アミガサタケ栽培成功への道(焼け跡のアミガサタケを探せ)

2022.03.20 京都

2023年11月、ついに日本でのアミガサタケ栽培に関する論文が公開されました。

Successful cultivation of black morel, Morchella sp. in Japan

岩手県林業技術センターの成松眞樹さんが主著者となった論文です。
この論文から得られた情報を元に「焼け跡のアミガサタケ」について考察していきます。

以前、きのこびとで「山火事跡にアミガサタケは大発生するのか?」という記事を書いた。

もう5年も前の事である。
この記事を書いた時ですらその時点で4年前の事だと書いてあるので合計すると9年も前の話になるのですね。
簡単に記事の内容を説明すると、アメリカなどでは山火事などの跡に「Burn Site Morel」と呼ばれている「特定のアミガサタケ」が発生するという情報を我らがモリーユ姫Iさんが仕入れてきて、その何年か前に赤穂の山で焚火の不始末にて発生した山火事があったのですが、その跡地にみんなでアミガサタケが発生しているか見に行こう~というツアーの顛末を書いたものである。

その記事を執筆する際に調べた情報としては焼け跡に発生するアミガサタケは

  • 針葉樹の森でのみ成長します
  • アメリカ西部でのみ発生します
  • 火事跡(焼け跡)からのみ発生します

というもの。
つまり焼け跡に発生するのはアミガサタケと呼ばれる種類の中の一部である、ということ。

普段関西などで見ることが出来る黒いアミガサタケはその「焼け跡に発生するアミガサタケの一覧」には入っていませんでした。
その一覧を以下に示します。

  • Morchella tomentosa 
  • Morchella sextelata
  • Morchella eximia
  • Morchella exuberans
  • Morchella brunnea

さて、この中に見覚えのあるものが2種類ほどありますよね?

Morchella sextelataMorchella eximiaです。

この2つの種は中国で栽培されているメインの3種のうちの2種なのです!!
このことから

「もしかして焼け跡に発生するアミガサタケは栽培しやすいのでは?」

なんてことを考えたくなるのですがどうでしょう?

そこで、まずはこの2種のアミガサタケの生態について詳しく調べてみましょう。

Morchella sextelataとはどんなきのこか?

Fruit bodies of the morel fungus Morchella sextelata M.Kuo. Specimens photographed in Yosemite National Park, California, USA.
https://en.wikipedia.org/wiki/Morchella_sextelata

写真とその生態はWikipediaから引用させてもらいましょう。
文章はChatGPTに箇条書きにしてもらいました。

  • Morchella sextelataは、その生活サイクルの異なる段階で、時には腐生性であり、時には菌根性である可能性がある
  • その子実体は、部分的に焼けた針葉樹林で育ち、特にベイマツ(Pseudotsuga menziesii)とポンデローサマツ(Pinus ponderosa)が優占する森林に多く見られる。
  • 火災直後の年に大量に現れ、その後の年には頻度が低くなる傾向がある。
  • 子実体は4月から7月にかけて、標高1,000〜1,500mの地域で出現する。
  • 分布地域はワシントン、アイダホ、モンタナ、ワイオミング、ユーコン準州に及ぶ。
  • M. sextelataは中国でも見られるが、これらの遠隔地間での分散が自然に起こったか、それとも人為的な行為によるものかは明確ではない。
  • 「Mel-6」として同定されたM. sextelataは、外来種のウマノチャヒキ(Bromus tectorum)の内生菌として共生し、草全体の成長を促進し、種子の豊富さや耐熱性(60–65°C )を高めることが示されている。
  • これは、ウマノチャヒキが西部北アメリカでの侵略的種として成功する要因の一つとされている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Morchella_sextelata

写真を見る限りでは日本にある黒いアミガサタケとは網目の形が異なる様に見えますね。

アメリカでは針葉樹林で火災が発生した直後に大量に発生し、年を追うごとに発生量がすくなくなっていくという。また、このアミガサタケは中国でも発生するらしい(Wikipedia内ではちょっと懐疑的な書き方をしている)ので、もしかして日本での発生もあるかも知れません。

いかんせん「アミガサタケ」というもの自体の認知度も低く、その上山火事跡にアミガサタケを探しに行く、なんていう習慣もないのできっと見つかっていないのでしょう。

きっとそうだ!あるとこにはあるんだ!(と信じたい)

またMorchella sextelataは現在最も多く中国で栽培されている種であり、栽培種全体の80%以上をこの種が占めている。が、しかしこの種はまだ日本では発見されたという報告はありません。

恐らく発生する植生や環境などを考えると関西というよりも長野とか東北、北海道などのマツ科の針葉樹の森があり、標高が高い地域に発生するのではないかと思われますね。

Morchella eximiaとはどんなきのこなのか?

Mel 7 from South Australia burnt native forest.
https://en.wikipedia.org/wiki/Morchella_eximia#cite_ref-Kuo2012_4-0
  • Morchella eximiaは、1910年にエミール・ブーディエによって初めて記載された、Morchellaceae(子嚢菌門)のグローバルに広がるきのこです。
  • 2014年の複雑な系統学的および命名学的なジェノムの見直しで、リチャードらは、2012年にClowezとKuoらによってそれぞれ提案されたMorchella anthracophilaMorchella carbonaria、およびMorchella septimelataの分類群が、すべてこの古い分類群の後の同義語であることを示しました。
  • Morchella eximiaは、最近焼けた森林で豊富に育つ、焼け跡に関連した種です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Morchella_eximia

同じWikipediaの説明ですが、こちらはあまり多くの説明が記載されてはいません。
ただ、写真を観る限りはやはり日本で発生する黒いアミガサタケとさほど違いはなく、やはり焼け跡から発生すると書かれています。

「焼け跡に発生する」というのは、いったいどういうことなのでしょうか?

その辺りの事をもう一度改めて考えてみることにします。

アミガサタケは焼け跡が好きなのか?

2019.4.14 神戸

「焼け跡に発生する」というのはきのこという生物から考えるに一見変わった生態の様に思えます。
通常のきのこというのは森の中にいて、あるものは樹木たちと共生しながら生活しているし、またあるものは倒木の中に侵入し、せっせと木の成分を分解しながらそれを自分たちの食料として生活したりしています。

いわば「豊かな森の中で生活している」という印象があります。

そんな「きのこ」と呼ばれるものの中に樹木が燃えて、いわゆるはげ山になった場所に好んで子実体を発生させるというというのは「いったい何を食料にしているのか?」という疑問が出てくるのですよね。

しかしですね、そもそもきのこという生き物は何を食べて生きているのでしょうか?

その答えは「きのこの一生(堀越孝雄+鈴木彰 [著])」という本に書かれています。
きのこが必要としている主な栄養素は以下の通り

  • 炭素
  • 窒素
  • カリウム
  • リン
  • 硫黄

この中でも炭素がもっとも重要であり、例えば菌根菌であれば植物から光合成によって作られた炭素を供給してもらうことによって得ることが出来ますし、腐生菌なら木を構成しているセルロースやヘミセルロースという成分を分解し、その中から炭素を取り出して食料にしている、ということになります。

それ以外の栄養素は菌根菌なら土の中、腐生菌なら木の中にあるものを菌糸を張り巡らせて得ることになりますね。
そしてあるものは栄養素を植物に供給したり、またあるものは自分の食料としたりしています。

そこで1つの仮説を思いつきました。

焼け跡にはアミガサタケが子実体を発生させるための豊富な栄養があるのではないだろうか?

逆に言うと焼け跡に発生するアミガサタケが平時に子実体を発生させないのは「子実体を作り出すだけの膨大な栄養素が無いから」ではないでしょうか?

M. sextelata は1000mを超える針葉樹の森で、ベイマツやポンデローサマツと菌根関係を結びながら生活を送っていると書かれています。その生活は子実体を作り出すだけのエネルギーをベイマツやポンデローサマツと共生関係を結んで栄養のやり取りをやっているだけでは得られないのでは?などと考えています。

きのこの発生状況を毎年見ていると同じコロニーであっても微妙に違う場所から子実体が発生しているということが良くあります。
これは子実体を発生させるための栄養素が発生したエリアでは足りなくなっているのではないか、と思うのです。
なので、毎年子実体が発生するコロニーであっても少しずつ発生する場所を変えることによって周りにある多量に存在する栄養素を吸収して子実体を作り出しているのではないのでしょうか。

つまり子実体を作り出すには大量の栄養素が必要で、しかもその栄養素はそこに子実体を作ったあと、その場所からは枯渇してしまうのではないか?だから大量に栄養素を得られる場所(またはタイミング)でないと子実体を作ろうとしないのかも知れません。

そこで海外の焼け跡のアミガサタケについて検索していると以下の論文を見つけました。

「Controlled surface fire for improving yields of Morchella importuna
※制御された地上火災によるアミガサタケ(Morchella importuna)の収穫量増加
https://www.researchgate.net/publication/320980678_Controlled_surface_fire_for_improving_yields_of_Morchella_importuna

以下この論文のAbstractを箇条書きにしてみました。

  • 火事はアミガサタケの生産に有益であることが知られているが、その仕組みや理由は解明されていない。
  • 野外にある半人工的な設定で、火災処理がアミガサタケ (Morchella importuna) の発生と収量に与える影響を調べるために、燃焼材料 (乾燥したマツ科の枝) の量を変えた表面火災処理を設計した。
  • 野外実験では、1m²の区画で、菌糸体の形成と消失、子実体原基、子実体始生体、成熟子実体など、アミガサタケ (M. importuna) の発生段階を評価した。アミガサタケの収量と土壌を比較した。
  • 燃焼材料量が 1.7 kg/m² および 2.5 kg/m² の火災処理は、土壌のミネラルと栄養素のレベルを明らかに上昇させ、子実体原基の形成とアミガサタケの収量を有意に増加させた。
  • どの火災処理も、子実体原基の発芽率に有意な影響を与えなかった。
  • 燃焼材料量が 0.8 kg/m² の火災処理は、アミガサタケの収量を増加させなかった。
  • 十分な量の燃焼材料を使用すれば、表面火災は、アミガサタケの子実体の生長と生産に適した土壌状態にすることができる。

驚いたことにこの試験に使用されているアミガサタケはMorchella importunaです。
つまり、中国で主に栽培されている種のなかの一つです。
またMorchella importunaの生態を調べても「焼け跡から発生する」というのは書かれていません。

が、しかし、この試験では特定量の燃焼材料 (乾燥したマツ科の枝) を燃やした後にはMorchella importunaがより多く発生するとかかれているのですね。
これは、Morchella importunaが「焼け跡が好き」というより

「焼け跡によって増加した土壌のミネラルや栄養素がより多くの子実体を作り出すエネルギーをアミガサタケに与えた」

と解釈するのが正しいのだと考えられる。
つまり普段は焼け跡に発生しないMorchella importunaであっても、いつもより多い土壌のミネラルや栄養素を与えてあげたら沢山の子実体を発生させることができるのですね。

焼け跡に発生するアミガサタケは栽培可能なのか?

2024.03.08 大阪

焼け跡はアミガサタケが子実体を作り出すための栄養素が増加する、ということは確かなようです。
それでは、焼け跡に匹敵するような栄養素を供給してあげればアミガサタケは発生するのでしょうか?

その辺りを成松さんの論文を元に検討してみましょう。

試験場はいわゆる野菜なども栽培出来そうな「畑」であって、森の中ではありません。
そこに培養した菌株を植えてアミガサタケが発生するのを待つことになるのです。
しかしそれだけではいけませんので、アミガサタケの子実体を発生させるべく栄養素を補給してあげる必要があります。
それらは以下の栄養素である

土壌に撒くものとして

  • KH2PO4(リン酸二水素カリウム)
  • オーク灰
  • 窒素を含む固形複合肥料

外部栄養袋(ENBs)の中に入れるものとして

  • 小麦粒
  • オークの木くず
  • 米ぬか
  • CaCO3(炭酸カルシウム)
  • 石膏(硫酸カルシウム)
  • KH2PO4(リン酸二水素カリウム)

これらの栄養素なのですが、適切な量を適切なタイミングで与えてあげることにより子実体が発生するという。

焼け跡の土壌に増加するミネラルや栄養素がこれらと同じ様なものであれば、

焼け跡に発生するアミガサタケは栽培可能な種である

と言えるのではないでしょうか?
少なくとも焼け跡に発生するMorchella sextelataMorchella eximiaに関しては栽培に成功しています。
この2つの種は、上記の様な栄養素を上手く与えてあげると子実体を作ろうとする、ということです。

なので未だ日本で報告の無いMorchella sextelataMorchella eximiaの2種を見つけられないか?

と考えています。
そこで岩手県林業技術センターで作成されたチラシを貼っておきますね!!
できるだけ多くの方から黒いアミガサタケを送って頂けることを期待しております~!!

【追記】
※今までも多くの地域からアミガサタケを送ってもらったそうですが「富山、長野、新潟」のサンプルはまだ無いそうです。
出来れば、富山、長野、新潟の方!!どうか焼け跡のものでもなくて良いのでサンプルを送っていただけないでしょうか?


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