イヌセンボンタケ(犬千本茸)Coprinellus disseminatus
時期
春~秋(福岡県では6~10月ごろまで観察できます)
発生環境
腐生菌。切り株や倒木などにびっしりと群れになって生えることが特徴で、名前のdisseminatusには「広く撒き散らした」「あらゆる方向に繁殖する」という意味があります。基本は枯れた木に生えていますが、その周辺の枯れた草、土、コケ植物、アスファルト上などにも広がって生えています。
特徴
このきのこは発生するとき、おびただしい数の子実体が出現するのが大きな特徴でもあります。名前の「千本」はこの大量発生する様子からつけられていますが、場所によっては「十本」ほどの小さな集合体から、「万本」くらいの大きな集合体が観察されることもあります。
日本には、仏教用語から派生した言葉で「いぬちくしょう」というものがあります。これは、動物界のイヌよりも劣っている行いをする人を指す言葉でそれが転じて日本ではより役に立たない(有用ではない)ものに対して「イヌ」をつける風習があったようです。イヌセンボンタケ自体は食毒不明ですが、子実体はとてももろく、儚く、弱々しい…そのため「イヌ」という言葉をつけているのではないかと思います。
傘の大きさは0.8~1.5㎝と非常に小さく、表面に溝状の線や微毛があります。全体的に半透明でもろく、幼菌のときは傘や柄に微毛をまとっています。大きく成長すると、微毛は目立たなくなります。
はじめ、卵型をしていて白色をしてますが、成長すると釣り鐘型になります。成熟すると傘は黒っぽくなり傘の部分はネトっとして壊れやすくなり、
最終的には柄だけを残して傘はなくなってしまい、このきのこは発生しても2~3日ほど経つと姿を消してしまいます。
イヌセンボンタケは、一度に幼菌も成菌も観察できる確率が高いので、成長観察がしやすいきのこなのです。
菌糸塊(オゾニウム)の存在
イヌセンボンタケはナヨタケ科キララタケ属のきのこです。野外でめったに見ることはありませんが、イヌセンボンタケを培養すると培地全体に黄褐色の菌糸塊(オゾニウム)を発生させるそうです。
ちょうど先日、野外でイヌセンボンタケのオゾニウムを観察することが出来たのでこの記事で紹介します。
この特徴はオゾニウム形成するコキララタケと同じ特徴ですね。
タシロランEpipogium roseum
タシロランはイヌセンボンタケから栄養をとっていることが知られており、花を咲かせるための大事な栄養源にもなっています。菌類の菌糸から栄養をとり自分の栄養にしている植物のことを菌従属栄養植物(菌寄生植物)と呼んでいます。
菌従属栄養植物については「ギンリョウソウ(別名:ユウレイタケ)」のページでも書いてるのでご参考ください。
漫画「さすらいのきのこ」
■前回の物語「ツクツクボウシタケ」はこちら
【参考】
日本のきのこ(山と渓谷社)
森を食べる植物(岩波書店)