ネズミザラミノシメジを分解する

2022.04.23 大阪

今年の4月、変なきのこを見つけた。
これを見て「あ、アレやな」と分かる人は余程の超越した同定眼の持ち主か、余程の変態かのどちらかだ。

少なくとも僕はどちらでもないので、これを見てもさっぱり何か分からなかった。
いや、属どころか、科すら分からなかったのだ。

灰褐色をしていて、表面は少し粉っぽい印象を受けるが、おおむね平滑と言っていいだろう。
傘の径は3cmほどで、中央は少し突出しており、全体的には波打ったようになっている。

はて、君は誰だ?

ということで、引っこ抜いてみた。

2022.04.23 大阪

おぉ、これは~

とひらめく人はいるかもしれない。

垂生したヒダ、ヒダとヒダの間はかなり密になっている。
柄は上下同径。表面は褐色を帯び、すこし繊維状でもある。
大きさは太さ1cmぐらいで、長さは6~7㎝。

散歩道脇の地面から発生していた。

さて君はいったい誰なんだ?(アゲイン)

なんて言ってますが、この記事のタイトルが既に答えなんですけどね(笑)
でもヒダや柄を見ても属の絞り込みまでは果たして出来るだろうか?(僕はここで分かったけどね w)

でも、もう少し成長した姿を見たらわかると思いますので次の写真をご覧ください。

2022.04.23 大阪

少し離れたところにありました。
傘の色はやや白っぽい灰色、中央は窪んでいて、少し濃灰色となっています。
幼菌の頃にあった粉っぽさはすっかり無くなっています。

ただこの写真だけでは属の絞り込みは難しいですよね?

では「これぞ」という写真を貼り付けます。

2022.04.23 大阪

これぞ、という写真です(笑)

もしピンとこない方があれば良く目に焼き付けてくださいね。あ、ツッコまれる前に言うておきますが、僕も何年か前までは分かりませんでしたので!

特にヒダとヒダが柄に接する部分に注目してください。
こんな特徴を持ったキノコのグループってのはズバリ

ザラミノシメジ属

であります。
ヒダの写真も見てもらいましょう。

2022.04.23 大阪

僕は以前このザラミノシメジ属のキノコをハタケシメジと間違えたことがあります。
でも、このヒダを良く見るとハタケシメジとは全然違うのが分かりますよね?

ではザラミノシメジ属までは絞り込めましたが、僕に分かったのはここまで。

少なくとも図鑑などに載っているものではない

というところまでが分かりました。

しかし、、、よくよく振り返ってみると、引っ掛かってくるキノコが1つありました。
もしかして、、、とその時の資料を見直してみたのです。

「その時の」というのは関西菌類談話会で今年4月10日に開催された「きのこ分類講座」です。

講師は糟谷大河氏。
内容は「最近報告した新種及び日本新産の担子菌きのこ類」というもの。

その講演では以下の8つの新種、および日本新産種の解説をしてもらいました。

  • ミツヒダニオイカレバタケ(Gymnopus属)
  • アシボソザラミノシメジ(Melanoleuca属)
  • ネズミザラミノシメジ(Melanoleuca属)
  • ナガエノスギタケ(Hebeloma属)
  • ミズホワカフサタケ(Hebeloma属)
  • リュウコクヒメベニタケ(Russula属)
  • ワタゲスナツブタケ(Gastrosporium属)
  • ユーカリキヒメニセショウロ(Scleroderma属)

この中で今回僕が注目したのは「ネズミザラミノシメジ」でした。
単に最初は鼠色(灰色)のザラミノシメジ属なのでそうかも、、、と思ったわけですが・・・・。

ネズミザラミノシメジを分解する

それではネズミザラミノシメジとはどういうキノコなのでしょうか?

「日本新産の 2 種のザラミノシメジ属菌」(糟谷大河,丸山隆史,保坂健太郎)というタイトルで作成された論文の中にネズミザラミノシメジの記載があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjom/63/1/63_jjom.R3-9/_pdf/-char/ja

今回は上記論文と講演の際に頂いた資料を基に表にまとめてみたいと思います。

大分類 項目 内容
大きさ 20〜40mm
 
饅頭形~平らに開き、中央部はややへこみ
  表面 平滑
  粘性 なし
 
淡灰褐色~灰褐色~暗灰褐色
ヒダ 柄に
湾性~わずかに垂生
  疎密
 
幼時乳白色からクリーム色~淡黄色
大きさ 3.5-7 mm
 
円筒形で頂部が膨らみ、基部が球根状
  表面
光沢があるか縦に繊維状
 
クリーム色、淡灰褐色から灰褐色で、やや光沢がある
中実 中実
 
白色だが基部は淡灰褐色から褐色
胞子 大きさ
7-10(-10.5)×(4-)4.5-7 µm
  長円体
  表面
疣状で,小さなイボがあり
  胞子性
4胞子,まれに2(3)
縁シスチジア 大きさ
19〜53×6〜30µm
 
長首フラスコ形で結晶を有する
側シスチジア 有無 見当たらない


赤字部分は講演の際に頂いた資料に赤字になっていた箇所です。
つまりネズミザラミノシメジのもっとも特徴的なポイントが赤字になっている、ということですね。

では、改めて特徴を見ていきましょう。

2022.04.23 大阪

傘の径は5~6cmぐらい。
色は灰褐色で中央が暗灰褐色ですね。そしてもっとも特徴的なのが中央が凹型にへこんでいますね。

色といい、形といいネズミザラミノシメジの特徴を表しています。

2022.04.23 大阪

ヒダと柄の接触部分をよーく見て下さい。

ここから見える特徴は

  • 柄に対して湾入している
  • 付け根の部分がわずかに垂生している

という二つのポイント。
これはまさにザラミノシメジ属の特徴ではないでしょうか?
ザラミノシメジ属にはまだまだ不明のものがあるのですが、少なくともこの特徴をもって少なくとも属の判別には使えるのではないか、と思われます。

2022.04.23 大阪

次に肉を見てみましょう。

中実で、白っぽい色をしていますが、柄の下部は褐色になっているのが分かります。
これは上記表に赤字で記されている

「柄の基部は白色だが基部は淡灰褐色から褐色

という特徴に合致していますね。

2022.04.23 大阪

では胞子を見てみましょう

胞子サイズ 7.0-9.4 x 5.2-6.8 μm、長円体

ということで記載と合致しておりますね。

2022.04.23 大阪

では、縁シスチジアを見てみましょう。
これがこのキノコの最大の特徴ではないかと思われます。

表現的に言うと「長首フラスコ形」というものですね。

他のザラミノシメジ属のキノコを見てもこんな形のものはありません。
よって、このキノコは肉眼的にも顕微鏡的にもネズミザラミノシメジということで良いかと思われます。

DNAを見てもらった結果

そして今回も東大の阿部寛史(Twiiter名:べべひろ)さんにDNAを調べてもらいましたのでそのデータを公開しておきます。

DNA情報(ITS)

——

TGTCCAATTCAATGGACTGTTAGAAGCCAGACACATGATGCACACAATCTATGATGTAGATAATTATCACACCAAATAGA
AGGTTGCAATAACAGTCTTGCTAATGTTTTTCAGGAGAGCTGACTCTTTACAAAGCCGGCAAAACCCCCATATCCAACCC
TAGCTGAGAATAAACCCTTTGCTAGGATTGAGAATTTAATGACACTCAAACAGGCATGCTCCTCGGAATACCAAGGAGCG
CAAGGTGCGTTCAAAGATTCGATGATTCACTGAATTCTGCAATTCACATTACTTATCGCATTTCGCTGCGTTCTTCATCG
ATGCGAGAGCCAAGAGATCCGTTGTTGAAAGTTGTATAAGTTTTAAAGCCTATCAAAAGAAAGGCCAAATAATAAACATT
CTAAAACATACTAATGGGGTGTAGATATATAAAAACATAGACTGGAAATGCAGAGGACAGGTTTACTTGAAACCAATCCC
CAAATCCAAGAAGTGAATGGTAATTCAGTCCTTGAGAGTTATTCCAAGTCTACAAAAGGTGCACAGGTGGAGAAAGAATG
AAACAATGGCAGATGTGCACATACTCCTAAGAGCCAGCAACAATCC

このデータでBlastをかけてみると以下の様な結果になります。

一番相同性が高く(Per. ident.の値が高い)、学名があるものでも

Melanoleuca griseobrunnea と100%一致しております。

「Melanoleuca griseobrunnea」はネズミザラミノシメジの学名ですのでDNA的にも間違いなさそうです。

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