ハルシメジの知られざる謎
書く書く詐欺師のハヤシです。
※更新ないなと言われると「記事書いてるから」と言い訳して一ヶ月以上も放置させとく知能犯(にんまり w)
上手くおいちゃん(ここの管理人ね w)をだませて、すっかり油断してたら、もう桜が咲くんぢゃ・・??ってな陽気にいつの間にか変化しており、(わたくし基本ヒッキーなので下界の様子に疎いんです、はい)さすがに、重たいお尻をどっこいしょした次第であります。
さてさて、春が近づくと「モレルだ」、「モリーユだ!」という言葉を耳にするようになりますが、、、日本人なら「あみがさたけ」といいませう!!!!
「ミソッコ」、「カゴタケ」なんて呼ぶヒトはまさに神レベル!!
「カナメゾツネ」と呼ぶ人がいれば、おそらく地球侵略を企てる火星人レベル!!!
・・・・ではなくて、、、
春と言えば、誰が何と言おうとやっぱり、これぞ春のプリンス! 「ハルシメジ」でしょう!!
ということで、今回は「ハルシメジ」について書いてみようと思ってます。
ハルシメジの分類の謎
「ハルシメジ」って、きのこの種としての正式な「名前」ではないのだよ~ 知ってた?
実は、春にバラ科またはニレ科の植物が生育する場所周辺の地上に発生するエントローマ(Entoloma; イッポンシメジ属)のきのこの総称のこと (だから、ハルシメジ類なんていう言い方をする)
ハルシメジ類の中で良く知られているのは
Entoloma clypeatum f. hybridum と Entoloma saepium
と言われていますが(この学名、良く覚えておいてね)、おそらくこれ以上の種が混じっているという指摘があります。
これら2つの種(E. clypeatum f. hybridum と E. saepium)を見分けるには
Entoloma clypeatum f. hybridum |
Entoloma saepium | |
---|---|---|
大きさ | やや小型(傘の径 12~70㎜) | 大型(傘の径 20~100mm) |
傘の色 | 暗褐色 | はじめ薄褐色、のち褐色 |
グアヤク反応 | 変色 | 即変色 |
柄上部の肉の変色性 | なし | あり(過熟、あるいは虫食い箇所が 赤褐色をおびる) |
厚壁胞子 | あり | なし |
菌糸体 | クランプを有する。褐色。 ピンク色の厚壁胞子を生じることがある。 |
クランプを有する。褐色。 |
小林 (2005) 表2-6. Entoloma clypeatum f. hybridum と Entoloma saepium の子実体の識別点 改編
でも、日本のハルシメジを詳しく調べてみると、どちらの特徴とも一致しない種がまだまだけっこうあるという報告もあるのだ。
よく、梅のそばにあるから、E. saepium だ、ノイバラの付近は E. clypeatum とよくいわれるけど、宿主の違いで綺麗に種がわけられるかどうかは、もっと多くのサンプルをとって検証してみないとわからない、とわたしは思っている。
いったい、どのくらいの種類のハルシメジがあるのかもわからないのに、宿主の違いだけで、その種を特定してしまうのは、ちょっと無理があるよね。
そして、上記にあげたのは、その2種だけに関しての識別点というだけ。
Noordeloos (1981)のハルシメジ類(Entolima属Nolanidea節)の検索表では、様々な部位の形態の差異での識別を提唱している。
- グアヤクチンキによる呈色反応
- 子実体の形態の差異
(傘;色、大きさ、条線の有無、吸湿性の有無など 柄;色、大きさ、中実か中空か、もろさなど 胞子;形、大きさ) - 柄上部の変色性
- シスチジアの有無、形態
- 宿主となる植物の樹種
などなど・・・・・まだあるよ~!
いや、さすがにここまで綿密に調べるのってかなり無理・・でしょ?
だから、わたしは、ハルシメジは、みんな Entoloma sp. としている。
ほんと、見かけは似たり寄ったり似てるものが多いんだけど、グアヤクチンキの呈色反応があるのとないのがあったり、シスチジアの形態に明らかに差異があったり、クランプがあるやつとないやつがあったり・・ミクロの世界では種を分化させるのに説得力のある差異があるやつが多くて、それらの組み合わせも様々で、バリエーションが多すぎるんですよね、、、
見かけはそっくりなのに、生態や生理特性に違いがある、そんなことも、ハルシメジの同定を難しくしているところだと思うな。
ハルシメジにグアヤクチンキをふりかけて変色するのはなぜか?
なかなか、顕微鏡を持っている人も少ないし、ましてや培養なんてする人も少ないし、それでも、ハルシメジを見つけたら、それはどんな種類なのか知りたくなるのは当然のこと。
ハルシメジ類には、グアヤクチンキで変色するものと、しないものがあるので、グアヤクチンキの呈色反応が有効な決め手となるといわれてるんだよ~
(Noordeloos, 1981)
ちなみに、よく知られている上記にあげた2種は、どちらも変色するのだけれど、その変色の様子に違いがある。
春先にバラ科やニレ科の樹木付近で見つけたハルシメジに、グアヤクチンキをふりかけると、普通に変色するのが、Entoloma clypeatum f. hybridum で、もう摘下した瞬間、わっ!と速攻で色が変わるのが、Entoloma saepium と言われている。
でも、日本にはこの2種以外にも生息しているのではと言われているので、ぜひ、試してみて。
【グアヤクチンキで正の反応をしめすもの】
E. aprile
E. clypeatum (L.)P. Kumm. f. hybridum (Romagn.) Noodel.
Entoloma saepium (Noulet & Dass.)Ricon & Roze
【グアヤクチンキで負の反応をしめすもの】
E. clypeatum (L.)P. Kumm.
E. clypeatum (L.)P. Kumm. var. defibulatum Noodel.
E. clypeatum (L.)P. Kumm. f. pallidogriseum Noodel.
E. clypeatum (L.)P. Kumm. F. xanthophyllum Noodel.
ところで、グアヤクチンキをふりかけると、なぜ褐色から青く変色するのか、知ってる?
これはねキノコ自体がポリフェノールオキシターゼ(はいこれも覚えましょうね)という成分を持っていると、それに反応して青くなるんだよ~!
ポリフェノールオキシターゼ
これ、キノコ検定には出ません(笑)
このポリフェノールオキシターゼというと実はリグニンを分解する酵素なんですよね。
※リグニンはキノコ検定にでてるよ、、(知ってるよね? w)
ハルシメジって、実は、バラ科またはニレ科の植物と共生する菌根性のきのこと言われているんだけど、腐生性も有してる可能性もあるっていうこと、これって、めちゃくちゃ興味深いことなのだよ!
※ただし、グアヤクチンキを滴下させ呈色反応を観察することは、定性反応のひとつであるというだけであり、グアヤクチンキを滴下しても陰性だからポリフェノールオキシターゼを有していないとは言えない。
ハルシメジはどんな共生関係を持っているのか?
一般的な菌根性のきのこって、共生している植物の根に、まるで菌糸で作った靴下みたいな菌鞘(きんしょう)って呼ばれる形態を作って、その根の細胞の外側まで菌糸を侵入させて(ハルティヒネット)、そこで栄養のやり取りをしているっていわれているんだ。
ところが、ハルシメジは、宿主の樹木に菌鞘を形成させることはわかっているんだけど、マツタケなんかの菌根性きのこと比べると、植物との共生のスタイルがちょっと違うみたい!!
ハルシメジが作る植物との共生のスタイルは、植物根の皮層細胞間にハルティヒネットを形成せず、根の先端部の根冠細胞、分裂組織および皮層細胞が破壊され、そこに菌糸が侵入するという独特の形態の菌根スタイルなんだって。
そして、もうひとつの大きな違いは、季節消長の共生関係の可能性があるということ。
多くの菌根性きのこの場合、通年、宿主である樹木と共生関係を築き栄養の授受を行っている場合が多いと言われているが、ハルシメジは子実体を発生させる前後に植物の根に菌鞘を形成させ、12月~2月末くらいは、菌鞘を形成しないという研究の報告があったりする。(小林, 2005)
つまりハルシメジは一般的な菌根菌と異なり
- 植物根の皮層細胞間にハルティヒネットを形成しない
- 宿主である植物の根の根冠細胞を破壊し
- そこを菌糸で覆うことで(寄生的に)栄養を受け取っている可能性がある
- 子実体を発生させる前後に植物の根に菌鞘を形成
- 12月~2月末くらいは菌鞘を形成しない
上記の様な特徴をもった特殊な菌根菌であると言えるのです。
ハルシメジを見つけると、本格的なきのこシーズンの到来を予感させ、妙にワクワクしちゃうものですが、その生態は、いまだ謎の多いきのこなんですねぇ~!
ぜひぜひ、ハルシメジを見つけたら、どんな生態を持っているのか、いろいろ思いを巡らせてみてくださいw
**この記事は、小林久泰博士(現 茨城県林業技術研究センター 研究員)のD論文を元にしています。
その研究センターに隣接している きのこ博士館 ↓ めちゃくちゃ きのこワールド!!!
引用文献
小林久泰(2005) 日本産ハルシメジ類の菌根の形態及び生態とその利用に関する研究, 筑波大大学院 生命環境科学研究科 博士(農学)論文.
Noordeloos M. E. (1981) Entoloma subgenera Entoloma and Allocybe in Netherlands and adiacent regions with a reconnaissance of thier remaining taxa in Europe, Persoonia, 11(2): 153-256
小川 眞(1992) 共生菌, pp. 128-134, 古川久彦(編), きのこ学. 共立出版, 東京.