タンポタケのなかまたち

時期

福岡県内で発生が確認されている「タンポタケ類」のほとんどは冬~春(12月~4月頃)の発生が知られています。

福岡県産「タンポタケ類」各種の特徴

「タンポタケ」のほとんどは「ツチダンゴ」という菌類に寄生して生活をしています。この記事では寄生種である「ツチダンゴ」の色・形態別に紹介しています。

【褐色系ツチダンゴ類】

・タンポタケ(春型)(短穂(打包)茸)
本種はアミメツチダンゴ(広義)に寄生する寄生菌類です。
シイ・カシ・コナラなどに発生します。山地のみならず市街地の神社や公園でも見られることがあります。
地上部は高さ3~5㎝のタンポ型、頭部(結実部)はオリーブ色~黒褐色。埋生の子嚢殻を形成する。ヌメリタンポタケに比べると頭部にぬめりが無く、切断した内面は白色をしています。

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タンポタケ春型、春先に子実体がぐーんと伸びてくるので観察しやすくなります。シイ・カシ林内で観察されたものです。
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タンポタケ春型の全体。場所によっては子実体、宿主共に大型のものもいます。
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タンポタケ秋型(狭義タンポタケ)、9月頃コメツガ林内で見つかったものです。

※「タンポタケ」について“春型”と“秋型”が知られており、秋型タンポタケは「狭義タンポタケ」で春型タンポタケは別種の可能性が高いと考えられていますが、正確な情報が分かるまではこのままの表記で紹介させていただきます。

・ヌメリタンポタケ(滑短穂(打包)茸)
福岡県内では、タンポタケ春型と同じく多く見られる種類です。山地のみならず市街地の神社や公園でも見られることがあります。主に12月~4月にシイ・カシ・コナラ・アラカシ・アカガシなどが生える林内で観察することができます。頭部はタンポタケ(春型)と比べるとぬめりがあり、乾燥すると光沢がでてきます。

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成菌(成熟した子実体)。タンポタケ(春型)やその他のタンポタケ類と混じって生えていることが多いです。
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幼菌。子実体の出始めは濃い黄色をしています。
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地上に顔を出し始めると、頭部の色が褐色→黒色へと変化し、柄の色も同時に黒っぽくなっていきます。
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成熟が進むと、頭部は白い胞子がたくさんついていることがあります。胞子は風に乗って飛ばされていきました。

宿主であるツチダンゴ類から直接生えます。通常1本の子実体が出てきますが、2~4本まとまって生えてくることもあります。

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地中に埋まっているヌメリタンポタケの柄の部分は黄色っぽくなっています。
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子実体断面。ヌメリタンポタケの菌糸はツチダンゴの内部に染み込むように胞子の部分へと通り抜けています。

・ハナヤスリタケ(花鑢茸)
福岡県内でもタンポタケ(春型)、ヌメリタンポタケと並んでよく見られるきのこです。12月~4月にかけてシイ・カシ・コナラ・アラカシ・アカガシなどが生えている林内で観察することができます。だいたい12月頃になると、頭部が茶色で柄が黄色の未熟個体が成長し始め、2月~3月頃には成熟して子実体全体が黒みをおびています。

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上記2種のタンポタケ類と比べると頭部が長めの構造です。ハナヤスリタケは、子実体が地上に出始めると上記2種よりも黒変が早いように感じます。

本種は他のタンポタケ類と比べると比較的地中深い場所に生息している「アミメツチダンゴ(広義)」から長い黄色の菌糸を伸ばして生えていることが多いです。そのため、発掘作業は苦労することもあります。

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成熟した子実体。頭部から白っぽい胞子をだしていました。

タンポタケにそっくりな形をしていますが、ツチダンゴとの接地面をよく見てみると、根本付近は細根状に分かれています。中にはツチダンゴから直接出ているハナヤスリタケも見られますが、その場合はツチダンゴ周辺から細い根が出ているので他のタンポタケ類と見分けることができます。

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全体を見てみると、根元は黄色い菌糸が地中のツチダンゴへと伸びていました。
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宿主の断面。中央部に白い菌糸が覆っていますが、周囲の胞子形成には影響が無いように思われます。

余談ですが、「花鑢」という言葉はシダ植物の「ハナヤスリ」からきています。

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写真はコヒロハハナヤスリ

ハナヤスリ類はハナヤスリ科の多年草シダ植物で、普段は広卵形から長楕円形の小さな葉を1~3枚ほど出していますが春から秋にかけて細長い柄(胞子葉)をのばしてその先端に胞子がたくさん入った穂(胞子嚢穂)を作ります。この穂の形がやすりに似ていることからこの名前が付いたようです。

・エゾタンポタケ(蝦夷短穂(打包)茸)
福岡県内では、稀に見られる種類で、主に2~4月にシイ・カシ・コナラ林内で観察することができます。ヌメリタンポタケやタンポタケ春型と非常によく似ているため、見過している可能性が高そうです。

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成熟した子実体。頭部から胞子もでていました。
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全体を見てみると、地中に埋まっていた部分はヌメリタンポタケのように黄色いですが、地上部はタンポタケ春型のように滑らかだったため今回は気が付くことができました。

【黒色系ツチダンゴ類】

・タンポタケの仲間
福岡県では3月~4月にブナ・アカガシなどが生えている林内の地中に生息している黒色ツチダンゴから生える寄生菌です。本種は「アマミカイキタンポタケ」によく似ていますが、胞子の形が違うためタンポタケの仲間として掲載しています。

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子実体、宿主共に小さいので見つけにくいです。
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宿主は、黒色系のツチダンゴで大きさは1㎝ほど。地中に埋まっていることが多いので目にする機会はほとんどないかと思われます。今回はイノシシの堀跡で見つかりました。

【衣系ツチダンゴ類】

・ミヤマタンポタケ(深山短穂(打包)茸)

本種は主にコナラ・クヌギなどの地上で観察することが多いきのこです。宿主は白っぽい菌糸に覆われているツチダンゴです。

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子実体はタンポタケ春型のように形が歪んだものが多いです。
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全体を見てみると、色が一緒なので一つのきのこのようにも見えますが根元の白っぽい所が宿主の衣系ツチダンゴになります。
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衣系ツチダンゴの断面。ミヤマタンポタケの菌糸はツチダンゴ内部に浸透しているような感じでした。胞子の部分は灰青色をしてますが胞子形成はしていないようです。

ちなみに、タンポタケの「タンポ」は漢字で書くと「短穂」あるいは「打包」と書きます。これは、先端を綿でおおった布で包んだ稽古用の槍のことを指しているそうです。

今回の宿主ツチダンゴ情報

アミメツチダンゴ(広義)(網目土団子)
別名:ワナグラツチダンゴ
主にシイ・カシ・ブナなどの林内で見ることが多く、標高約50~1000mの場所で観察することができます。きのこの大きさは0.3~3㎝ほどで、たまに地上にポツンと顔を出していることがあります。名前の由来は、外皮の部分が大理石模様「網目」になっているように見えることから名付けられました。ちなみに、別名の「ワナグラ」は地名の和名倉山に由来しています。

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地面から顔を出していました。最初は気が付かずに踏んでいましたが、子実体は頑丈なので無傷でした。
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表面はピラミッど状のいぼいぼがついています。
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断面を割ってみると、外皮の部分が大理石模様になっているのも特徴の一つです。
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成熟すると、内部はココアパウダーのように粉状になり、強烈なガス臭を放ちます。

タンポタケ類4種の比較をしてみた

今回紹介したタンポタケ類のなかで、
・タンポタケ(春型)
・ヌメリタンポタケ
・ハナヤスリタケ
・タンポタケの仲間(宿主が黒色系ツチダンゴ)
は福岡県内では目にすることが多いきのこたちです。せっかくなので、このタンポタケ4種類の比較をしてみました。

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タンポタケ類はそっくりさんだらけ(体験談)

以前経験した出来事です。
この日は天気も良くきのこ探し日和。迷うことなく今日は山へと出かけていきました。3月の気候は寒さも少し和らいで、森の中の散策でもカイロが無くてもへっちゃらでした。森に入って数分、大きなスダジイの周りを細かく見ていると、タンポタケ(春型)の姿がありました。今年も見られた!と喜んで、その周辺を丁寧に落ち葉をめくっていると見えているタンポタケ類よりもはるかに小さなきのこが出ていました。この時、私は「タンポタケ(春型)の幼菌だろう」と勝手に決めつけていました。

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その後、きのこ観察しながら山頂へ。下山して帰路につくはずでしたが、どうしても謎の幼菌が頭から離れませんでした。気が付けば元居た場所に戻ってきてしまい、この日、同じ光景を2度見ることになったのです。小さな謎の幼菌は、家に持ち帰り育ててみることにしました。育て始めて約1か月後、胞子が出るまでに成長してくれました。

そこで、胞子を観察してみると…驚くことに「エゾタンポタケ」という別種のきのこであることが判明しました。つまり、この場にいたきのこは2種類のタンポタケ類(上3本はタンポタケ(春型)下1本はエゾタンポタケ)ということになります。タンポタケ類は見かけでの判断が難しい種類でもあり、もしかしたらこれまでも多くの「未知のタンポタケ類」を見逃していた可能性があります。この出会いは私にとって「きのこに対する考え方を変えてくれた」きっかけでもあり、騙されてしまったちょっと悔しい体験となりました(笑)

■前回の物語「アミガサタケ」はこちら

参考
冬虫夏草生態図鑑 採集・観察・分類・同定・効能から歴史まで250種類(日本冬虫夏草の会 著)
冬虫夏草図鑑カラー版(清水大典 著)
日本産タンポタケには宿主となるツチダンゴ属種が異なる2タイプが含まれる(https://jats-truffles.org/wp-content/uploads/2017/04/Yamamoto.pdf
ツチダンゴ属Elaphomyces、 特に E. granulatus および E. muricatus を めぐる分類学史
https://jats-truffles.org/wp-content/uploads/truffology/vol_5/T2022-15_Hatakeyama.pdf)
ほぼ日刊イトイ新聞 
 きのこの話(https://www.1101.com/kinokonohanashi/109/eat.html

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