テングタケのタイプを調査してみた

2020.07.18 兵庫

さて、今回の課題は「テングタケ」である。
簡単そうに見えるテングタケ。「あぁ、これ、テングタケの仲間やね」で終わってしまうテングタケ。
キノコをやり始めた頃、某キノコ写真のオーソリティOさんがこんな事を言ってたのが記憶に残っている。

「いりささん、テングタケとイグチの仲間はね、見分けるのとっても簡単だよ!」

その言葉を信じで今までずーーーっと見てきたのであるが、鵜呑みにしていた僕が愚かであった(笑)。
いや、Oさんにとっては簡単なのかもしれない。
しかし僕にとっては、もう「暗闇」にしか見えないのだ。テングタケの闇、、、それは暗くて深くて底が一向に見えないのである、、、


さて、今年の7月ぐらいであろうか?Twitterで「役に立たないきのこ」さんがこんなつぶやきをされていた。

このTweetがあったからこそ、今回の記事を書こうという気になったので、書く機会を与えてくれた役に立たないきのこさんに感謝感謝である (#^.^#)
さてこの4枚のテングタケの仲間たち。あなたには一体これが何のキノコに見えますか?
テングタケなのか、それとも別の種類なのか、、、僕にはこれらがテングタケで合っているのか?そしてこれらをテングタケのタイプと分類していいのか?この時点では判断できずにいた。
そして密かに誓ったのである。

「いつかはテングタケのタイプを分類しよう!」

そしてその構想をやっと実現することができました。

ではその調査の方法とは

  1. 何人か複数の人にテングタケと思われる写真を送ってもらう
  2. テングタケのみを選別する
  3. それら選別されたテングタケの特徴を分類して表にまとめる
  4. 分類した表からいくつかのタイプとして集約する
  5. テングタケと思われる一つ一つにタイプを当てはめる

という作業を行いました。
今回写真を提供していただいたのは僕を含めて以下の4人であります。

1.OAkさん
今回は写真を提供していただくとともに、テングタケかどうかのチェックもして頂いております。
小学生の時には既にテングタケ科の検索表はすっかり暗記していた、というまさに「キノコの神童」。
僕は密かに「天狗の鬼」と呼んでいます(笑)


2.「役に立たないきのこ」さん
ちょうどこの間自費出版にて『役に立たないきのこの本』を出されたばかり (#^.^#)
奥さんは編みきのこで有名な作家さんでもあります。


3.イノウエヤスコさん
もうこのきのこびとではご存じのメルヘンヤスコことイノウエヤスコさん。
数多くのメルヘン写真を提供してもらっておりましたが、最近は生態写真(切断写真)まで撮ってもらっております根っからの撮り菌族(笑)

テングタケの特徴を整理する

2020.07.12 兵庫

さて、今回集められたテングタケの写真は全部で90枚。
その中には「あえて」テングタケじゃないんだけど、「テングタケと似ている」「テングタケと間違えそう」ということでアップしてもらったものもあったりします。
なので、実際の無印テングタケと判断できるのはおよそ47枚。それらの傘とイボだけの特徴をまず洗い出し、表にまとめたものが下の「表1」です。

大きさ 大きくなる 小さめ 普通
反っていく 反らない  
白っぽい 褐色 オリーブ褐色
色変化 中央が濃い 全体同じ  
粘性 あり なし  
条線 明瞭 薄い  
       
イボ 大きさ 大きい 小さい
尖っている 大きく欠片状 中ぐらいいぼ状
多い 少ない 普通
配置 中央に多い 全体に散在  

傘とイボの特徴だけでこれだけの差異が生じております。
あくまでも個人的な感覚ではありますし、もしかして幼菌と成菌でも変化があることはある程度想定はしておりますが、これだけの個体差があるキノコ、っていうことを証明するには余りあるデータだと思うのですよね。

ではここで、ご本家「テングタケ」の特徴を再度、じっくり、図鑑の記述を追いながら洗い出してみましょう。
今回使用するのはこの図鑑「北陸のきのこ図鑑」です。
種類の多さ、そして検鏡する人にとっては必須の図鑑であります。

発生 季節 夏~秋
場所 広葉樹林下に単生,群生
5~10cm
半球形→饅頭形→中丘→扁平
粘性 あり
暗褐色~暗黄土褐色で周辺淡く条線あり、前面に白色、扁平疣(イボ)を散布
大きさ 10~20×0.6~1.5cm
上下同径かやや下方太く基部肥大し球根状で中空
表面類 白色
ツバ 上方に白色膜質つばあり
形態 ツバの下方は繊維状鱗片がだんだら状、基部肥大部上位に白色のリング状ツボ口縁をなす。
ひだ
白色~乳白色
薄く白色、 表 皮下は表面色を帯び
淡い塩味あり無臭
胞子 広楕円形~類球形
大きさ 9.5~11.5×6.5~9.5um

はい、特徴をよく覚えましたか?(#^.^#)

では、これを元に先頭の写真と一つ上の2枚の写真を見てください。
表に記されているテングタケの特徴と合致しておりますでしょうか???

実はこの2枚の写真のものはテングタケではありません (#^.^#)

1枚目はイボテングタケと思われるもので、2枚目のものはテングタケダマシなのです。

パッと見て「テングタケ!」と答えるのの難しさ、というのが良く理解してもらえたでしょうか?

テングタケをタイプ分けしてみる

2020.07.19 兵庫 テングタケ

もう一度繰り返しになりますがタイプ分けするための手順をおさらいしておきます。

  1. テングタケをピックアップ(47枚)
  2. 表1に基づいて47枚の特徴を分類していく
  3. いくつかの特徴が重なるものたちを「タイプ」としてカテゴライズする

というステップを踏んでいくつかのタイプに分類してみました。

それでは、タイプ別の表をまずはご覧ください。

  傘の表面 イボの形態
パターン 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
A
(3枚)
普通 反らない 灰褐色で中央濃い あり 明瞭 大きい 大きい欠片 少ない 全体に散在
B
(12枚)
普通 反っていく 茶褐色で中央やや濃い あり 薄い 大きい 大きい欠片 普通 全体に散在
C
(10枚)
小さめ 反っていく 白で中央やや濃い なし 明瞭 小さい 尖っている 普通 中央に多い
D
(9枚)
大きくなる 反らない 茶褐色で全体同色 あり 薄い 普通 尖っている 普通 全体に散在
E
(1枚)
大きくなる 反らない オリーブ褐色で中央濃い あり 薄い 普通 尖っている 普通 中央に多い
G
(3枚)
小さめ 反らない オリーブ褐色で全体同じ なし 明瞭 尖っている 多い 中央に多い
H
(3枚)
普通 反らない 茶褐色で中央やや濃い あり 薄い 大きい 中ぐらいいぼ状 普通 全体に散在
I
(5枚)
普通 反らない 茶褐色で中央かなり濃い なし 普通 大きい 大きい欠片 普通 中央に多い

全部で8タイプに分かれてしまいました (#^.^#)
いや、この中には個体差レベルで、本当は同一タイプなんだよ、というのもあるかもしれません。
というか、きっとあります。
しかし、特徴マトリクス上では分かれてしまうので、どうしても区別しなければ不公平になってしまうので、ここでは8タイプとしておきます。

では行きますよー!!
これからその8タイプを並べていきまーーす!!

Aタイプ(3枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
A 普通 反らない 灰褐色で中央濃い あり 明瞭 大きい 大きい欠片 少ない 全体に散在

『コメント』
傘の縁に条線がくっきりしており、イボは大きいが、とても少ないタイプ。
もっとも特徴的なのは傘の中心部が特に濃い褐色をしているが、縁部に行くにしたがって色がかなり薄くなっている点です。
3枚なのでテングタケのタイプとしては少ないほうかもしれません。


Bタイプ(12枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
B 普通 反っていく 茶褐色で中央やや濃い あり 薄い 大きい 大きい欠片 普通 全体に散在

『コメント』
テングタケの中では一番多いタイプ。テングタケといえばこのタイプを一番に挙げてもいいかもしれない。
傘の条線は不明確であるがかすかに傘の縁にある。イボとても大きく、欠片状となって傘に張り付いている。
またイボの量はさほど多くはなく、一つ一つのイボは大きい。
色のせいかもしれないが、傘の粘性は著しいように感じる。傘全体の色は全体に濃い褐色をしている。


Cタイプ(10枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
C 小さめ 反っていく 白で中央やや濃い なし 明瞭 小さい 尖っている 普通 中央に多い

『コメント』
こちらも10枚と健闘しているのでテングタケの中では多いタイプなのかもしれない。
傘の条線はかなり明確なのと、イボがても小さく尖っておりテングタケダマシと間違えやすいのはこのタイプである。
傘の色はかなり白く、中心もさほど濃くはならないのが最大の特徴である。


Dタイプ(9枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
D 大きくなる 反らない 茶褐色で全体同色 あり 薄い 普通 尖っている 多い 全体に散在

『コメント』
このタイプは傘の色がややオリーブ褐色のような感じで、傘全体に小さなイボを付着させていることが最大の特徴である。
また、この中でも1,3,4枚目のものはツボがとても明確で、綺麗な形で残っているのはもしかして傘のイボとの関係があるのかもしれない。


Eタイプ(1枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
E 大きくなる 反らない オリーブ褐色で中央濃い あり 薄い 普通 尖っている 普通 中央に多い

撮影:入佐

『コメント』
どこにでもありそうで、この写真が唯一の1枚だったEタイプ。特徴的なのは傘に条線が少なくのっぺりとした感じで、色がオリーブ褐色であること。
Bタイプの色が薄いバージョンといっていいかもしれないが、それでも違和感はあるな。


Gタイプ(3枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
小さめ 反らない オリーブ褐色で全体同じ なし 明瞭 尖っている 多い 中央に多い

『コメント』
これは全部役に立たないきのこさんが撮影してものであるが、写真ではかなり小さめに見えますね。
イボの具合は1,2枚目と3枚目は異なるのですが、ゴールドっぽい傘の色、条線の入り具合。そして子実体の大きさから同タイプに入れてみました。


Hタイプ(3枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
普通 反らない 茶褐色で中央やや濃い あり 薄い 大きい 中ぐらいいぼ状 普通 全体に散在

『コメント』
これまた変わり種のテングタケ。老菌になっているのものを見るとかなり大きくなるのだろうか?これはイボの付き方がとっても特徴的で、多くもなく、少なくもないのであるが規則的、そして均等な間隔を空けて並んでいるのはなんとも美しい。
このタイプはあまり見たことはないのだが、もしかして別のタイプに入ってしまうものかもしれない。


Iタイプ(5枚)

  傘の表面 イボの形態
タイプ 大きさ 色&変化 粘性 条線 大きさ 配置
I 普通 反らない 茶褐色で中央かなり濃い なし 普通 大きい 大きい欠片 普通 中央に多い

『コメント』
最後の4枚目をこのタイプに入れるのは適切かどうかわからないが、実はこの4枚は同じ日に少し離れた場所で撮ったものである。
なので、たぶん1,2,3の個体差レベルのものが4枚目ではないか?と思っている。
で、このタイプに反してはまずさほど大きな傘にはならない、という印象がある。小さい傘で大きなイボを張り付けた姿はとっても特徴的で、他のテングタケとは完全に異なったタイプだろうと思っている。


最後に

テングタケのタイプを分類してみたい、と思ってからはや2か月が経ちやっとこ記事が完成しました。
全部で8種類。
これが合ってるのかどうかは今のところ分からない。
もしかしてこの中の2つのタイプは実は同じだった、、なんてこともあるかもしれないし、同一タイプが別のタイプだったということもある。

しかし、もし将来テングタケが細分化される、、、なんてことがあれば、きっとこの記事はその大きな一助となることであろう。
それは近い将来かもしれないし、もしかして永遠に来ないかもしれない。
そのどちらとしても、テングタケをテングタケとして見分ける大事なアーカイブになることは間違いないだろう。


「テングタケまたはテングタケと間違いそうな写真を提供してください」

そう言って僕以外の3人に写真の提供をお願いした。
そして共有のGoogleドライブにアップされた写真は全部で90枚。

90枚のテングタケまたはテングタケの仲間から、無印のテングタケとして選別されたのが47枚。
つまり残りの43枚はテングタケではない別種であった。
テングタケじゃないと分かっててアップされたものもあるし、テングタケだろうなぁ、、と思ってアップされたものもある。

がしかし、テングタケ以外のもので最も多いのはイボテングタケでした。
テングタケとイボテングタケの違いはとっても難しく、細かいポイントをしっかり認識できるOAkさん無しではこの2種類のキノコの選別はできませんでした(事実僕の選別はかなり間違っていました)。

なので、せっかくイボテングタケの写真がたくさん集まったので、イボテングタケの見分け方、というのを記事にしたいと思っています。

いつかね (#^.^#)

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