カンムリタケを分解する
水の中から発生するキノコ、と聞いて真っ先に思い浮かべるのはこのカンムリタケだろう。
それ以外にはどんなキノコがあるの?
、、と、きっと聞く人がいるでしょうなぁ~(笑)
ほぼほぼ一般的に知られているのはこのカンムリタケだけだと思いますが、あえていくつか挙げると
- ピンタケ
- ミズベノニセズキンタケ
ぐらいがそれに当たると思いますが、それでもこんなにドップリ水の中から出ているのはこのカンムリタケぐらいじゃないでしょうか?
それぐらいキノコの中でも変わり種のキノコなんですな。
そんな変わり種のキノコをちょいと分解してみたいと思います。
どんな環境から発生するのか?
最初にカンムリタケを見たのは何年前だろうか?
神戸での観察会のあと、S川さんとK上さんが観察会とは別の場所にキノコを探しに行ったら、たまたま見つけて、その後、別の機会にそこに連れて行ってもらって見た、というのが初めてだった気がします。
そして今回は、以前見たのよりも少し早く(以前は5月12日)発生しているという情報をもらったので、さっそく今回も見に行ってきました。
車を止め、目的の場所に行く途中で「あの辺ありそうやな」という場所がちらりと見えた。
「ありそう」というのは道を歩いていたら、少し小川がちょろちょろ流れているのが見え、地形をよく見ると「きっとあの辺りに湿地帯が広がっているに違いない」というポイントだったので、行ってみると案の定そこらじゅうが、歩くと足がズボズボ入るような湿地帯で、そして狙い通りカンムリタケも沢山発生していたのであった。
ではカンムリタケはどんな場所から発生するのであろうか?
- 山の中
- 川が淀んでいるところ、または湿地
- 落ち葉が堆積しているところ
- 日当たりがいいところ
- 水上までの距離が浅い水の中から
と思いつくまま書いてみたが、こんな感じだと思われます。
ここでの最大のキーポイントは「水の中から」という部分。
なぜこのカンムリタケは「水の中」を選んだろうだろうか?という疑問が出てきます。
カンムリタケは水の中に溜まった落ち葉や枯れ枝を分解し、それを自分たちの「食べ物」として取り込んでいるのだと思われます。落ち葉を分解するキノコはたくさんあって、可愛いどころで言えばハナオチバタケやオオホウライタケなどのホウライタケ科のものや、もう少し大型のもので言えばムラサキシメジなども落ち葉を分解するタイプである。
言ってしまえば、地上で考えれば「落ち葉」などは無数に存在するにも関わらず、水の中に堆積した落ち葉・枯れ枝からだけ発生する、というなんともレアな生息場所を選んだこのキノコについてもう少し詳しく見ていきたいと思います。
カンムリタケを細かく観察してみる
カンムリタケの一本を抜いてみました。
この枝は松の木です。
さて、これを見る限り松の枝から発生している、、、と言っていいですかね?
厳密に言うとこのカンムリタケの菌糸がこの松の枝の組織内に入り込んで、せっせとそれを分解しているところを確認しないと「松の枝から発生」とは言えないかもしれませんが。
で、ここで注目して欲しいのは、やや透明な柄の下部に、さらに透明でゼラチン状のものを出していて、それが松の枝と繋がっているのがわかります。
もう少し拡大してみますとこんな感じです。
恐らくこの松の枝にはカンムリタケの菌糸がびっしりはびこっており、その一部から子実体を発生させるためにこの様なゼラチン状のものを発生させ(ツバキキンカクチャワンタケでいう菌核、または菌根みたいなものだろうか?)、そこからまた子実体を発生させる、というメカニズムになっているのではないでしょうか?
「カンムリタケの頭部」
透明、とまでは言えませんが、やや透明感がある頭部は山吹色に近い色をしておりますね。
ここにはびっしりと「子嚢」が詰まっているのだと思われます。
この頭部の細胞をちょいと頂き、検鏡してみました。
かなり長い子嚢の先が尖っているのがわかりますでしょうか?
その中によく見たら、細長い棒状のものが見える子嚢があるのがわかりますか?これが胞子ですね。
ちなみに子嚢の後ろに見えるのは側糸だと思われます。
では、もうちょいよく分かるようにフロキシンで染色してみました。
いくつかの子嚢の中に細長い胞子が確認出来ます。
もういっちょ貼っておきます。
こちらでも胞子が確認できます。
さて、カンムリタケはこの様にこの黄色い頭部に子嚢層を作り出し、風によって胞子を拡散させようとしているのでしょう。
カンムリタケは何故水の中から発生するのか?
「何故水の中から?」という問いには「分かりません」と答えるしかないのですが、2010年にはアメリカでこんな新種が発見されています。
「水中に生えるキノコ、2010年の新種」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4318/
アメリカ、オレゴン州南部のローグ川で発見されたナヨタケの一種(学名:Psathyrella aquatica)。アリゾナ州立大学の生物種探査国際研究所が発表した注目すべき新生物種「Top 10 New Species of 2010」に選ばれた。初めて確認された水中で育つキノコで、上流の冷たく澄んだ流れを好む。Photograph courtesy Robert Coffan, Southern Oregon University
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4318/
ナヨタケの一種で、しかもこの写真を見たところ子実体がそのまんま水中にあるという、、、(@_@;)
ただし、実はこんなことで驚いてはいけません。
元々菌類は水中で生活していて、植物が陸上に進出する際に、一緒に陸上に進出していった、という説があります。
菌類は、今から20億年以上も昔にすでに出現していたらしい。 その地質年代は先カンブリア紀で、水生菌であったと考えられる。 デボン紀には、菌類は陸上植物の出現に付随して陸上にも出現し、陸上植物に沢山ついていたらしい。そして、化石の証拠の上では現生の菌類までの間に大きなギャップがあって、 デボン紀から現代第3紀までの間のことはわからないが、先カンブリア紀やデボン紀からすでに、菌類は今日みられるような他の生物との関係を保ってきたと考えられる。
Alexopoulos, C. J. & C. W. Mims, Introductory Mycology, 3rd ed. , Wiley & Toppan(1979).
キノコ・カビの生態と観察 土居祥克著からの引用
陸上に進出した時期というのはまだまだ推論の域はでませんが、元々菌類は水中で生活していたことは確かなようですね。
なので、この様に水中で生活しているキノコがいても不思議なことではないのです。
水中で生活するということは
水分を摂らなくても子実体を発生させることが出来る
という最大のメリットがあります。
またカンムリタケも菌類ですから(いまさらですが w)、
地上に多く存在する菌類たちに比べて、他の菌類たちとの競争が圧倒的に少ない
もしかしてこちらの要素の方が高いかもしれませんね。
一つの枯れ木などを見ていると、その時期、季節などによってその木からさまざまなキノコが発生し、木がいろいろな菌たちに感染・侵蝕されているのがよくわかります。
それは言わば菌たちが戦った後、自分の領地を確保して、その領地から次の子孫に繋げるよう子実体を発生させているのだと思われるのです。
なので、カンムリタケはそんな競争を避けて水の中に楽園を求めて移住したのではないでしょうか?
もしかして、争いごとが嫌いな平和主義者なのかもしれません(笑)
ただ、その水中生活していた菌類たちと、このカンムリタケが圧倒的に違うのは、菌糸は水中にあって、子実体は空中に出ている、ということです。
この事より、水中生活していた菌類たちは、水中で子実体を形成し、水の力を利用して胞子を拡散する方式をとっているのだと思われますが、このカンムリタケは水中から発生しているにも関わらず子実体は空中に出現させて、胞子は風などの力を利用して拡散する戦略を取っているのだと思われます。
カンムリタケの生息できる場所、というのは上記でも列挙したように、どこにでもある場所ではありません。かなりレアな場所、と言ってもいいでしょう。ということから胞子はできるだけ広く、遠く、拡散し、自分たちが新たに住める場所に落ちる必要があるのですね。
今度カンムリタケを見たら、こんな生態なんだよなぁ、、とじっくり眺めてやってください (*^^*)
“カンムリタケを分解する” に対して2件のコメントがあります。
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水生キノコの考察に興味津々でした。以前読んだ「生物界を作った微生物」に水陸両用のキノコがあったのを不思議に思っていました。入差さんの説に納得した次第です。
今後とも宜しく御教授下さい。
有難うございます。
カンムリタケを研究している人は少ないようで、なぜカンムリタケが水中にその住処を求めたのか?というのは結局解明はできませんでしたが、なかなか面白いあたまのマッサージになりました!!