新種カラサケキツネノサカズキの論文が発表されました

2014年7月 撮影:ガガンボさん

カラサケキツネノサカズキ

感じで書くと「乾鮭狐盃」となります。
「キツネノサカヅキ」というのは、シロキツネノサカズキやセンボンキツネノサカヅキの仲間ということがその名前から判断することが出来ると思いますが、「乾鮭」とはいったい何でしょうか?

乾鮭(からさけ)というのは実は「乾鮭色」という日本の伝統色の名前でWEBでのカラー表現で言うと「#EB9793」になりますな(イメージ湧かないですわな w)。
実際の色はこんな感じになります。

どうでしょうか?
少し乾いた感じの鮭の身の色という感じですかね (#^.^#)
ちなみに英語では単に「サーモンピンク」だそうですが、言葉の味わいが薄いなぁ(笑)
では、まずこの色とその名前をしっかり覚えておいてください。

カラサケキツネノサカズキの発見

「カラサケキツネノサカズキの新種記載論文が発表された」

この知らせを目にしたのはガガンボさん(@le16144)のこのTweetからであった。

ガガンボさんには以前、「アミガサタケはどの様に生長するのか?」という記事でお世話になりましたが、またもや今回情報や写真を多数提供して頂くことになりました。多謝。

さて、このTweetでも書かれている様にカラサケキツネノサカズキの第一発見者はガガンボさんです。

ただ、このキノコはもしかして以前にも誰かが見つけているかもしれませんし、その際に単にシロキツネノサカズキなどに誤認してしまった、なんてことがあったかもしれませんが、シロキツネノサカズキとの違いに気づき、他の類似種と比較して、これはもしかして新種ではないか?というレベルまで持って行けたということにまずは称賛を送りたいと思います。
※これに関してはTweetの方でガガンボさんが書かれている様にガガンボさん一人で成されたわけではなく、他の方の協力があって初めて成しえたことであることも記しておきます。

では、ここからはガガンボさんに教えて頂いた情報から経緯をまとめてみたいと思います。

2014年7月 撮影:ガガンボさん

この写真とトップの写真が最初にガガンボさんがカラサケキツネノサカズキを発見した時の写真だそうです。
実はガガンボさん自身もこの時はシロキツネノサカズキと思われたそうで(確かにこの写真は良く似ています)、まだガガンボさん自身シロキツネノサカズキを見たことも無かったせいもあり、それをosoさん(@ososugiru)に見てもらったところ

「シロキツネノサカズキはこんなに群生しない。まさかとは思うけどセンボン(キツネノサカズキ)では?」

との返事。
センボンキツネノサカズキというキノコは、日本では北海道と福島県のごく限られた一部でしか発見されておらず、もしこれがセンボンキツネノサカズキであれば西日本で最初の発見例となります(それだけでも快挙ですけどね)。

ではこれはセンボンキツネノサカズキなのでしょうか?

ということになり発見例の少ないセンボンキツネノサカズキ、なかなか図鑑にものっておらず(かろうじて山渓のフィールドブックには載っていましたが、解説が少なすぎる、、、)、札幌キノコの会のセンボンキツネノサカズキのページが一番詳しい情報なのですね。
「センボンキツネノサカズキ」
http://s-kinokonokai.sakura.ne.jp/kinoko/common/sennbonnkitunenosakazuki.htm

そこで札幌キノコの会に連絡し、標本のやり取りを行った末に出た結論が

「これはセンボンキツネノサカズキではない」

ということ。確かに似てはいるもののセンボンキツネノサカズキとは異なることが判明。しかし面白いキノコなので科博(国立科学博物館)のH先生のところでちゃんと調べてもらった方がいいということになったそうです。

その後はH先生へもサンプルの送付などを行った後に、最終的にはH先生の下で研究されている院生の方が調査し、解析を行い、新種として論文を執筆して今回の発表となった、という経緯ですね。

カラサケキツネノサカズキとはどんなキノコか?

カラサケキツネノサカズキの新種記載論文を元に出来るだけわかりやすくまとめてみました。

Microstoma longipilum sp. nov. (Sarcoscyphaceae, Pezizales) from Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mycosci/advpub/0/advpub_MYC534/_article/-char/ja

20??年??月 撮影:ガガンボさん

Microstoma longipilum sp. nov.カラサケキツネノサカズキ

大分類 中分類 内容
発生 時期 6月上旬から7月上旬(日本では梅雨時)
  場所 広葉樹の朽ち木に子実体を形成する
菌糸マット 場所 広葉樹の朽ち木
  暗褐色
  形態 複雑に絡み合った菌糸からなる
  菌糸
子嚢盤の毛に似ていて,無色透明から暗褐色,幅6-10μm,ガラス状の壁を持ち,ガラス状の部分は10%KOHで瞬時に溶解する
子嚢盤 形態 通常集合している
  大きさ・形 深さ4〜16 mmの盃状
 
下垂しているか、あるいは点状で、高さ15 mmまで(通常は高さ10 mm)、外側は通常束になっている長くて尖った白色の毛で完全に覆われている。
盤面 形態 凹んでいる
  ピンクから淡いオレンジ色で、乾燥するとやや濃くなる
 
円筒形で先端に向かって鋭く、ガラス質の厚い壁を持ち、3000(通常1500以上)×10-20μm(ガラス質部分を含む)まで、連続的に伸長する
子嚢 大きさ 275-350 × 10-17.5 μm (n = 40)
  形態 同時に成熟し,角錐形で偏心した柄杓を持つ
  形態
非アミロイドで厚壁(厚さ2.5 μmまで)。特に開口部の下では内層が開口部に向かって急に厚くなり,外層が薄くなるように厚壁になる,単純な隔壁から発生し,基部付近で急に薄くなり,糸状または不規則に湾曲し,最後は毛状または膨潤する
子嚢胞子 大きさ (20-)21.9-26.1(-27.5) × 11-12.5 μm (24 ± 2.12 × 11.6 ± 0.48 μm)
  形態 卵形から楕円形で先端部はなく,透明、滑らか
  形態2
多数の球状の油球を含む、ゼラチン状の鞘に包まれており、KOH溶液中で膨潤し、直ちに胞子から剥離する
側糸 形態
糸状で,先端が指のように膨らんだり,不規則に分岐したりすることがあり,薄壁である。
  形態2 幅1.5〜3μmの薄壁で、子実下層から発生する。基部で吻合している

※論文から一部抜粋し、それをDeepLで和訳したのちにこちらで編集したものです。
もしおかしな箇所があればご指摘してください。


あと論文では他のMicrostoma属との違いが書かれていますので、それを列挙しておきます。

その前に特徴の良く分かる写真を2枚ほど貼っておきます。

20??年??月 撮影:ガガンボさん
20??年??月 撮影:ガガンボさん

他のMicrostoma属と特徴が異なるところ

  1. 非常に長い荒毛(2mm以上)が生えている
  2. M. protractum(コベニチャワンタケモドキ)やM. radicatumとは異なり柄の基底部に暗褐色の仮根がない
  3. 仮根を欠くMicrostoma種の中でM. aggregatum(センボンキツネノサカズキ)と似ているが、より長い毛、より大きな子嚢、吻合した側糸の存在によって区別できる
  4. 異なる季節に発生する(6月上旬から7月上旬)
  5. 子実体が集合している(シロキツネノサカズキなどは集合していない)
  6. 先が尖っていない子嚢胞子

これ以外にガガンボさんからはセンボンキツネノサカズキとの違いで

センボンキツネノサカズキの方は柄の基部が癒着している

という特徴の違いをお聞きしております。

いかがでしたでしょうか?
カラサケキツネノサカズキの特徴はこれで良く分かりましたでしょうか?
恐らく岡山で見つかった、ということは他の関西エリアでも見つかる可能性はあるかと思います。
梅雨時期(これからですね!)にブナ科の木が多くあるような森に行くと落ち枝などが沢山見られるかと思いますが、そういうところからサーモンピンクの盃型の可愛いキノコたちが出ていれば、それはもしかしてカラサケキツネノサカズキかもしれません。

センボンキツネノサカズキとの違いは?

カラサケキツネノサカズキの特徴は理解してもらえたと思うので、ここでカラサケキツネノサカズキと良く似ているキノコ、センボンキツネノサカズキの特徴と違うポイントを見ていきましょう。

センボンキツネノサカズキ 2019年9月 北海道 撮影:ガガンボさん
センボンキツネノサカズキ 2019年9月 北海道 撮影:ガガンボさん

これらのセンボンキツネノサカズキもガガンボさんから提供して頂きました。

先に述べた通りセンボンキツネノサカズキというキノコはごく限られた地域(福島県と北海道の一部地域)、でしか発見されておらず、つまりはセンボンキツネノサカズキの写真を持っている人間も限られているだろうから、Twitterでどなたか写真を提供してくれる人を募ったところ、ガガンボさんがわざわざ北海道まで行って撮ったものがあるという、、なんともメーテルリンクの青い鳥的な感じで提供して頂いた写真であります(笑)。

それでは改めてカラサケキツネノサカズキとセンボンキツネノサカズキの違いをまとめてみたいと思います。

  1. カラサケキツネノサカズキには非常に長い荒毛(2mm以上)が生えている
  2. カラサケキツネノサカズキの子嚢盤の色はピンクから淡いオレンジ色
  3. カラサケキツネノサカズキ柄の基部が癒着していない
  4. カラサケキツネノサカズキの方が子嚢が大きい
  5. カラサケキツネノサカズキの側糸の基部は吻合している

1から3までは肉眼的特徴を表しています。
恐らく見慣れてくればすぐに判別はつくと思うのですが、いかんせん双方とも見たことないので、まだ「自信を持って」判別できるまでは至りませんね(苦笑)

最後に、この写真はセンボンキツネノサカズキの柄の基部が密着している写真です。

センボンキツネノサカズキ 2019年9月 北海道 撮影:ガガンボさん

札幌キノコの会のセンボンキツネノサカズキのサイトを見てもらえばわかりますが、センボンキツネノサカズキはその名が示す通り、一つの集団の塊具合はかなりのものでこれは「柄の基部が癒着している」ことに由来するのだと思われます。
確かにカラサケキツネノサカズキも集合になって発生はするものの、基部はほとんど密着してはおりません。

シロキツネノサカズキとの違いは?

まずはこの写真を見てください。

カラサケキツネノサカズキ 2014年7月 撮影:ガガンボさん

この写真「だけ」を見れば誰しも「シロキツネノサカズキではないか?」と思うかもしれません、いや、きっと思うでしょう!
僕なら思う(笑)
ピンク色の子嚢盤とそのお椀の上に毛が生えておりますね。
これはまだ幼菌の頃のシロキツネノサカズキに良く似ております。

幼菌から少し大きくなったシロキツネノサカズキ。

シロキツネノサカズキ 2018.6.24 大阪

色目だけみているとこれもサーモンピンクと言えなくもないです。

ただし、生長するにしたがってやや色味は濃くなっていくようです。

シロキツネノサカズキ 2018.6.24 大阪

さらに別のシロキツネノサカズキです。
こちらは神戸で発見したものです。

シロキツネノサカズキ 2020.7.12 神戸

さてどうでしょう?
色目に騙されて、それ以外のところを見落としそうですよね?(笑)
カラサケキツネノサカズキとシロキツネノサカズキのもっとも分かりやすい違いというのは

集合化しているか単生で発生しているか?

が一番分かりやすいかと思われます。
この神戸の子実体の様に完全にそれぞれの子実体が分離して発生している、という構図はカラサケキツネノサカズキにはあまりないもの、と言っていいと思います。
そこでこの2種の違いをまとめてみますと

  1. カラサケキツネノサカズキは荒毛が長く多い
  2. カラサケキツネノサカズキの子嚢盤の色はピンクから淡いオレンジ色(サーモンピンク)
  3. カラサケキツネノサカズキは子実体が集合している
  4. カラサケキツネノサカズキは先が尖っていない子嚢胞子
  5. カラサケキツネノサカズキは多数の球状の油球を含む

1~3が肉眼的な特徴の差ですが、比較すれば色合いも異なりますし、毛の生え方も違いますのでわかるのではないかと思われます。


さていかがだったでしょうか?
今回のカラサケキツネノサカズキの発見から新種記載論文の発表まで約7年。多くの方々がこのキノコに関わってやっとここまでこぎ着けたという印象ですね。本当にご苦労様でした。
ガガンボさんもTwitterでおっしゃっている様にこの様な学術研究の成果に関わることが出来たというのはとっても光栄でかつ幸運なことだと思いますし、かなり羨ましいです(笑)
僕もこれを書くことで多くの人に読まれて、「カラサケキツネノサカズキ」という名前が多くの人に知られることを願うばかりです。

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