阿寒きのこ&粘菌ツアーのすゝめ

今年もこの場所に来ることが出来たことに感謝したい、とつくづく思った。

1年に1度、自分へのご褒美として阿寒に行くことにしている。

ここに来れば確かな自然の営みを感じることが出来、あぁ、やはり自然というのはかくあるべきだなぁ、、と振り返ることが出来る。猛り立った山が見え、くねくねした川が流れ、森の木々やコケの緑が冴え、新井さんがいう「良い倒木」があちらこちらに倒れており、森林というライフサイクルがここではありのままの形で見ることが出来るのだ。

そんな阿寒きのこ&粘菌ツアーなのですが、、、

「阿寒きのこ&粘菌ツアー」と聞くと阿寒ネイチャーセンターで企画されたものとかもあるのだが、僕たちはプライベートツアーとして自分たちで企画し、ガイドとして新井さん(ほぼにちの「きのこの話」「散歩道の図鑑 あした出会えるきのこ100」など著作本多数)に案内して頂いているので、イベントに参加という形ではなく自分たちのイベントに新井さんをガイドとして案内をお願いしている、という感じでとっても自由なのですね。
いや、自由過ぎて時間を守らない、、、という事もあるようですが・・・・(これコケ組の事ですけどね)。

また自分たちで企画、ということは当然阿寒湖までの道のりや宿泊は自分たちで手配しなければならない。
飛行機の手配、レンタカーの手配、宿の手配、そして阿寒ネイチャーセンターへの連絡。
旅に出る、というからにはもちろん必要な行為であるが、それも「旅の楽しみ」として楽しんじゃえばいいのでは、と思っている。

さて、では今回のきのこ&粘菌ツアーでのトピックスをいくつか書いていこうと思います。

倒木更新観察のすゝめ

今回ちょっと注目したのは「倒木更新」である。
倒木更新とは古くなって倒れた木の上に種が落ち、目を出し、新しい木が育っていくというものである。

倒木の上に次の世代の幼木が育っている

関西などの山でも見られないわけではないが、倒木更新というのは特に針葉樹が多いそうです。
なので、こういう光景を見るとなぜかワクワクしてしまいますよね?(笑)

何故こんな事が起きるのか?倒木の上で必要な水分や養分が足りるのだろうか?
なんて考えてしまいますが、幼木にとって一番不利なのは背が低いために「日光」の恩恵を得られない、ということ。
幼木も当然光合成をする必要があります。
しかし、種が落ちてせっかく地面から芽を出したとしても周りに下草などが生えていたら日光が遮られて光合成が出来ないということになってしまいます。

ところが倒木の上であれば下草などの妨害を受けることなく、日光を浴びることが出来るので、のびのびと光合成をすることが出来るのですね。
また水分に関してはこの写真で見られるようにコケが水分補給の役割をしているようですし、倒木自体も腐朽が進んでいくにしたがって水分量は増えるそうなので、水分に関しての問題はクリアしていると考えて良さそうです。

あとは養分ですね。

菌類たちによって腐朽が進んだ材は、幼木たちにとっては「必要な養分を得やすい」場所なのかもしれません。
しかし、土中と比べると養分はさほど多くは無いでしょう。
またこの幼木たちは基本的には菌根共生を行う植物のはずですので、やはり菌根菌と呼ばれる菌類との共生は欠かせないはず。この様な倒木の中に菌根菌はいるのでしょうか?

安心してください、履いてます、、、ではなく、いてるようです (#^.^#)

「亜寒帯針葉樹林内で倒木更新している幼木と外生菌根菌の関係」

という論文によると、倒木を苗床にして育っている幼木は、土から発生している幼木に比べて菌根菌に依存している割合が高いことを示唆しているとのこと。
つまり倒木上であってもしっかりと菌根共生を行い、倒木内では賄いきれない養分を菌根菌から得ている、ということなんですよね、すごい!!

倒木更新というのはこういう樹木たちにとっても、また森全体から見ても自然の循環サイクルに組み込まれた潮流の一部と言っていいでしょう。

そこで、新井さんに紹介してもらった面白い倒木更新の例をチラ見してもらいましょう。
この写真を見て何か気づくことありますか?

倒木更新している状態

答えを言いますね。
この倒木にはコケのほかにミヤマハナゴケという地衣類が倒木にまとわりついていてそこから何本かの幼木が発生しているのがわかります。
この幼木の種類は

手前に見えるのがトドマツ、右側に見えるのがアカエゾマツ、そして奥に見えるのがハイマツ

だそうです。
1本の倒木に3種類のマツ科の植物が生えているというミラクルな状態なのです。
この倒木を見に行くためだけに阿寒湖に行くのもいいかもしれません(笑)

コケコケの森のすゝめ

コケコケの壁

阿寒湖周辺の森とコケは切っても切り離せない関係だ。

もしこのコケたちを全て剥がしたとするとどうなるだろう?

そこには荒涼とした草木の生えていない溶岩流が横たわる大地が広がっていることでしょう。
そもそも阿寒湖自体はそこから眺めることの出来る雄阿寒岳や雌阿寒岳の火山活動によりできたカルデラ湖である。
当然そのカルデラ湖の周辺は草木も生えていない溶岩むき出しの土地だったであろう。

そこにコケが生え、土がたまり、草木が根づき、樹木が大きくなり、やがて森になっていったのが今の阿寒の森の姿なのである。
なので、ある意味、溶岩に付着したコケが阿寒の森の始まりだった、と言えるのではないでしょうか。

そんなコケコケの森は何十年、何百年もかかって作られた森。

上の写真の「コケコケの壁」をコケ愛好家の皆さんが調べたところこの一帯だけで50種類以上のコケが存在するというまさにコケのパラダイスなのです。

ただし、そんな森だからこそ人が沢山入って、コケを踏み荒らす、、なんてことがあってはならない、と新井さんは言う。

「自然に対してはローインパクトを心がけなければなりません」

ことがネイチャーガイドとしての心がけの一つであり、自然愛好家としては必ず考えなければならない鉄則でもある。
なので、沢山の人には見て欲しいものの、あまり沢山人が来すぎても困る、、という悩みもあるのだそうな。

コケコケの森に佇むヌメリササタケ


ここ阿寒においてコケは森に生きるモノたちに力を与える存在そのものだと言っていいでしょう。

コケコケの森に小さなキノコが出ている。
このキノコもコケがなくてはこの場所からはきっとでていなかったはず。
そしてこのキノコの下には菌糸がびっしりとその細い糸を蔓延らせ、その糸は近くに生えている樹木の根に繋がっているのです。その菌糸も、樹木の根もこのコケから水分を補給されて命を繋いでいるのです。

このコケの美しさに目を取られがちですが、コケの下で繰り広げられている生き物たちのネットワークに想像を巡らせてみるともっともっとコケの森が楽しめることでしょう。

亜高山帯キノコのすゝめ

コケの森に佇むドクツルタケ

阿寒湖周辺で見られるキノコは亜高山帯で見ることが出来るキノコが多い。
例えばこのドクツルタケ。
関西の低山でも同じようなキノコを見つけることができるが、それは本家ドクツルタケではなくアケボノドクツルタケという本家のモノより一回り小さく、傘の中心が薄っすら赤みを帯びている別種である。

年間平均気温は確か5度ぐらいなので、北欧で見られるキノコと同じようなものを見ることが出来る。

例えばこれ、幸運を呼ぶきのこと知られているベニテングタケである。

ベニテン街道と呼ばれるところに出ているベニテングタケ

ベニテングタケは長野県などでも見ることが出来ますが、ほぼ毎年阿寒でも見ることが出来ます。
やはり阿寒でも少し寒くならないと出てこないみたいで、今年はちょうどベニテングタケ祭りが始まったぐらいに見に行くことが出来ましたのでラッキーでした。

また、富士山などでもベニテングタケは見ることが出来ますが、山を登ったり下ったりと結構アップダウンがあるのですが、阿寒湖周辺では散歩道とか車を止めてちょっと歩いたら、、、とかそんなところに出ていたりします。
山道を登るのなんかできましぇーん、、、という方にはベストかもしれません (#^.^#)

コウバイタケ

ほぼ阿寒でしか見られないコウバイタケ。
去年このコウバイタケを1本採取しDNAを調べてもらったところ、現在の学名に充てられているものと異なるものと一致率が高く、すわ!コウバイタケも現在の学名のもの(Mycena adnis)とは違うのか、、、と一人興奮したのであるが、後に良く調べたらまだまだ検討の余地がありそうだ、、と気づき、きのこびとには書かないことにした。

そんないわく付きのコウバイタケ。
「ほぼ阿寒でしか」と書いているが、他のところで少し似ているのが発見されている様だが、恐らくそれは違うものであろう。僕も京都で見たことがあるが、やはりかなり形態は異なるし、そのDNAを調べても異なるものであった。

ということで改めて言おう。

このコウバイタケはほぼ阿寒でしか見ることが出来ない

そして今年の阿寒ツアーではこのコウバイタケを見ることは出来なかった (激涙)
去年発見したコウバイタケの森にも1本も出ていなかったし、新井さんも「今年は3本しか見ていない」そうなので、僕たちが行って見つけることができないのは仕方なかった、という事なのでしょうね。

粘菌族ウォッチのすゝめ

倒木にへばりついて粘菌を探す人たち

いつも我々のツアーはキノコ組と粘菌組とに分かれている。
行動を共にするときもあるが、だいたいは「良い倒木」を見つけた日には粘菌族はその木にへばりつくので我々キノコ組はそれを横目にキノコ探しのために前進することになる。

まぁしかしだ、、、粘菌組の倒木への執着心は凄い。

あの小さな粘菌を見つけるためにライトとルーペを持って舐めるように倒木を探し回るのだ。
この写真の姿から「舐めるように」という表現は伝わるだろうか?

もし伝わらないのならこの写真も見てもらおう

撮影提供:川浦さん

同じ風景を別角度で撮ったもの。
いやいや、これはやっぱり面白すぎますよね~(笑)

キノコ組は結構距離を歩くのですが、粘菌組はこんな感じで倒木があれば食いつきが激しく、4時間で100mぐらいしか進まないことも普通である。
しかも最初に書いた通り阿寒の森は適度に倒木が多く、粘菌が住むにはとっても快適な森なので粘菌族たちのテンションも上がりっぱなしなのです。

そんな粘菌族をこうやって眺めてみてはどうでしょう?

なかなか楽しいですよ(笑)

新井さんのキノコ撮影覗き見のすゝめ

モエギタケを撮影しようとしている新井さん

キノコ&粘菌ツアーは新井さんのキノコ撮影の方法を受講するためのツアーではありません。

しかし、新井さんは常にカメラを持ち歩き、綺麗なキノコを見つかるとつかつかとやってきてキノコ撮影を始めます。
その際に「新井さんがどの様にキノコを撮影しているのか?」を覗き見してみましょう。
すると、どのようなカメラを使い、そのカメラにどんなレンズをつけて、どういうアングルからどうやって撮影しているというのがわかります。
もちろん撮影する機材の名前なども惜しげもなく教えてくれます。

キノコの事も教えてくれるうえ、キノコ撮影の方法も教えてくれる。

こんな贅沢なツアーはありませんね(笑)

そして最後に紹介するのが、仕事が空いてたら一緒にツアーに参加してくれるガイドのKさんである。
いつも盗み撮りされてしまうのですが、今回はKさんを盗み撮りしてみました。
阿寒ネイチャーセンターの公式Twitter(X) の担当もしていて、スマホ撮影にも関わらず写真のアングルなどはとっても素晴らしいセンスの持ち主なので、是非是非Twitterの写真も見てあげて欲しい。

ちなみにTwitterのフォロワー数で言うと新井さんが5600人に対して阿寒ネイチャーセンターは10000人なので倍ぐらい多いのよね、頑張れ新井さん!(笑)

モエギタケを撮影しようとしているKさん


阿寒ネイチャーセンターのすゝめ

阿寒きのこ&粘菌ツアーのすゝめ、いかがでしたでしょうか?
このツアーを始めて4年になりました。
今回は3日目に10年ここに通っているという神戸の女性2人組と一緒に回ったのですが、10年も通ってるってほんと凄いなぁ、、と感心しました。

やはり1年に一度、今住んでいるところはまったく別の世界に行きたい、、と思ったときにここ阿寒湖周辺は外国に比べてずいぶん敷居が低いし、その上小さなエリアに見どころがいっぱい詰まっているところ、と言えます。
また手つかずの自然がまだまだ残されており、そして何よりネイチャーガイドが皆さん素晴らしい (#^.^#)

今回改めて阿寒ネイチャーセンターの素晴らしさがわかったので、ぜひぜひ皆様阿寒湖のツアーに行ってその素晴らしさを堪能してみてください。

「阿寒ネイチャーセンター」
http://www.akan.co.jp/index.html

最後にオンネトーから写した雌阿寒岳と阿寒富士の写真を載せておきます。

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