テングノメシガイは果たして剛毛なのか?

2020.03.22 大阪

今年の3月22日、まだ春浅い日曜日。大阪のとある公園でこんなキノコを見つけた。

  • 公園の
  • 苔から発生していて
  • 全体が黒く
  • 全長が4cmぐらい
  • 上部は少しヘラ型で
  • 下部は上下同じ太さ
  • 質感は少し硬め

まぁ、これだけを並べたらおそらく答えは一つ

テングノメシガイ(天狗の飯匙)

というキノコに行き着くはず、たぶん。行き着かなきゃモグリだ(笑)

しかしそんなテングノメシガイを図鑑で調べてみると意外な特徴がアピールされている。

  • 頭部表面の子実層と柄に剛毛がある(山渓カラー名鑑「日本のきのこ」)
  • 子実層と柄に暗褐色で、先端の尖った剛毛を有する(山渓フィールドブック「きのこ」)
  • 頭部は (中略) 絨毛状で、柄は (中略) 密に絨毛を生じ(原色日本新菌類図鑑)

いいですか、良く目を見開いて読んでくださいね(笑)

どの図鑑にもほぼほぼ「剛毛がある」と書かれています。
しかし僕が採取してきたこのテングノメシガイには「剛毛」なるものの姿は見えませんでした。

おかしい、、

この姿からしてテングノメシガイ以外には考えられない、、、、と思った僕は、すかさず検鏡してみました。

そして「テングノメシガイワールド」に思わず引き込まれたのでありました。

テングノメシガイの胞子

美しいなぁ、、今までに見たことのない幻想的な美しさ!! (@_@)

さてしかし、今まで見たことのない美しさであると同時に、今まで見たことのない「変な形の細胞」がそこにあるのを見出した。これは一体何なのだろうか?
透明で細長い棍棒状の筒の中に、いくつかの細長いこれまた棍棒状の物体が見えますよね?

これは棍棒状をした「子嚢(のう)」とその中に包まれるように入っている「子嚢胞子」なのである。

ただ、この状態はまだ未熟な状態で、これからどんどんと子嚢胞子が大きく育ち、テングノメシガイの特徴的な子嚢胞子になっていくのである。
では生長した子嚢胞子を見てもらいましょう。

テングノメシガイの子嚢胞子

なかなかテングノメシガイらしい子嚢胞子を見つけることが出来ました。
山渓新版「日本のきのこ」にはこの子嚢胞子についてこう書かれています。

子嚢胞子は円筒状棍棒形、褐色、15個に及ぶたくさんの隔膜を生じる。

15個の隔膜!! (@_@)

またも愕然とした。
上記2枚の写真の隔膜の数を数えてみて欲しい。
隔膜(隔壁)の数はどう数えても9枚~12枚しかないですよね?
剛毛も生えていないし、隔膜も15ではない。

このキノコはテングノメシガイではないのだろうか??

そんな疑問を抱きつつ、テングノメシガイがたくさん出るフィールドにいつも行ってるイノウエヤスコさんにこんな風に聞いてみた。

「あのさぁ、テングノメシガイ見つけたら剛毛が生えてるか見て欲しい?」

剛毛をめぐる議論

僕は第一の疑問である「剛毛」について追求することにした。
そして、しばらくすると「テングノメシガイを見つけた」という連絡が入って写真を撮って送ってくれた。

「生えてるみたいです、剛毛!」

そんな少し浮かれたメッセージとともに送っくれた写真がこれである。

2020.05.21 撮影:イノウエヤスコさん

「いやいやいやいやぁ、、、これ『剛毛』じゃなく『微毛』やん、、、」

すかさず僕はこう答えた。
頭部は平滑とは言えず、何か薄っすらと生えているようには見えるが、これは残念ながら「剛毛」とは呼ぶことが難しいのではないか?

だとするとこれもテングノメシガイではないのだろうか???

テングノメシガイ、、、簡単だと思っていたキノコにこんな「沼」が待っていようとは思ってもみなかったのでした。黒くて、マッチ棒の様な形をしていれば、すべて「テングノメシガイ」としていた僕は大きな岐路に立った。

いったいテングノメシガイとはどんなもので、剛毛とはどういったものなのだ・・・・

そして「剛毛論議」がこれから始まるのでした・

2020.04.25 兵庫

このテングノメシガイらしきものの表面は「平滑」とは言えない。
頭部には小さな穴が空いているように見えるし、質感がザラザラしている感じ。そして柄の部分は何だかささくれ立っているいるように見える。

「これは剛毛だろうか?」

ヤスコに聞いてみる。するとヤスコは

「これはササクレですよー!」

御意。
どこからどうみても「剛毛」などとは言えないシロモノである。
するとヤスコが先ほどのキノコを拡大した写真を送ってくる。

写真提供:イノウエヤスコさん

「ここに黒い毛が生えています。これはササクレとは違うものです」

なるほどなるほど、確かに赤丸の中にはピョコンピョコンと「毛」らしきものがかすかに見える。
しかし、、、僕は答える。

「ふむふむ、それをもって『剛毛』って表現するか?」

図鑑の表現はなかなかわかりにいくものだ。
確かに図鑑(及び論文では)明瞭な言葉遣いじゃないと駄目、ってのは良く分かる。そういう書き方じゃないと論文としてはNG、というのも知ってる。

じゃあ、これは剛毛なのか?と聞かれればやはり「NO」としか言えないのだ。

「そうですねぇ、、こんなのが『剛毛』ならヤスコの方がよほど・・・・」

「よほど」のあとの言葉は聞くまい。
ましてや「どこの毛じゃ?」なんて失礼な事を聞くジェントルジョージではないのだ(笑)

テングノメシガイ似の仲間たちを集めてみた

ちなみにこのテングノメシガイの仲間たち、肉眼的にはなかなか見分けがつきにくく、最終的には顕微鏡でその子嚢や胞子、そして側糸を見ないとわからない、という難物なのですな。
なのでこの「剛毛」というのは、その難物なものの中でも最も肉眼的に見分けることができる重要な特徴なのであります。

僕はそしてこの2つのテングノメシガイ似のキノコをきっかけにして、「剛毛」について、そして隔膜(隔壁)について調べてみました。
すると以下のようなWEBサイトがありました。

「ヒメテングノメシガイの仲間」と題されたPDFである
http://www005.upp.so-net.ne.jp/yamagawa/webpage/kinoko-kaishi-genkou/23.pdf

この中にテングノメシガイの見分け方として9種類のテングノメシガイ似のキノコの見分け方がまとめてあります。
「カバイロテングノメシガイ」は色が黒くありませんので最初から除外出来るのと、タマテングノメシガイは側糸が数珠状となっているのは間違いなので(数珠状なのはジュズテングノメシガイ)、その情報を訂正。
あと、それ以外にも似ているものを何種かピックアップして一覧表にまとめてみたのが下記の表です。
これをまとめるに当たって一番参考にさせてもらったのがこちらのページです。

「Discomycetes etc.」
http://chawantake.sakura.ne.jp/

名前 剛毛 粘性 子嚢 子嚢胞子 その他
テングノメシガイ
Trichoglossum hirsutum
剛毛 なし 棍棒形 15隔壁 側糸は糸状、隔壁があり
ナナフシテングノメシガイ
Trichoglossum walteri
剛毛 なし 棍棒形 7隔壁 子嚢盤は棍棒形、側糸は糸状、隔壁があり
テングノシャモジ
Trichoglossum farlowi
剛毛 なし 円筒形 3,5隔壁 棍棒ないしへら状
側糸は糸状、隔壁がありやや褐色

コテングノメシガイ
Trichoglossum hirsutum f. capitatum

剛毛 なし 棍棒形 15隔壁 頭部が丸い
わずかに太くなって軽く湾曲
ジュズテングノメシガイ
Geoglossum simile
なし なし 棍棒形 7隔壁 側糸が連鎖した球形の細胞
テングノハナヤスリ
Geoglossum peckianum
なし

やや
粘性

棍棒形 15隔壁 子嚢盤はやや膨らんだ棒状
ヒメテングノメシガイ
Geoglossum umbratile Sacc.
なし なし 棍棒形 7隔壁 側糸は糸状
先端細胞はやや膨らんで屈曲
タマテングノメシガイ
Geoglossum glabrum Pers.
なし なし 円筒形 7隔壁 柄に細かいささくれ状の鱗片
側糸は糸状、子嚢胞子は円筒形
側糸先端の細胞が球状に膨らむ
コテングノタマバリ
Geoglossum pumilum Winter.
なし なし 円筒形 15隔壁 ほぼ全体に褐色のささくれ状鱗片
胞子は弓状になる物が多い
ナナフシテングノハナヤスリ
Glutinoglossum glutinosum
なし 粘性
あり
細円筒形 7隔壁 側糸は糸状
コテングノコウガイ
Sabuloglossum arenarium
なし なし 棍棒形 隔壁は無し 側糸は糸状、隔壁があり褐色
先端はやや膨らんで 6 μm

ここに載せているだけで11種類。
学名で検索してもらえればテングノメシガイにそっくりなキノコ達があなたを沼へと手招きしていることでしょう(笑)

実はこの11種は4つの属に別れております。

  • Trichoglossum(テングノメシガイ属)
  • Geoglossum(ヒメテングノメシガイ属)
  • Glutinoglossum(和名なし)
  • Sabuloglossum(和名なし)

どれも同じ様な形をしているのに属が4つも別れている、というのはなかなか不思議な感じがしますね。


さて今回、3月以降でテングノメシガイらしきキノコがあれば採取し(してもらい)8個のサンプルを得ることが出来ました(イノウエさんに感謝!)。そしてそれらの個体をこの表に基づき、分類して行きたと思います。

それでは、、1枚めのテングノメシガイ似のキノコから検証を進めて行きたいと思います。

「サンプル1」2020.03.22 大阪のテングノメシガイ似のキノコ

2020.03.22 大阪
2020.03.22 大阪

【特徴】

  • 3月
  • 苔から発生
  • 頭部は楕円形で扁平状
  • 柄は円筒状
  • 頭部も柄も平滑
  • 粘性なし
  • 隔膜は8~12

これから推察するとこのキノコは「コテングノタマバリ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜が少し少ないのですが、恐らくですが成熟していったら15まで増えるのではないかと思われます。
剛毛はこの状態では「ある」とは言えないので「テングノハナヤスリ」との2択になるのですが、粘性がないのでここでは「コテングノタマバリ」といたしました。

「サンプル2」2020.04.25 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.04.25 兵庫

【特徴】

  • 4月
  • 苔から発生
  • 頭部は楕円形でやや扁平状
  • 柄は円筒状
  • 頭部と柄にやや微毛
  • 粘性なし
  • 隔膜は12~15(これは増えていくと思われ最終的に15になると思われる)

これから推察するとこのキノコは「コテングノタマバリ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜が少し少ないのですが、恐らくですが成熟していったら15まで増えるのではないかと思われます。
こちらは全体がやや微毛が生えておるのですが、これを剛毛というのはちょっと無理があると思いましてた。ですので「テングノハナヤスリ」との2択になるのですが、粘性がないのでここでは「コテングノタマバリ」といたしました。

「サンプル3」2020.05.20 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.05.20 撮影:イノウエヤスコさん

【特徴】

  • 5月
  • 苔から発生
  • 頭部は楕円形でやや扁平状
  • 柄は円筒状
  • 頭部と柄にやや微毛
  • 粘性なし
  • 隔膜は7

これから推察するとこのキノコは「ヒメテングノメシガイ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜は7なのと、剛毛が生えてない、という2点で「ジュズテングノメシガイ」「ヒメテングノメシガイ」「タマテングノメシガイ」「ナナフシテングノハナヤスリ」に絞られますが、粘性ない点、側糸が数珠になっていない点、で「ヒメテングノメシガイ」「タマテングノメシガイ」の2つに絞られます。あとは柄に細かいササクレ状の鱗片が無いという点、子嚢が円筒形でない点で「ヒメテングノメシガイ」にしました。

「サンプル4」2020.07.16 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.07.16 撮影:イノウエヤスコさん

2020.07.16 撮影:イノウエヤスコさん

【特徴】

  • 7月
  • 苔から発生
  • 頭部は少し球形(短い)
  • 柄は長く円筒状
  • 頭部と柄に剛毛あり
  • 粘性なし
  • 隔膜は7
  • 側糸の先端が丸くなっている

これから推察するとこのキノコは「ナナフシテングノメシガイ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜は7なのと、明らかな剛毛が生えている、という2点で「ナナフシテングノメシガイ」の1択となりますね。

「サンプル5」2020.07.21 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.07.21 撮影:イノウエヤスコさん
2020.07.21 撮影:イノウエヤスコさん
子嚢と子嚢胞子
先が尖っているものがあるが、これがもしかして剛毛?

【特徴】

  • 7月
  • 苔の中から発生
  • 頭部大きくヘラ状
  • 柄は短い円筒状
  • 頭部と柄の全体的に微毛あり
  • 粘性なし
  • 隔膜は7
  • 側糸の先端が丸くなっている

これから推察するとこのキノコは「ヒメテングノメシガイ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜は7なのですが、さて、この微毛を「剛毛」というのか、それとも「剛毛でない」というのか、、、その判断で大きく変わってきます。また4枚めの写真を見ると子嚢ではなく、先が尖った真っ黒な物体が見えます。もしかしてこれは剛毛か、剛毛の一部ではないか?と思っておるのです。
で、このサイト( http://chawantake.sakura.ne.jp/data/Trichoglossum_walteri.html )を読んだところ「全体に細かな剛毛が生えていてベルベット状」という表現になっております。「ベルベット」というのはまさに2枚めの写真はベルベットの質感をしておりますね。よってこの微毛を「剛毛」と判断しました。
よって、隔膜の数により「ナナフシテングノメシガイ」としました。

「サンプル6」2020.07.22 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.07.22 兵庫
2020.07.22 兵庫

【特徴】

  • 7月
  • リターの中から発生
  • 頭部大きくヘラ状
  • 柄は短い円筒状
  • 頭部と柄の全体的に微毛(剛毛?)あり
  • 粘性なし
  • 隔膜は7
  • 側糸の先端が丸くなっている

これから推察するとこのキノコは「ナナフシテングノメシガイ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜は7なのですが、さて、この微毛を「剛毛」というのか、それとも「剛毛でない」というのか、、、その判断で大きく変わってきます(サンプル5と同じ)。このサンプル6のものも検鏡すると針状の物体が確認することができます。

針状の物体が確認できるこれはもしかして「剛毛」なのか?


こちらも「ベルベット状の質感」そして「剛毛の様なものが検鏡して確認」できることから、この微毛を「剛毛」と判断しました。
よって、隔膜の数により「ナナフシテングノメシガイ」としました。

「サンプル7」2020.07.31 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.07.31 撮影:イノウエヤスコさん

【特徴】

  • 7月
  • 全体的にとっても小さい
  • 苔の中から発生
  • 頭部は楕円形で小さい
  • 柄は円筒状
  • 頭部と柄の全体的に剛毛あり
  • 粘性なし
  • 隔膜は15
  • 側糸の先端が丸くなっている

これから推察するとこのキノコは「コテングノメシガイ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜は15で剛毛なので、「テングノメシガイ」「コテングノメシガイ」の2択。
全体的にとっても小さく、頭部が丸いので「コテングノメシガイ」でいいと思われます。

「サンプル8」2020.07.31 兵庫のテングノメシガイ似のキノコ

2020.07.31 撮影:イノウエヤスコさん

【特徴】

  • 7月
  • 全体的にとっても小さい
  • 苔の中から発生
  • 頭部は楕円形で小さい
  • 柄は円筒状
  • 頭部と柄の全体的に剛毛あり
  • 粘性なし
  • 隔膜は15
  • 側糸の先端が丸くなっている

これから推察するとこのキノコは「コテングノメシガイ」に一番近いと思われます。

【コメント】
隔膜は15で剛毛なので、「テングノメシガイ」「コテングノメシガイ」の2択。
全体的にとっても小さく、頭部が丸いので「コテングノメシガイ」でいいと思われます。


今回のテングノメシガイ似キノコ一覧

さて、今回は8種類のサンプルで検証してみました。
検証結果は以下の通りです。8種類のサンプルのうち、同じものを除くと実際は4種類となりました。

日付 産地 剛毛 隔膜数 種名
2020.03.22 大阪 なし 7 コテングノタマバリ
2020.04.25 兵庫 なし 7 コテングノタマバリ
2020.05.20 兵庫 なし 7 ヒメテングノメシガイ
2020.07.16 兵庫 あり 7 ナナフシテングノメシガイ
2020.07.21 兵庫 あり 7 ナナフシテングノメシガイ
2020.07.22 兵庫 あり 7 ナナフシテングノメシガイ
2020.07.31 兵庫 あり 15 コテングノメシガイ
2020.07.31 兵庫 あり 15 コテングノメシガイ

しかし、今更ですが驚いたことにノーマル種「テングノメシガイ」は見つかりませんでした。
剛毛でかつ15の隔膜を持つテングノメシガイの仲間が意外と少なかったからです。もしかしてこれから発生するのかも知れないので、もう少し期待して待つことにいたしましょう。

今回の検証でわかったことは

  • テングノメシガイが無かった
  • ナナフシテングノメシガイの形態変化が大きかった
  • 時期によって出るテングノメシガイの種類が異なる

などであった。
もしかしてもっと多くの種類に別れるかとはおもったのだが、4種類となりましたが、いつかはこの11種類コンプリートしたいと思っております (*^^*)

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