きのこ豆知識 きのこの役割

自然界での役割

きのこを含む菌類には、さまざまな生活型が知られています。
動植物の死がいを食べて育つ腐生菌のグループは「分解者(お掃除屋さん)」として知られています。また、生きた植物と「共生関係」にある菌類もいますし、生きた動植物から一方的に栄養を奪って生きている「寄生菌」と呼ばれる菌類もいます。
もし「分解者」である菌類がこの世界にいなかったら、本来土にかえるはずだった動植物の遺体は形を残しそのまま森の中に置き去りにされ、悪臭を放ちながらどんどん増えていたのかもしれません。もし「共生関係」をもつ菌類がいなかったら私たちが日常見ている植物は生きていくことができず美しい「緑」の風景を見ることができなかったかもしれません。「寄生菌」がいなかったら、この世界は生物が大量発生しすぎて生きものたちは生きていくことが苦しくなっていたのかもしれません。菌類は自然界の中ではそれぞれの役割を担っている生きものなのです

きのこの役割

腐生菌

腐生菌のグループに入るきのこたちは落ち葉や倒木、動植物の遺体など、様々なものを食べて生きています。私たちが普段目にするシイタケやエノキタケ、ブナシメジなどは死んでしまった植物を栄養源として育つため比較的栽培がしやすく、食料品として販売されているきのこの多くはお手ごろな値段で購入することができます。腐生菌は一言で言っても、その分解種類は多様です。このブログでは木材腐朽菌(白色腐朽、褐色腐朽、孔腐れ、偽菌核プレート)、落ち葉分解菌、その他の菌類を紹介します。

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白色腐朽菌(はくしょくふきゅうきん)

白色腐朽菌はリグニンとともにセルロースを分解しますが、一部の選択的白色腐朽菌と呼ばれる種類はセルロースの分解率が低く、リグニンを高選択的に分解します。白色腐朽ではリグニンが分解されるため材は白色化し、繊維状に崩れていきます。

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白色腐朽菌のアラゲカワキタケ
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アラゲカワキタケが生えてから1年後

褐色腐朽菌(かっしょくふきゅうきん)

リグニンを分解する能力を持たず、セルロース、ヘミセルロース多糖を分解、質化します。また、材木は褐色になりブロック状に崩れていきます。

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褐色腐朽菌のマツオウジ
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ブロック状に崩れる木材

孔腐れ菌(あなぐされきん)

 木材腐朽菌初期に、ヘミセルロースおよびリグニンを優先的に分解しセルロースを残しています。木材は穴が空いているように凸凹になっています。

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カタウロコタケが発生した切り株は、穴が開いたようになっていました

偽菌核プレート

木材腐朽菌の中で木材表面が黒っぽく硬い外見で、中身は木材を残している菌類のことを指しています。これらの菌類は、木材の表面に硬いバリアを作ることで他の菌類が侵入されないようにゆっくりと木材を分解しています。
オオゴムタケ、エツキクロコップタケ、キリノミタケなどが知られています。

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オオゴムタケとオオゴムタケの分生子(こげ茶色の毛)
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偽菌核プレートの中は元々の木材が観察できます

落ち葉分解菌(おちばぶんかいきん)

落ち葉や落ち枝などを分解するきのこで、降り積もった落葉に菌糸を広げマットのようにふかふかしている様子を観察できるものもいます。

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シロゲカヤタケ(仮)は身の回りの落ち葉や落ち枝を分解します
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不明発光菌。見た目は普通の落ち葉でも、黒い所で見ると…
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落ち葉には菌糸が広がっており、その部分が光っていました

その他の腐生菌

シロアリの仲間の巣の中には「菌園」という部屋があります。この部屋で菌糸を育て菌糸によって分解が進んだ部分を自分たちの食糧としています。

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南西諸島で見られるオオシロアリタケ(広義)

菌根菌

菌根菌のグループに生えるきのこたちは、生きた植物と栄養のやり取りをする相利共生(共生)の関係にあります。例えば、秋の味覚でもある「マツタケ」。マツタケを探す人は命をかけてでも探しに行こうとします。それは、マツタケが高級食材だからです。では、なぜこんなにもきのこに対する価値の差が出てくるのでしょうか?それは、キノコの栽培が困難であるからです。「菌根菌」と呼ばれる菌類たちは土壌中の無機養分や水分を効率よく吸収し、植物に与えることができます。また、植物ホルモンを分泌して植物の生長を促進したり、乾燥や有害な微生物の攻撃から根を保護しています。一方植物は光合成により合成した有機物を菌類に与えているのです。

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ホオベニシロアシイグチはブナ科やマツ科の森でしか見られない菌根菌です
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不明種菌根。地面の中にはいろいろな種類の菌根を観察することができます

寄生菌

生きた動植物から直接栄養を得ている菌類のことで、感染した宿主は死んでしまいます。寄生菌によって生きた動植物が死んでしまうことは、生態系においてそれらのいきものが増えすぎることを抑制する役割をもっているといわれています。

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菌寄生菌(きんきせいきん)

菌類に寄生する菌類も知られています。例えば、「タマノリイグチ」というきのこは、「ツチグリの幼菌」に寄生して成長するイグチの仲間です。

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ツチグリの幼菌に寄生したタマノリイグチ

動植物寄生菌(どうしょくぶつきせいきん)

生きている動植物に寄生して一方的に栄養を摂取する菌類のことです。例えば、漢方薬として知られている「冬虫夏草」は生きている昆虫に侵入した菌が、最終的に昆虫を殺してきのこを生やしますが、同時に宿主は死んでしまいます。また、生きたコケ植物や地衣類にも寄生菌はついています。しかし、そのほとんどはとても小さく見逃していることが多いと思われます。

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イナゴ類の幼虫に寄生したEntomophaga grylli。別名バッタカビ。
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チクシトゲアリに寄生したタイワンアリタケ
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ツキヌキゴケ科に寄生していたミドリコケビョウタケ
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ウメノキゴケ科に寄生していたAbrothallus sp.

菌類を利用している生きものたち

自然界には、菌類に寄生して一方的に栄養を摂りながら生活をしている生きものが存在します。

菌従属栄養植物(きんじゅうぞくえいようしょくぶつ)

菌類から栄養を摂っている植物のことを指します。植物体には栄養素がなく全体が白色や赤色のものなど姿かたちが変わっているものが多いですが、宿主である菌類がいなくなってしまうと植物自体も生きられなくなるので、姿を消してしまいます。

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早春の山で見られるギンリョウソウ
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ギンリョウソウの根元についていた菌根の塊の一部

菌食性昆虫

菌類から栄養を摂っている昆虫のことを菌食性昆虫とお呼びます。きのこは幼菌~老菌までさまざまな昆虫に利用されています。

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アミスギタケの管孔をかじるアカハバビロオオキノコ
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シロハカワラタケを食べていたキノコヒモミノガと呼ばれるガの仲間(幼虫)
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ススキ生不明菌類を食べているトビムシの仲間

菌食性陸産貝類(きんしょくせいりくさんかいるい)

ナメクジ類やカタツムリ類も菌類を食べている様子が観察されます。

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タマゴタケを食べているヤマナメクジの幼体。まるでリンゴをかじっているかのようでした
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カタツムリ類はヒメキクラゲを食べていました

さいごに

今回はきのこが自然界にどのように関係しているのかを私の視点で書いてみました。調べれば調べるほど、わからないことだらけ。私たちが思っている以上に「生きもの」は複雑で未知のものが多くて、それらは人々の心をつかむ「魅力」があります。現に私は「菌類」に心をつかまれ、菌活するはめになりました(笑)でもこの出会いがあったからこそ、様々な人たちと出会うことができたし、かけがえのない宝物となっています。これからも菌類を追って、勉強していきます!

【参考書・文献】
きのこの世界はなぞだらけ(文一総合出版)
菌根の世界 菌と植物のきってもきれない関係(築地書館)
山渓カラー名鑑日本のきのこ(山と渓谷社)
楽しい自然観察 きのこ博士入門(全国農村教育協会)
小学館NEO きのこ(小学館)
イラスト・写真:岩間杏美

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