マツオウジにツバはあるのか?

2020年05月17日 神戸

マツオウジというのは可愛そうなきのこやなぁ、、といつも思う。

5月はいいのだ。

冬のきのこ欠乏時期を終え、3月にはアミガサタケがその可愛い姿を見せ始めると、きのこマニアたちはもうソワソワが止まらなくなり、お尻が痒くなるのだ(ごく一部の人ですが w)。
5月に入り、カンゾウタケの赤いベロンちょを見ては安心し、ウラベニガサをひっくり返してはそのピンクのヒダに哀愁を覚えたりする。そしてこのマツオウジのどっしりとした安定感に涙するのだ。

あぁ、今年もマツオウジ出てくれたのね、君をまっていたんだ、、と。

しかしだ、このマツオウジ梅雨の時期、ムシムシしている中に出ていることもある。

いやぁ、、こんな蒸し暑いところ、ほんとご苦労さんやなぁ、、、

そう労いたくなるのだ。
まぁ梅雨時期はきのこの種類も多いので、きのこの発生環境としてはいい時期なんだろうとは思うな、やっぱりきのこは水分が足りないと出てこれないしね。

そんなマツオウジ、、結構セミがジージー鳴いている時期にまで出ていることがある。

「ほんまえぇねんで、、こんな暑いのに頑張らなくたって」

そんな言葉をかけたくなるのだ。
人間だって暑いんだもん、きのこだって暑いはず。
トンボだって、カエルだって、ミツバチだって、、みんなみんな暑いのだ。

「そんな暑い時に君、よー出てるな?」

と聞くと、きっとマツオウジはこう返してくるだろう。

「こんな暑い時に君、よーきのこ探ししとるな?」

とね。

そして秋になる。
きのこ探しにも熱が入る時期だ。
色とりどりのきのこが我々きのこマニアを待っている。
土から出るきのこ、堆積した落ち葉から出るきのこ、そして枯れた木から出るきのこ、秋のきのこはバリエーションが豊かなので目が2つじゃ足りないぐらいだ。

そしてふと向こうにある切り株に目をやる。
大きく白い物体(間違いなくきのこ)がこちらを見ている。

マツオウジだ。

アピール力が半端ない。
いや、分かってるんだ。
君の存在は前から知ってるし、何度も見ているんだ。
決して無視をしていたわけではないし、嫌ってるなんて滅相もないんだ。

でもね、もういいよ・・・。

本当に可愛そうなきのこである。
ただし、松の木がその一生を終え、腐朽が進んで、その姿が見られなくなれば大変な貴重なきのこになることは分かっている。
分かってはいるのだが、どうしてもここまで出てこられるとこう言いたくなるのです。

すまないマツオウジくんよ、でも君とはまた来年でいいんだ、、、

マツオウジを検証する

2009.05.09 神戸 マツオウジの幼菌

これを見て「マツオウジ」って分かる人はあまり多くないのでは?

頭の先が少しオレンジっぽく、それでも傘の形をしようとしている健気さはなんとも可愛い。
こやつが生長して1枚めの様な感じになるのっていうのはなかなか想像出来ないんですが、この枯れた木の間からグイグイ出ている様は、まさに「王子」の片鱗は垣間見えますな(笑)

では、今回は「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)で検証してみましょう。

マツオウジ
Neolentinus lepideus (Fr.: Fr.) Redhead & Ginns

大分類 項目 特徴
5~15cm、時に25cm以上となる
  強じん
  白~淡黄色 の地に淡黄土色~暗褐色の鱗片をつけ時にひび割れができて白い肉をあらわす
ひだ 白色
  形態 やや疎、 縁は鋸状
長さ 2~8cm
  白~淡黄色
  形態 褐色のささくれがあり、上部にはひだに続く線がある。
白色
  臭い 松やに様のにおいがある
胞子 大きさ 10~11×4~5μm
  類円柱形
発生 時期 初夏~秋
  場所 針葉樹の切り株、用材、または立ち木に発生

※特徴が合致しているところは赤の太字になっております。

さて、では傘の表から見ていきましょう。

大きさは12cmぐらいありました。だいぶ大きくなってましたが、放って置いたら20cmぐらいになることがありますね。
傘の地色は白で、黄土褐色の鱗片が放射状に広がっていて、ひび割れた状態になっているのがわかりますね。ただし、こういう状態になっているキノコには例えば

タマチョレイタケ
アミヒラタケ

なんかもこんな模様になります。
なので、これだけ見て、「お!マツオウジやん!」と思って採って帰って食べないでくださいね。ちゃんと傘の裏を見てみましょう、傘の裏ね。

マツオウジのヒダ

まさしく「ヒダ」ですな(笑)
先程のタマチョレイタケやアミヒラタケはここが管孔状になっております。

そしてこのヒダをよーーーく見てください!!
ヒダの先端がギザギザになっているのが分かりますか??

これは「ヒダが鋸状」という表現になっている所以でありますな。

この特徴はマツオウジの仲間が有するもっとも顕著な特徴であります。
他の種は多少波打ってはいるものの、ここまでギザギザなものはあまりありません。

ですので、ヒダがギザギザであれば、マツオウジの仲間を疑ってみてはいかがでしょう?

マツオウジの柄

柄は太く、短く、4~5cmでした。
それと柄の上部にはヒダから続いた「線?」があります。いや、これヒダやろ、、と思うのですが、線です(笑)
そして色は白く、褐色のササクレが見事な程に顕著。もうこれでストッキング履いたらメリメリになる予感しかありません(笑)。

マツオウジの肉

マツオウジを切断してみました。
持っただけでそのずっしりとした重さを感じるので、それだけで「中実」というのがわかります。図鑑には記述はありませんが、いうまでもなく中実なのでありましょう。
僕は「松ヤニ」の臭いを感じたことは無いのですが(臭いに弱いので)、人によっては「だから食べるのが嫌」という人がおるみたいですな。

ちょうど真ん中あたりにでんでん虫のように目玉を2つ、ぴょこんと出しているのが担子器ですね。まじ可愛いです (^o^)
そして「日本のきのこ」には記載がありませんが「北陸のきのこ図鑑」にはシスチジアの事が書いてあります。

縁は菌糸状~長棍棒形、紡錘形で先端突出伸長し不規則に屈曲、28~52x2~8μm。個は少ないが縁同様で小形、ときに顆粒に覆われる。

北陸のきのこ図鑑

画像中心よりやや下に飛び出しているのが縁シスチジアなのかなぁ、、、確かに棍棒状で先端が妙に曲がっておりますなぁ、、、

マツオウジの胞子(ドライマウント)

そしてこれがスライドグラスの上で胞子を落としたものをそのまま顕微鏡で見たものです。
胞子に縦線が2本入っているのが確認できます。

マツオウジの胞子

こちらが水を垂らしてカバーガラスで封じ込めたものです。
こちらの方が形がよく分かるのですが、図鑑の記述と違っているとは思いませんか?
図鑑では「類円柱形」となっております。
この類円柱形というのがどういう形なのかが良くわかりませんが(類が謎)、円柱形だというのはわかります。
しかし、この写真は円柱形とはいいがたい。
そこで先程の「北陸のきのこ図鑑」を見てみると「類紡錘形」となっています。
また「類」かよ、、、と思ってはおるのですが、気を取り直して(笑)この「紡錘形」という形は長楕円形で細い方の両端が尖ってる形のものである。
ただそれもちと違ってはおるのですが、「北陸のきのこ図鑑」に載っているイラストとはまったく同じ形をしているので、良しとする。

いやいや、完全なこれマツオウジですなぁ、、見事なぐらいに。

しかし、、確かに「マツオウジ」ではあるけれど「Neolentinus lepideus」なんだろうか?

マツオウジにツバはあるのか?

2020.05.17 神戸

はい、マツオウジにはツバはありません・・・・完。

というワケにはいかんのですよね(笑)
きのこ観察会でマツオウジの話になった時にリーダーが

「実は本当のマツオウジにはツバがあるらしい」

ということをポロッと言ったのです。
少なくとも今回の写真にはツバとかツバの形跡などもありません。
また僕が歴代撮ってきた写真で探してもマツオウジにはツバがありません。

ではネットではどうでしょう?

グーグルで「マツオウジ」を検索してみた

どうでしょう?
よく見えないものもありますが、ほとんどのマツオウジにはツバがありません。

ただ「ツバマツオウジ(Lentinus lepideus)」という別種はあります。

以前富士山でこんなキノコを見つけました。

2019.08.20 富士山

木の種類はわかりませんが、おそらく針葉樹の倒木から出ていました。
上の写真でもわかりますし、下の写真でもわかりますが、ちゃんとしたツバがあります。

2019.08.20 富士山

これ、最初はなんだか全然分からなかったのですが、このヒダに注目してください。

ギザギザしているのが分かりますでしょうか?

そう、これはたぶん「ツバマツオウジ」だと思っているものです。
かなり貧弱ではありますがおそらく近いものじゃないかなぁ、、と思っています。
※実際のツバマツオウジはもっとがっしりしている 様ですのであくまでも「近縁種」レベル。

そこで、ネット上で「ツバマツオウジ」なるものを見てもらいましょう。

「ツバマツオウジ」(ドキッときのこ)
http://dokitto.com/database/D-tubamatuouji.html

「ツバマツオウジ」(きのこ 迷写真館)
http://www.hedara.com/kinoko/tsubamatsuoji/tsubamatsuoji.htm

また「紅天会の拠点」というWEBサイトには、マツオウジとツバマツオウジの命名に関する経緯が書いてありますので引用させてもらいます。

「北陸のきのこ図鑑」(2005年)では、「ツバマツオウジ(仮) Lentinus lepideus」と「マツオウジ L. sp.」をそれぞれ独立した項目で掲載した。「従来 L. lepideus とされていたものに2種類含まれていることが発表され(引用文献番号)、学名や和名が混乱しているので、今回、(引用文献番号)と対比して、つばのあるものが L. lepideus に近いのでこれを当て、和名はもっとも特徴的なつばに注目してツバマツオウジ(仮)とした。したがって、つばのない方は和名を従来どおりマツオウジとし、学名は、L. sp. とした」としている。しかし、前者については「北陸では珍しく、今回の標本もカラマツの加工材であるため、自生しているか否かは不詳である」とも。

「マツオウジ」
http://benitenkai.web.fc2.com/kinoko/matuouji/index.html

またこのサイトにはマツオウジの説明として以下のような記述もある。

「日本の毒きのこ」(2003年)(「きのこ図鑑のページ」参照)では、本サイトに掲載されているような従来タイプのマツオウジを大きい写真で取扱いつつも、「本来の N. lepideus は、傘に比較的大きな鱗片を生じ、柄に膜質のつばを持つタイプである」として小さくつば有りタイプの写真も掲載し、「(柄につばがないタイプについては) N. lepideus とは異なり、分類学的に再検討が必要であると思われる」としている。

「マツオウジ」
http://benitenkai.web.fc2.com/kinoko/matuouji/index.html

ここの太字のところに注目してみてください。
現在のマツオウジの学名の種「Neolentinus lepideus」には柄に膜質のツバがあるとのことが書かれてますね。
ってことはマツオウジは Neolentinus lepideus とは異なるのでしょうか?

ではWikipedia「Neolentinus lepideus」のAppearanceを訳してみましょう

ネオレンティヌス属の果体は硬く、多肉質で、大きさの異なるアガリクスです。傘は最初は凸状で、成熟すると平らになるが、縁は巻き込んだままである。傘は12cmまで成長し、柄は高さ8cmまで成長する。ヒダは白色で、柄への付着はやや垂生または垂生に近い。胞子は白色で、胞子は円筒形です。胞子の大きさは8~12.5×3.5~5μmである。
柄は傘と同じ色をしており、白いツバの下の部分には暗い鱗片があります。

「Neolentinus lepideus」
https://en.wikipedia.org/wiki/Neolentinus_lepideus

はい、ちゃんと「白いツバ」という記述がありました。
やはり Neolentinus lepideus にはツバがあるのでしょうね。

では念押しに Mushroom Expert のサイトを見てみましょう。

柄:長さ2~10cm;幅2~4cm;等間隔に乾燥している。鱗状で、白色の鱗片を持ち、基部に向かって赤褐色または暗褐色になり、一時的に失われやすいツバを持つ;白っぽい;非常に堅い。

「Neolentinus lepideus」
http://www.mushroomexpert.com/neolentinus_lepideus.html

やはりこちらにも「一時的に失われやすい」ですが、ツバの存在はあるようです。

僕たちが見ているマツオウジにはツバがありません。
幼菌の頃をよく見てもツバの存在は確認できません。

しかし現在マツオウジの学名とされている Neolentinus lepideus にはツバがあるとのこと。

ツバがある、無しは同定における重要な判断基準になるものもあれば、そうでないものもある。

以前、「ツバがあるクリタケはクリタケなのか?」という記事を書いた。
一般的なクリタケにはツバはありません。また図鑑にも「ツバはありません」と書いてある。
しかしツバがあるクリタケらしきものはあちらこちらで見つかっているし、「もうそれ、クリタケでいいんじゃね?」と思うのであるが、そこにはこだわりたい。

クリタケにはツバがない、と明確に書いてある限り、それはクリタケではないのだ。

では、マツオウジに戻って考えますれば・・・・

  • ツバがあるマツオウジ = ツバマツオウジ = Lentinus lepideus
  • ツバがないマツオウジ = マツオウジ = Neolentinus lepideus

となっているが、、、実はツバマツオウジが Neolentinus lepideus なんじゃね?

と思うよね?
普通はそうだ。だって海外の Neolentinus lepideus にはツバがあるんだからね。

で、最後にこの図鑑を読んでみた

ここにはこんな事が書いてある。

本菌は従来 Neolentinus lepideus の学名が与えられていたが、同学名の菌(ツバマツオウジ)は柄にツバを持つ種でありまた、傘の色、鱗片の状態などにおいて異なる。また胞子も本菌と比較してやや大型である。

「青森県産きのこ図鑑」

なんだそうなのか、、、

つまり現在日本のマツオウジは Neolentinus sp.であり、海外に同じ種がなければこやつは新種なのかもしれません。

急がないと、松の木がなくなれば、マツオウジも、新種記載の機会も消滅してしまうかもしれません!!

誰かマツオウジに挑戦する人はおらんか?

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