太陽光が胞子に与える影響

エノキタケとアラゲキクラゲ

日本菌学会 62回大会(信州)に参加したとき、

わたしは南極のアイスコアから菌類の胞子を採取したという発表を聞いた。

南北両極氷床コアに眠る菌類の分離
https://www.jstage.jst.go.jp/article/msj7abst/62/0/62_9/_article/-char/ja/

なんと!南極の氷床から、何種類もの菌類の胞子が発見されたという。

発表はすごく興味をそそられ面白い内容であった。

わたしにとって、はじめての学会の参加ということもあって、

学会のあれやこれやなにも知らないことをいいことに(それはいまもだけど!)、

質疑応答になると元気よく挙手し質問した。

「南極の氷から発見された胞子は、いったいどこから来たんですか?
まだ陸地であった頃、化石のように埋没した胞子である可能性があるのか、
それとも大陸のきのこから放出された胞子が気流にのり
南極まで運ばれたものが氷床に閉じ込められたものであると考えてもいいんですか?」

たしかに、大会要旨にも発表内容にも、

“どこから来たと考えられる菌類の胞子なのか?”は触れられていなかった。

それは、あらゆる可能性を検証することが必要で、

“まだ確証を得られていないからあえて触れていない”ということだから、

そんなオトナの事情をわかっている人は質問しない・・・だろうけど、

何も知らない初心者は平気でそういうことを質問する。

だから、無学というのはオソロシイ。

(ちなみにわたしも同じ会場でポスター発表をさせてもらったw🍄🍄)

アミガサタケ(Morchella esculenta (L.) Pers. sensu lato)の栄養様式に関する研究https://www.jstage.jst.go.jp/article/msj7abst/62/0/62_90/_article/-char/ja/

学会というところは、学術の祭典であるからして、
科学的根拠のあることだけを議論する場である。

わたしのそんなことお構いなしの無遠慮で配慮のない質問に対して

「推測の域を出ないけれども、
おそらく大陸から気流に乗って運ばれてきた胞子が
南極の氷に閉じ込められたと考えられます。」

と応答してくれた。

おお!気流に乗って南極までやってくるのか!

発見された菌類の胞子は、スエヒロタケ(Schizophyllum commune)など、
森林で生息しているきのこばかりであった。

思いのほか、胞子は気流に乗ってかなり遠くまで運ばれているのだと驚いた。

しかし
果たして、南極にたどり着いた胞子は発芽させることができるのだろうか?

その間、温度差や乾燥、そして太陽光などあらゆる脅威にさらされる。

さすがに、その質問はしなかったが、ずっと気になっていた。

胞子はただ遠くに飛ばすだけではダメなのだ。

同時にあらゆる環境に耐えられる機能を獲得しなければ、本当の“進化”とは言えない。

(ちなみに、ブラーは放出された胞子の寿命も実験で確かめている。
その話は、また機会があれば・・!
けっこう胞子の寿命はけっこう長そうで短いかも????)

太陽光が胞子に与える影響

さて、本題に戻ろう。

以前の記事で、

きのこの胞子の色の変化と進化には関連があるのではないか?ということを書いた。

「ぢゃぁ、胞子の色はきのこにとってどのような意味があるのか?」という話題になり

「もしかしたら、太陽光の影響を防いでるんぢゃん?」っていうところで話は終わった。

ブラーは、その辺の実験をしてひとつの答えを導き出しているのだが、

その前に、太陽光について予習しておこう。

白色と黒色、どちらのほうが太陽光の影響を防げるのか?

例えば、日傘を買うとしたら、白と黒、どっちがより太陽光からお肌を守れるか??

まず、色の性格から考察しよう。

ずばり!!

白色は、光を反射させ、黒色は、光を吸収する。

そういうことなのだ!

つまり、日傘で言えば、

外側は光を反射させる白が理想で、
内側は地面の照り返しなどの光を反射させず吸収する黒色がいい

ということになる!

胞子は白色が理想

色の性格をふまえて考えてみると、

気流に乗って長時間、太陽光にさらされるのであるなら、白色がいいのかな~?って気がする。

太陽光を吸収してしまうと胞子の温度は上昇するだろうし、

そうなれば細胞質を構成するたんぱく質も変質してしまうだろう。

そこで、ブラーはスエヒロタケ(白(無色)の胞子)を使って、

こんな実験をして太陽光の与える影響を確かめた。

スエヒロタケの胞子に対する太陽光の影響実験

RESEARCHES ON FUNGI Vol. 1 p97 図 37

① 容器の底に、2枚のスライドガラスを並べておいた。

② そして容器の上部にこの図のようにスエヒロタケを設置し、容器の中に胞子を飛散させる。

③ 一夜のうちに底に設置したスライドガラスは、均一に胞子で覆われる。

④ 翌朝、そのスライドガラスを取り出し、一枚を実験室の窓から差し出す直射日光にさらし、

 もう一枚は、日の当たらない暗い場所に設置する。(実験室の気温は、19 ℃)

⑤ そして、それぞれのスライドガラスを培地の上に静置し、発芽する様子を観察する。

結果

さて、
どんな結果が出たと思いますか??

Comparative tests made during the month of April showed that spores which had been exposed to sunlight for eight hours germinated more slowly than spores which had been exposed to sunlight for two hours, and these more slowly than those which had been kept in the dark.

4月に行った比較実験では、8時間日光にさらされた胞子は、2時間日光にさらされた胞子よりもゆっくりと、日光にさらされず暗所に置かれた胞子よりもさらにゆっくりと発芽した。(林;意訳)

RESEARCHES ON FUNGI Vol. 1 p25

なるほど、

直射日光に晒しても発芽はしたけど、
直射日光にさらした時間が多いほど発芽するまで時間がかかる、

という結果になったわけですな。

Spores kept in the dark germinated about twenty hours sooner than those which had been exposed to sunlight for seven or eight hours.

暗所に置かれた胞子は、直射日光に7~8時間さらした胞子より、およそ20時間早く発芽した。(林;意訳)

RESEARCHES ON FUNGI Vol. 1 p25

へぇ~、

20時間を多いとみるか少ないとみるかは意見が分かれるところだけど、
けっこう差がでるんだなぁ~

It was also found that exposure of the spore-deposits to sunlight resulted in a marked diminution in the proportion of germinating spores.

また、堆積した胞子を日光にさらすと、胞子の発芽の割合が著しく減少することもわかった。(林;意訳)

RESEARCHES ON FUNGI Vol. 1 p25

やっぱり、日光の影響って少ながらずあるんですね~

ほかにもミダレアミタケ(Daedalea unicolor→ いまはCerrena unicolor)でも同じような結果がでたとあります。

白い(無色)の胞子のスエヒロタケでもこれだけの違いが出るのだから、
黒い胞子ではもっと顕著に違いが出るのかもしれませんね・・・????

自分でもそれを実験してみようと、ず~~っと思っているのですが
なかなか出来ず・・・・いい感じのマッシュルームが手に入らないというのもあるんだけど・・・

誰か、検証してみませんか?

もしかしたら、すごく面白い結果が出るかもですよ!!

(C. Hayashi  2021.02.22)


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