ドクササコを分解する

2019年11月2日 神戸

ドクササコ、である。

以前から神戸周辺で「見たことがあるよ!」というのは聞いていた。
ただし、観察会などではほとんど同定台に上がったことは無かったし、観察会メンバーも「見たことがある」というのは、ごく限られた人たちだけであった。

調べてみると神戸周辺では稀で、主には北陸、近畿、山陰などの日本海側に多く発生するとのこと・・・。

この日僕はとっても忙しかった。

まずはワカクサタケの近縁種が沢山発生しているという情報を頂き、午前中は箕面に赴いて結構な人数でその魅惑的なエメラルドグルーンの被写体をずーーーっと撮影していた。
(実はその翌日も菌友を引き連れて行ってたのだが・・・)
で、撮影終了後、その足で神戸まで車をすっとばかしていった。

ナナイロヌメリタケが出ている、という情報も貰っていたからだ。

教えてもらっていた場所に到着して無事撮影が完了。
それが済んで何かないかなぁ、、とごにょごにょと探していて、ふと道路脇の落ち葉が堆積している様な場所に目を向けると、何か茶色く、大きな物体が見えるではないか!

よく見ると傘の中央がポコンと凹んでいる。
はて?
今までに見たことがないキノコだなぁ、、と思って裏返してみるとびっくりポン!!
こ、これ、、もしかして、ドクササコ、、、

苦節何年、、というわけではないが、こんな感じでその日は3種の見たかったキノコに会うことが出来たのでありました。

ドクササコとは?

漢字で書くと「毒笹子」。
なんか可愛らしいよね? (*^^*)

「笹子、どこかに遊びに行かない?」
「あら珍しい、じゃあ竹子、どこに行く?」
「そうねぇ、、久しぶりに服を見に行きたいので天王寺とか?」
「あぁ良いわねぇ~じゃあその後はボウリングよね?」
「もち!今日は200を目指すわよ!」
「私も負けないわっ!」

なんて昭和な会話が聞こえてきそうである(笑)。

そんなドクササコは昔はキシメジ科(Tricholomataceae)カヤタケ属(Clitocybe)だったのですが、近年の分子統計的な分類により、カヤタケ属は解体され、ホテイシメジ属(Ampulloclitocybe)・カヤタケ属(Infundibulicybe)およびハイイロシメジ属(Clitocybe)の三つの属に再編成された。
Wikipedia「ドクササコ」より
現在はキシメジ科のParalepistopsis属(和名無し)になっているようです。
正式な学名は 「Paralepistopsis acromelalga」で、元々は日本でしか発見例はありませんでしたが、韓国でも同じものが見つかった、という報告があったようです。

ちなみに「Paralepistopsis」で検索をかけると「Paralepistopsis amoenolens」という名前がヒットします。とってもややこしいですが、

Paralepistopsis acromelalga :ドクササコ
Paralepistopsis amoenolens :ドクササコの近縁種

であり Paralepistopsis amoenolens の方も同じく毒性が強いようでWikipediaの内容を和訳してみると

Paralepistopsis amoenolens(パラレピストプシス・アメノレンス)は、大型のクリトシベ属に属するハラタケ型の真菌である。もともとは1975年にフランスの菌類学者マレンソンによってモロッコからClitocybe amoenolensとして報告されたものである。サヴォワ県の高山モーリエンヌ渓谷で3年間に発見された標本を何人かが食べた後、有毒であることが判明した。彼らはそれを食用のミズゴケ(Infundibulicybe sp.)またはParalepista flaccida(以前はLepista inversa)と間違えたのである。
2012年、VizziniとErcoleはDNA解析の結果、本種を他のClitocybesとは別のクラッドを形成する新属Paralepistopsisに同定した。 この変更はSpecies FungorumとGlobal Biodiversity Information Facilityによって受け入れられ、現在はParalepistopsis amoenolensが正しい名称となっている。
日本には、1918年に毒キノコとして知られるC. acromelalalgaという日本原産の類似種が存在することが判明している。

「Paralepistopsis amoenolens」
https://en.wikipedia.org/wiki/Paralepistopsis_amoenolens

DeepLの翻訳を少しだけ手を加えてみた(しかしたどたどしい日本語だな w)
で、その Paralepistopsis amoenolens なるものを画像検索した結果が以下の写真です。

1列目のやつらが Paralepistopsis amoenolens の写真たちであるが、確かにヒダが柄に垂生はしているものの、傘が漏斗状になっているか?と言われればそんなでもないな。
ただ全体的な雰囲気や発生環境などは似ているような気がしますね。

ただ、上の引用にも少し書いているように、この Paralepistopsis amoenolens という種もドクササコと同じ様な毒成分を持っているので、食べちゃったらひどい目に遭うことは同じのようですね(笑)

ドクササコの毒とはどんなものか?

ドクササコと言えば、「毒」、ですわな。

その「毒」については特筆すべき性質を持っている。
たいがいの「キノコの毒」というものは、胃腸系になんらかの障害を起こすものが多い。

例えばカキシメジに含まれている毒成分「ウスタリン酸」は嘔吐、下痢、頭痛、腹痛などを引き起こしますし、ツキヨタケに含まれている「イルジンS」「イルジンM」なども、胃腸障害、下痢、嘔吐、幻覚などなど。

もちろん、死に至る毒成分をもったものもいくつかある。
タマゴタケモドキやドクツルタケなどに含まれている「アマトキシン類」は医療的処置が遅れれば死に至る危険性を持つものである。

そんなそうそうたる毒キノコたちの中でも群を抜いて異質なやつがこのドクササコなのである。

ドクササコに含まれる毒成分を列挙しておきます。

  • アクロメリン酸
  • クリチジン
  • スチゾロビン酸
  • スチゾロビニン酸
  • 異常アミノ酸など

もうね、そう書いただけで痺れる感じだわ(笑)

では次にドクササコを食べた人の症例を引用させてもらいます。

(症例1)
平成5年(1993)、新潟県長岡市郊外の旧家で、広い裏庭の竹林 ( モウソウチク ) に発生していたきのこを採って、味噌汁に入れて 4 人が摂食。中毒を発症したのは大量に摂取した 1 人のみ。摂食 3 日後に涙、くしゃみが止まらず、顔の痛みと手足の指先が赤く腫れ、激痛が何日も続いた。人が近くを通って空気が動いても疼痛が走り、鎮痛剤の注射を何回も受けた。 17 日間の入院、治療により、ようやく回復退院した。

自然毒のリスクプロファイル:ドクササコ(Clitocybe acromelalga)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142713.html

今からたった15年前の話。
この例では大量に食べた人のみ食中毒の症状が出ているので、逆に言うとあまり食べなければ大丈夫、ということになる。
しかし「大量」というのがどれぐらいかはわからないが、

「人が近くを通って空気が動いても疼痛が走る」

というのは僕が生きてきた中では想像だに出来ない痛みに違いない、、、。
そんな激痛が何日も続くんだぞ、、、もう「恐怖」という二文字以外ないではないか。

(症例2)
平成11年(1999) 10 月 29 日、富山県氷見市の竹林で取れたきのこをもらって、家族 3 人(男性 1 人、女性 2 人、 53~79 歳)が同日夜と翌朝に味噌汁などに入れて摂食。 3 日後家族全員両手足が痺れた。 79 歳の女性は手足先端部の疼痛、灼熱感、腫脹、運動障害などの症状が顕著であった。きのこをあげた人は家族とも(子供を含む)に食べたが発症していない。保健所の調べでドクササコ中毒と判明した。 

自然毒のリスクプロファイル:ドクササコ(Clitocybe acromelalga)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142713.html

これはまだ9年前の話。
ドクササコを採ってきた人たちが食べて中毒を起こしたのではなく、それらをあげた家族が食べて食中毒になったというなんとも悲劇的な事件。
絶対一生恨まれるよね?(笑)

ここでは79歳の女性が特にひどく、、

「手足先端部の疼痛、灼熱感、腫脹、運動障害」

という症状が出たとのこと(何日続いたかは書いてない)。

しかしキノコを採取した人たちは、自分たちも食べたのにも関わらず症状が出ていない、ということはどういうことなのだろうか?

やはり症例1のときと同じ様に食べた量が少なかったのではないだろうか????

さて、図鑑にはドクササコの中毒症状として、こういう表現で書かれているものがおおい。

「手足の先が赤く腫れ、焼け火箸をさすような激痛が一ヶ月以上続く」

本当に恐ろしい表現である。
しかし「焼け火箸」っうても最近の若い子はわからんだろうなぁ、、、と思っているのだが、良く考えたら僕自身も火箸など使ったことないのに気づく(笑)
しかし、この表現の恐ろしさは使わずとも想像できる。
そして、いくらキノコを少し齧って味見するのが好きでも(特に苦いのを齧るのが大好き w)、ドクササコとドクツルタケだけは齧る気にならないのだ (*^^*)

そんな、ドクササコの症状を最後に引用させて頂く。

・食後はやい場合は 6 時間程、遅い場合は一週間ほどしてから手足の先端が赤く腫れ上がって痛みだし、この症状が一ヶ月以上も続く。
・個体差も考えられるが、毒成分の摂取量が一定量を越えると中毒を発症させる。
・毒成分は末梢血管系または末梢神経系に蓄積される可能性があるのではなかろうか。
・中毒発症は治癒しても、物理光学的な刺激により 1 年後でも発症する事例もあり、末梢神経の変性が考えられる。
・摂食の仕方(汁を飲まなかった場合)により発症しないか、発症しても軽症である。毒成分は加熱により水に溶けると考えられる。
・幼少児ほど末梢血管、末梢神経の障害が強く、痛みに対する自覚症状が強いけいこうが見られる。
・初期症状は異常感覚、異常知覚で始まるが、後に出現する諸症状に比べ、その発症は軽度である。
・四肢末端だけでなく、耳介、顔面中央部、外陰部、腹部にも灼熱感が見られる。
・疼痛の部位に一致して発赤、浮腫、腫脹を見る。
・他覚的に錯覚感、異常感覚、触覚、痛覚の鈍麻が見られ、深部反射が亢進する。
・日中に比べ夜間の激痛がより強いのは、身体の安静による末梢血液の変動によると考えられないだろうか。

自然毒のリスクプロファイル:ドクササコ(Clitocybe acromelalga)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142713.html

ドクササコを分解する

まずは、特徴を列挙しておきます。
今回は一番詳しかった「北陸のきのこ図鑑」で検証してみましょう。


ドクササコ(毒笹子) 別名 ヤケドキン
Paralepistopsis acromelalga Ichimura (acromelalga→末端紅痛症の意)
※特徴が合致したところの文字を赤にしています。

大分類 小分類 内容
発生 時期 10月中旬~11月中旬
  場所1 竹林、笹やぶ、雑木林
林などの腐葉上に群生、束生
  分布 日本(石川、官山 山形、宮城、福島、新潟、長野、滋賀、京都、和歌山 鳥取)、韓国
3~8 (10)cm
  扁平饅頭形→漏斗状で縁部永く強く内巻き
  表面 平滑
  橙黄色~茶褐色
大きさ 3~5(7) ×0.4~0.8(1.0)cm
  ほぼ上下同径で中実~中空
  傘と同色で多少濃淡の条線あり
  基部 白色綿毛菌糸に覆われ腐葉を付着
ひだ 密で幅狭く2~3mm
  クリーム色~淡橙黄色
  薄く淡黄褐色で丈夫で壊れにくく腐りにくく
  臭い 無味無臭
胞子 短楕円形~卵形
  大きさ 3~ 4.5×2.3~3um

もうこうやって赤の部分を追っていくだけでほぼほぼドクササコですよね?(笑)
でももうちょい細かく見ていきましょう!!

2019年11月2日 神戸

時期は11月2日。かなり晩秋になります。
「分布」の中に兵庫県が含まれていませんが、兵庫でも発見例がいくつかありますので(これをFacebookにアップした時に「兵庫県で見た」という方がおられた)、この分布の中に加えて欲しいです (*^^*)

発生条件はと言えば、緑の葉は熊笹で茶色くなった葉は山桜でしょうか、それ以外にもありますが特にこの木の下、というわけではありませんでした。
そういったリター上に群生しておりましたので、これも条件に合っていると思われます。

傘の径は、一番大きかったもので10cm近くありました。
もう生長していたので、「扁平饅頭型」よりも最大の特徴である「漏斗状で縁部永く強く内巻き」という特徴がこの写真からそのままわかりますよね?

2019年11月2日 神戸

あとは、傘の色は「橙黄色~茶褐色」であり言わば「ザ・キノコ」という色合いをしておりますので、この傘だけ見ていたら「食べられそう」「美味しそう」と思うのも無理はありません。

ただ、ドクササコの食中毒発生例が他のキノコと比べてさほど多くないのは、きっと個体数が少ないのだと思われます。
だってこれだけ「食べられそう」なキノコなんですから、きっとそこら辺にウヨウヨ出てたら食べる奴なんてゴロゴロ出てくること間違いなし!!
そして焼け火箸を指の先に押し当てられてる様な痛みを・・・・(@_@;) (@_@;)

2019年11月2日 神戸

はい、こちらがヒダです。
かなりヒダとヒダの間が密集しているのがわかりますね、、明らかに「密」であります。

色は「クリーム色~淡橙黄色」の表現そのまんまですな(笑)

で、何故か「北陸のきのこ図鑑」にはその記述が無いのですが、最大の特徴は

「ヒダが柄に長く垂生している」

ということ。
これが見ただけで分かる最大の特徴ですよね。
しかしこの特徴が災いしていることも、、実はあったりします。
その災いというのは

ホテイシメジ、カヤタケと間違える

ということ。
ホテイシメジもカヤタケも食べることが出来るキノコです。
そしてこの2種ともに「ヒダが柄に長く垂生」しておるのですな。
なので、カヤタケとドクササコが並んで発生していたらきっとドクササコも一緒に食べてしまうでしょう、、、ぎゃあ! (@_@;)

2019年11月2日 神戸

柄は傘よりも若干薄い感じは受けますが、ほぼ同色と言っていいでしょう。
太さ、長さも範囲内。
そして、何気に抜いて写真を撮っていたのですが、ここにも最大の特徴が見れます。
それは

白色綿毛菌糸に覆われ腐葉を付着

ははは、白い綿毛菌糸がちゃんと見れますし、腐葉まで付着してますなぁ、、なんだか嬉しくなっちゃいます (*^^*)

2019年11月2日 神戸

そしてカットしてみました。

柄の中心が空洞になっているのが確認できます。
この「北陸のきのこ図鑑」では微妙な表現になっております。

ほぼ上下同径で中実~中空

中実なのか、中空なのかどっちやねん、という表現ですよね?(笑)
ただ、「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)はじめ「原色日本新菌類図鑑」「きのこ図鑑」(幼菌の会)のどれを見ても「中空」という表現のみなので、中空ということで良いと思います。

最後に

ドクササコの魅力と言えば、やっぱ「毒」ですよね?(笑)
しかし最近は治療法も出てきているようで、この様な論文を見つけました。

「血液吸着療法を行ったドクササコ中毒の 1 例」
http://jsct-web.umin.jp/wp/wp-content/uploads/2017/03/28_3_247.pdf

興味のある方は是非読んでみてください。
この中で書いてあることの要点をピックアップすると

  1. 57 歳,男性
  2. 自生のキノコを収穫し,バター炒めに調理して摂食、翌日も同様に摂食
  3. 初回摂取 4 日後に両手指の痺れを自覚し、5 日後に疼痛も出現
  4. 初回摂取 6 日後,疼痛が増悪、病院で受診しドクササコによる中毒と判明
  5. 受診頃より四肢末端の疼痛が急激に増悪
  6. アデノシ三リン酸二ナトリウム水和物(以下 ATP)40mgの静脈投与&ニコチン酸100mg を内服
  7. 症状の改善はみられず,高度の疼痛が持続したため
  8. 血液吸着療法を実施し、その後、疼痛は急激に改善
  9. 第5病日に退院

この報告例によると「血液吸着療法(DHP)」という療法がドクササコの中毒に対して非常に有効だったということが記されています。

ドクササコの毒自体で亡くなる、という例は日本にはまだ無いようですが、その痛みに耐えかねて自殺した、という例があるそうで、、、

キノコの中にはそんな変わり種がいてても良いと思ってる。
なので、こういう治療法が出来るのは良いことだが、少し寂しい気もするのは何故だろう・・・

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