ツバがあるクリタケはクリタケなのか?
先日栃木に行ったときに案内してもらった場所で見つけたクリタケの幼菌である。
遊歩道脇の比較的目立ちやすいところにあったこのクリタケちゃんたちは、その数日後にS部さんが成長ぐあいを見たくってそこに足を運ぶと既に採られていたらしい、、、(あぁ無情)
その名前のごとく、「クリ」で「タケ」であるこのキノコは(何のこっちゃ)、食べ菌さんたちにとっても絶好の「狩り」のターゲットとなるらしく、この可愛いクリタケちゃんたちもきっと「ムギュッ」ともぎ取られてしまったんでしょうなぁ、、、(あぁ無残)
そんな可愛いクリタケなのですが、僕自身は神戸で一度見た限りで、ほとんどその姿を拝んだことはありませぬ。
たぶん、あるところにはあるんでしょうけど、食べ菌さん達のターゲットであるがために、僕たちが写真を撮ろうとあっちこっちかけずり回っている間に「プチン」と摘み取られてしまうんだろうなぁ、、、(あぁ無力)
なのでその面影を偲んで一句。
クリタケの 影を慕いて 栗ご飯
はっきり言います。クリタケより栗ご飯のほうが好きです❤❤
ツバのあるクリタケらしきもの
10月23日、キノコ部にこんな写真がアップされた。
(Yさんの許可をもらって写真を使わせてもらっています)
これ何かわかりますか?
傘の感じや、季節柄を鑑みて「クリタケ」と答える人、、、多いですよね?
ではこの画像を見て下さい。
これ、おかしいと思いません?
クリタケ???ではないですよね?
だってよく見てくださいこの写真の柄の部分。
何か違和感を感じません?
違和感を感じない人はまずクリタケは口にしない方がいいかもしれません。
なぜならクリタケには「ツバが無い」からであります。
お持ちの図鑑を見てください、、、そうクリタケのページです。
傘の径や、その色、鱗片が周辺に残る特徴の後にこう書いてありませんか?
「柄にはツバにはない」
とね。
※ただし「日本のきのこ(ヤマケイ新版)」にはツバがないとは書いてない
観察会などに行くとキノコの先生たちにはこんな風に教えられます。
「似ている部分だけを探すんじゃなく、似ていないとこも探さなあかん!」
いや、ごもっとも!!
そのキノコの特徴が図鑑と似ているとこだけ見て「これは〇〇タケやな」と言うのは、実は初心者の陥ってしまう落とし穴でありまして、、、そこからステップアップするには似ていない部分を見つけ出して、「〇〇タケではない」と言えるようにらねばならない(ここ重要!)。
そういう意味ではこのキノコはクリタケではないのだ。
キッパリ言ってしまいましたが、、、、
では君はいったい誰なん?
クリタケの特徴
ではでは、クリタケの特徴を改めて列挙してみまししょう。
- 晩秋、広葉樹切株や倒木の地面に接した所に束生
- 傘の径3~8cm
- 丸山形->饅頭型->扁平
- 表面粘性なく
- 茶褐色~濃煉瓦色で周辺淡く, 白色繊維状被膜付着
- 柄は上下同径で中実~髄状
- 表面上方 白色~黄白色
- 下方鉄鋳色の繊維紋あり、つばなし
- ひだは直生~やや垂生でやや疎~やや密
- 黄白色->帯オリーブ色->暗紫褐色。
- 肉は傘部厚く黄白色で充実し柄の下方帯で褐色
(北陸のキノコ図鑑)
大切な見極めのポイントのところは太文字にしてあります。
これらの特徴と、上記のツバありクリタケを見比べてみましょう。
特徴 | 合致 |
---|---|
晩秋、広葉樹切株や倒木の地面に接した所に束生 | ● |
傘の径3~8cm | ● |
丸山形->饅頭型->扁平 | ● |
表面粘性なく | ● |
茶褐色~濃煉瓦色で周辺淡く, 白色繊維状被膜付着 | ● |
柄は上下同径で中実~髄状 | ▲ |
表面上方 白色~黄白色 | ● |
下方鉄鋳色の繊維紋あり、つばなし | ☓ |
ひだは直生~やや垂生でやや疎~やや密 | ● |
黄白色->帯オリーブ色->暗紫褐色 | ● |
肉は傘部厚く黄白色で充実し柄の下方帯で褐色 | ● |
なかなかの確率でクリタケであることが分かるね。
この中でちょっと違っていると思われるのが2点。
1.柄が中実であること
2.ツバがあること
さてこの2点の相違点があるかぎりやはりクリタケとは言えないのだろうか???
改めて学ぶ、ツバってなんだろう?
さて「ツバ」である。
なんでツバなんてものが存在するのか?である。
キノコ検定を受けた人なら直ぐにわかると思うが、この教科書にはこう書いてありますね。
「柄についた膜状のもの、幼菌時の内被膜や外皮膜の名残でツバがないキノコもある」
内被膜ってなに?
外皮膜ってなに?
と思う方はこのイラストを見て下さい。
このイラストに描かれているのを見ればわかりますが、内被膜というのは主に「ヒダを守るための皮膜」と言っていいかと思います。
そして外皮膜というのはキノコ全体を包んで、守る、まさに卵の殻みたいなものだと考えていいと思います。
ではそんなハラタケ目の代表格で、しかも内被膜からツバが出来ている「証拠」の様な写真を撮ることが出来たので御覧ください。
これ、ハマクサギタマゴタケを今年採取して、まだ傘が開いてないタイミングで撮った写真です。
この状態ではまったくヒダが見えてないので、傘の裏を覆っているのが内被膜で、その内被膜がヒダを完全に閉じ込めている(守っている)のが見て取れます。
そして、それを博物館に持っていくために家に持って帰り、撮影しよう包んでいた新聞紙を開いたら傘がすっかり開き、内被膜がツバとなって絵の上部に付いていたのでした。
いやぁ、、立派なツバですねぇ、、、さすがハマクサギタマゴタケ!!(@_@;)
やるとは聞いてましたが、ここまで凄いとは!
この凄いおかげで「ツバとはどんなものなのか?」というのが分かってもらえたかと思います。
つまりツバとは内被膜の名残であり、内被膜はヒダを守るために作られたものである。そしてキノコが生長してこのヒダから胞子を飛ばす必要が出てくるとその膜の役目を終えて、ストンと柄の下に落ちていき柄のある部分で止まる。それがツバという形になって残っているのですな。
ツバがあるものとないもの、その辺りの成り行きについてはいつか調べて記事にしたいと思っているが、少なくともクリタケにはそういった過程で残るべきツバが無い(はず)のであろう。
そしてツバは残った
もう一度、Yさんがアップしたクリタケらしきものの写真を見てみましょう。
やはりツバの様に見えますね。
そんな話をしている時に長野の方でペンションきら星を経営しているMさんがこんな指摘をしてくれた。
「このページの3枚めの写真にツバらしきものが写っています!」
このページというのが、キノコを調べる時に一番多くヒットし、最も信頼できるサイトである oso さんのページであった。
「osoさんのページのクリタケ」
http://toolate.s7.coreserver.jp/kinoko/fungi/hypholoma_lateritium/index.htm
むむむ、、、どうみてもツバの痕跡だわ、、、
そう、ツバらしきものがそこに写っているようにしか見えない。
しかもosoさんのコメントをしっかり読んでも「ツバ」らしきものことには何にも触れられていない。
どういうことだろう?これはツバに見えるのだがツバではないのだろうか??
すると勉強熱心なMさんが、自分のところで採ってきたクリタケをじっくりと観察してくれて、こんな写真を投稿してくれた。
こちらの写真にはツバらしきものは付いてない。
しかしこの写真を見ておくれ、、、
これ、ツバに見えちゃいますよね??
内被膜の痕跡がこんな感じで残っている、という感じのツバ。
もうすぐしたらポロンと落ちてしまいそうなツバではありますが、やはりツバのように見えるのは確かです。
もしかして、クリタケの内被膜は普通は残らないのですが、まれになにかの条件で残ることがあるんじゃないでしょうか??
例えばモエギタケ属に「サケツバタケ」というキノコがありますが、このキノコはその名前が示す通り厚く膜質のツバがあります。
しかしそのツバは落ちやすく「ツバがある」という特徴に該当しない例もいくつか見てきました。
そんな「ツバは落ちやすい」という性質は図鑑に載っておらず(少なくとも僕の持っているものには)、それを確かめるすべはフィールドに出て経験するしか無いのである。
さてさて、では一番最初のキノコはクリタケか?と聞かれたら「いえす!」と答えられるか?というとそうではない。
あくまでもクリタケに似ている、ということに留めるべきなんだと思う。
図鑑では少なくともクリタケにはツバが無い、とされている限り「クリタケの近縁種」で十分ではないかなぁ、、と大人の判断ではそんな感じかと思います。
ただ一つはっきりしていることは
クリタケより栗ご飯のほうが美味しいということです(個人の感想です w)
食べるのは、あくまでも自己責任で、、、