キリンタケとは何ものなのか?

2023.6.18 奈良

以前から謎に包まれているキノコがあった。
その名も

「キリンタケ」

しかしキリンタケは別名ヘビキノコといい、結構メジャーなテングタケの仲間「ヘビキノコモドキ」の本家となるべきキノコである。
また、テングタケ属はいくつかの「節」に分かれておりまして

  • テングタケ節
  • ツルタケ節
  • タマゴタケ節
  • タマゴテングタケ節
  • フクロツルタケ節
  • マツカサモドキ節

と属の下に上記6つの「節」とそして「キリンタケ節」を加えて7つの節があります。
ここでも「節」という大きな括りの中の代表的な種と言ってもいいでしょう。

そんな「キリンタケ」が謎なキノコだと?

いったいどういうことなのでしょうか。
その真相を探るべく、まずは「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)を見てみることにしましょう。

ペラペラと索引で「キ」の並びを探していく。
確かに「キリンタケ」という名前はあるにはある。しかし、、、

何故か文字のフォントが他のキノコよりも細い。

しかしそこには目をつぶってキリンタケの名前の横に書かれたページNOに飛んでみる。

164ページ

確かに索引には「キリンタケ」の文字はあったのだが、そのページにはキリンタケらしいキノコの姿はない。
その代わりに「ヘビキノコモドキ近縁種」との見出しがあり、説明文の中には

「旧版ではキリンタケとされていたが、キリンタケは柄がほぼ白色で灰褐色の鱗片を欠く」

と書かれている。
旧版の「日本のきのこ」では、「ヘビキノコモドキ近縁種」と銘打たれている写真は以前「キリンタケ」となっていて、その説明が記載されていた、ということになる。つまり写真が間違ったまま「キリンタケ」として世に出されていた、いうことだ。
確かにその写真を見てみると柄のダンダラ模様はヘビキノコモドキのものと良く似ている。
これを「キリンタケ」とするにはやはり無理がある。

なぜ旧版ではこのヘビキノコモドキ近縁種をキリンタケだとしていたのか?
単なるケアレスミスなのか、それともキリンタケという種自体が不透明なものだったのか?
いずれにせよ、例えば「北陸のきのこ図鑑」や幼菌の会編「きのこ図鑑」ではキリンタケというのが載っているのだが、新版の「日本のきのこ」(ヤマケイ 2011年12月初版)や「青森のきのこ図鑑」(2018年4月)などには「キリンタケ」の姿が見えなくなっている。

恐らく2010年辺りから「キリンタケの迷走」が始まったのではなかろうか???

キリンタケ疑いのキノコを観察してみる

今年の6月。
観察会の際に「キリンタケらしき」ものを見つけた。
結果的には Amanita sp. と同定されたのだが、心の底では「キリンタケだよなぁ、、」とつぶやいていた(笑)

まぁどちらにせよ、かなりキリンタケに似ていると考えられるので、そのキノコの検証を始めてみましょう。

2023.6.18 奈良

傘の径は7cm。灰褐色で表面光沢あり(平滑)。傘全体に灰色のイボがあります。
これはまだ幼菌なので傘の径は7cmほどですが、別の成長した子実体は傘の径が12cm近くもありました。
柄の高さが14cmぐらい。柄は白く、表面は繊維状で覆われている。また、下部は膨らんでおり、ツボらしきものは存在しません。

2023.6.18 奈良

裏返してみました。
これはまだ幼菌なのでヒダを覆うように白い内皮膜が付着しております。
しかしその内皮膜の切れ目からヒダが顔を出しております。その色を見ると薄い肌色をしているのが分かりますでしょうか?

2023.6.18 奈良

それでは柄を見てみましょう。
色は上部が白く、それより下は灰色に見えます。
またそれを覆うようにして繊維状の白い物質があることがわかります。
また、柄は下部に行くに従い太くなり、最下部で塊茎状に膨らんでいるのがわかります。
また、ツボはここからは観察できませんが、白く膨らんでいる部分にツボがあったのだろうと思われます。

2023.6.18 奈良

さて、最初に傘には「光沢があり」と書きましたが、アップで見ると異なります。
確かに光沢があるように見えるのですが、表面は灰褐色の繊維状であることが分かります。これはなかなか驚きです。
また、イボはベニテングタケやテングタケと同じような作りになっており、大きなイボの割には粉状で、雨によって簡単に流れ落ちたりするタイプなのだと思われます。

2023.6.18 奈良

近くにあった別の成熟した子実体です。
しっかりと写真を撮っていなかったのが悔やまれますが、ここから分かることがあります。

まず傘の径は12cmぐらいの大きさになり、傘のイボは少ししか残っていないので、たぶん流れやすいのでしょう。それと重要なのはヒダの色は白色ということです。幼菌の時期は少し灰色を帯びている様に見えたのですが、成菌になるとすっかり白になる、ということですね。

2023.6.18 奈良

キリンタケ疑いのキノコを観察してみる(ようじさん編)

僕がキリンタケ疑いのキノコを見つけてからしばらくしてTwitter名ようじさんが同じようなキノコを発見しTwitter上にアップしていた。

やはりキリンタケ疑いのキノコ、と言って良いのでは?と考えています。
ではこの時の写真をお借りして同じように検証してみましょう。

2023.06.19 鳥取

傘の径は4cmぐらい。傘は完全に開いていないので、まだ成菌とは言い難いですね。
色は灰褐色でメタリック、ただし良く見ると表面は繊維状になっているのが分かります。

傘に付着しているイボはかなり小さくなっていますが、これはイボ自体が「粉状」であることの証明で、恐らく雨などによって流れやすい性質をしているのだと思われます。

柄は白地の上に灰色の膜の様なものが付着している様に見えます。
これは成菌になるにしたがって流れていくのでしょうか?


2023.06.19 鳥取

まだ幼菌から脱した様な状態なのと、ちょっと乾燥気味だったのでしょうかツバはヒダから完全に離脱できなかったようです。
また中央の穴から見えるツバは少し灰色を帯びている様に見えます。

2023.06.19 鳥取

真ん中からカットした写真。
肉の色は白で中実。
ここから見えるヒダの色は白~やや灰色に見えます。

2023.06.19 鳥取

柄の大きさは1.5cm x 15cm。
表面は先ほども書きましたが、灰色の被膜に覆われている様に見えます。
これは綺麗なダンダラではありませんが、柄全体を覆っている「皮」みたいなものだと思われます。
また下部に行くにしたがって太くなり、最下部では塊茎状に膨らんでいるのがわかります。

図鑑のキリンタケと比較してみる

僕が見つけたキリンタケ疑いのキノコと、ようじさんが見つけたキリンタケ疑いのキノコは特徴がかなり酷似しているので、同じものだと考えています。

これらは果たしてキリンタケなのでしょうか?

キリンタケが載っている以下の2つの図鑑から記載内容をまとめてみましょう。

「新版 北陸のきのこ図鑑」池田良幸 (著, イラスト), 本郷次雄 (読み手)

「きのこ図鑑」幼菌の会 (著), 本郷次雄 (著)

キリンタケ Amanita excelsa (Fr.) Bertillon

大分類 小分類 北陸のきのこ図鑑 きのこ図鑑(幼菌の会)
発生 季節 夏~秋 夏~秋
  環境 広葉、針葉樹林下に散生、単生し、地中深くより発生 主に針葉樹・広葉樹混生林の地上
4~11cm  
  半球形→饅頭形→浅い皿状  
  表面 湿時粘性あり  
  淡灰褐色~暗茶褐色繊維紋に覆われ周辺淡く 灰褐色~褐色
  イボ 点々と白色→黒褐色の外被膜破片を付着 白色~淡灰色粉状のいぼを散在
  条線   なし
大きさ 10~20×0.7~1.5cm  
  下方やや太まり髄状 塊茎状~紡錘状に膨らむ
  ほぼ白色やがて灰褐色化する ほとんど白色
  表面 繊維状鱗片に覆われ つばより下は細鱗片を有するかまたは繊維状となる
  ツバ 頂部に薄膜のつばを垂下し、やがて灰褐色化する  
  ツボ 肥大した基部には粉粒状で層をなすつぼがあり、やがて灰褐色化する 柄の基部に綿屑状・白色膜質のつぼの破片が付着
ひだ 疎密  
  白色 白色
  小ひだはときに切断型に近い  
薄く白色で表皮下は表面色を帯び  
  匂い 無味無臭  
胞子 楕円形  
  大きさ 8~11×5~7μm  

この中で赤字の部分は特徴が合致しているところです。
また青字のところはここでは未確認の特徴であるが、重要なポイントなので色を変えてみました。

さていかがでしょう?
双方のきのこ図鑑と比べてもかなり一致率が高いですね。

もうこれは「キリンタケだ」と言っていいでしょう!!

・・・と思っていたところに「ものいい」がつきました _| ̄|○

同じようなキノコをすがさんがTwitterにアップしたところ

「テングタケモドキの様な気がする」

というご意見が (◎_◎;)
まったくノーマークだったのでここで検証してみることにしてみる。

テングタケモドキと比較してみる

かなり発生数が少ないのであろうか、載っている図鑑も限られています。
ここではそのうちの一つ「北陸のきのこ図鑑」から見てみましょう

「新版 北陸のきのこ図鑑」池田良幸 (著, イラスト), 本郷次雄 (読み手)

テングタケモドキ(擬天狗茸)
Amanita sepiacea S.Imai (sepiacea→セピア色の

大分類 特徴 内容
発生 季節 夏~初秋
  環境
広葉樹林下に単生, 群生。少
3~9cm
 
半球形→扁平→浅皿状
  表面 湿時弱粘性
 
灰褐色~黒褐色の繊維紋に覆われ,中央濃く老成して周辺細鱗片化
  イボ
中央を主に小角錐形の白色黒褐色の外被膜破片を散布
大きさ
7~13×0.7~1.1cm
 
類逆棍棒形で基部膨大し末端尖り中実
 
灰色~暗褐色の繊維状~綿屑状鱗片に覆われ
  ツバ
頂部に上面白色,下面暗褐色~暗灰色の膜質つば垂下し
  ツボ
基部表面につぼが白色粒として層状に付着
ひだ 疎密
  類白色
白色で薄く無味無臭
胞子 球形~類球形
  大きさ 7.5~10μm
担子器 胞子性
4胞子性,ときに1・2胞子性を混在
菌糸 クランプ あり
備考
テングタケダマシ A. sychnopyramis fsubannulata に似ているが, 傘に溝条がなく,つばが柄の頂部に着き下面が暗色であることで 区別できる。

さていかがでしょう?
赤字は一致しているところで、青字の部分は異なる部分だと考えています。
そして一番の注目は「備考」の記述です。

「テングタケモドキはテングタケダマシに似ている」

という部分です。
少なくともキリンタケ疑いのキノコ達は「テングタケダマシには似てる」とは考えにくいですね。
テングタケダマシに似ている部分は恐らくイボの形で「小角錐形」と表現されています。
この特徴はキリンタケ疑いのキノコとは大きく食い違うところだと思われます。

また、柄の太さが「0.7~1.1cm」となっていますが、キリンタケ疑いのキノコはもっと太く、幼菌であっても1.5cmぐらいの太さになっています。すなわちキリンタケ疑いのキノコはかなりがっしりしている印象があるのですが、テングタケモドキはテングタケダマシの様に華奢な感じなのではないでしょうか?

ということで、テングタケモドキは候補から外して、やはりキリンタケに一番近いと考えています。

キリンタケはAmanita excelsaなのか?

さて、この頃はiNatulalistにアップしているせいか、日本の和名が付けられているものが海外のものと同じかどうかチェックするようになってきた。今回のキリンタケは「キリンタケの正体」すら良くわかっていないのに、海外のものと比較してどうするのじゃ?という考えもなくはないのですが、やはり本家との比較は欠かせないだろうと考えております。

まぁ本家と申しましてもアマニタのサイトで有名な http://www.amanitaceae.org/ からの引用になりますので、記載論文のものとは若干異なるかもしれませんが、その辺りはご了承下さい。

Amanita excelsa
http://www.amanitaceae.org/?Amanita+excelsa

大分類 項目 特徴
50mm~120mm(-150mm)
 
灰褐色または帯赤褐色または緑がかった褐色
 
若い頃は半球形で、後には丸山形になり、内側に曲がって縞状の模様がない縁があります
  イボ
最初は外皮膜で覆われていますが、傘が開くと、外皮膜の組織が細かく粉状で灰色の不規則なパッチに分かれて取れやすくやすくなります。
 
白く、柄の上部よりもかなり厚いです。
ひだ 疎密
 
  柄に 上生
  形態
4~9mmの幅があり、微細な柔羊毛状の縁があります。
  小ひだ
ひだの間に1~3個のセットで存在します。
大きさ
60mm~120mm(-150mm)×15mm~30mm
 
上部はやや細く、基部は40mm幅にまで膨らみますが、柄が完全に伸びた状態である場合、時折柄よりわずかに幅広くなることがあります。
  表面
つばの下部には地味な白から淡灰色の顆粒状の被膜に覆われており、基部に向かって同心円を形成します。
  白から淡灰色
  つば
膜質でスカート状で、上面は線状になっています。
  つぼ
淡黄土色の2~5層の帯状であり、球状部分の上はもろくなっています。

さていかがでしょう?
こうやって特徴を文字で見ていくと似てるようには思いますが、違う部分もあり何か引っかかりがありますね。

ではiNaturalistから「研究用」となったものの写真を転載させてもらいましょう。

傘の色が「キリンタケ疑いのキノコ」とはかなり異なりますね。
むしろガンタケに似ています。
また傘のイボは「パッチ状」というのがこれを見て良くわかりますが、キリンタケの方はパッチ状とは言い難いです。

柄はかなり太めに見えますね。
スケールまでは分かりませんが、傘の大きさに比べるとかなり太いと思われます。

またツバは「柄の上部」に付着しているワケではありません。

もっとも amanitaceae.org の記載にも柄の上部に付着とは書かれていないので、北陸のきのこ図鑑とは特徴が異なります。

柄の色は白地に灰色のダンダラがあるように見えます。

そしてツボです。
記載では「淡黄土色の2~5層の帯状」とあります。
確かにこの写真では帯状になっていると言われても違和感はありません。
しかしキリンタケの方は「肥大した基部には粉粒状で層をなすつぼがあり」となっていてかなり表現が異なります。

少なくともこの写真は「分粒状」ではありませんね。

さて、どうでしょう?

少なくともキリンタケとAmanita excelsaは別物だと考えて良いかと思います。

詳しくはDNAなどを調べる必要がありますが、これだけ特徴が異なるものを同種とするのは無理があります。
特にイボの形などはその形成過程からかなり異なるので、まったく違った種のものに見えます。

すなわち、最初のキノコは「和名キリンタケに極めて近い」のだがAmanita excelsaとはかなり遠い」、ということになります。

あぁ、また正体不明のきのこが増えた・・・( ̄▽ ̄;)

『参考』
Amanita excelsaの写真はこちらをご覧ください。
https://www.inaturalist.org/taxa/119999-Amanita-excelsa/browse_photos

Facebook コメント

Follow me!

コメントを残す