ハルニレの下のハルシメジ
何やらハルニレの木の下からハルシメジらしきものが出るんだよ、、、と聞いたのは確からじかるの投稿だったかと思う。
え?ハルニレ?ハルシメジ?
まずハルニレってどんな木なのだ?というところから始まる疑問(笑)
調べてみると「あぁ、そう言えばそんな木肌ありましたなぁ、、」というわかりやすい木である。
ただし、例えばよく行く神戸の山に行ってもそんな木肌ってあったかなぁ、、と考え込むぐらいに思い浮かばない。
調べてみると西日本にはアキニレが多いらしく、ハルニレは主に北方に多いとのこと。そう言えばタモギタケやホシアンズタケなどはハルニレの倒木などから良く出るのであるが、北海道とかでは当たり前のように発生するが、その他の地域では一部を除いてあまり聞いた試しがない。
なので関西に自生しているハルニレはほぼない、と思うのですがいかがでしょ?
ともあれ、らじかるが毎年見つけてSNSにアップしているので(悔しいわぁ)、どうしてもこのハルシメジを見つけたく思っていたのだが、でもこの時期はアミガサタケの時期でもあったり、ウメハルシメジの時期でもある。それ以外にも子嚢菌がポツポツ出てるので、このハルニレという木そのものを探しに行く暇がないのでした。
やっと見つけたハルニレの木のハルシメジ
「ハルニレの木のハルシメジ」回文ではないぞ(笑)
新型コロナウイルスの自粛要請を受けて、日頃はあっちこっちに出かけているのにかなりブレーキをかけて近くの公園を散歩することを常としている。時には一人で行ったり、ワンコを連れて行ったりと。
そんな折にふとある木の下を見るとキノコが落ち葉の間からひょこっと顔を出しているのを発見した。
ん?なんじゃこりゃ?
見た覚えが無いそのキノコに近寄って行って、近くにそびえ立っている木に目を這わせた。
「これハルニレじゃね?」
灯台もと暗しとはこの事で、そのささくれだった肌の持ち主は間違いなくハルニレ。そしてその下に発生しているこのキノコは、言うまでもなくハルシメジ(ハルニレ型)である。
もうらじかるの写真を嫌というほど見せつけられていたので、その姿形は目に焼き付いている。
これ、、ハルシメジ(ハルニレ型)なんです。
一般的なハルシメジとは似ても似つかないですよね?
まぁ「一般的」というのが何を指すのかというのがありますが、古い図鑑に「ハルシメジ」として載っているのはほぼウメハルシメジであろう。
こんなやつです。
どうみても同じものとは思えませんね(笑)
「ウメハルシメジ」というだけあって、4月始めぐらいから、5月頭ぐらいまで、梅の木の下に発生するキノコですが、食菌として結構優秀なので食べ菌さんが見つけたら直ぐに抜いてっちゃうので最近はこの姿を拝めていないのですが、ただ公園で管理されている梅林などは農薬などが撒かれているので食べるのはどうかなぁ、、と思っちゃうのですが食べ菌猛者たちはそんなの関係ないのかもしれません(苦笑)。
またウメハルシメジは片利共生と言って菌根菌ではあるのですが、一方的に梅から栄養をもらうだけで、梅の木には何も与えていないそうです (これで共生と言えるのだろうか?) 。
その辺りはチエちゃんのこの記事を読んでください。
「ハルシメジの知られざる謎」
https://kinokobito.com/archives/2917
この記事の中で宿主とどの様に共生しているかというと
- 植物根の皮層細胞間にハルティヒネットを形成しない
- 宿主である植物の根の根冠細胞を破壊し
- そこを菌糸で覆うことで(寄生的に)栄養を受け取っている可能性がある
- 子実体を発生させる前後に植物の根に菌鞘を形成
- 12月~2月末くらいは菌鞘を形成しない
とのことでこれじゃあ「片利共生」というより根冠細胞まで破壊してるので、もう搾取ですわな(笑)
さて、ウメハルシメジは上記の様な宿主との関係性をもっているのですが、このハルニレの下に出るハルシメジはどんな生態をしているのでしょうか?
ハルニレの下のハルシメジって?
実は従来ハルシメジと呼ばれていたものは「ハルシメジ(広義)」とされていて、先程のウメハルシメジ、ノイバラの下に出るハルシメジ、桜の下に出るハルシメジ、そしてハルニレの下に出るハルシメジすべてひっくるめてハルシメジ(広義)と言うことになってます。
では梅の下に出るハルシメジが「ウメハルシメジ」と呼ばれている様に、ハルニレの下に出るハルシメジは一体なんと呼ばれているのでしょうか?
いろいろ検索していると以下のような文献を見つけました。
「日本産ハルシメジ類の分類学的再検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/msj7abst/62/0/62_33/_pdf
ここには実に興味深い事が書かれています。
ハルシメジ類は Entoloma 属 Nolanidea 節に属す菌類の総称である.本菌群はバラ科またはニレ科 植物と「ハルシメジ型菌根」を形成し,春に地上に子実体を形成する.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/msj7abst/62/0/62_33/_pdf
僕の解釈が間違っていなければ「ハルシメジ(広義)」とは
- Entoloma 属 Nolanidea 節に属する
- 植物と「ハルシメジ型菌根」を形成する
- 春に地上に子実体を形成
のものを指すということ。
これで僕の疑問であった「ウメハルシメジと同じ様な生態をもつのか?」というのは一つ明らかになった。つまりハルニレに出るハルシメジも「片利共生」という生態をもっている、ということ。
またここでは国内産ハルシメジは4系統に類別されたと書かれています。
それを表にまとめてみますと
宿主 | 海外種 | 和名 | 備考 |
ニホンナシ ノイバラ |
Entoloma clypeatum と類似 | ノイバラハルシメジ | 系統樹上では欧州産 E. clypeatum と異なる独立のクレードを形成 |
ウメ | Entoloma sepium | ウメハルシメジ | 担子胞子が E. sepium の記載と比較してやや小型である点に加え,系統樹上で欧州産 E. sepium と異なるクレードを形成 |
ハルニレ ナナカマド |
Entoloma aprile と類似 | ハルノトガリイッポンシメジ | 担子胞子がE. aprileと比べてやや小さい |
サクラ | Entoloma aprile と類似 | ??? | 担子胞子がE. aprileと比べて明らかに小さい |
※青字の部分はこの文献には書いてなかったのを僕が追記しました。
※「Entoloma aprile」で検索した結果和名を「ハルノトガリイッポンシメジ」としました。
ここで注意いして欲しいのは学名を一応割り当ててはいるもののあくまでも「類似」となっている点で、しかも、備考で書いているようにまだまだ詳しい調査が必要だということ。
ですが、一応この学名に基づいてハルニレの下に出るハルシメジを追っていきたいと思います。
ハルノトガリイッポンシメジを分解する
「Entoloma aprile」と検索してみると大菌輪でその名前がヒットし、 「ハルノトガリイッポンシメジ」という和名だということがわかります。
このハルノトガリイッポンシメジは日本の図鑑には載っていませんので、海外のWEBサイトを検索してみることにします。
まずはこのフランスのサイトに書かれていることを自動翻訳かけてみます。
http://www.mycocharentes.fr/pdf1/1489.pdf
春に、雑木林の中で、特にニレに関連しています。灰褐色の赤みを帯びた傘。白い羽根続いてピンク。帽子にスティープサブカラー、脆弱な、成熟したときに空洞。フロールの香りと味。胞子 9-11×7-10μm。
http://www.mycocharentes.fr/pdf1/1489.pdf
しばしば区別するために恩知らずである他の春のentolomas、特にEと比較してください。
バラ科の下で栽培されているclippeatum。
すごい翻訳(笑)
ここで注目して欲しいのは「ニレ」の木に関連していること。
つまりはハルニレの木と共生していると解釈していいかな?
では、もういっこ別のページを見てみます。
「Nom usuel : entolome d’avril」
http://mycorance.free.fr/valchamp/champi692.htm
ここではそれぞれの部位の特徴が書いてあるので、表にしてみます。
部位 | 特徴 |
傘 | 2〜6cm 凸状 残りは長く、マークのある乳首を持って広がり、縁には筋があり、滑らかで光沢のある、またはわずかに繊維質のキューティクルを持つ |
ヒダ | 付着しているものからくぼんでいるものまであり、かなり薄く、あまりきつくなく、灰色がかった白色をしていますが、後にピンクがかったピンク色から汚れたピンク色になります。 |
ツバ | なし |
柄 | 円筒形でやや細長く、中空で繊維質、上部はプラム状で、白色から淡い灰色がかった色をしており、基部では茶色がかった灰色になる。 |
臭い? | わずかに発泡性であるが、成熟時には多かれ少なかれ腐敗している。 |
時期 | 春先から初夏まで |
発生場所 | 広葉樹や生垣のニレの下を中心に |
ということで、上記を参考にして部位を見ていくことにします。
傘の大きさはウメハルシメジと比べて小型です。
上記表の2~6cmというのと合致しています。
かなり濃い茶色(焦げ茶ほどでもない)をしているのが、この種の特徴ですよね。
表面はやや湿り気がある感じで、全体的に不明瞭な条線があります。
もう少し成長すると傘のてっぺんが尖った凸型になります。
ヒダはこの写真では白く見えますが、薄いピンク色と表現したほうがいいかと思います。ヒダは密でも疎でもない感じですね。
柄の表面は傘の色よりは少し薄い茶色をしており、表面が繊維質をしてますね。
それと、白く粉っぽいのが確認できます。
肉は白っぽく、柄は中空だというのが良くわかります。
では顕微鏡でもみてみましょう!!
まずは胞子。
ウメハルシメジと同じく多角形の形をしております。
一番近いのは5角形ぐらいかな?
担子器は確認できますが、シスチジアは確認できないですねぇ、、あるんかな?
こちらも担子器と胞子が写っています。
さていかがでしたでしょうか?
海外の Entoloma aprile もニレの木の下で発生するということ。
そして形態などもかなり酷似しているように見えますね。
ですので、ここではこのハルニレの下に出るハルシメジは
Entoloma aprile = ハルノトガリイッポンシメジ
ということにしておきます。