ユウレイタケ(幽霊茸)Monotropastrum humile
「ユウレイタケ」はきのこじゃない!?
ユウレイタケと聞くと、“白いきのこ”のようなイメージがありますが、これはきのこではなく、ある植物の別名になります。この植物の本当の名前は「ギンリョウソウ(銀竜草)」という光合成をやめた全身真っ白な植物なのです。

時期
早春~初夏(福岡県では4~9月に観察されています)
発生環境
シイ・カシ・コナラなどが生える林内や、湿り気のある広葉樹林内、マツ類が生える針葉樹林内などで見られる菌従属栄養植物です。
特徴
植物体全体は真っ白で葉緑体はをもっていません。茎は高さ20㎝ほどで、葉の退化した鱗片葉がついています。葉は光にかざすとガラスのように透明でひとつひとつの細胞を観察することができます。



花冠の裂片は筒状で、3~5個。花被片の内側には細かい白毛が密生しています。(さわるとふわふわしてました)雄しべは10個で、柱頭の周りを囲むように生えています。花の中央部には柱頭があり淡藍色~紺色でねばねばしています。

ギンリョウソウは成長すると、子房が膨らみ果期に入ります。果実の内部にはたくさんの水分が含まれていてその中に種子がいくつも入っています。このような果実の付き方は「液果(えきか)」と呼ばれていて、カマドウマやモリチャバネゴキブリなどの昆虫が実を食べて種子を運んでいるようです。古くなったり乾いたりすると、黒くなり目立たなくなります。


ギンリョウソウはベニタケ属のきのこから栄養を摂取している菌従属栄養植物(きんじゅうぞくえいようしょくぶつ)です。「菌寄生植物」と呼ばれることもあります。ギンリョウソウを根元から取り出してみると、ベニタケ属の菌根塊が見られます。


「ギンリョウソ」のそっくりさん
今回紹介した「ギンリョウソウ」にはよく似ているそっくりさんが存在します。その1つは「ギンリョウソウモドキ」と言われる植物です。

福岡県内では8~10月頃森の中で観察できる菌従属栄養植物です。また、秋に生えるのでアキノギンリョウソウとも呼ばれています。本種は植物体が「ギンリョウソウ」にそっくりで間違えられることも多いですが、果実の付き方が大きく違っているのでそれが確認できれば見分け方は容易です。


果実は蒴果(さくか)と呼ばれていて、ギンリョウソウの液果と違い種子は風によって運ばれていきます。
花が終わると、頭部が上を向いて果実が成熟していきます。上向きの花はだんだんと乾燥していき、乾いた果実へと変化していきます。

ちょっとした実験
実は、ギンリョウソウ・ギンリョウソウモドキ共に、ブラックライトを当てると色が変化して見える部分があります。
どうしてこんな実験を思いついたかというと…目の前にブラックライトが置いてあったのと、筆者であるきのこちゃんの気分で「なんか面白そう…」ということで試してみました…(笑)


両種、写真を撮影した角度は違いますが…結果的には同じような色の変化が確認できました。
・柱頭はギンリョウソウ・ギンリョウソウモドキ共に暗紅色に変化しました。(両種とも柱頭の色が紺色の個体)
特にギンリョウソウモドキの場合、柱頭がクリーム色の個体もあるので、もしかしたら色が違うかも…
・雄しべの葯は、ギンリョウソウ・ギンリョウソウモドキ共に青白く光っていました。
・その他、葉や茎、菌根塊などは特に変化は見られませんでした。
ギンリョウソウの花粉を運ぶ昆虫としてマルハナバチ類(※1)が知られていますが、それらの昆虫たちにとっても、ギンリョウソウの柱頭や葯がどこにあるのか、紫外線の色で判断している可能性も考えられますね。
※1…野に咲く花の生態図鑑P130参照
色違いのギンリョウソウ
ギンリョウソウは全体が真っ白で薄暗い森の中ではその姿はよく目立ちます。そんなギンリョウソウを観察していると、“色違い”のものを見つけることも多々あります。


福岡県内では、白色・薄桃色・クリーム色・紺色などさまざまな色違いギンリョウソウが確認されています。
年によって確認数は変化しますが、白や薄桃色・クリーム色は多く確認できますが、紺色は数本しか確認できないことが多いです。これらは種類が違うのかどうか…まだわかりませんが、「色違い」の原因が何なのか分かると面白そうですね。
ちなみに、ギンリョウソウ属の新種として、2022年11月に神戸大学の末次健司教授らにより「キリシマギンリョウソウ」が発表されました。本種はギンリョウソウと違い、全体に淡紅色で鹿児島県の霧島で発見されたので「キリシマギンリョウソウ」という名前がついていますが、その他の県(宮崎県、大阪府、和歌山県、静岡県、岐阜県)でも見つかっているようです。もしかしたら地元にもあるかも…なんて夢を持ちながらきのこちゃんは山へ散策に出かけるのでした。







■前回の物語「タンポタケのなかまたち」はこちら
【参考書・文献など】
日本のきのこ(山渓カラー名鑑)
森を食べる植物 腐生植物の知られざる世界(岩波書店)
野に咲く花の生態図鑑春夏篇(ちくま文庫)
ラン科植物と菌類の共生(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/50/1/50_jjom.H20-02/_pdf/-char/ja)
注)きのこ豆知識は毎月2回更新をします。(第1、第2金曜日に更新を予定していますが、臨時休載、更新の変更などもあるかもしれないので、その際はご了承ください)