ホウキタケ形のきのこは収斂か?

ようやく修士論文を提出し、さて次はガクジュツ論文・・・
英語とガクジュツ用語とガチガチな様式に泣いているこの頃であります・・・(´;ω;`)ウゥゥ

でもやっと、少し余裕ができてきたので、さっそく ゼミ恒例の ブラーの「RESEARCHES ON FUNGI」輪読会で、ちょいと面白いところをやったので、みなさんにもお伝えしますね🍄

* ブラー 「RESEARCHES ON FUNGI」原書はここで読めます
https://www.biodiversitylibrary.org/item/34820#page/9/mode/1up

きのこの形成には重力と光の刺激を受ける!

今日は、CHAPTER IV 「FRUITBODIES TO LIGHT AND GRAVITY—THE PROBLEM OF PILEUS(子実体形成における光と重力の役割―傘の形成に関して)」をとりあげます。

いやぁ、ちょっと余談ですが、ブラー「RESEARCHES ON FUNGI」に書いてあることは本当に興味深くて面白い!
でも、なぜ日本語に翻訳されないんだろう?と考えると、やっぱちょっとクドクドしくてわかりにくいんだよね~

言いたい思いが強すぎるとついつい文章が長くなってしまうのはよくあること(まさしくワタシ!)

でも、読むほうはけっこうそれがツラかったりする・・・(わかっちゃいるけどやめられない!ワタシ!)

ということで、今回も読破にめちゃくちゃ苦労しました・・・
それでも、ちゃんと訳せているのか自信がありません・・・ちょっと的が外れてしまうかもしれませんが、それはブラーの散漫な書き方が悪い!ということでお許しを・・・(苦しい言い訳です)

きのこの傘の位置に対する重力の影響

ブラーは重力があるから、傘は地上面と水平に形成し広がっていく、としています。

このことを証明するために、いろんなきのこでいろんな実験をしていて、まともに取り上げると大変なことになるので、ほんの一例だけここに取り上げます。

まずは、子実体形成には重量がどう影響しているか?の実験です。

ハラタケ Psalliota campestris のポットを横にしたりひっくり返したりして、どう子実体の方向が試しているか実験してみました。その結果は、

When the plane of a Mushroom pileus has not been tilted up to an angle of more than about 30°, all the gills can adjust themselves again so as to take up vertical positions.

きのこの傘が地上面に対して水平でないとき、約30°までの角度なら、すべて傘は自分自身でふたたび水平になるように調整することができました。(林 意訳)

Buller 「RESEARCHES ON FUNGI」 CHAPTER IV

なるほど、ちょろっと傾いたなら、自分自身で傘を水平に保つように動かせるとあります。

そういえば崖など傾斜のある斜面に発生しているきのこは、きのこの柄を地面から垂直になるように曲げ、傘を水平に開いていますね!🍄
これは、重力の影響を受け、柄を曲げることで子実体の角度を調節し、傘を水平に開いている、ということが言えるんですね!なるほど!

When, however, the tilt exceeds a certain amount,some of the gills crowd one another unduly, and only a few of the highest have room to turn so as to give themselves the chance of successfully liberating spores.

しかし、傾斜角度が許容を超えると、いくつかのヒダはめちゃくちゃ密になりくっつき合ってしまいます、そこで、胞子をきちんと放出させるために、最も高い位置にあるヒダだけが位置を変えることができる。(林 意訳)

Buller 「RESEARCHES ON FUNGI」 CHAPTER IV
ハラタケの若い子実体をいろいろな角度に傾け、重力の影響を受けどのように変化するのか実験した図

しかし、傾斜角度がありすぎると、柄を調整して地面に対して傘を水平に広げるというのが物理的に無理になります。

そういう場合はどうするか?

上図のBを見てください、もう傾いているきのこの傘は仕方がない、でも、一番上の位置にある傘だけは、少し頑張って傘を水平にしようとしています。

ところで、なぜ、傘は地面から水平に開こうとここまで頑張るのか?

それは、以前にも書きましたね🍄 そうです、胞子は直射日光の影響をうけ細胞が壊れ発芽率を落としてしまいます。そして、乾燥にすごく弱い。そのために、なるだけ日光の当たらないような角度に調整するわけですね。

さらに、それだけではなく、ヒダとヒダがくっつき合いすぎて胞子の放出が妨げられないようにうまく自分自身で角度をなどを調整している、というのがブラーの実験で明らかにされました!🍄

きのこに光を当てないとどうなるか?

次に、ブラーは、きのこの形成に対する光の役割について解明しようと、いろいろな実験をしています。

みなさんは、光を当てないできのこを育てるとどうなると思いますか??

スーパーでおなじみのエノキタケみたいにヒョロヒョロして、真っ白なきのこになる???
(昔は光を遮断して育てていたらしい、いまは真っ白な子実体を作る突然変異株を使っています)

わたしも以前に実験室で栽培していたタモギタケの子実体が真っ白になったので、光を当てないと色がつかないんだな~と思ったことがあります。ヒラタケでも同じような現象を確認しました。

日光の当たらない実験室で子実体を形成したタモギタケ 真っ白である

ところが、日光を当てないできのこを育てると、色が真っ白になる、というだけではない、ということをブラーの実験で明らかにされました。なんだと思いますか?

ブラーは、その実験を、アミヒラタケ Polyporus squamosus で行いました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%92%E3%83%A9%E3%82%BF%E3%82%B1

野外だとこんな風に大きな傘を材上に形成します。子実層は管孔で、皮のような質感を持ったきのこです。
このアミヒラタケは、子実体を発生するときに子座という小さなコブを形成します。
そのコブからこんなに大きな傘が形成され、成長します。
アミヒラタケの子座の段階で、ブラーは暗室に移しました。
みなさんは、日光の当たらない場所でも同じように大きな傘を広げたきのこに成長すると思いますか?

なんと! 傘は形成されず、柄のみが成長し まるで棒状(鹿の角のよう)になるんですね!下図は、暗室で育てられたアミヒラタケの様子です。

When a stag’s-horn-like structure has grown for two or three weeks in the dark, and has almost attained its full extension, it can be caused to form patches of hymenial tubes on its under surface by exposure to sufficient daylight

鹿の角のような構造の子実体を暗闇の中で2、3週間成長させ、ほぼ成長し終わった段階で、十分な日光にさらすと、下面に子実層を形成させました。(林 意訳)

Buller 「RESEARCHES ON FUNGI」 CHAPTER IV

ブラーは、この変わった形のきのこを、鹿の角のよう、と形容しています。たしかに!鹿の角のような形です!

さらに、この鹿の角のようになった子実体を日光にさらしてみると、この鹿の角部分の下面に子実層を形成しはじめた、とあります。となると、これは柄ではなくて傘でもあったのか・・!

むむむ・・・?この形のきのこ、どこかで見たことありませんか??

ホウキタケ形のきのこは、適応収れんなのか?

⇒ そうです、ホウキタケ形のきのこです!

ホウキタケ形のきのこは、分子系統解析による分類学的検討では、多系統であることが知られています。

Humpert AJ, Muench EL, Giachini AJ, Castellano MA, Spatafora JW (2001). “Molecular phylogenetics of Ramaria and related genera: Evidence from nuclear large subunit and mitochondrial small subunit rDNA sequences”. Mycologia. 93 (3): 465–477.

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00275514.2001.12063180

科学者のなかには、ホウキタケ形のきのこに変化していったのは、適応収れんだという方もおりますが、実は、特定の条件下ではきのこがこのようなホウキタケ形になるということは、知られていたので、わたしはずっと疑問に思っていました。

適応収れん(収斂)とは
おなじニッチ(生態的地位;生息環境(地位)における食物連鎖上(生態)の位置)どんなところでなにを食べているのか、それらが似ているものは形態が似てくるという種進化の中のひとつの考えです。
たとえば、「土壌中で団子状の形態をもつ腹菌類のその形態の変化は収れんである」と多く研究者に支持されています。
おなじニッチ(土壌中)であるきのこはみな団子状です。団子状であるからこそ、土壌中でも子実体を形成することが可能で、胞子を虫などに運んでもらうことで種をつなぐことができ、現代まで生き残ることができたと考えられます。(林)

適応収れん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8E%E6%96%82%E9%80%B2%E5%8C%96

たしかに、団子状のきのこは同じ土壌であるニッチが一致しています。
しかし、ホウキタケ形のきのこは同じニッチ(地上)には系統は同じだけどきのこ型のきのこも存在しており、ニッチの違いが形態に大きく変化させた、とも言い難いです。そのようなことから、ホウキタケ形になったのは収れんとは言わないのでははないか?とわたしは思っています。(学術的にも、どうなんだろう?)

ブラーの実験に戻りましょう。

鹿の角(ホウキタケ形)のようなきのこになり、そこで日光を与えると傘の名残りのごとく下面に子実層(管孔)を形成したとありますが、
そういえば、 ホウキタケ形のきのこは、表も裏でもどこでも子実層を形成しています。(まぁ、傘がないのだから表も裏もないのだけど)

ブラーは、弱い光の中で育てると、ホウキタケ形のきのこと同じように、下面でも上面でも区別なく子実層を形成することをは確認しています。

A feebly developed, trumpet-like fruit- body which came to maturity in weak light produced hymenial tubesboth on the lower and the upper surfaces of its pileus .

弱い光の中で発達したトランペットのような子実体は、その子実体の下面と上面の両方に子実層を生成しました。(林 意訳)

Buller 「RESEARCHES ON FUNGI」 CHAPTER IV

さらに、

A similar disposition of hymenial surfaces has been observed in nature by others for Hydmum repandum.

シロカノシタ Hydmum repandumについても、他の研究者によって、同様に傘の上下に子実層を形成されることがあることが自然界で観察されています。(林 意訳)

Buller 「RESEARCHES ON FUNGI」 CHAPTER IV

いやいや、まさしく これってホウキタケ形のきのこになる由来なんぢゃん??

たとえば、ホウキタケ形のきのこになる要因が日光刺激だとすれば、日光を感じ取る器官が遺伝的に故障してしまった場合、ホウキタケ形のきのこになるのではなるんぢゃない?

日光を感じ取る器官が遺伝的に故障してしまったきのこは、日光下でもホウキタケ形のきのこを形成するはず。

日光を感じ取るだけが故障なのだから、生殖能力は異常がないはず。少しだけでも日光刺激を感じることができれば、子実層を形成するのでは?

そのきのこは長い時間をかけて生物群集内に種として固定されていく。

そうなれば、収れんとは言わない。突然変異による種進化だ。

みなさんは、どう思いますか?

ちなみに、ヒラタケの仲間は二酸化炭素濃度が高いとホウキタケ形になることも知られている。
これはトキイロヒラタケの菌床栽培の写真。
まるで、ホウキタケ!

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