謎イグチ図鑑 その9(ウラベニイロガワリ近縁種)
某キノコ談話会主催の観察会後、一人で観察会が行われていた公園のぐるりを回っていた。
その公園は集合時間までに戻ってくるには広すぎる公園なので、おのずと多くのエリアが観察会に参加する人たちにとっては未踏襲エリアとなっている。
なので、せっかくここまで来たのにもったいない、、、というそんな理由でたっぷりある時間をプライベートキノコ観察会に費やすことにした。もっともその日も暑く、しかもその週はずっとお天気続きだったのでキノコは絶望的に少なかった。
それでも同定台の上には絶望よりは少し希望の見えるぐらいの種類は並んでいたもんで、、、
あぁ、僕が目にしたのよりも遥かに多い種類が出ていたのか、、、
なんて思いながら同定台のキノコを眺めていた。まぁ外の殺人的な暑さに比べ部屋の中はパラダイス状態。
談話会メンバーの中には「暑いし、しかも出てないだろうし」ということで観察会にすら参加しなかった人も何人かいたぐらいだ。
少なくとも同定台に上がったものは実際にあったのだから(カピカピのものが多かったが)、そいつらの生の姿を見るためだけでも、行っていないエリアに足を運ぶ、という行為は無駄ではないはずだ、、、と意識を奮い立たせながら。
謎イグチの発見
公園のハイキング道を歩いていたら傘の色に妙な光沢があるキノコを発見した。
「すわ!ひさびさのランマオアか!」
と興奮したのであるが、、どうも違う。
傘に「妙な光沢がある」と表現したその光沢の種類が通称ランマオア(学名はLanmaoa angustispora G. Wu & Zhu L. Yang)と呼ばれているものとは異なるからだ。
ランマオアの方はもっともっと艶っぽく、そしてより焦げ茶色をしている。傘だけを指して「焦げパン」と呼ばれたりするのはそのせいである。
しかしこのイグチは少し赤みを帯びていて、艶はそれほどないものの、どこか渋みを帯びた光沢がありました。これ以外には5~6本散生していて、近くにあった樹木と言えばヒサカキでしたが、後から来た菌帝国ファミリーの閣下によると「ヒサカキは菌根をつくらない」とのことなので、だとすると少し離れたところにコナラなどがあり、恐らくそれらの樹木と共生しているのではないか?と推測することが出来た。
傘の上から。
この焦げた感じがランマオアに見えなくもないな。
管孔は赤く、柄の周りが陥入しているのが分かる。
柄の地色はクリーム色、そこに赤い網目が柄全体にあるのが確認できる(この時点でランマオアが候補から外れる)。
柄の太さは3~4cmほど。上下同径。
管孔は傷つけると速やかに青変する。
半分に切ると薄っすらと肉全体が青変する。
肉色はやや白味を帯びたクリーム色。
柄の最上部に細かい網目がぎっしりとある。
謎イグチのデータ
大分類 | 小分類 | 内容 |
生態 | 環境 | 標高155m、ハイキング道の脇、ヒサカキ・コナラなどの樹下に散生 |
日時 | 2022年7月2日 14時20分 | |
場所 | 兵庫県西宮市 | |
傘 | 径 | 10cm~15cmぐらい |
色 | 赤さび色~オリーブ褐色 | |
表面 | 少しひび割れ、それが模様となる | |
形 | 饅頭型(convex) | |
管孔 | 色 | 血のような赤 |
傷つける | 速やかに青変する | |
孔口サイズ | かなり小さい | |
柄に対して | 陥入する | |
厚み | 8~9mm | |
柄 | 大きさ | 4~5cm x 8~10cm 上下ほぼ同径であるが、やや下部が膨らむ |
色 | 柄全体の地色はクリーム色、下方が赤くなる。 柄の上部はかなり黄色みが強い。 |
|
網目 | 赤い網目が柄全体にある。 網目の赤により柄が赤く見える |
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肉 | 色 | ややクリーム色 |
カットすると | 薄っすらと速やかに青変する |
コメント
この写真を撮った後にその場を立ち去って歩いていたら菌帝国ファミリーとばったり遭遇し、このイグチの場所を教えるために一緒に向かった。
閣下に「何でしょうかね?」と聞くと「これは牛研案件ですな」と言うことになり、「やはりか、、」ということでさっそくTwitterにアップしたのがこれである。
この一連のTweetの中で牛研氏より「Suillellus luridusの近縁種」という候補を教えて頂きました。
Suillellus luridusというのは和名「ウラベニイロガワリ」の事であり、そこに「近縁種」とついているのでウラベニイロガワリではない別の何か、と言うことでありますな。
また、「Suillellus」と言う属名はヌメリイグチ属である「Suillus」とよく似ているので正直やめてくれ、、、と言いたくなるのであるが(笑)、元々は「Boletus luridus」であったものが「Suillellus luridus」と変更されたのが2015年。
実は「Suillellus」という属は1909年に提唱されたけど、なぜか誰にも使ってもらえなかった属(牛研さん曰く)らしく、たぶん誰も使ってないんだったらそれを付けちゃおうってことでSuillellus luridusになったようです(ほんまかいな)。
で、この標本は乾燥させて、牛研さんちへ送った。
ちなみにこのキノコ、同一と思われるものが神戸市や岡山でも既に発見されているとのことで、恐らく関西エリアでは運が良ければ見つけることが出来るかも知れないが、珍しいものではあることには間違いないでしょう。