アミガサタケ栽培成功への道(栽培種Mel-21とトガリアミガサタケの関係を探る)

2023年11月、ついに日本でのアミガサタケ栽培に関する論文が公開されました。

Successful cultivation of black morel, Morchella sp. in Japan

岩手県林業技術センターの成松眞樹さんが主著者となった論文です。
この論文から得られた情報を元に「栽培可能種Mel-21とトガリアミガサタケの関係」について考察していきます。

関西で黒系のアミガサタケを見つけたときに、まず疑ってかからないといけない名前がある。
それは

トガリアミガサタケ(Morchella conica

無印のアミガサタケはイエローモレルと呼ばれる黄色系のものなので対象外となる。
あとは、アシボソアミガサタケ(Morchella deliciosaなどもその対象となるが、実際それらの区別をするのはなかなか難しいと思っている。

2021年ぐらいに成松さんが黒系のアミガサタケを探している、ということを聞いて思いついたのが、このトガリアミガサタケを使って栽培するのかな?であった。
まだその時点では黒系を見れば「トガリアミガサタケやな」と無邪気に言っていた時期である。

しかし黒系でも違う種がある、と初めて知ったのがosoさんの記事からでした。

■Morchella sp. (アミガサタケ属 No.001)
http://toolate.website/kinoko/unknown_fungi/morchella_sp_001/

この記事の中にある焼け跡(ここでは産廃跡)に発生するアミガサタケは、形態的に見て網目の形が我々が良く目にするトガリアミガサタケと異なっていることが記事内の写真でわかるかと思います。
そして驚くことに記事内で「中国で栽培に成功した種」とすでに書かれておるのですね。

実はこのosoさんのものが、今回栽培に成功した種だろうなぁ、、と睨んでいたのですが、実は違っておりました (‘◇’)ゞ

では栽培種とはどんな種なのか?まずはNBCIに登録されているデータから系統樹を作ってみましたのでそこから見てもらいましょう。

1.論文から得られたデータ+類似種の比較

この系統樹の説明の前段階として、栽培の試験に使われた株を説明しておきましょう。

  • 岡山産(mor4)を使って栽培された MB148
  • 岩手産(MB22,MB23,MB86)
  • 青森産(MB30)

論文を読んでみると、収集された産地のものとして大阪産や兵庫産のものもあるのですが、今回の試験に使われたのは上記5つのタイプのものでした。
系統樹にはこ「岡山産」であれば「Okayama」と記してあり、また、そのコードネームである「mor4」なども明記してあります。

それ以外に例えば「Moechella sp. Mel-19」とか書かれたものは類似種を探し出して系統樹の中に入れ込んだものであります。
これらは主に中国やその他の地域でGenbankにアップされたものです。

あと、最下部のところに中国で主に栽培されている3種を入れ込んでみました。

  • Morchella importuna(和名無し)
  • Morchella sextelata(和名無し)
  • Morchella eximia(和名無し)

さてこの系統樹から読み取れることは、、、

(1) 栽培に成功した種は中国で主に栽培されているものではなかった

今回栽培に成功したものは系統樹の中央辺りにある「Mel-21」という種で、これはまだコードネームだけが存在する未記載種のものです。
採取されたのは岡山県産のもので、そこから分離された株を使って栽培に成功したのですね。
※osoさんのもこれと同じかな?

以前成松さんにどんな種で成功したのか?と聞いた際に以下の様な答えが返って来た。

「中国で主に栽培されている種ではなく、中国で記載された論文には『栽培可能』と書かれているが、実際にはあまり栽培には使われていないマイナー種なんです」

なるほど、それで未だに新種記載もされていないのか、、、と納得した (#^.^#)
そんなマイナー種を使って成功に導いたのは純粋に成松さんの努力と収集に協力した方たちの想いの結晶ということが言えるんじゃないかと思います。

(2) 岩手産・青森県産のものはトガリアミガサタケ(Morchella conica)ではない?

系統樹を見てみると岩手県産のもの(MB23、MB86)はMel-19(中国産)やMel-20(中国産)とほぼ同じで、両方ともにまだコードネームしか付けられていないことからすると新種であるが、まだ未記載種だということがわかる。

すなわち、トガリアミガサタケ(M. conica)ではない、という事になる。

また、青森県産のもの(MB30)はMel-24(アメリカ産)とMel-31(中国産)とほぼ同じで、これもまだコードネームしか付けられていないので新種で未だ未記載種でありますね。

(3) 中国で栽培されている3種に近いものはない

今回栽培試験されたものに中国で主に栽培されている種と近いものはありませんでした。
Morchella importuna(和名無し)に関しては庭やウッドチップ堆積場に発生する事がしられています。
また、Morchella sextelata(和名無し)とMorchella eximia(和名無し)は焼け跡から発生する事とのこと。

つまりメインの栽培種のうち2種は焼け跡から発生する種なのです。

またマイナー種Mel-21も焼け跡から発生するものだとすると、「焼け跡から発生するアミガサタケ」は栽培可能な種である可能性が高い、と考えて良いかも知れませんね!

さてさて、この系統樹を見て「あれ?」と思う人がいることでしょう。
岩手産、青森産、岡山産のものはコードネームが付けられた種とぼぼ同じであるのは述べましたが、トガリアミガサタケの学名である Morchella conica はどの辺りにいるのでしょう?

ということで、Morchella conica をNCBIから引っ張ってきて入れ込んでみました。

2.1の系統樹にMorchella conicaを付け加えてみる

ではまた、NCBIで 「Morchella conica」 と検索してみて、既に登録されているデータを何個かダウンロードしてみて系統樹を作ってみました。

すると驚いたことに上記の様な2つのグループに分かれました。
1つめのグループは青森産やMel-24と同じグループで、パキスタン産、カナダ産のものが入りました。

Mel-24と同じという事は、「Morchella conica」として登録されていますが、実は別種なのでしょうか?

また2つめのグループは一塊を成しており、ドイツ産、イラク産、イタリア産、インド産、中国産となっており、これまた興味深いことにMorchella importuna(和名無し)と近縁になっております。これもなかなか謎ですが・・・

では、日本産の「Morchella conica」はNCBIに登録されていないのでしょうか?

検索してみると北海道大学のチームが日本菌学会第59回大会で以下の発表をする際にGenbankの方に登録したものだと思われます。
「北海道で採取されたアミガサタケ類について」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/msj7abst/59/0/59_46/_pdf

では北海道産のものを入れ込んでみましょう。

3.北海道産 Morchella conicaを追加してみた

またまた、NCBIで 「Morchella conica」「hokkaido」 と検索してみて、既に登録されているデータをダウンロードしてみて系統樹を作ってみました。

すると、先ほどのカナダ産、パキスタン産、青森産が属するグループ1の方に見事にハマりました。

先ほども説明しましたが、これらはコードネームMel-24と同じクレードに属しており、グループ2とはかなり離れたところにあります。

そして注目すべきは地域で大きく分かれているのではない、ということです。
もしかして、発生する地域で大きく分化していているのでは?という想像をしておったのですが、この分かれ方はちょっと違うようです。

うーむ、、Morchella conica がますます分からなくなってきました。

ではでは、Morchella conica のサンプルを沢山ダウンロードしてきて、系統樹を作ってみたら何がしかのヒントがわかるかもしれません。

4.Morchella conicaだけ集めて作ってみた

NBCIで「Morchella conica」と検索してみて、同じ国のものでも差異があるかもしれないので、ダウンロードしてこの系統樹に入れ込んでみました。

するとグループ2の方が少しですが枝分かれすることになりましたが、大まかにはグループ1とグループ2の2つの系統があることがわかります。
果たしてこのどちらが本物の Morchella conica なのでしょうか?

DNAを調べたら一発で判明する、というのは大きな間違いで、この様にデータベースに登録している内容が異なっていれば「どう判断してよいのかわからない」というのが大きな問題なのですね。
なのでまず基準種を正確に同定し、DNAを取り、それをきちんと登録することが重要になってきているのです。

いやぁ、、また深い深い沼を見た気がします・・・( ̄▽ ̄;)

で、チエちゃんとこの辺りの事で話をすると

「もうコニカ (M. conica) のことは忘れなさい」

と言われた。
忘れた方が良いのでしょうか?
教えてくださいアミガサタケの神様~ (‘ω’)

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