苦くないニガクリタケはニガクリタケなのか?

2017.9.23 大阪

4年前、こんな「ニガクリタケ」を発見した。

傘の径は約2cm。半球形~陣笠形。表面は粘性無く、淡黄色で中央は帯褐色。
傘の縁に内被膜の痕跡あり。

柄は約5cmx5mmぐらいで上下同径。表面は傘と同色で内被膜の痕跡が残りややササクレ状になっている。
ヒダは直生し、暗紫褐色。

この「発見」には強烈な違和感を覚えた。
理由は3点。

  • 土から発生している
  • 木から発生しているものに比べて柄が長い
  • 齧っても苦くない

少なくとも関西で良く見るニガクリタケは古い倒木などの材から発生しているのが多い。
しかしこのニガクリタケに関してはベニタケなどがいかにも出そうなところから発生していた。腐生菌というくくりではあるみたいなのだが、土に埋もれている木から発生、、、という感じでもない。抜いてみるとサクッと抜けてくれる。

ふーむ、どうしようもないモヤモヤ感・・・ (-_-;)

そしてその抜いたやつをまじまじと眺める。
どう見てもニガクリタケなのだが、その柄の長さと太さに愕然とする。

木材を一生懸命分解するよりも、既に分解されて土と化しているものを食料にしている方が生命体としては「楽」であるのは間違いないし、栄養も豊富なので、ついつい食べ過ぎて大きくなってしまう・・・・そんな人間らしい姿を想像するのは安易なのだろうか?

ただ、一例を出すと、山に発生するサケツバタケよりもウッドチップに出てくるサケツバタケの方が大きく、丸々と肥えているのはどうしても「良いものを食べている」からだと思ってしまうんですよね(笑)

もしかしてこのニガクリタケもその類なのだろうか?

ニガクリタケモドキを疑ってみる

2017.9.23 大阪

ニガクリタケモドキというキノコがある。
どうもニガクリタケモドキは苦くなく、なんと可食だそうな、、(でも食べないよね?)

このニガクリタケモドキとニガクリタケの違いは以下の通り

  • 針葉樹や竹の落枝葉や倒木に単生
  • 傘表面は硫黄色~帯褐橙黄色
  • 柄は上部が淡黄色、中位から下部は褐色を帯び繊維状
  • 齧っても苦くない
  • 束生しない
  • 胞子が大型で発芽孔小(8~10.5×5~6.7μm または, 10.5~15×6~7.5μm)
  • 縁シスチジアは屈曲した円柱形

ふむむふ、いっぱいあるな(笑)
肉眼的特徴で分かるものだけ色を付けてみました。
そこで上記のニガクリタケ近縁種と比較して赤色は異なる特徴で、青色が合致する特徴となります。ただ色目に関しては個体差も結構あるので難しいところではありますが、写真を見る限りではニガクリタケとはまったく印象が異なるように見えます。また、発生状況的にも束生しないこと、発生が腐葉土の上からなど明確に異なっていることが分かります。

それでは顕微鏡的に見てみます。

胞子のサイズは平均6.52x3.54㎛というのが分かりました。
このサイズはニガクリタケモドキよりはかなり低く、ニガクリタケの範囲(5~ 8×3~4.5μm)に入るのもです。

では縁シスチジアを見てみましょう。

縁シスチジア

こちらもニガクリタケの縁シスチジアと同じ「棍棒形で先端突出形やクリソ型が多くヘチマ型」というのが観察できます。ニガクリタケモドキの「屈曲した円柱形」ではありません。

以上の点からニガクリタケモドキではない、と思われます。

日本のニガクリタケには2種類ある?

広葉樹の上に発生したニガクリタケ 2021.11.13 兵庫

ニガクリタケの学名をご存じだろうか?

Hypholoma fasciculare (Hudson) P.Kumm.

「fasciculare」というのには「小さな束状の」という意味があるそうな(北陸のきのこ図鑑)。
確かにニガクリタケは束上、つまりは束生して発生している姿を良く見る。
またニガクリタケの毒成分であるファシキュロールのスペルは「fasciculol」なので、このファシキュロールという毒成分の名前はニガクリタケ由来なのだろうか??

そんな学名「Hypholoma fasciculare」は現在どの図鑑を見てもそうなっているはずであるが、我々がニガクリタケだ、と思っている中には実はもう一種別のニガクリタケが存在していることが知られている。
その学名が

Hypholoma subviride

である。
この Hypholoma subviride はまだ和名が付けられておらず(日本未報告種)、あまり認知されていないようであるが、僕自身は神戸などでよく見るニガクリタケはこの Hypholoma subviride ではないか?と思っている。

それでは Hypholoma fasciculare と Hypholoma subviride の比較をしてみたいと思う。 Hypholoma subviride に関しては日本語の説明は見つけられなかったので、KuoさんのWEBサイトMushroomExpert.Com を和訳したものを掲載します。

大分類 小分類

Hypholoma subviride
(日本未報告種)

Hypholoma fasciculare 
(和名ニガクリタケと言われている)

生態 季節 夏から冬 秋から冬、ときには春にも見られる
  発生 針葉樹や広葉樹の朽ちた丸太や切り株に群生する 針葉樹やまれに広葉樹の朽ちた丸太や切り株に群生
  場所 元々はキューバから報告され、カリブ海全域に生息していたが、北米ではアメリカ南東部、アパラチア山脈南部、オザーク、メキシコに限定されているようだ。また、中央アメリカ、南アメリカ、ニュージーランド、アフリカからも報告されている。また,中央アメリカ,南アメリカ,ニュージーランド,アフリカからも報告されている。 北米に広く分布するが,西海岸や山地,北部に多い
大きさ 1.5~3cm 2~5cm
  凸状で、広めの凸状になるか、ほぼ平らで、はげている 凸状で、広めの凸状になるか、ほぼ平らになる、はげている
  粘性 新鮮なときは湿っているが、すぐに乾く 乾燥している
  中心部はオレンジがかった黄色で、縁は淡い黄色または全体的に緑がかった黄色で、年を経るにつれてオレンジがかった茶色から茶色になる 若いときは、しばしば褐色の赤褐色またはオレンジ色であるが、通常は明るい黄色から緑がかった黄色または黄金色になり、中央部は暗い色になる
  その他   縁にはしばしば小さなささくれ立った部分的な被膜の断片がある
ヒダ 淡い硫黄のような黄色から緑がかった黄色になり、最終的には灰褐色から黒っぽい色になる 黄色からオリーブ色や緑がかった黄色になり、最終的には胞子が付着しているため、紫がかった茶色から黒っぽい斑点がある
大きさ 2~4cm、厚さ2~4mm 長さ3~10cm、厚さ4~10mm
  均整がとれていて、ところどころ禿げているか、わずかに繊維状になっている 多かれ少なかれ均等か基部に向かって先細り
  淡黄色で、基部に向かって褐色になる、多くの場合、脆い黄色のリングやリングゾーンがあり、胞子が成熟すると黒っぽくなる。 鮮やかな黄色から褐色、基部から上に向かって錆びた茶色のシミが発生ボタンには鮮やかな黄色のコルティーナがあるがすぐに消えるか、かすかなリングゾーンが残る
肉質 黄色 薄く、黄色
  色変 スライスしても変化なし  
その他 匂いと味 においに特徴はなく、味は苦い。 においに特徴はなく、味は苦い
  化学反応 傘表面にKOHレッド。  
  胞子の色 紫色がかった灰色から黒っぽい色。 紫褐色
胞子 大きさ 5-9 x 3-4.5 µm 5-8 x 3-4.5 μm
  楕円体で,小さな(0.5 µm)孔があり,滑らかで,壁の厚さは0.5-1 µm 楕円形、平滑、薄肉、孔あり
  KOH くすんだ金色 黄色を呈する
担子器 大きさ 20-25 x 4-5 µm  
  円筒形  
  胞子 4胞子性 4胞子性ときに2胞子性を混在
シスチジア 大きさ 25~40 x 7.5~10 µm 24~57×6~15μm
  こん棒状から微突形~細口瓶形;平滑;薄肉;透明で、KOHで黄金色の球状の内容物を含む 縁, 側ともに棍棒形で先端突出形やク リン型が多くヘチマ型

※青字は「北陸のきのこ図鑑」を参照した


Hypholoma fasciculare と Hypholom subviride は実際のところすごく良く似ています。
上の表でも明らかなように、赤字の部分が異なるポイントなのであるが、例えば傘の大きさ1つ取っても Hypholoma fasciculare の方が大きいように思うのだが、重なっている部分も多いので、1つの子実体を見ただけでは「こちらだ」というのを決定するのは無理だと思われます。
また、Kuoさんは Hypholom subviride のページの中でこんなことを書かれています。

Hypholoma subvirideは、よく知られているHypholoma fasciculareの小型版で、より南方に分布している。Hypholoma fasciculareと同様に枯れ木上群生し、幼菌のときは黄色の傘をしていて、緑がかった黄色のヒダ、そして非常に苦のが特徴である。しかし、傘の大きさは1〜3cmであり(Hypholoma fasciculareは2〜5cm)、Hypholoma subvirideは熱帯や亜熱帯に生息し
~中略~
菌類の分類の世界では、Hypholoma subvirideが正式に別種であるかどうかについて様々な議論がなされてきたが、熱帯地方の研究者は一貫して別種であると主張しており、非常に綿密な現代の研究(Sato and collaborators 2020)によって別種であることを支持している。

www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳、一部いりさが意訳しました。

http://www.mushroomexpert.com/hypholoma_subviride.html

Kuoさんの文章によると Hypholoma subviride は南方の方に分布している、とのこと。
上でも書いたのだが、僕は神戸などで良く見るニガクリタケは Hypholoma subviride の方ではないかと思っている。
理由はただ一つ

傘の径が最大2cmぐらいで、柄の長さが長くて4cmである

それだけで Hypholoma subviride と決めていいのか?と言う話はあるが、もちろん推測の域を超えていない。
ただし、関東や東北の方がFacebookにアップしているニガクリタケのサイズを聞くと傘の径で4cmぐらい、というものが多い。
例えばこのニガクリタケ

自然の画像のようです
2021.11.13 福島 撮影:Hashimotoさん

一目でニガクリタケとわかる特徴をしている。
Hashimotoさんに、この傘の径を聞いてみると4cm程度だそうな。こう見えてかなり大きいのだ。また別の人がアップしていた桜の倒木から発生していた「ニガクリタケ」らしきものも聞いたら4cmぐらいだったそうです。

では、神戸あたりで見るニガクリタケの写真を貼ってみます。

2016.11.13 神戸

これなどは恐らく松の木から発生していて傘の径がせいぜい2cm、柄の長さが生長したもので4cmぐらいであろうと思われます。

もちろん「大きさ」というのはキノコを判別する一定の目安にはなるが、絶対ではない。
材の種類に寄ったり、雨の量に寄ったり、発生する場所に寄ったりと生育条件が大きさにもかなり影響するのは間違いない。
なので多くのサンプルを計測する必要があるのだが、感覚的には南小北大であると言っていいと思っている。

だとすると、、、

Hypholoma subviride = 小型 = 南に分布 = 西日本以南で見るニガクリタケ

Hypholoma fasciculare = 大型 = 北に分布 = 東日本以北で見るニガクリタケ

などとまたも妄想を膨らませているのだがいかがだろうか?

苦くないニガクリタケは一体なにものなのか?

2021.11.08 大阪 苦くないタイプ

苦くないニガクリタケである。

これはハイキング道脇道の傾斜になっているところから発生しているもの。
あぁ、苦くないタイプやなぁ、、と思いつつ齧ってみるとやはり苦くはなかった。

もうニガクリタケのプロになったら見ただけで分かる(笑)

この日は木に発生するタイプのものが2個所で発生していて、両方とも齧ってみたがやはり苦かった。これも見ただけで分かる(プロだもん w)
土から発生するタイプとは大きさが明らかに違うしね。

2021.11.08 大阪 苦くないタイプのヒダ

ただ土から出るタイプが全然苦くないか?と聞かれれば、ほんの少しだけ苦い気がする、、という程度の苦さである。そもそも本来のニガクリタケの苦さは、傘の端っこを少しちぎって口の中に入れてから約5秒後ぐらいに口の中に嫌な苦みがかなり強く広がり、思わずペッペッぺッ!、、としたくなる、、そんな苦さなので、「苦い気がする」なんてものとは比べ物にならないのですよね、、プロが言うから間違いない(笑)

なので、以前から別種を疑っていて、特にその大きさからして、もしかしてこれが Hypholoma fasciculare (和名のニガクリタケ)であって、材に発生している小型のものは Hypholoma subviride ではないのか?などと考えていたが、東北のニガクリタケを見ていたらそちらが本物の Hypholoma fasciculare なんだろうなぁ、、と今はそう思っている。

また、なによりこのニガクリタケは苦くないしね。

Kouさんの解説であるように Hypholoma subviride Hypholoma fasciculare も等しく苦いと書いてある。
なので、この土から発生するニガクリタケは別種の可能性が十分にあるが、発生・生育場所による変異という可能性も捨てきれない。

というとことで大きさ的に似ている Hypholoma fasciculare と細かく比較してみましょう。

 

大分類 小分類

苦くないニガクリタケ

Hypholoma fasciculare 
(和名ニガクリタケと言われている)

生態 季節 夏から秋 秋から冬、ときには春にも見られる
  発生 広葉樹林内地上 針葉樹やまれに広葉樹の朽ちた丸太や切り株に群生
  場所 日本の関西エリア 北米に広く分布するが,西海岸や山地,北部に多い
大きさ 2.5~4.5cm 2~5cm
  凸状で、広めの凸状になるか、ほぼ平らで、はげている 凸状で、広めの凸状になるか、ほぼ平らになる、はげている
  粘性 乾燥している 乾燥している
  中心部はオレンジがかった黄色で、縁は淡い黄色または全体的に緑がかった黄色で、年を経るにつれてオレンジがかった茶色から茶色になる 若いときは、しばしば褐色の赤褐色またはオレンジ色であるが、通常は明るい黄色から緑がかった黄色または黄金色になり、中央部は暗い色になる
  その他 縁にはしばしば小さなささくれ立った部分的な被膜の断片がある 縁にはしばしば小さなささくれ立った部分的な被膜の断片がある
ヒダ 黄色からオリーブ色や緑がかった黄色になり、最終的には胞子が付着しているため、紫がかった茶色から黒っぽい斑点がある 黄色からオリーブ色や緑がかった黄色になり、最終的には胞子が付着しているため、紫がかった茶色から黒っぽい斑点がある
大きさ 3~8cm、厚さ3~6mm 長さ3~10cm、厚さ4~10mm
  均整がとれていて、ところどころ禿げているか、わずかに繊維状になっている 多かれ少なかれ均等か基部に向かって先細り
  淡黄色で、基部に向かって褐色になる、多くの場合、脆い黄色のリングやリングゾーンがあり、胞子が成熟すると黒っぽくなる。 鮮やかな黄色から褐色、基部から上に向かって錆びた茶色のシミが発生ボタンには鮮やかな黄色のコルティーナがあるがすぐに消えるか、かすかなリングゾーンが残る
肉質 黄色 薄く、黄色
  色変    
その他 匂いと味 においに特徴はなく、苦くない においに特徴はなく、味は苦い
  化学反応    
  胞子の色 紫褐色 紫褐色
胞子 大きさ 平均6.52x3.54㎛ 5-8 x 3-4.5 μm
  楕円形、平滑 楕円形、平滑、薄肉、孔あり
  KOH   黄色を呈する
担子器 大きさ 22 x 5~10 µm  
  円筒形  
  胞子   4胞子性ときに2胞子性を混在
シスチジア 大きさ 25~30 x 7~8.5 µm 24~57×6~15μm
  縁, 側ともに棍棒形で先端突出形やクリソ型 縁, 側ともに棍棒形で先端突出形やクリソ型が多くヘチマ型

※青字は「北陸のきのこ図鑑」を参照した


次に検鏡結果をお見せします
まずは縁シスチジアです。
棍棒形をしていて先端が尖っているのが良く分かります。

苦くないタイプの縁シスチジア

続いて側シスチジア
大きさは側シスチジアの方が若干大きい気がしますが、形などはほぼ変わりはありません。

苦くないタイプの側シスチジア

検鏡レベルでは、胞子、担子器、縁・側シスチジアを見る限りほとんどニガクリタケ(Hypholoma fasciculare)と変わりがない、ということが分かりました。
Hypholoma subviride とは大きさなどが異なるので最初から除外してます

だとすると違いは肉眼的な以下の2点のみ

  • 発生するのが土からである
  • 齧っても苦くない

ふーむ、この2点だけでは判断に苦しむなぁ、、、別種疑いがある、というレベル。
まぁそれが分かっただけで、今回の検証は良しとしましょう!!

そして今回分かったことは以下の4点

  1. 苦くないニガクリタケはニガクリタケモドキではない
  2. 苦くないニガクリタケは別種の可能性がある
  3. 苦くないニガクリタケは Hypholoma fasciculare の方により近い存在
  4. 関西の低山帯で見る材から発生しているものは Hypholoma subviride ではないか?

と推測の域を超えてないが、そんなに外してはないと思う。
せっかく標本も保存してあるのでいよいよDNAの出番かな?阿部さーーん!!


『参考』

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