タイワンアリタケ(台湾蟻茸)Ophiocordyceps ootakii |飼育観察編

はじめに

タイワンアリタケとは、その名前の通りアリから生える小さなきのこです。

タイワンアリタケ(フィールド編)

本種は「チクシトゲアリ」を宿主に生えていることが多く、この記事では主に飼育して分かったことを紹介します。野生下と飼育下では生活環境は違いますが…とても興味深い観察ができたので、きのこちゃんの考察と共にご参考になれば幸いです。

フィールド観察での不思議

なぜ、チクシトゲアリを飼育しようと思ったのか。まず、ここからですね(笑)

いつも通りフィールドでタイワンアリタケを観察していた時に「女王アリ」の感染が多いと感じた事がはじまりです。普通、女王アリは守られる存在だから地中や枯木の奥にひっそりと住んでいるイメージがありました。実際、オオズアリやクロオオアリの巣をほじほじして女王を探したことがありますが…アリたちの反撃にあい、諦めたことが何度かあります。

写真はクロオオアリの働きアリ(ワーカー)

先週upしたブログでは、フィールド調査をした3か所共に女王アリの感染個体が観察されました。一体、どのようなタイミングで感染するのか…この「疑問」が始まりとなります。

チクシトゲアリ(採集編)

まずは、チクシトゲアリがどういう生活をしているのか図鑑や論文で調べてみると、

「初期、女王間には餌交換行動や共同育児といった協力行動が見られるが、成熟したコロニーになると単女王になり、多女王から単女王になる過程で一個体を除き除去されるか、別の場所へ分かれていくものと推定される」(KAKEN)

ということは、女王アリはコロニーを作るために、他の女王アリを探して外を歩き回っているのでは?と思い、タイワンアリタケが発見される谷沿いで同じ場所を月に何度も訪れてみました。すると2022年10月14日に複数の女王アリとワーカーが谷沿いの手すりを歩いている場所を見つけることができたのです。

谷沿いの古びた手すり。この近くはタイワンアリタケの発生地です

この場所で歩いている女王3匹、ワーカー1匹(女王一個体に寄り添っていたもの)を採集し、飼育観察が始まりました。

チクシトゲアリ(飼育観察)

飼育を始めてから約3週間後、女王アリ1匹は菌感染していたため別途観察(ブログ後半に執筆してます)。生きているのは女王2匹とワーカー1匹となりました。

2023年6月5日。女王2匹は子育て中、ワーカーは甘露や小さな昆虫を巣に運んでいました
2023年7月4日。突然ワーカーたちが巣から繭や幼虫をくわえて、外に出てきていました。
よく見ると、女王同士の喧嘩が始まっていました。7月4日~7月12日にかけてピリピリした空気が漂っていました。

一度女王アリ同士の喧嘩は収まったものの、結局2024年2月17日女王アリ1匹は巣を追い出されてしまいました。外に追い出された女王アリは5匹のワーカーと共に外をウロウロと歩いていました。(外というのは、飼育容器のこと)

しかし、付き添っていたワーカーが日を追う事に死んでいき(原因は分からず…)、追い出された女王アリは2024年10月7日に死んでしまいました。現在は、巣に残っている(勝ち残った?)女王アリとワーカー40匹ほどの飼育観察を続けているところです。

アリの世界はとても儚く、なんだか考えさせられる部分が多いですね。

チクシトゲアリ(フィールド編)

飼育個体の生態を観察している中、同時にフィールドでのチクシトゲアリの観察も行っていました。

フィールドでは逐一観察することは難しいですが、ただ思ったのは、飼育していた時と似たような状況を観察することができました。

2023年12月21日。森林内の手すり上で、女王アリ3匹が歩き回って口合わせしている姿が観察出来ました。

2022年12月27日。こちらは女王アリ同士が喧嘩している様子。お互い顎を噛み合い、触覚を振りまいていました。

チクシトゲアリを観察していると、女王アリの感染リスクが高いのは、

①結婚飛行の時

②子育てするために、他の女王を探して外を歩いている時

③喧嘩する時に外に出る時

④喧嘩に負けた女王アリとワーカー外を歩いている時

の4点ではないかな?と思いました。ワーカーは餌を調達するために外に出る機会が多いので、そのタイミングで感染しているのではないかと思います。

チクシトゲアリ(感染個体編)

2022年10月14日に採集したチクシトゲアリの中で、運良く一個体感染しているものが観察出来ました。

【チクシトゲアリ飼育日誌】

■2022年11月2日22:00、チクシトゲアリ女王一個体が、飼育容器の縁を噛むような仕草を見せた。一個体は試験管に移し、試験管に丸めたテッシュを入れて様子を観察すると、ティッシュに噛み付いたまま体だけが動く状態になっていた。

ティッシュに噛み付いたチクシトゲアリ女王

22:40頃、一旦女王アリをティッシュから離して再度噛むかの検証をしてみたが弱っていたようでそのまま絶命してしまった。そのため、ティッシュで体を支えて引き続き菌成長観察をすることにした。

感染個体の観察記録

結局、この感染個体については2022年11月2日~2023年1月16日の約2ヶ月ほどで観察は終了しました。

引き続き、「タイワンアリタケ」の探究心は続くと思いますが…一先ず、きのこちゃんの自論でした(笑)(だいぶ濃い内容だけど)

また、新事実が判明すると上書きするかもしれませんが…この記事を読んでくだった皆様に菌類の不思議さ、面白さが伝われば幸いです。

■前回upしたチクシトゲアリ(フィールド編はこちら)

漫画「さすらいのきのこ」

■前回の物語「ゼニゴケツブチャワンタケ」はこちら

【参考】

アリの生態と分類~南九州のアリの自然史~(南方新社)

冬虫夏草生態図鑑(誠文堂新光社)

・チクシトゲアリの多雌創設巣で女王はなぜ血縁に関係なく協力するのか?(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09740578/

タイワンアリタケ観察誌(きのこちゃん)

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