ナガエノチャワンタケか?それともクラガタノボリリュウなのか?はたまたナガエノケノボリリュウ?

2022.7.10 大阪

事の発端はこうである。
2020年11月、Twitterでもりうぴさんがナガエノチャワンタケ(らしき)の写真をアップした際に、役に立たないきのこ氏と僕が「ものいい」を付けたことから始まった。そのキノコは果たして「ナガエノチャワンタケなのか?」それとも「クラガタノボリリュウなのか?」という2種類のキノコからの選択。

外見から判断し、子嚢盤がこうだから、これはクラガタノボリリュウであるとか、そんな話を延々としていたように思うのだが、結局は「胞子を見ないとわからない」という結論に達した。胞子の形はクラガタノボリリュウとナガエノチャワンタケでは明確に違うからだ。

そこから何回か役に立たないきのこ氏からサンプルを送っていただき、胞子の形やサイズなどの検鏡の結果を伝えるとともに、その判定から逆算してそれぞれの形態を詳しく検証するという手法を取り、種の外見的特徴を絞り込んだのでした。

その中でわかって来たのが、実は似ているのはナガエノチャワンタケとクラガタノボリリュウの2種類だけではなく、ナガエノケノボリリュウというキノコもその「似ている」部類の中に入れる必要がある、ということでした。まさに三つ巴の争い、、ではないが2種類から3種類になることによって、一旦はカオスな状態になったのでした(苦笑)。

実を言いますとナガエノケノボリリュウというのはあまり図鑑には載っていないのですが、ネット上では恐らくクラガタノボリリュウなどと誤認されているものが多く、「知られていないだけ」で案外ノーマルなキノコの様な気がしますので、今回はナガエノケノボリリュウも仲間に入れて詳しく解説できればと思っています。

3つのきのこの特徴を見てみる

まずは役に立たないきのこ氏(@at384)の労作をご覧ください。
この表は役に立たないきのこ氏が観察で検証した内容がまず記述されていて(at384と明記)、それと2冊の図鑑(北陸のきのこ図鑑、アミガサタケ・チャワンタケ識別ガイド)に記載されている特徴を一覧形式にまとめたものである。
特に役に立たないきのこ氏の記述に注目していただきたい。これは3つの種を見分けるために記したものであり、この特徴さえ頭の中にいれておけばきっとこの3種のキノコを見分けることができることでしょう、、、たぶん。

「北陸のきのこ図鑑」池田良幸 (著, イラスト), 本郷次雄 (監修)

「アミガサタケ・チャワンタケ識別ガイド」井口潔 (著), 忽那正典 (写真)

【参考】
at384:役に立たないきのこ氏
北陸:北陸のきのこ図鑑
ガイド:アミガサタケ・チャワンタケ識別ガイド

特徴 参考 ナガエノチャワンタケ ナガエノケノボリリュウ クラガタノボリリュウタケ
発生時期 at384 夏~秋 初夏~秋 夏~秋
北陸 夏~秋 (記載無し) 春~秋
ガイド 春~秋 初夏~秋 (記載無し)
発生場所 at384 高湿な林内地上または朽木。 高湿な林内地上や崖の裸地、または朽木。 高湿な林内地上やコケの間。
北陸 林内地上。 (記載無し) 樹下蘚類間や地上。
ガイド 地上や著しく普及した朽木。 葉樹林内の地上。(広葉樹林の誤植?) (記載無し)
高さ at384 2~5cm 2~10cm 1.5~4cm
北陸 3~10cm (記載無し) 3~5cm
ガイド 3~8cm 2~3.5cm (記載無し)
子嚢盤形状 at384 径1~2cmの椀形で皿形に開くことはあるが、基本ほぼ円形で鞍形や反り返ることは少ない。縁に大きな変形や切れ込みは生じない。 径0.5~1.5cm × 1~3cmの最初縁が巻き込んだ楕円形で、その後鞍形となり、成長すると反り返ることもある。成長すると縁に波打ちや切れ込み等の変形が生じやすい。 径0.5~1cm × 1~2.5cmの最初縁が巻き込んだ楕円形で、成長に伴い浅い椀形に開くこともあるが、楕円形のまま大きくなることも多い。鞍形になることはあまりない。
北陸 径1~3cm、厚さ1~2mmの浅皿状→変形して鞍形となる。 (記載無し) 子嚢盤が反転して鞍形。
ガイド 椀形から平たい皿形になり、のち反り返ることもあるが、不規則に反転し、典型的な鞍形にはならない。縁は全縁でぎざつかない。 はじめ子実層が内側の鞍形、のちに反転して子実層が外側になる。縁は不規則に裂けてよじれることが多く、幼時はわずかに内側に巻き込み、のちには平らになり、さらに外に返るが、柄と接しても合着しない。 (記載無し)
子嚢盤外面 at384 灰色~黄褐色で、全体に短い毛が密生する。 褐色~灰色で、全体がやや粗い短毛に覆われる。 暗褐色~灰色で、全体に灰色の絨毛に覆われる。絨毛は複数本が先端に向かってまとまるため、粗い質感に見える。
北陸 灰色~灰黄色で軟毛密生。 (記載無し) 灰色絨毛密生。
ガイド 灰白色のやや粗い毛におおわれ白っぽく見える。 淡灰褐色でやや疎な毛状。 (記載無し)
子実層面 at384 平滑で外面とほぼ同色。 平滑で外面とほぼ同色。 平滑で外面とほぼ同色。
北陸 灰色~灰黄色で平滑。 (記載無し) 暗褐色~灰褐色。
ガイド 淡灰色~ねずみ色またはやや黄褐色。 平滑、ベージュ色?淡灰褐色でわずかに肉色を帯びることが多い。 (記載無し)
柄の太さ at384 径3~6mmの円柱状で上部に向かって細くなる。成長すると凹凸が生じる場合があるが顕著にはならない。 径3~8mmで最初円柱状だが、大型のものでは扁平になりやすく顕著な凹凸を生じることがある。 径2~4mmの円柱状で小型のものでは太さはほぼ均一。大型のものでは下が太いもの、反対に上が太いものもある。凹凸や扁平が生じることもあるが顕著にはならない。
北陸 3~8 × 0.2~0.5cm、パイプ状でときに偏圧され下方やや太い。 (記載無し) (記載無し)
ガイド 円柱状、長さ3~8cm、幅3~6mm程度、普通は上方に向かってわずかに細まり、扁平になって部分的にへこむことがある。 中心生で円筒形、径5~12mm程度。大きな子実体では高さ12cmにも及ぶが、普通は4~8cm程度。部分的に扁平になったり、不明瞭な縦溝状の窪みができることも多い。 (記載無し)
柄の外面 at384 子嚢盤とほぼ同色で、子嚢盤同様全体に短い毛が密生する。 子嚢盤とほぼ同色で、子嚢盤同様全体がやや粗い短毛に覆われる。 ほぼ白色で、子嚢盤より短い毛が密生する。
北陸 下方淡色で前面に軟毛密生。 (記載無し) (記載無し)
ガイド 淡灰色で子実層面よりわずかに淡色、全体が外面と同様の毛におおわれる。 子実体と同色か、特に上半部でやや淡色、基部はほとんど白色。全体がやや疎な絨毛状で触感はざらざらしている。 (記載無し)
子嚢盤と柄の境界 at384 外見状の質感に大きな違いは無いが、面的な連続性は見られない。 子嚢盤から柄にかけて面的な連続性が見られる。 色、質感ともに明確な違いが見られ、構造的に分かれている。
北陸 (記載無し) (記載無し) 縁部柄に付着せず。
ガイド (記載無し)   (記載無し)
胞子形状        
北陸 ラグビーボール形で表面平滑、無色。   広楕円形で1個の油球を含む。
ガイド 広紡錘形で無色・薄壁。表面はごく細かいいぼ状で、いぼはコットンブルーによく染まる。通常3個の油球を含み、中央の油球が最も大きい。 細楕円形で無色・薄壁・平滑。3個の油球が目立ち、中央の油球が最も大きい。 (記載無し)
胞子サイズ        
北陸 16~19.5 × 8~10.5nm (記載無し) 17~21 × 11~12.5nm
ガイド 20~25.8 × 10.5~13.5nm 19.5~23.1 × 8.3~9.5nm (記載無し)
その他 at384 ナガエノケノボリリュウの小型のものが混同されているケースが多いように思われる。 ナガエノケノボリリュウはナガエノチャワンタケより大型とされることもあるようだが、確かに大型化するものの、ほぼ同じ程度のものが多いことが取り違えの一因かもしれない。 子嚢盤外側の毛の特徴と、柄との色の違い、子嚢盤と柄の境界に注目すれば、見分けるのは比較的容易。馬の鞍の形状は、むしろナガエノケノボリリュウの幼菌の方が近く、それが誤解を生む一因かもしれない。
北陸 (記載無し) (記載無し) (記載無し)
ガイド 生態は比較的普通。大きさや色合いの変異が多いきい。 形態的には、ナガエノチャワンタケは頭部が鞍状で、子嚢胞子が平滑でやや細く両端が比較的丸い点で異なる。成熟した子実体ではほぼ確実に区別できる。 (記載無し)

いかがでしょうか?
役に立たないきのこ氏の記述に関してはバックの色を薄い水色にしております。
また注目すべき判定ポイントは赤字のボールドにしておりますので、そこに関しては特に熟読すべきでしょう。

では、それぞれの写真を見ていきながら、その特徴を再確認していきましょう。

ナガエノチャワンタケ(外見的検証)

これはなかなか典型的なナガエノチャワンタケですね~!(#^.^#)

子嚢盤に注目するとこの記述

径1~2cmの椀形で皿形に開くことはあるが、基本ほぼ円形で鞍形や反り返ることは少ない。縁に大きな変形や切れ込みは生じない。

にバッチリ該当しますね。

子嚢盤と柄の色も同じでありますし、特に「灰色~黄褐色で、全体に短い毛が密生する。」というのが良くわかります。
他の2種に比べて毛は良く確認したら生えていた、、、という印象があります。

ナガエノケノボリリュウ(外見的検証)

あまり図鑑などではおなじみではないのですが、これがナガエノケノボリリュウ。
実はかなりの割合でナガエノチャワンタケと混同されているのではないかと思っています。
何故なら北陸のきのこ図鑑などのナガエノチャワンタケの記述では

「径1~3cm、厚さ1~2mmの浅皿状→変形して鞍形となる。」

と書かれています。
この記述では「ナガエノチャワンタケは生長すると鞍形になる」と読めてしまいます。
しかし、ナガエノチャワンタケの多くは鞍形にならないと考えた方が良いのではないか?と考えています。
よって、この様に鞍形になったものはナガエノケノボリリュウをまず疑う、というのが肝心ではないでしょうか。

クラガタノボリリュウ(外見的検証)

それも「これぞクラガタノボリリュウ!!」という子実体じゃないでしょうか?

上記の表を見てみましょう。この中で子嚢盤外面には以下の様に記述されています。

暗褐色~灰色

そして柄の外面ではこの様な表現になっています。

ほぼ白色

他の2種は子嚢盤と柄の色合いがほぼ同じなのに対して、クラガタノボリリュウに関しては上記の写真通り異なります。

また子嚢盤の形も「鞍形になることはあまりない。」との記述通り、名前に「クラガタ」を冠しているにも関わらず、実はあまり鞍形ではないという、、なかなか面白い話。

ここで「クラガタ」とはどんなものか?再度確認するために役に立たないきのこ氏のイラストを貼らせてもらいます。

イラスト:役に立たないきのこ氏

クラガタノボリリュウは名前に「クラガタ」とあるのですが、実はナポレオンの帽子形なんですよね(笑)

まとめ(外見的検証)

こんかいアップした3種の写真は「典型的」なものばかりなので、検証にはありがたいのであるが、実はこの中間的なものも沢山あるはずだし、発生条件が異なると外見的形態も異なるということは普通にあったりします。
また、幼菌の状態や老菌になってしまったものなど判別しずらいものもあるので、その場合は近くに典型的なものがないか探すのが吉でしょう(笑)

しかし、こういうものも時々現れてきます。

サイズがかなりデカく、柄がくびれており、子嚢盤が不規則に変形しております。

「これ何かわかりますか?」

と役に立たないきのこ氏にこれを質問すると即答でした!!(笑)

実はこれ「ナガエノケノボリリュウ」なんですよね。
かなり典型的ではありませんが、以下の点で判別することが出来るかと思います。

高さ:2~10cm
子嚢盤形状:成長すると縁に波打ちや切れ込み等の変形が生じやすい。
子嚢盤外面:褐色~灰色で、全体がやや粗い短毛に覆われる。
柄の形状:大型のものでは扁平になりやすく顕著な凹凸を生じることがある。
子嚢盤と柄の連続性:子嚢盤から柄にかけて面的な連続性が見られる。

これだけの要素がピッタリくるのはナガエノケノボリリュウ以外にはありません。
最初はかなりの違和感がありましたが、こうして特徴を追っていくと、これも典型的なナガエノケノボリリュウに見えてくるから不思議ですね~!!

では次に3種の決め手になった検鏡結果を見てみましょう。

ナガエノチャワンタケ(顕微鏡的検証)

北陸のきのこ図鑑ではこの様な記述になっています。

ラグビーボール形で表面平滑、無色

またチャワンタケ識別ガイドでは以下の通り

「広紡錘形で無色・薄壁。~中略~ 通常3個の油球を含み、中央の油球が最も大きい。」

この胞子の形は一般的には「紡錘形」と表現するのが多いが、北陸のきのこ図鑑の「ラグビーボール形」というのはかなり分かりやすい表現だと思う。

また、ちょっとこの胞子では確認しずらいのであるが、確かに油球は3つあり、中央の油球が1番大きい。

胞子サイズを計測すると

20.6 ~ 24.15 x10.0 ~ 11.57 μm

となった。
北陸のきのこ図鑑:16~19.5 × 8~10.5μm
チャワンタケ識別ガイド:20~25.8 × 10.5~13.5μm

むむむ!!

チャワンタケ識別ガイドとは符合するが、北陸のきのこ図鑑よりもサイズが大きい!!

あぁ、、こんなのをまた見つけてしまった(笑)
さて、この事実はとりあえず置いときましょう・・・・

ナガエノケノボリリュウ(顕微鏡的検証)

この形を見てもしかしてこう思いませんでしたか?

これラグビーボール形じゃね?

確かにそう見えますなぁ、、、
そこんところをちょっと図解してもらいました(役に立たないきのこ氏作)

イラスト:役に立たないきのこ氏

このイラストはナガエノケノボリリュウ(上)とナガエノチャワンタケ(下)の胞子の形を例えてもらったものです。

先ほども言ったようにナガエノケノボリリュウの胞子はラグビーボールの形に似ていますし、ナガエノチャワンタケもしかり。
しかしもう少し詳細に見ていくとやはり胞子の形状は異なります。

ナガエノチャワンタケはラグビーボールと言うよりもむしろアメフトのボールの方に似ていますね!つまりボール形状の頂部が尖っているのか、それとも丸まっているのか?
ナガエノケノボリリュウの形はラグビーボール形ではあるけども、アメフトボール形ではない。

この微妙な違いが判断の分かれ目、、ということになるのです。

では、チャワンタケ識別ガイドはどの様に記されているかと言うと

「細楕円形で無色・薄壁・平滑。3個の油球が目立ち、中央の油球が最も大きい

となっていますね。
ここが「紡錘形」となっていないのがミソです!!
また3個の油球で中央の油球が最も大きい、というのも該当しています。

ではサイズを見ていきましょう。

計測値は以下の通り

17.34 ~ 21.63 x 9.25 ~ 10.61 μm

またチャワンタケ識別ガイドでは「19.5~23.1 × 8.3~9.5nm」となっていますので、少し苦しいかと思いますが、ぎりぎり範囲内であると考えていますがいかがでしょう?

クラガタノボリリュウ(顕微鏡的検証)

これは分かりやすい形ですね。
ラグビーボールの形には決して見えません(笑)

では北陸のきのこ図鑑にはどう記載されているかと言うと

広楕円形で1個の油球を含む

であります。
また、この写真は油球を含んでいないように見えますが、次の写真を見てください。

胞子をプレパラート上に落下させて水封した写真です。
子嚢から飛び出した胞子にはちゃんと油球が1個写っておりますよね。

では胞子のサイズを計測してみましょう。

15.0 ~ 18.0 x 9.81 ~ 11.65 μm

北陸のきのこ図鑑では「17~21 × 11~12.5μm」となっていますが、これも判断難しいですがぎりぎり範囲内と言ってしまっていいかなぁ、、と考えております。

総まとめ

いかがでしたでしょうか?
これでナガエノチャワンタケ、ナガエノケノボリリュウ、そしてクラガタノボリリュウの3種類を皆さんが肉眼で区別できるようになったらこれ以上の喜びはありません。

先にも書きましたが、今回の検証におきましては

  1. 役に立たないきのこ氏が子実体を採取&肉眼的検証を行う
  2. 子実体を僕に送ってもらい
  3. 顕微鏡での検証を行い、送ってもらったものの種を判断
  4. 肉眼的検証と照らし合わせて種の特徴を再検証&明文化

というプロセスで行いました。
この3種に関しての種の確定は胞子の形やサイズが決定的な決め手になるため、この様な手法で行いました。

もしこれら3種のどれかを見つけたら是非とも参考にしてみてください。



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