菌糸束に菌糸を絡みつかせている姿が観察出来ました
ウサギの耳のような形をしたミミブサタケ。こちらも地中に広がるナラタケの菌糸を栄養にして育っています。

ハイキングしているとき、山登りをしているときなど…私たちが歩いている土の下ではナラタケたちがひっそりと菌糸を広げていて、菌糸のネットワークを伝って私たちが通った後は周囲の菌糸にお知らせしているかもしれないですね。

漫画「さすらいのきのこ」

■前回の物語「シラタマタケ」はこちら

【参考書・論文・サイトなど】
日本のきのこ増補改訂新版(山と渓谷社)
北陸きのこ図鑑(橋本確文堂)
魔女の森不思議なきのこ事典
ザ・高尾2:キノコの誘(のんぶる舎)
きのこびと「最近見たナラタケの仲間を分類してみる」
きのこらぼfrom HOKTO「きのこふしぎ発見 世界で一番大きな生き物はきのこ?!きのこの一生と驚くべき生体の秘密」

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