アミガサタケ栽培成功への道(祝!ついに論文が公開されました)

2023年11月、ついに日本でのアミガサタケ栽培に関する論文が公開されました。

Successful cultivation of black morel, Morchella sp. in Japan

主著者は岩手県林業技術センターの成松眞樹さん。

岩手県民でありがなら、阪神タイガースの大ファンという異端児(笑)

成松さんとは以前からFacebookの方で懇意にさせてもらっており(まだお会いしたことが無いのですが)、論文を執筆しているという情報はお聞きしていましたし、また2年ほど前に「きのこびとチャンネル」というYoutubeのチャンネルの中でも話をさせてもらったことがありました。

その時点では既にアミガサタケの栽培は成功しており、露地栽培実験で発生した可愛いブラックモレルの写真を観ながら1時間ほど雑談をしたものです。
ですので、それから2年経って満を持して論文が発表された、というわけですから僕からしたら「待ちに待った論文」であったわけですね (#^.^#)

ですので、今回はその発表を記念してアミガサタケ栽培について少し深堀したいと思います。

きのこびととアミガサタケ栽培

我らきのこびとではかなり前からアミガサタケ栽培に関しては注目してきた。
その第一弾が2017年7月に書かれたチエちゃんの記事「アミガサタケ栽培キットの怪」である。

「先生」と言われる人がどこからか入手してきたアミガサタケ栽培キットをチエちゃんがもらい受け、そのいかにも怪しそうなキットの内容を調べるという記事。

記事内ではウクライナから送られてきたソルダム(モロコシ)の粒に付着している白い菌糸的なものを顕微鏡で視てアミガサタケらしき菌糸を確認、その後、その菌糸を培養してみたら、、、という感じの内容。
実際に栽培が成功したかどうかは記事を読んでみてください (#^.^#)

しかしこの記事が2017年なので、もう7年も前だったことに驚きます。

そんなチエちゃんも、ついこの間ですが、マツカサタケが正しくは「Auriscalpium orientale」である、という日本新産種記載の論文を発表してましたね。
「マツカサタケの形態的特徴と系統解析および基質に基づく再同定」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/64/2/64_jjom.R5-1/_article/-char/ja

もう学者になってしまったので、きのこびとに投稿してくれなくなりました ( ;∀;)

アミガサタケの話に戻ります。
チエちゃんの記事から3年後の2020年4月、僕はこんな記事を書きました。
「アミガサタケ栽培最前線」

この記事の中では以下の様な内容が書かれています。

  1. アメリカでのアミガサタケ栽培Youtube動画の紹介
  2. 中国でのアミガサタケ栽培の実情
  3. 日本でのアミガサタケ栽培が成功した情報
  4. アミガサタケ栽培論文(中国で記載)の解説

なかなか盛りだくさんですね~

この中で注目なのは4のアミガサタケ栽培の論文の内容ですね。
ここで記載されているENBという栄養バックを用いた栽培方法は中国で発明されたもので、成松さんが実際中国にも行かれてその栽培方法を中国の研究者に教わって今回の栽培成功に繋がったという素晴らしい論文なのです。

ということで、きのこびとではずっとアミガサタケの栽培、または生態に注目してきて、今回の成松さんの論文に関してもちゃんと和訳してしっかり読み込んでみました。

次に成松さんの論文をざっと眺めてみることにします。

アミガサタケ栽培論文を眺めてみる

成松さんが記載されたアミガサタケ栽培の論文を少しだけ解説してみます。
できれば以下の論文も合わせてちらりと目を通してみてください。
成松さん曰く
「論文は読まれてなんぼのもんですからね」
ということですから (#^.^#)

「Successful cultivation of black morel, Morchella sp. in Japan」

論文はいくつかのセクションに分かれておりまして、こうやって見出しを並べてみただけでどんな内容が書かれているのかが推測できます。
※原文は英語ですが、ぱっと見て分かるように和訳してみました。

  • Abstract (論文の要旨)
  • Introduction
  • 材料と方法
    サンプリングと菌株の分離
    交配型の同定
    フィールド栽培テストのための種菌の培養
    種の同定
    野外接種と管理
    外部栄養袋の準備と使用
    野外観察および気象調査
    形態学的特徴
    観察された子実体の菌株同定
  • 結果と議論
    交配型の同定
    胞子形成
    子実体の発生
    種の同定
    観察された子実体と種菌との菌株の一致の確認
    発生の特異性
  • 結論

論文らしい体で記載されているので、読み物としては少し堅苦しいかもしれませんが、興味深いことが沢山ちりばめられています。

内容について前説させてください。

アミガサタケの栽培につきましてはあくまでも「日本産で発生するアミガサタケを使って栽培すること」が成松さんのミッションでして、例えば中国で栽培されている種を持ってきて日本の土地で栽培する、という風にはいかないわけないのです。

海外の種を日本に持ってくる、というのは外来種による日本在来種の駆逐という問題があること。また日本産のアミガサタケを使う事で、日本の気候、風土にあったアミガサタケを栽培することが可能になります。
ですので、上記ミッションはとても重要なことなのですね。

現在中国で主に栽培されているのは3種類のアミガサタケです。

  • Morchella importuna
  • Morchella sextelata
  • Morchella eximia

これらのアミガサタケが日本に存在するかどうか?

が最大の問題。
中国でもたくさんの種類のブラックモレルがあるのですが、その中でも栽培可能なメジャー種は上記3つであり、それが見つからなければ日本産アミガサタケを中国で開発されたのと同じ方法で栽培して「たまたま」成功するか、それとも日本産に適した独自の栽培方法を発明・確立するしかありません。

そこで、成松さんの最初のミッションは

「栽培可能な3種のアミガサタケを日本で探せ」

ということになります。
それは簡単そうにみえて、実はとってもとっても遠い道のりだったようです、、、( ̄▽ ̄;)
Faceookのきのこ部でもアミガサタケをアップしている人がいれば、成松さんがコメントしているのを見かけたことが何回かありますし、大阪の菌友のところにも成松さんがやってきた、、、なんて話も聞きました。
2019年の話です。

その頃は一生懸命日本各地のアミガサタケを集めて、種の判別を行っていた行っていた時期で、アミガサタケ子実体の発生など夢のまた夢の段階だったことでしょう。

それから2年後の2021年4月。

岩手にある露地栽培の試験場にて3本の子実体が発生しました。
日本産で初のアミガサタケ栽培が成功した瞬間です。

成松さんが感動している姿を見て、我々もその時の感動のお裾分けを頂いた感じですよね(笑)

そういう感動を胸に、何回かに分けてこの論文を深堀りしていきたいと思います。

(つづく)

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