ツチグリの生長を観察してみた
以前、ツチグリが出てくる絵本を杏美ちゃんと一緒に作ったことがある。
「絵本ツチグリ」
ツチグリが成長し、どうやって胞子を撒くのか?ということに焦点を当てた絵本でした。
ご存じの通り、ツチグリは球状の子実体内皮のてっぺんに穴を開け、そこに落ちてくる雨粒を利用して胞子を放出している。雨の日は星形の外皮を開き雨粒がてっぺんから入りやすいようにし、乾燥が続けば外皮を閉じてしまう。「星形の湿度計」というのはその様な性質を元に付けられたものだそうです。
そんなツチグリはいつ生まれて、いつこの様な状態になるのでしょうか?
絵本を作っている間、ツチグリの生態を知らないことに気づいた。
写真の様な星形になっているツチグリの姿は見たことがある。そして、土の中から顔を出している姿も見つけたことは何度もある。しかしその生長過程をまったく知らなかったのでした。
実は長年のそんな疑問をツチグリ愛が半端ない キノコットンさん(@kinocotton999) が観察してTwitterにアップしてくれていたので、こりゃ絶好の機会だと紹介させてもらうことにしました。
2020.10.25
ツチグリを発見した時の状態だそうです。
道沿いの斜面で発見したそうですが、「いかにもツチグリが発生しそう」な雰囲気の斜面ですよね。
何故こういう場所から発生するのでしょうか?
なんてことに想像を巡らせるとなかなか楽しいものがありますね。
例えば、以前書いたカゴタケなどもこの様な斜面や崖から発生します。あくまでも僕の仮説ですが、カゴタケは斜面から転がり落ちる力を利用して丸まっているところから籠の様な形になるのではないか?と考えています。つまり自然落下とその衝撃によって、あの他に類を見ない子実体の形を作り上げるのだと。
ツチグリもそうなのだろうか?
それはどうなのでしょう?
ただ、今から始まるキノコットンさんの詳細な観察記録から察するとその可能性は限りなく低そうです(笑)
2021.1.25
ツチグリを2つ持って帰ったキノコットンさん。持って帰ったツチグリはプランターの土の上に置いて観察をおこなったそうです。
発見からすでに3か月が経過。
この時点ではこれが「ツチグリかどうか?」は分からない感じではありますな。
しかし子実体にひびが入り、その頂上に穴があいている様に見えます。
つまり、ツチグリは外皮に裂け目が入るのとほぼ同時に内皮の頂点に穴があき、胞子を放出する準備に入っている、ということがこの写真で分かりますね。
2021.1.30
1月25日よりもくしゃっと潰れています。
しかし、以前よりも外皮に入った裂け目というのは大きくなっている感じではあります。
キノコットンさん曰く
「湿って乾いてを繰り返し段々と亀裂が入り、開くのだろうか。」
確かに水分を吸収しては膨張し、乾燥が続くと水分不足になっていき縮んでいく。
そうすることによって、この固い皮を少しずつ裂いていく力に変換しているのではないのだろうか?
2021.2.2
面白いことに1月30には潰れている様に見えたツチグリの子実体が雨で水分を得たら元の様に丸くなっているのです。
つまり乾燥時は潰れたようになるし、湿っている時は膨らんだ状態になるという事。
この子実体内部には胞子が入っていて、それはパンパンに詰まっているわけではないので(潰れている状態から察すると)、この膨らんだ状態の中身の多くは空気、つまり空洞だと思われる。
また「星形の湿度計」と言われるように、「雨だと外皮が開き、乾燥すると外皮が閉じる」という以前に、外皮が開いていない状態でも、湿度によって子実体に変化があることがわかります。
2021.2.15
何度か雨と感想を繰り返したのち、外皮の半分が剥けていますね。
キノコットンさんがツチグリを拉致してきてから4か月近く。やっと外見からツチグリだと分かるぐらいに外皮がその存在感を表しはじめました。
2021.2.20
その4日後の2月20日。
既に外皮に大きく裂け目が入っており、ツチグリのシンボルでもある、星形をした外皮を形成してもおかしくない状態にありますね。
しかし!乾燥しているので「もうダメなんじゃないか?」という状態に見えますね。
キノコットンさんはこう書かれています。
「乾燥中は痛々しい程ぎゅっと無理矢理胞子を出している様だ。」
そうなのです。すでに胞子の放出が始まっており、この潰れたような状態の時も潰れながら胞子を押し出している様な感じに見えちゃうのですね。
もしかして縮んだり、膨張したりするのも胞子を放出する手段の一つかもしれませんね。
2021.3.2
3月2日外皮が綺麗に剥けましたね、2枚だけですが。
この写真で見たところ、内皮の頂部に穴があき、少し窪んでいることもあって、水が溜まっております。外皮の付け根のところにはココアパウダーの様な胞子が溜まっていることも確認できますね。
ここで「なにこれ?」という画像です。
これは外皮の付け根のクローズアップ写真です。
注目すべきはこの裂け目です。
ご存じの通り、ツチグリの外皮が開くと、外皮自体に網目模様が出るようになります。
その「網目模様」の出来はじめを捉えた画像です!!(@_@;)
これを見ると外皮は2重構造になっているように見えます。その外皮の内側の皮(ややこしいわ~)はやがてメリメリと割れていき、網目模様が現われてくるのではないか?なんてことがこの写真から伺い知ることができますね。
※「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)によりますと実際には外皮は革質層、厚いにわか質層、白銀色の薄膜そうの3層構造にわかれているとのことです。
2021.3.29
そして採取から5か月!!
やっとこ「ツチグリっ!」っていう姿が現われました。
春になってアミガサタケを捜しに行ったときに、たまたまツチグリのこの様な姿に出会うことがある。まさに星の形を表し、内皮の頂部には穴が空いている。その時にいつも彼らにこう問いかけるのだ
「君たちはいつからここにいるのだい?」
しかしツチグリたちは何も答えない。
冬に生まれて、こうして姿を見せているのか?それとも去年すでに生まれてここに固まっていたのか?
「僕は君のすべてを知りたいんだ!」
そんな思いは叶えられるとこは無かった・・・・。
2021.4.6
完全に開いてから8日後、少し土が濡れているのは前日に雨が降ったらだそうですが、一日経つとすっかりこの様に萎んでいる様になってしまうのです。
いかに雨に左右されるのか、が分かる写真ですね。
そして、今まで黙っていましたが、もう一つの子実体は外皮に亀裂すら入っておりませんでしたが、少しだけ亀裂らしき裂け目がこの写真で確認できるでしょうか?
この開いている方との時差はおよそ2か月(笑)。
そしてこの遅れている方もいよいよ開眼の時が訪れたのだ。
2021.4.11
「ママ!僕も大人になってきたよ!」
そんな声が聞こえてきそうだ。
小さかった方のツチグリにもやっと裂け目が分かる様に現われてきた。いよいよ開眼の時が訪れてきたのだ。しかし同時期に、同じ場所で採取し、大きさもさほど変わらないにも関わらず、この生長の違いは何だろうか??
2021.4.18
だいぶ裂け目が大きくなり、外皮と内皮の区別が明確になってきました。
注目は、内皮の頂部、すでに胞子の放出孔が空いているのが分かりますね。
2021.4.29
そして星形に開くために外皮に裂け目が入っていきます。
そろそろ開くための最終準備段階にはいっているのでしょうか・・・・
そして、、、
2021.4.30
たった一日でツチグリらしくなり(右側)、そしてもう一方のすでに成菌になっていたツチグリが立った記念日であった。
感動的な展開に驚かれることであろう。
ツチグリは発生してから長い間その生態を楽しむことが出来るかなり珍しい種である。
発生から半年、彼らは土の中から這い出し、地上へとその姿をさらす。
その後、外皮に裂け目が入り、星形に切り出し、そして開く。
乾燥するとその姿を隠し、まるで枯れてしまった花の様な姿を呈するが、雨で自分の体を湿らすことが出来れば、本来のツチグリらしい姿へと変貌を遂げる。
胞子を作り出し、そして放出するために作り出されたこの構造。
不思議と言えば、これほど不思議な構造をどうして作り上げたのだろうか?
追伸
今回の観察はキノコットンさんが地道に行ったもので、僕がしたものではない。
あたかも僕がしたように書いているが(笑)、実際はキノコットンさんの観察Tweet&写真に僕なりの観察からの感想を書いたものである。
キノコットンさんも独自にノートを作っていたらしいが、いつかこのノートが世に出て、世間の目に触れることがあるかもしれない。
※ノートの下の模様がやけに気になるのだが・・・・(笑)
またあまりにもツチグリが好きすぎてこんなものも作っておられた。
題して「蒸しツチグリと揚げツチグリ」。
具は鶏ひき肉とブナシメジ、ネギと生姜、塩胡椒、甜麺醤で作られたそうな、、、凄すぎる (@_@;)
しかしなぁ、、一つだけ注意しとくと、外皮の割れ目の数多くないか?(笑)