ひび割れルスラ5人衆
アイタケというキノコをご存じだろうか?
もちろん、この記事をわざわざ読みに来てくれる奇特な読者の方々なら、アイタケぐらいは毎年観察できている人が多いのではないでしょうか?
アイタケはその緑青色した美しい色の傘とこの「ひび割れ」具合がマニアの心を「キュン」とされてくれるキノコでもある。
なので、毎年このキノコと出会ったら
「君にアイタケった~❤❤」
というおやじギャグを心の中でつぶやくマニアも少なくないし、それを文章にまでしてしまう人は完全にオヤジ認証してもらって構わない。
また、アイタケは「ベニタケ属」というキノコのグループに属する。
学名は Rusulla(ルスラ)。
ベニタケ属のキノコを見つけた際には
「るっすら♪るっすら~♪」
と言いながらスキップするのがキノコマニアの間の習わしなので是非みんなもやってみて欲しい。
このベニタケ属にはもちろんその名前の由来でもある「赤い」キノコが多いのであるが、赤いキノコだけではなく、白いものや黒いもの、紫のものや黄色いものなど色のバリエーションが豊富である。
もちろん赤いグループがダントツで多いのだが、2位か3位を占めるのがこの緑のグループだと思われます。
緑のルスラはこのアイタケをはじめ、ウグイスハツ、クサイロハツ、カワリハツの緑バージョン(ウグイスタケ)などがあり、以前僕は「緑のルスラを判別出来るようになろう」と思ったことがあって調べてみたところ余計に分からなくなり、その「沼」の深さに呆然としたものである。
その後、ベニタケの先生でもあるS野さんと話をさせてもらったときに、
「緑のベニタケね、、最低でも8つはありますね」
と言われた時にはますます深淵なる闇の深さを覗いたような気持になったものである。
しかし、そんな緑のルスラの中でも確実に断定できるのが1つありまして、それがこのアイタケなんですよね。
ベニタケ属のキノコたちの多くは、「表皮」と呼ばれる薄い皮に傘が覆われていて、キノコを同定する際の特徴の一つとして「表皮が手で剥ける」というのがあったりします。
まぁ、たいがいのベニタケ属の表皮は根性さえあれば剥くことはできますが(笑)。
が、しかし、もちろん剥きやすい、剥きにくいはあるので、同定する際は剥きやすいものを「剥ける」として判断するのが良いでしょう。
そんな表皮が剥けるベニタケ属たちのキノコの中で剥けないグループがあります。
それが今回の「ひび割れルスラ5人衆」なのです。
こいつらの表皮は固く、柔軟性がないため傘が大きくなるにしたがって、固い表皮がその伸長に抗しきれずにバリバリと音をたててひび割れてしまうようです。
※バリバリと音をたてるは大袈裟ですが w
それでは、そんなひび割れルスラたちを紹介しましょう。
ひび割れルスラ5人衆
まず最初はもちろんアイタケちゃんです。
アイタケ(Russula virescens)
トップ画像のアイタケに比べて色合い的には精彩を欠くけども、むしろこういう色の方が多い。
ベニタケ類はかなり大型のキノコであるから、成菌になってからも結構な日数その姿を留めていることが多いですね。
傘の肉が結構厚めだし、ヒダも長さがあるので少し乾燥したところで平気なのかもしれない。
なので長く成菌でいるがために、老菌になるころには傘表面の色は日光で色褪せることになります。
この写真のアイタケもかなり大きく、恐らく成菌になってから3~4日は経ってるかもしれません。
古くなると緑が色褪せることもありますが、傘の中央が凹み、中央の色がクリーム色に変色していくのがわかります。
この辺りの特徴はベニタケ属にある程度共通のものとなるかもしれません。
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フタイロベニタケ(Russula viridirubrolimbata )
なかなか出会うことが出来ないフタイロベニタケ。
アイタケの赤バージョンと言われていますが、確かに表皮のひび割れ方がアイタケと同じですね。
ただ、「フタイロ(2色)」の名にふさわしく、ひび割れの部分が赤色で、中央部がアイタケの色によく似ている青緑色になって、そのまた中央が老菌のアイタケと同じくクリーム色になっております。
真っ赤なタイプもあるみたいで、それはそれで美しいのですが、しかしそれなら「フタイロ」という看板に偽りありということになりますのでやはりここは王道の赤と緑のフタイロベニタケを貼っておきます。
しかし美しいですなぁ~何故この2色なのでしょうか、、、。
またフタイロベニタケは長年キノコをやってきた人たちの中でも「見たことがない」人が結構いるかもしれません。
一つには結構偏在化して生息しているのでは?と考えています。
今回初めて大阪で見つけることが出来たのですが、今まで3回フタイロベニタケを見た中で、最初の2回ともに京都の里山でした。
最も良く行く兵庫・大阪では1回も見たことが無く、たまたま行った京都で2回も見ることが出来たので、個人の感覚としては「京都特産では?」ぐらいの感じでありました。
しかし、今回初めて大阪で見ることが出来て、京都特産説はもろくも消えてしまいました。
ただアイタケに比べてこのフタイロベニタケの絶対数はかなり少ないものだと思われます。
ヤブレキチャハツ(Russula crustosa)
説明するまでもありませんが、アイタケの茶色バージョン的なキノコであります。
ヤブレキチャハツの「ヤブレ」はこのひび割れがまるで「破れている」ように見えるからだと思われます。
一時期「ヤブレキチャハツを探せ!」という大号令がかかったことがありました。
ある緑色系のベニタケ属のキノコがこのヤブレキチャハツとかなり近縁である、とDNAを調べたところ判明したからです。しかし見た目はだいぶ異なり、この様なひび割れなどは無いし、色は違うし、傘全体のイメージもことなるキノコでした。
なので
形が似ているからと言って近縁とは限らないし、形が似ていなくても近縁かもしれない
ということが判明してきているのです。
つまり分類の世界では既に形態では区別できない時代に突入してと言っていいでしょう。
しかしだ、、
そこが人間の泥臭いところで、、、このヤブレキチャハツのひび割れを眺めているとアイタケの近縁ではないか?フタイロベニタケに近しい仲間ではないか、、と思ってしまいます。
何故なら、ひび割れの形がアイタケやフタイロベニタケにそっくりなのですね。
ただ名前に「キチャハツ」と付いているだけあって、ひび割れた隙間から見える傘の条線がキチャハツっぽいですよね?
と言いながらまだ実物は見たことは無いのでこれから出会う事を楽しみにしておきます。
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ヒビワレシロハツ(Russula alboareolata)
白いタイプのひび割れルスラです。
幼菌の頃は本当に綺麗ですね。
これは「柏市」とあるように千葉県柏市を自転車で徘徊していた際に、キノコがありそうな公園をみかけて探しに行った際に発見したものです。
傘のひび割れはアイタケのものとはちょっと異なり、あまり大きくはありません。
これは個体差もあるかもしれませんが、もしかして傘の表皮がかなり硬く、柔軟性が無いのかもしれませんね。
柔軟性があれば割れずに一つ一つの欠片が大きくなるのでは、と考えています。
またこのヒビワレシロハツは傘の中央が少し茶色くなっているのが分かりますでしょうか?
もう少し老菌になっていくともっと中央部に茶色のシミの様なものが目立ってきて、逆にこのひび割れが見えなくなってきて、粉っぽくなってきますので、なかなか判別しずらくなりますね。
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ツギハギハツ(Russula eburneoareolata)
最後に、白地に薄い茶色のひび割れがあるツギハギハツです。
他のひび割れに比べてこれは弱弱しい・・・
この質感からすればかなり色も薄いし、厚みも薄い表皮なのでしょうね。
老菌になると判別が難しくなります。
これも未だ見たことがないので、写真は @fungi_youji さんにお借りしております。
毎度毎度お世話になっております <m(__)m>
まとめ
さて、「ひび割れルスラ5人衆」いかがでしたでしょうか?
同じひび割れを持ちながら
・ヤブレキチャハツ
・ヒビワレシロハツ
・ツギハギハツ
「破れ」「ひび割れ」「継ぎ接ぎ」という和名が当てられているのがなんとも日本語の表現の豊かさを感じますね。
しかし、この5人衆は一般的なベニタケ属のキノコに比べて傘の表皮がひび割れる要素、を持っています。
その要素とはなんでしょうか?
一般的なベニタケ属のキノコは、傘が成長して大きくなるにしたがって傘の表皮も広がっていきます。
これは
- 傘の表皮が伸びやすい構造を持っている
- 傘の表皮も一緒に成長していく
のどちらかと考えています。
逆にアイタケなどのひび割れキノコは
- 傘の表皮が硬い
- 傘の表皮が伸びにくい
- 傘の表皮がある程度大きくなると成長しない(または本体の成長に追い付かない)
というのがひび割れが出来てくる原因だと考えられます。