ムジナタケを深堀りする

2017.9.24 兵庫

きのこの観察会に行った際、同定台にずらっと並べられているキノコ達を前に説明を受ける。

「これがイタチタケですね。イタチタケの仲間にはあと二つ動物の名前がつくものがあります」

な~んて言うのがキノコの先生たちのいわゆる「てっぱんネタ」としてあるのですが、あとの二つの動物というのはムササビタケ、そしてこのムジナタケなんですよね。

・イタチタケ(Candolleomyces candolleanus (Fr.) D. Wächt. & A. Melzer
・ムササビタケ(Psathyrella laevissima (Romagn.) Singer
・ムジナタケ(Lacrymaria lacrymabunda (Bull.) Pat

一つ一つの名前はなんとなくそれぞれの動物に合った印象があるのですが、3つ並べて比較しちゃうと正直「どれでもよくね?」と思ってしまうのはワタクシのひねくれた性格のせいだけでは無いと思うのです。

でも、この3つの動物たちの和名は比較的覚えやすく、「えーっと、何やったかなぁ、、」って言っているうちに思い出すことができるのが動物きのこ和名の魅力のひとつであろう。

恐らく3つの名前がすらすら出てくるようになったらビギナーを卒業できた、と考えて良いよね?

またこの3つのキノコを見て、ピタリと名前を言えるようになったらいよいよ中級者の仲間入りとして良いよね? (笑)

特に難しいのはムササビタケ。

いやぁ、、こやつはなかなか特徴に欠けるので断言するのに勇気が要ります。

ヘタに「ムササビちゃうかなぁ、、」と言った日には時々鋭い凶器が飛んでくる場合があります(嘘です)。

逆にこのムジナタケは判別するのが容易で、他のキノコたちとは一線を画す特徴を持っている。

傘全体や柄全体を覆っている繊維状の鱗片!!

この鱗片に関しては3種類のキノコだけでなく、他のキノコたちの追随を許さないほどに見事な鱗片なのである。

ムジナタケ属を眺めてみる

イタチタケ、ムササビタケ、ムジナタケ、それぞれ属が異なる、というのは実は意外であった。

イタチタケは Psathyrellaナヨタケ属)だと思っていたんだが Candolleomyces(和名なし) という属になっておりますね。またムジナタケは Psathyrella velutina ではなく Lacrymaria lacrymabunda と属名や種小名も変わっているのが分かる(「日本のきのこ」(山渓新版))。

この辺り、変化が激しいが、良く考えるとムササビタケがナヨタケ一族を名乗るのはちょっと不自然で、これが独立したのはある意味当然かもしれない。
そこでLacrymaria (ムササビタケ属)についてちょいと調べてみた。

もしかして1属1種かと思っていたら・・・違った (;^_^A
iNaturalistでLacrymariaを検索したら以下の9種類あった。

種類 iNaturalistへの登録数
Lacrymaria asperospora 250
Lacrymaria echiniceps 91
Lacrymaria elegans 0
Lacrymaria glareosa 0
Lacrymaria hypertropicalis 27
Lacrymaria lacrymabunda(ムジナタケ ) 6,610
Lacrymaria marina 0
Lacrymaria pyrotricha 12
Lacrymaria rigidipes 1

しかして、その中でもムジナタケ(Lacrymaria lacrymabunda)がずば抜けて多いのが分かってもらえるだろうか?

では他のLacrymariaはどんな様子をしているのだろうか?
iNatulralistにあるものから写真をお借りしてみます。

まずは2番目に多い種です。

Lacrymaria asperospora

ムジナタケに良く似ていますが、鱗片の大きさがムジナタケに比べてふさふさしていますよね。
ムジナタケはかなり短い毛の様に見えますが、こちらは毛羽立つぐらい毛が長いです。

そして3番目に多い種を見てみましょう

Lacrymaria echiniceps

これもなかなか特徴的ですねぇ、、、パッと見た目はツチスギタケモドキに見えちゃいますよね。
傘の鱗片はかなり大きいけど、毛羽立っておらずなかり傘に張り付いている感じ。
そして柄にも鱗片があるのは他のムジナタケの仲間と同じである。

それでは掲載数が27しかない4番目のものを見てみましょう。

Lacrymaria hypertropicalis

これは上記3つと異なり傘の鱗片が極めて小さいタイプですね。
しかし柄には独特のササクレがあり、パッと見はシビレタケ系の雰囲気を醸し出しております (*^^*)

いかがでしたでしょうか?
代表的な Lacrymaria を見ただけで、だいたいの傾向が掴めてきたのではないでしょうか?
同じナヨタケ科でありながら、かなり立派な鱗片を備えているのがこの属の特徴なのですね。

それではムジナタケを分解してみましょう。

ムジナタケを分解する

それではムジナタケの特徴を見てみましょう。
参考にしたのは「原色日本新菌類図鑑」(今関六也、本郷次雄著)です。

ムジナタケ(Lacrymaria lacrymabunda (Bull.: Fr.) Pat.

大分類 小分類 内容
3-7(10)cm
 
表面は茶褐色~帯黄褐色
  質感
繊維状の鱗片におおわれ、縁部はつねに繊維毛(被膜の名残) でふちどられる
ひだ
暗紫褐色となり,黒い斑点ができ、縁部は白粉状
大きさ
3-10cm×3-10mm
 
表面は傘とほぼ同色の繊維におおわれるが、項部は白色粉状
つば
不完全で綿くず状~繊維状, 胞子が付着して黒色となる
胞子
レモン形でいぼにおおわれ
  大きさ
9-11.5×6-7.5μm
緑シスチジア
円柱形~こん棒形でやや波形に曲がり,頂部は多少頭状
  大きさ
(27) 50-70×9.5-14.5μm
発生 季節 夏~秋
  環境
林内,草地,道ばたなどに群生する

2023.06.10 大阪

傘の径は約3cmほど、あまりそれ以上の大きなものは見たことがないですね。
この写真の様にハイキング道の脇道、地上から発生しているのを良く見ます。
傘を見てすぐに「ムジナタケ」と分かるのですが、拡大して見るとその異様な姿に驚いてしまいます。

傘を拡大して見る。

2023.06.10 大阪

傘の中央は繊維状の鱗片が少なく、周囲に行くにしたがって鱗片が長くなります。

そして注意すべきは傘の縁です。

縁の繊維状の鱗片が黒く変色しているのがわかりますか?
これは「内被膜」の名残なのですね。
ってことはこのムジナタケは「ツバがある」ということになります。

2023.06.10 大阪

ヒダのアップです。
褐色のヒダは「胞子が茶色い」ことを表しております。
またヒダの縁取りに白い粉状の物質が付着している様に見えます。
これは恐らく柄に付着している被膜の名残ではないか、、と思われます。

そしてところどころで黒い斑点があるのがわかりますか?もう少し拡大してみます。

2023.06.10 大阪

黒い斑点が確認できると思います。
この斑点はいったいなにものなのでしょうか??

2023.06.10 大阪

柄も繊維状ですが、良く見ると上部とそれ以下では柄の色が変わっているのがわかりますね。

上部は粉状で白、それ以下は繊維状で褐色となっています。

2023.06.10 大阪

ヒダの断面図 (x100)。

2023.06.10 大阪

落下胞子を水封したもの(x400)。

形はレモン型で表面にトゲにあるのがわかります。
大きさは 7.25-8.54 x 5.12-5.47 (Ave 7.73 x 5.25)

「おや?」

胞子が小さいぞ、、、図鑑の方には「9-11.5×6-7.5μm」とありますなぁ、、、少しだけど範囲の中には入っていません。

2023.06.10 大阪 縁シスチジア

そしてこれが特徴的な縁シスチジアです。

円柱形、棍棒形でちょっと波打っている、、という表現はそのままですね。
それともっとも特徴的なのが、先端ですね。
図鑑では「頭状」と表現されているのが良くわかります。

2023.06.10 大阪 傘の表皮

傘の鱗片(鱗皮)っていうのはどういう構造になっているのか、、と思って検鏡してみました( x100)。
鱗皮を構成するのは菌糸だというとがわかります。

2023.06.10 大阪 傘の表皮にある菌糸

鱗皮を構成する菌糸です。
クランプが高確率で存在しているのがわかりますね。

さて今回はムジナタケを深堀りしてみました。
この Lacrymaria lacrymabunda 世界的にも広く分布しているのがわかりました。
類似種との区別も結構つけやすいので、もし似ているけどちょっと違う、というのがあればきっとこの候補の中にあるかもしれませんね。



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