山火事跡にアミガサタケは大発生するのか?

あれはちょうど4年前の3月22日。赤穂市のとある山。
その山で前の年に山火事があった、という情報を得たI駒さん。総勢10名のキノコフェチたちに声をかけて、山火事があった場所まで赴きアミガサタケ捜索大作戦を決行したのであった。
まるでドラクロアの有名な絵画「民衆を率いる『自由の女神』」のように(笑)。
僕もその中のメンバーの一人として参加していてI駒さんとはその時初めてお会いしたのでした。他のメンバーも初めましての人が多かったのだが、不思議なことにその時のメンバーが今のきのこ人脈の基礎となっており、まるで地下水脈のように少し掘るだけで湧き出てくる様な人たちばかり(わかりにくい比喩やわ w)、という僕のキノコライフにとってはかけがえのない人たちとなったのは、思い返せば何か深い縁を感じずにはいられないのであります。
バーンサイトのアミガサタケ

バーンサイト(Burn Site)というのは「焼け跡」という意味らしく、これも前述のI駒さんに教えてもらった情報である。
まずは「Burn Site Morel」というキーワードでググってみて欲しい。すると多くのサイトが引っかかってくるのがわかる。その中でトップに位置するサイトをちと開いてみよう。
「Understanding Burn Morels」
https://www.modern-forager.com/all-about-burn-morels/
少し英語が得意な人ならそのまま読めるかもしれないぐらいの簡単な英語のサイトである。
もちろん僕は読めないので、Google翻訳にお任せしながら内容をかいつまみながら解説してみたいと思う。
が、その前に、ちょっとだけ基礎知識を入れておくと、、、どうも山火事の跡などにブラックモレル(黒いアミガサタケ)が大量にでるのだそうな。日本ではあまりそう言うのは聞いたことがないのだが、ただ焚き火の跡にアミガサタケが発生したとか、アミガサタケはアルカリ土壌を好む(焼け跡の灰などはアルカリ性なので)とかいう噂はよく聞く話だ。
きのこびとでも以前、こんな記事を書いたことがある。
「アミガサタケはアルカリ性好き?」
https://kinokobito.com/archives/664
このときも、酸性かアルカリ性かどっち?という感じで調べてはみたのであるが、ぶっちゃけていうと日本全国どこで計測したとしてもアルカリ性に傾くのではないか?とちらりと思ってはいるものの、そんな無粋なことは夢が壊れるので言ってはいけないのだ(笑)。
しかしそれはあくまでも日本の話。アメリカから見たら鼻くそほどのちっぽけな話である。
ではこの 「Understanding Burn Morels」 という何ともそれっぽいタイトルの記事を眺めてみることにする。
まずは重要なポイントが3つあります。
- They only grow in conifer forests
- They only grow in the Western US
- They only grow after a fire
Theyというのは「焼け跡から出てくるアミガサタケ」を指しています。
どうも焼け跡から出てくるアミガサタケは他のアミガサタケとは生態が違うようですね。
このポイントを訳すとこんな感じでしょうか?
- そのアミガサタケは針葉樹の森でのみ成長します
- そのアミガサタケはアメリカ西部でのみ現れてきます
- そのアミガサタケは火事跡からのみ発生します
なんと特殊なアミガサタケなのでしょうか?
この3番めの「焼け跡からのみ発生」というのは、逆に言うと「火事にならないと発生しない」ということであり、火事がアミガサタケの発生のトリガー(引き金)となっている、ということを端的に表しているのではないかと思われます。
そんな事って現実にあるのでしょうか???
そして「There are five known species of burn morels」と書かれています。
つまり 「焼け跡から出てくるアミガサタケ は5種類あります」、と。
この5種類は焼け跡からのみ出てくるのか、それとも焼け跡じゃないところからも出てくるのか、そのあたりが知りたいところですが、、、
文脈から察するにこの「burn morels」たちは焼け跡からしか発生しない特別な種である
と言うことなのでしょうね。
その生態はというと
- they live in the ground in a mycorrhizal relationship with conifer trees and their roots
- they only bloom after a significant fire
- These mushrooms might lie in hiding for 50 years
何とも不思議な事があたかも事実の様に書かれてますな~(笑)
これは何かエビデンスとかあるのかな?それとも経験値なのでしょうか?
簡単に訳してみると(ほぼ直訳です w)
- 彼らは針葉樹の根と菌根関係を結んで地下に住んでいる
- 彼らは大きな火事の跡にのみ発生する
- 彼らは50年間も地下に潜んでいるかもしれない
なんとここではアミガサタケが「菌根菌」であることをしれっと書いている (@_@;)
実際にアミガサタケが菌根菌かどうかはきちんとしたエビデンスがないというのはチエちゃんがこの間言ってて、いま一生懸命アミガサタケが菌根菌か腐生菌かを調べてる最中なのだそうな・・・・
でもその真偽は置いておきます、、、で、その5種類のブラックモレルの学名も書いてあるので、名前だけをピックアップしておきますね。
Morchella tomentosa
Morchella sextelata
Morchella eximia
Morchella exuberans
Morchella brunnea
このいずれもあまり見覚えの無い学名ですね。
ちなみに日本のブラックモレルたちはこんな学名をしております。
トガリアミガサタケ:Morchella conica
アシボソアミガサタケ:Morchella deliciosa
オオトガリアミガサタケ:Morchella elata
いずれも上記5種類のいわゆる「Burn Morel」たちとは学名が重なることはありません。
では!ここから本題です。
日本に出るブラックモレルは山火事の跡に発生するのでしょうか?
いやぁ、、長い前振りでした、、(*^^*)
山火事跡への道のり

赤穂のとある山である。隠すつもりはありませぬ。
たぶん、「赤穂 山火事」で検索したら出てくるところであります(笑)。
確かこの山火事の原因は山の下にある住宅の庭でBBQをやっていて、その残り火の不始末が飛び火して火事を起こしたとかなんとか、、、。
まぁ、原因はこの際どうでもよいことだ。
ただ、山火事というものは山にとっては悪いことだけではない、と個人的には思っている。
この写真のようにせっかく大きく育った木々たちが焼き尽くされ、無残な姿になっているのを見るとやはり同情は拭い得ないが、もっと長い目で見れば、こうして大きな木々たちが焼き尽くされた後に待ってましたとばかりに出てくる植物がいるはずで、単なるこの山はこれで禿山になってしまうのではなく、今まで息を潜めていた植物や、新しい生命が息を吹き返してくる、そういう場所になった、ということも言えるのだ。
もちろん僕たちはそういう「自然のメカニズム」は周知のこと。
そして(ここからが重要である)、その「自然のメカニズム」の中にバーンサイトに出てくるというアミガサタケもその姿を現すのではないか?という胸が張り裂けそうな期待を抱いていたということは紛れもない事実である。
だってね、、愛知からわざわざ来る人がいるんだからね、このために(笑)
ここは赤穂。兵庫の最西。兵庫の広さは知ってるかな??気が遠くなるぐらい横広だ。なので愛知からわざわざ来る人にとっては愛知=>滋賀=>京都=>大阪=>兵庫 =>兵庫 =>兵庫 =>兵庫(タイプミスではない w) とはるか遠い道のりを股にかけてのキノコ散策となる。
だからこそ、余計に期待は大きいのだ。
アミガサタケを見つけないでおめおめ愛知に帰れるか~~!!パリ~~ン!!(ちゃぶ台をひっくり返した音)
というのが本心であろう。あぁ、すこし痛ましい。
いやいや、それを言っちゃおしまいだが、そんな方たちのためにも是非アミガサタケの大収穫を目指さねばならないのであった。
山火事跡の散策

山火事があった山に登ってみたことはあるだろうか?
たぶん、ほとんどの人は「無い」と言下に否定するであろう。
まぁ、「ある」と答えたからといって微塵もエラいわけで無いし、人生一度は経験しないと、、ってわけでもない。いわば「人生においてたいして意味がない」経験であることは確かだ(笑)。
それでもだ、もしこの火事跡に宝物がザクザクと出てきたとしたら、、、、
なんて期待を抱いたのは我々アミガサタケ散策の10人衆である。
近くの駐車場に車を止め、高速道路の下を抜けて目的の山に向かって歩く。
先頭には「自由の女神」が指揮を執っている(笑)
この女神、子供の頃にアミガサタケをたまたま見つけて以来50年!!、ずっとこのアミアミのキノコを愛し続けているという、、、
またの名を「モリーユ姫」。
そんなモリーユ姫の指導の元、我らは山に分け入っていった。麓の方はまだ木々が残っており、進入するのにかなり苦労したが、上へと向かうに従って火事の具合が激しく、森の木々は骨だけの状態となっている。
「あのな、山の南斜面はお日さんが当たるからあんまり無いねん、北斜面の谷筋を攻めるんやわ」
姫が指示を出す声が山にこだまする。
骨ばかりの山ではその声がよく通る。ただでさえよく通るのに(笑)
そして僕たち下僕は北側の斜面へと向かう。禿山とはいえ、道などあるわけじゃないので足を滑らせるとそのまま谷底へと転がっていく。僕たちは足元に細心の注意を払いながらもアミガサタケの幻影を目の裏に焼き付けていた。いわゆるイメージ・トレーニングというやつだ。キノコ目が養われていない春にはそのトレーニングが驚くほど役に立つ。
しかしアミガサタケどころか、キノコの姿すら見えない。
どうしたんだ、、へへい、べいびー、、ばってりーは、、、
などと言ってる場合ではない。
服を見れば木炭になった木々たちから付けられたであろう、黒い炭のあとがあちらこちらに付着していて、取ろうと思えば余計にその黒が広がりを見せる。
周りの人を見たらジーパンに炭を付けてる人、ジャンパーに炭をつけてる人、みんな炭だらけだ。ブラックモレルはどこにも無いが、ブラックな人なら沢山いる。
なんてブラックジョーク、言っていいよね?(笑)
山火事の跡にアミガサタケは出るのか?

写真提供:K林さん
「山火事の跡にアミガサタケは出るのか?」なんて結論は簡単には出せない。
しかし、我々が探索した中ではアミガサタケは1本も見つからなかった。
3月22日。日は悪くない。
そしてそんなに晴れ続きでもなかったので地面は多少湿った状態であった。
なので、条件は悪くはなかったはず。
かと言ってやはり「焼け跡にアミガサタケは出ない」と言い切ることは出来ない。
言い切ること出来ないが、よし翌年も見に行くぞ、という気も起こらない(笑)
アメリカのWEBサイト「Understanding Burn Morels」 で書いていたことを復習すると、バーンサイトに出るアミガサタケは5種類。その5種類の中に我々が知っているアミガサタケは含まれていない。また、たとえアメリカであったとしても東部や中西部では出ない、と書かれている。
という事は、ここ日本で山火事の跡にアミガサタケが出る確率はそんなに高くないんじゃないか?
というところが現実的なところか、、、まぁ結局のところ、バーンサイトであったとしても、ざくざくアミガサタケが出るというわけではない、ということが分かっただけで十分である。
何故なら、ハンターたちは夢を見るからである。
山火事の跡にわんさか出ているアミガサタケ。誰にも見つけられずに老菌と化し、そして誰の目に触れるでもなく腐って消えていく。
そんな姿を想像したら、いても立ってもいられないぐらい、お尻が痒くなるのだ。
そしてここまで来て、山に登って、アミガサタケが無くって、そしてホッとするのです。お尻の痒みも止まってくれるのです。
何故か、ホッとするハンターたちの顔に少しほころびが見えた。
そしてタマちゃんへ

我々は山を後にした。
後ろ髪を引かれないわけではなかったが、あの焼け跡にはアミガサタケは、、絶対に無い(断言)。
こういう時はお腹にものを入れるのが最適だ。もうそれだけで幸福感を味わえる。
人間とはげに単純な生き物なのだ。
そこでだ、赤穂からしばらく西に行くと「日生」という牡蠣で有名な港があり、そこに行く途中にあるお好み焼きの有名店「タマちゃん」で大捜索でぺちゃんこになったお腹を満たすことにした。
注文するのはもちろん「カキオコ」である。
カキオコとは「牡蠣」が入った「お好み焼き」であり、ここにやってくるお客さんのほぼ全てがこのカキオコ目当てでやってくる、と言っても過言ではない。
この写真を見よ。ソースがたっぷりと塗られたお好み焼きのぐるりに黄色い卵が滲み出ている部分がわかるだろうか?
お好み焼きはかき混ぜすぎてはいけない。卵を入れた後は軽く混ぜるだけで生地のと卵がやや分離したぐらいにしておいた方が美味しい。
その美味しい証拠がこのお好み焼きのぐるりなのですな(笑)
ここはお好み焼きの生地の美味さが露出しているところであり、中心部は具と生地、そしてソースのハーモニーがこれまた美味いのである。
しかも具が採れたて新鮮な生牡蠣!!
これほど贅沢なお好み焼きはなかなかお金を出しても無理なこと。
なのではっきりここで言っちゃいます!!
「結論その1」
たとえ愛知からでも、わざわざこのカキオコだけを食べるためだけに赤穂まで来る価値はあるのです!!
それと
「結論その2」
やはりタマちゃんの「カキオコ」は噂に違わず美味しかった!
こんな結論でえぇやろか?(笑)
『追記』
どなたかこの赤穂の山火事跡にアミガサタケが発生しているかどうかの調査をしてきてもらえないでしょうか?