紫外線による同定は可能なのか?ニガクリタケとクリタケを比較してみる(後編)

最初に断っておくが、クリタケやニガクリタケの同定はとても難しい。
「クリタケの仲間かな?」とか「ニガクリタケに一番近いのでは?」という感想は言えるのだが、「クリタケです」とか「ニガクリタケに間違いない」というのは恐らく写真レベルでは無理なのではないか?と考えています。
現在でもざっと調べてみると「クリタケ(またはニガクリタケ)」に近そうなキノコは図鑑に載っているものだけで11種類。その他「きのこしるべ」に載っているものも合わせると17種類もあります。

名前だけでも挙げてみると

『図鑑に載っているもの』

  • クリタケ
  • クリタケモドキ
  • ニセクリタケ
  • アシボソクリタケ
  • キチャササクレタケ
  • ヌメリチャササクレタケ
  • カバイロタケ
  • アカカバイロタケ
  • ニガクリタケ
  • ニガクリタケモドキ
  • オオミノニガクリタケ

『きのこしるべにだけに載っているもの』

  • ネナガノヒメクリタケ
  • コガネクリタケ
  • ヤチカバイロタケ
  • キヒダクリタケ
  • シブイロクリタケ
  • チャニガクリタケ

カバイロタケの仲間をここに含めるかどうかは意見が分かれると思いますが、まぁちょっとだけ似てるな、と言うコトでお許しを <m(__)m>

さてこれだけのものを正確に同定できる人が果たしているのかどうかは別として、これだけでもクリタケ・ニガクリタケの「沼」というのを感じで頂ければ、、、というところで本題に入りたいと思います。

果たしてニガクリタケなのか、それとも違うのか

ボーロさんがTwitterに検証結果をアップしていた最中、きのこクラスター達はそのTweetをリアルタイムで注目していた。もちろん僕もリアルタイムでその投稿を見守っていたのであるが、一番ドキドキしていたのはボーロさん本人じゃなかったかな? (#^.^#)

というのもosoさんのところからはこの様なTweetが流れてきたからだ。

確かにそれは言えるなぁ、、、
で、その時点での僕の本音としてはこうだ

「これが本当にニガクリタケだったらどうクリタケと見分けたらいいのだ」

これは恐らくこのTweetを注視していたきのこクラスター達のほとんどが抱いていた「危惧」であろう。傘の色や傘の縁にやヒダに残っている綿毛状の鱗片は、僕が知る限りではニガクリタケのものとは異なっていたからだ。

しかし、キノコ界の古老がこんなことを言ってたのを思い出した。

「ニガクリタケモドキも少し標高を上げたところでは大きく、そして幼菌の頃はほとんどクリタケと区別が付かないし、実際に成菌を見るまではクリタケに見えたやつがあった」

その様なニガクリタケはまだお目にかかったことは無いが、古老が言うんだから「そういうこともあるんかぁ、、」と思っていた。
なので、そのクリタケ似ニガクリタケがもしかしてこんな感じなのではないか、、、

などと思っていたらosoさんのTweetがまたアップされる

ふむふむ、さすがだ。
クリタケとニガクリタケを見分けるのはヒダの色が一番有効であること、ですな。
もちろんこのosoさんの投稿もボーロさんは読んでたと思うのですが、顕微鏡での検証を行うのはまた時間がかかるので、それについては翌日回しになったのでした。

ボーロさんの検証

まずは胞子ですが、写真の胞子はニガクリタケの方のものです。というのも、2つとも形と大きさが全く一緒でしたので、クリタケの方は省略させていただきます。 形は楕円〜卵型で発芽孔切形でした。

ニガクリタケの胞子

クリタケとニガクリタケを見分けるポイントの一つである縁シスチジアの形状ですが なんと、どちらも同じ形でした。 棍棒のような形をしたものが多く、たまにボーリングのピンのような形のものが見られました。 ニガクリタケに見られる、先端突出形の縁シスチジアはみられませんでした。

 

側シスチジアですが、こちらも同じ様に先端突出形やクリソ形のものでした。

  

顕微鏡の観察の結果から、ニガクリタケだと思っていたものは「ニガクリタケ」ではありませんでした。そして、クリタケの方に近い種だと考えられます。 すでに、何人の方はニガクリタケではないと気がついて居た方がいらっしゃいました。

それでも、私がニガクリタケだと盲信していた理由は、
①内被膜が黄色みを帯びていたこと
②苦味があったこと
③紫外線に反応していたことの3点があったからです。
③に関してはクリタケは絶対に反応しないと信じ切っていました。 しかし、顕微鏡で覗いてみるとほとんど特徴は一緒でした。

あまり納得いきませんが、クリタケの中には苦味があり、黄色みを帯び、紫外線に反応する個体があることになるのでしょうか? いずれか、この個体とクリタケ、ニガクリタケを遺伝子レベルで比較してみたいです。


さて、検鏡の結果からボーロさんの結論が出たようですね。

ここでもう一度ニガクリタケとクリタケの顕微鏡でのポイントを整理しておきます。
「北陸のきのこ図鑑」(池田良幸 (著, イラスト), 本郷次雄 (監修)

大分類 小分類 ニガクリタケの顕微鏡的特徴 クリタケの顕微鏡的特徴
胞子 卵形~楕円形 卵形~楕円形
  形2 発芽孔切形 発芽孔切形
  大きさ 5~8×3~4.5μm 5~7×3.5~4.5μm
担子器 胞子性 4胞子性ときに2胞子性を混在  
シスチジア 縁, 側ともに棍棒形で端突出形やクリソ型が多くヘチマ型 縁は紡錘形で頂部頭状
側は棍棒形で頂部突出ありクリソ型を含む
  大きさ 24~57×6~15μm 縁は22~53×6~19μm
側は20~40×6~14μm

さて胞子の形状やシスチジアの大きさや形状を比較してもなかなかニガクリタケとクリタケの違いがありませんが、唯一明確に違うと分かるのが、縁シスチジアの形状です。
ニガクリタケは

棍棒形で先端突出形やクリソ型が多くヘチマ型

なのに対し、クリタケは

紡錘形で頂部頭状

となっています。
イラストで描いてみるとこんな感じです。

ボーロさんが「先端突出形の縁シスチジアはみられませんでした」というのはここの部分を指しております。

ちなみに「ニガクリタケに紫外線を当てたら光る」と書かれている書籍は「しっかり見わけ観察を楽しむ きのこ図鑑」中島淳志 (著), 吹春俊光 (著) に書かれているそうな。

ではこれは本当にクリタケなのか?

以前「クリタケは美味しいのか?」という話を菌友たちがしていたことがあります。

グルメで野生キノコを食べることに関しては飽くなき追及を行うIさんが

「クリタケは美味しくない」

と言う風に明言したからだ。
他のメンバーは既に覚えていないが、美味しい派と美味しくない派に分かれた記憶がある。
僕はその段階ではクリタケを食べたことないのでニュートラルな立場であったわけだが、この時点では単に「好みの違い」だと思っていたんだけど、今となってはこの「苦いクリタケ」を食べていたのではないか?と想像できる。

つまりクリタケには苦いクリタケと苦くないクリタケがあり、それはもしかして別種なのではないか?

ということ。
恐らくそうであれば、当然苦くないクリタケが正式なクリタケである、というのは容易に想像できる。
一番最初にも書いたけど、クリタケに似たもの(ニガクリタケ含む)としては17種類(仮称含む)もあります。
そしてその中にこの苦いクリタケというのは存在するのか、それともしないのか?

ここでosoさんのTweetを引用します。

最後のTweetで引用されている記事をここでもリンク張らせてもらいます。
http://toolate.s7.coreserver.jp/kinoko/fungi/hypholoma_lateritium/

この記事の中で、最後のクリタケ(少し黄身がかっているもの)に関しては僕も「ん?」と思うものがあります。
この「ん?」は「ちょっとニガクリタケに見える」というものなんですよね。
もちろん写真だし、自分で見ると本当の色味や質感が伝わってちゃんとクリタケに見えるかもしれませんし、逆に余計にニガクリタケに見えちゃうかもしれません。

ただosoさんも書かれているように、本来のクリタケのものとは異なる印象があることは確かですね。

また、Fungiさんが耳寄りな情報をTweetされてました。

そしてこんな投稿も

Fungiさんに寄るとクリタケもニガクリタケも苦みの成分は同じファシクロール類」であるという。
で、この苦みの成分ファシクロール類がニガクリタケ中毒を起こす原因だとも言われている。ということはクリタケにもファシクロール類が含まれているということで、もしかしてクリタケも将来は毒きのこ認定されるかもしれませんね。
※海外では既に毒きのこ認定されているところがある。

最後にこの一連の投稿からFungiさんのTweetに激しく同意してしまった。

最後に

この記事を最後まで読んで

「いりさに騙された !」

と思っている方、すいません、完全に騙しました(笑)
前編で「ニガクリタケだ」と煽っておいて、やっぱり「クリタケでした」となるわけですから、そりゃ騙されたと思われても仕方がありません。お許しくだされ。

しかし、今回ボーロさんの「思い込み」によって様々な知見が得られました。
これはボーロさんだけではなく、大げさに言えば日本のキノコ界隈全体に対して得られた知見だと思われます。
それは以下の3点

  1. クリタケでもある状態のものは紫外線を当てれば光る
  2. クリタケでも苦いものがある
  3. クリタケだと思っていたものが別の種類かも知れない

また、ボーロさんのTweetに追随して oso さんや Fungi さんが書かれたTweetがこれまた今まで僕らが知らなかった知見が表出したり、漠然と考えていたことがある意味確信に近くなったりとTwitterでしか得られないダイナミックな情報が大きな流れとなった結実した瞬間だったとさえ思うのです。

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