新種ナガエノスギタケを記載した論文が学術誌に掲載されました

ナガエノスギタケというキノコをご存知だろうか?

「もちろん知ってる」

と答えた人は多いだろう。
ではナガエノスギタケというキノコを見たことがあるか?という質問に「イエス」と答えられる人はあまり多くないと思う。
僕も見たことないし、あの杏美ちゃんだってそう(あの杏美ちゃんでもですよ w)、そして唯一きのこびとメンバーの中で見て、写真を撮っているのはカンゾウタケが大好きな奇人変人K島さんぐらいだ(笑)。
その写真がこれだ。

写真提供:K島さん

うーむ、なかなかこれを見てもナガエノスギタケだ、とはなかなか言えないが、K島さんが「ナガエノスギタケだ!ちょっと古いけどね」というからには間違いないだろう。
関東に住んでいるチエちゃん曰く

「千葉でも発生例があるからそんなに珍しくないんじゃない?」

とのこと。
確かに関東の公園に行って生まれて初めて「モグラ塚」なるものを発見した。関西ではまったく見たことのないものである。
これはモグラが土の中に通り道を作るために、掘ったあとの土を穴から地上に放り出したあとの盛り土なのです。それがあれば地下にモグラの巣(または通路)があるので、モグラがいる可能性が高いのですが、それすら見たことがないので、関西の少なくとも僕がキノコ観察に行くエリアはモグラがいないのではないか?と思っている。

ってことはナガエノスギタケも発生するわけがない!! (@_@;)

さて、先程から「モグラ」「モグラ」と言うておるわけですが、ナガエノスギタケを知らない人からすると

「モグラとナガエノスギタケってなんの関係があるの?」( ,,`・ ω´・)ンンン?

って感じになってると思うんですよね。
ですので、少しだけモグラとナガエノスギタケの関係に触れたいと思います。

相良先生とナガエノスギタケ

写真提供:S木さん

京都大学の相良直彦先生をご存知だろうか?
以前僕はこんな記事を書いた。
「アンモニア菌を紐解く」
https://kinokobito.com/archives/4890

家の近所の公園に発生してた「アカヒダワカフサタケ」というキノコを発見した時に書いた記事である。
興味がある方はこの記事からもう一度読んでみてください。
で、この記事の中で参考にさせてもらった本が「きのこの下には死体が眠る!?」という吹春俊光先生の初心者向けのとっても面白い本であります。

この本の中でまっさきに登場してくるのが相良先生なのです。
相良先生はいわば「アンモニア菌というものを発見」した先生で、今まで誰もやったことのない方法で、今まで誰も考えもしなかったことを「発見」した、世界的に有名な先生なのです。
本から一部引用させてもらいます。

京都大学農学部の学生だった相良直彦は、偉大な師匠、濱田稔に研究についてのアドバイスを受けた。
「人は追い詰められるとものすごく意外な一面を見せるもんなんや。森にちょっかいを出し、森の菌類を追い詰めてみてはどうやろ」
そこで相良は考えた。森に科学科学刺激を与えてみよう。そこで研究室にあったいろいろな試薬を山に撒いて試してみた。

「きのこの下には死体が眠る!?」

ここから相良先生の実験は始まります。
いわゆる「ぶっかけ実験」と呼ばれているものです。
しかし、これは実験というよりも、まったく無謀な試みであると、一般的には見られていました。

通常、こんな実験は、ぶっかけ実験といって、まともな研究者はやってはいけないと厳しく指導される。実験というのは、仮説を立て、ある程度の結果を、ある程度の理性で予測し、実施するものである。実験対象にあれこれ「ふりかけ」何かが起きるのをじっと待つような実験は実験ではない。
しかし相良は大真面目で「ぶっかけ実験」を始めた。

「きのこの下には死体が眠る!?」

世間的、一般的には無謀なこと、非常識なことであっても「そこからしか生まれない」ものがあったりする。
相良先生の「アンモニア菌の発見」はその「ぶっかけ実験」があって初めて生まれたものであり、それがなければもしかして未だに「アンモニア菌」という言葉すらこの世に存在しなかったかも知れないのだ。


そしてナガエノスギタケも「アンモニア菌」だと思われていました。アンモニアを撒いたあとに発生した例があったからです。

しかし!!!
ということで、ここでも本から引用させてください。

そして相良は、当時アンモニア菌と考えられていたナガエノスギタケに、2つのタイプがあることに気づく。白くて大型でデンプン糊の匂いがするもの、そして黄色くて小型のもの。後者は尿素を撒いて発生し、屋外便所跡等から発生した例があった。ところが白色型は尿素を撒いても発生せず、その地下からは、何回掘ってもモグラ類の便所跡が発見され続けたのである。

「きのこの下には死体が眠る!?」
写真提供:波多野英治・敦子ご夫妻
広島にて相良先生と一緒にナガエノスギタケを掘った時の写真

いよいよ「モグラ」が登場しました。
ちなみに上記の写真は広島県にて相良先生に随行して行かれた波多野英治・敦子ご夫妻が撮られたお写真です。
ナガエノスギタケの偽根が伸びていってモグラのトイレ跡(現在使用しているものではない)に到達しているのがわかってもらえるでしょうか?

では重要なのでナガエノスギタケの要点を整理させてもらいます。

  1. ナガエノスギタケはアンモニア菌と考えられていた
  2. 大きなタイプと小さなタイプが有ることに気づく
  3. 白くて大型のものはアンモニアを撒いたあとからは発生しない
  4. 白くて大型のものはモグラの便所跡から延びているのが発見される

そしていろいろ検証した結果

  • 大きなタイプは従来のナガエノスギタケ(Hebeloma radicosum)
  • 小さなタイプはナガエノスギタケダマシ (Hebeloma radicosoides)

ということが判明したのです。

20世紀の終わりの2000年、相良らのグループにより、白色型と黄色型は別種である、という論文が発表された。白色型は、欧州で記載された本当のナガエノスギタケ(Hebeloma radicosum)であり、モグラ類の便所跡からしか出ないこと、だからアンモニア菌の定義から外れること、黄色型は広汎なアンモニア発生源から発生し、アジアに分布する新種の種類であることが明らかになり、2者は明瞭に区別されることになった。

「きのこの下には死体が眠る!?」

さて、この記述の中で大切なポイントがあります。

「白色型は、欧州で記載された本当のナガエノスギタケ(Hebeloma radicosum)であり」

という部分に注目してください。
この時点では「ナガエノスギタケ=Hebeloma radicosum」だったのです。

しかし今回、糟谷先生たちにより、

日本産のナガエノスギタケは海外の Hebeloma radicosum とは異なる種である

という事が発表された、ということなのです。

糟谷先生とナガエノスギタケ

写真提供:S木さん

2020年8月20日、糟谷先生がFacebookに以下の様な投稿をされました。

ヨーロッパのHebeloma研究者の協力を得て,日本産ナガエノスギタケの形態と分子系統を再検討し,Hebeloma sagarae T. Kasuya, Mikami, Beker & U. Eberh.として新種記載した論文がPhytotaxa 456: 125-144, 2020に掲載されました。ナガエノスギタケは「モグラの雪隠茸」とも言われるように,モグラ科動物など哺乳動物の排泄所から子実体を生やします。種小名のsagaraeは,この菌と動物および植物との関係を解明された相良直彦先生への献名です。これまでナガエノスギタケは,ヨーロッパで記載されたH. radicosumであると考えられてきましたが,日本でH. radicosumと見なされている菌は,系統的にヨーロッパのH. radicosumとは異なることが明らかとなりました。また,顕微鏡的にも,H. sagaraeには側シスチジアがあり(H. radicosumにはない),H. sagaraeのほうが縁シスチジアがより小型で,担子胞子がより粗面である点などで識別できます。なお,Hebeloma sagaraeのholotypeは,岐阜県飛騨市神岡町のミズラモグラの排泄所から得た子実体を選定しました。これは私が千葉科学大で受け持った初めての卒研生と一緒に調査して,採集した標本です。その時の卒論のデータや写真の一部も今回の論文に掲載されており,当時の学生も共著者になっています。私としては,小松市に在職中からナガエノスギタケの分子系統について調べていたので,8年越しでだいぶ時間がかかりましたが,何とか形になってほっとしてます。

先ほどもちらっと書きましたが、もういちど重要なので書きます。

日本産のナガエノスギタケは海外産の Hebeloma radicosum とは異なっていることが判明し、しかもそれは新種ということも判明したので、学名を Hebeloma sagarae としたのです。

そしてその種小名「sagarae(サガラエ)」は相良先生がアンモニア菌とそれに続くナガエノスギタケの生態を解明したことに対する敬意を表して相良先生の苗字「さがら」を学名に当てた、ということだそうな。

素晴らしい、そして覚えやすい (*^^*)

ちなみに、糟谷先生がまだ学生(中学生)の頃に菌学会に推薦してくれた人こそ相良先生ということ。糟谷少年の才能を見抜き、その見抜かれた才能を発揮して師匠の意思を受け継いだ、ということになるのですね、、本当に素晴らしいことです。

さて、ではこの Hebeloma sagarae は以前のもの Hebeloma radicosum のどこに相違点があるのでしょうか?

論文を頂いたので、ポイントをピックアップしてみます。

  1. H.radicosumは今まで、側シスチジアが観察されたことはない
  2. 胞子のサイズが H. sagarae:7.6-8.9×5.1-5.8μmに対して H. radicosum:8.3-9.7×5.2-5.9μm であること
  3. H. radicosum の胞子はより装飾的で、偽アミロイドであること
  4. H. sagaraeの縁シスチジアは不規則な形状をしている
  5. H. sagaraeの縁シスチジアは18~38μmの範囲だが、H. radicosumでは37~57μmの範囲である
  6. H. sagaraeはコナラやミズナラなどのブナ科植物がその宿主である可能性があることを示唆している

以上6点。

ここで重要なのは、少なくとも外見で見分けるのは不可能ということ。そして、顕微鏡で細かく見てもかなりよく似ている、ということ。

なので、ずっと和名ナガエノスギタケは Hebeloma radicosum であり続けたのでしょう。
この難題を8年がかりで解明出来たのは、まさに糟谷先生の情熱と師弟愛の賜物だと思われます。

【論文書誌事項】
Eberhardt U., Beker H. J., Schuetz, N., Mikami M., Kasuya T. 2020. Rooting Hebelomas: The Japanese ‘Hebeloma radicosum’ is a distinct species, Hebeloma sagarae sp. nov. (Hymenogastraceae, Agaricales). Phytotaxa 456: 125-144.

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