「かながわ ご当地菌類展」に行ってきた

小田原から入生田(いりゅうだ)へ行くには箱根登山鉄道という「一体どこに行き着くのだ」という感じの電車に乗って約10分。
はるばるやってきたなぁ、、という感慨を噛みしめながら「生命の星・地球博物館」にたどり着いた。
2年前はコロナの真っ最中で予約をしないと入れなかったのだが、今回は駐車場がいっぱいになるぐらい人・人・人で賑わっていた。

雨の日は特に来場者が多いらしい。外で遊べないので博物館でも行こうか、、なんていう親子連れが多いのだそうな。そんな親子連れがわんさかいるところへ、ちょっと怪しげな3人組がいそいそとやってきたのである。

目的は言うまでもない「かながわ ご当地菌類展」を観に行くためだ。

大阪からだと11時ぐらいに着くのがせいぜいで、展示を見回って、ご飯を食べて、2時ぐらいから始まるキノコの同定会で並んでいるキノコを見ながら折原さんとお話が出来れば、、、と考えていた。実は前もって折原さんへ「インタビュー出来る時間など取れないでしょうか?」というメールを送っていたのですが、9日当日はキノコの観察会が予定されているのでインタビューを受ける時間が取れそうもない、というお返事だった。

しかし9日は朝から結構な雨。
僕の方も出鼻が挫かれた感があったのだが、幸か不幸か予定されていた観察会が中止になったという一報が入った。あぁ、これで同定会に並んでいるキノコ達を見ることが出来ないのかぁ、、なんて考えながら入生田の駅に降りた。
待ち合わせしていた二人と合流し、博物館に向かう時もしっかりと雨は降っており、傘をさし、足元を気にしながら博物館に入った。

そしてまずは欲しかったこの本をゲット出来た。
「新・入生田菌類誌」
この「生命の星・地球博物館」を起点として、通称「菌ボラ」と呼ばれている「菌類ボランティアグループ」に所属している人たち(主にアマチュアの人たちで構成されている)を中心にして、入生田周辺で発生している菌類を採取し、詳細に調べ上げ、正確な記載でもって一冊の本に仕上げたものなのです。最終的には折原さんのチェックが入るのだが、これだけのものをまとめ上げるためには相当なエネルギーが必要だろうと思われるのだ。

全部で189種。
1種に付き2ページで、肉眼的所見、顕微鏡的所見、形態写真、顕微鏡写真、検鏡図などの構成になっており、とてもアマチュアが書いているとは思えないぐらいの正確な記載となっている。菌ボラメンバーの観察&記載スキルが極めて高いことがわかる一冊である。

そしてこの本は「入生田」という神奈川の一地域に存在する菌類を集めた本というわけではなく、恐らく日本全域に広く分布するであろう菌類をかなりの精度で記載しているという貴重な本でもある。一般的な図鑑でもこの様な詳細な記述はできないだろう。菌類の事を詳しく調べたい、と思う方には必携の書と言えるだろう。
かなり分厚い本なので持って帰るのにリュックの重みで肩にかなり負担がかかったものの、このボリュームで3000円というのは破格の値段で、後で折原さんに聞くとこの本の原価はすでに定価を超えているのだそうな、、、まぁそらそやな。

ということで、もし「欲しい!」という人がいれば、入生田まで行きましょう~この本を買うだけでも行く価値があります (#^.^#)

入り口でこの本を買ってウキウキして展示会場に向かった。

最初の展示を見て、3人でわちゃわちゃ話をしているといきなりこの方が現われた。

折原さんだ~!(みんなで叫ぶ)

あらかじめ「11時ぐらいに行きます!」と言っていた甲斐があった (*^^*)

僕たちが会場に入っていく時間を見計らって降りてきてくれたのでした、、感謝!!

そして、折原さんの口からいろいろポイントを解説していただき(玉置浩二のライブを聴きに行ったら、耳元で歌ってくれたようなそんな感があるな w)、また途中から和田匠平君まで現れて解説してくれたので(彼も菌ボラの一員)、会場では「やたら盛り上がっている一団がおるな」と見られていたことは間違いない(笑)

それでは2人の解説をベースにして「かながわ ご当地菌類展」の見どころをいくつかピックアップして解説してみたいと思う。

これから行く人はきっと10倍楽しめると思います(笑)

みどころその1 神奈川で新種記載されたきのこたち

正確に言うと、神奈川県で発見されたきのこで新種記載されたもの、ということになります。

現在では各地でもそのキノコを見ることが出来て名前も分かっているのだが、当時はもし誰かが発見していても未知種で処理されていたものなどが含まれると思われる。

そんなキノコを発掘し、新種記載の多くを行ったのが「妖菌図鑑」というサイトを運営している高橋春樹さんである。

まずは妖菌図鑑のこのページ(New Taxa (高橋春樹氏により記載されたハラタケ目の新群データ)に飛んでみて欲しい。

例えばクヌギタケ属のキノコを見つけたとしよう。
そのキノコはどの図鑑にも載っておらず、ネットで検索してみてもなかなか似たような種にはたどり着かない。

そんな時こそ高橋さんのサイトに行くべきだ。

僕などはそうやって何度高橋さんのサイトに救われたか、、、、

例えばこうだ。
以前、何か分からないホウライタケ属のキノコを見つけた。
傘の色は綺麗なオレンジ褐色をしていて、一見ハナオチバタケの褐色型にも見えたのだが、明らかに傘の形態が異なるし、もちろん図鑑などに該当するものはない。

そうだ、こういう時には高橋さんのサイトだ!

と思い、先ほどのページの「Malasmius」という属名が付いたキノコを1個1個見てみる。
するとあるページで手が止まり、それが「カエンオチバタケ」という名前にたどり着く。

と言った調子である。
そんな探せば結構見つかるのだが、図鑑などには名前も載っていない、、という新種が沢山ここにも展示されている。

折原さん曰く
「今回の展示の為に、わざわざ入生田近辺で新たに採取してここに展示しました」
とのこと。
そんな「努力の結晶」も念頭に入れて観覧してみてください!!(*^^*)

みどころその2 豊富な標本やレプリカ

1枚目の写真は乾燥標本のクサイロアカネタケとレモンチチタケの名前が確認できます。
乾燥標本には凍結させたのちに乾燥させるのと、単に乾燥させる方法とがあります。

このクサイロアカネタケの標本は色がしっかり残っているのが分かりますね。
これは凍結乾燥によって作られた標本であり、凍結乾燥だとこの様に色が比較的に残りやすいようです。
しかし、キノコによっては色あせるものもあり、このレモンチチタケなどはその名の通りレモン色をしているのであるが、悲しいかなその鮮やかな色は色褪せてすっかり茶色になっている。

また通常の乾燥標本だと色も褪せるし、水分が抜けてシワシワになってしまうのですね。
なので、今回の展示は凍結乾燥が多いのであるが、中には乾燥標本があるので、それらの違いを見て「あぁ、これが言ってたやつだな」と見比べてみてください。

あと注目なのはレプリカである。

精巧に作られたレプリカがいくつかあるが、特に注目して欲しいのはヤミイロクヌギタケのレプリカである。


ヤミイロクヌギタケのレプリカ(撮影は2021年)

これのどこに注目すればいいのかわかりますか?(笑)

これ、実は制作費にかなりの手間がかかっているそうです!!(◎_◎;)

通常のレプリカは本物のキノコを型取りして、そこに樹脂を流し込むという手順で作るそうなのですが、ヤミイロクヌギタケはかなり小型のキノコであるためそれができません。
ですので、実際のものを見ながら1から作り上げていく必要があるため手間がめちゃくちゃかかるらしいのですね。

そういう裏話を胸に秘めながらじっくりとヤミイロクヌギタケの世界に浸ってみるのはいかがでしょう?(笑)

みどころその3 菌ボラメンバーの活躍

先ほど「新・入生田菌類誌」のところでも紹介した菌ボラ(菌類ボランティアグループ)の方々が実は展示にも大きく関わっている。

折原さんから「ここは菌ボラコーナーです」という紹介を受けたところに目をやると、なんか見たことのある写真があった。

S本さんの写真だ。

カビの研究をされていて、以前横浜のキノコ観察会に参加した際も同定会場に顕微鏡を持ち込み、採取したてのカビを検鏡されていたのが印象深い。

春に行われる菌類懇話会のスライド会でいつも熱心に発表されているのだが、その際の顕微鏡写真もここにあるんだろうか?と思いながら観ていました。
また写真だけでなく、展示の仕方がどれもユニークで面白い。
「カビ」という人間の肉眼ではなかなかその美しさが伝わらない生き物をこうやって人間が見れる形にして表現してくれているところが本当にすごい。
いわゆる観覧者目線の展示ともいえるし、またこの展示を作っている際の楽しそうな顔が目に浮かんでくるような面白い展示なのですよね。

本の制作だけではなく、この様なイベントでのお手伝い、そしてわくわく感溢れた素晴らしい展示内容。
菌ボラという取り組みの素晴らしさがここでも垣間見えてきます。

みどころその4 osoさんのイラスト

今回の特別展のパンフレットなどにも使われているイラストたち。
あの「キノコ擬人化図鑑」という本も出しておられるosoさんの作品である。
折原さん曰く

「osoさんのイラストが無ければ、今回の展示は味気ないものになっていただろう」

という言葉に激しく同意。
一つ一つのイラストが彩を添えてくれるだけでなく、細かくイラストを見るとマニア心をくすぐるポイントがいくつもあるのだ。

例えばこのイラストを見て欲しい。
「ハルノウラベニタケ」という一般的にはあまり耳にしないキノコを擬人化した「春野裏紅(ハルノ リク)」ちゃんである。

春野裏紅(ハルノ リク)

春の早い時期に松の倒木などに発生するイッポンシメジ科のキノコなのだが、このイラストの「萌えポイント」を紹介すると

  • 髪の毛が淡オリーブ色をしている(傘の色を模している)
  • 髪の毛の裏側がピンク色(イッポンシメジ科の特徴でもある)
  • オーバーオールの色が傘と同じく淡オリーブ色(柄の色と同じ)
  • 靴がシイとマツで出来ている(シイやマツの倒木から出ることが多い)
  • オーバーオールに「春」と書かれている(早春に発生する)
  • 「春」の字が胞子の形をしている(胞子の形が角ばった球形)

ほら、萌えるでしょ? (*^^*)
他のイラストたちも同じような萌えポイントがあるので、じっくりと味わって頂きたい。

また出口で今回の為に描かれたイラストの投票があるので是非そちらもやってみてください。

僕はもちろん「春野裏紅(ハルノ リク)」ちゃんに投票しました!!(‘◇’)ゞ

さいごに

さて、いかがでしたでしょうか?
「かながわ ご当地菌類展」は一般の人でも楽しめるし、菌類を勉強している人も十分楽しめる素晴らしい内容だと思います。

今回の展示は菌ボラというアマチュアとプロの理想的な融合があってこそ生まれたと改めて感じました。
日本での菌類研究は他の国からは周回遅れの感がありますが、こうやってアマチュア達のエネルギーを上手く取込み、協力し合っていくのが菌類研究の「あるべき姿」だと思っています。

そして、最後に僕のお気に入りを紹介します。

菌ボラに来られている方でガラス作家の方がおられるらしいのですが、その方のガラスで作られた作品ですね。

担子菌のヒダ細胞の上にシスチジアと担子器が綺麗に並んでいる作品。

いやぁ、、これ欲しいぞ~!!

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