ハンノキクズチャワンタケを分解する
ヤシャブシという木をご存じだろうか?
漢字で書くと「夜叉五倍子」。
え?調べてビックリする。
ヤシャは「夜叉」だよね?
シは「子」だよね?
じゃあブは「五倍」ってことなのか??
調べてみると「五倍子」というのはヌルデの虫こぶのことだそうな。 五倍子を「ごばいし」と読んだり「フシ」 と読んだりするらしい。
そのヤシャブシの球果に白いチャワンタケの仲間が発生するのは和田匠平君のブログか何かで知っていました。名前を「シロヒナノチャワンタケ」と言って、真っ白で小型でとっても可愛い盤菌なのです。
よし、今年はこれを見つけるぞ!!
と決意したものの案外ヤシャブシの木が一体どこにあるのか?というのが分からず、ある一か所でヤシャブシらしい球果を見つけたものの乾燥しきっている場所で、どう考えてもコイツから出てくることは100%ないやろなぁ、、、と思えるような球果でしばし見つめて途方に暮れていた。
滑稽やなぁ、、といつも思う。
いい年こいた大人が、小さな木の実に発生しているさらに小さな物を追っかけて東奔西走する姿。
きのこに興味がない人に取ったら1ミリも価値がないものだし、それを見つけたからと言っても決して羨ましいと思われないという典型的な自己満足の極致(苦笑)
それでも良いのだ。
この喜びを誰とも共有できなくったって・・・・。
シロヒナノチャワンタケを探しに行く
観察会の終了後、シロヒナノチャワンタケを探しに行った。
いや、実はシロヒナノチャワンタケを探しに行ったのではなかった。
探しに行ったのはヒサカキの下に発生するニセキンカクキン属のキノコで、これまた小型の盤菌であり、探すのに苦労するやつなのであるが、幸いなことに春になるとヒサカキの花が咲き、この花の匂いに特徴があり、ある人に言わせると「便所の様な臭さ」だという(個人差があります)。
知ってる人は多いと思うが早春の里山はこの「臭さ」が充満し、山全体が便所の匂いに包まれるようになるのである(個人的な感想です w)。そしてその匂いの「根源」を突き止めればこのヒサカキの下のニセキンカクキンを見つけることができるのでありますな、、いやぁ、何とも拷問の様なキノコ探し(笑)。
そんなニセキンカクキンを探している時に、ある人がこんなチャワンタケを発見した。
ヤシャブシの球果に何かチャワンタケらしいものが付いている。
お! シロヒナノチャワンタケ だ!
とその時は思った。
しかしだ、、思い描いていたものとはちと違うなぁ、、
ただし、そんな「小さな違和感」はその時点では気にすることなく、この白いチャワンタケはシロヒナノチャワンタケということにした(笑)
まぁ、フィールドではそんなものだ。その時に思いついたものを口にするがほぼ適当である。
なので、フィールドで僕と同行していても、僕の言うことを鵜吞みにしてはいけないよ(笑)
そして僕はワクワクしていた。
ラッキーなことにその年に会うことを誓ったそのキノコにもう出会うことができたのだ。
しかし、なんだか違うので、帰ってからじっくり調べるとやはり他人の空似だったのである。
ではこの白いチャワンタケの正体はいったい何なのか?
答えは Mollisia amenticola (モリシア アメンティコラ) という、当時は和名のついていないキノコなのだ。
何というかっこいい名前なんだろう、、、
「君の名は何ていうの?」
「私?私の名はモリシア」
ひゅー!!かっこいいー!!
って言ってる場合ではない。
このモリシアも、最近和名がついたらしい。
その名は
ハンノキクズチャワンタケ
というのだそうな。
去年発売された「アミガサタケ・チャワンタケ識別ガイド」に掲載されている。
ハイイロクズチャワンタケ(Mollisia cinerea)というのが「日本のきのこ」にも掲載されていますが、それと同じ属菌なのですね。
では 「アミガサタケ・チャワンタケ識別ガイド」 の内容に沿って検証してみましょう。
ハンノキクズチャワンタケを分解する
大分類 | 小分類 |
内容
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発生 | 場所 |
地上に落下したハン ノキ,ケヤマハンノキ, オオバヤシャブシなどハンノキ属 の古い雌花序の果鱗
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時期 |
早春~春。まれに晩秋
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子実体 | 形 |
ごく短い柄があり, 浅い椀状から皿状に開き, さらに はわずかに盛り上がることがあり
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径 | 0.5~1.2mm | |
形 |
周辺部はゆるく波打つことが多い
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子実層面 | 色 |
乳白色~淡灰色、古くなると淡黄色~淡桃色を帯びる
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縁 |
ほぼ全縁でぎざつかない
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外面 | 形 | 平滑 |
色 |
内面とほぼ同色~淡褐色を帯び、柄の基部 付近は黒褐色
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子嚢 | 形 |
棍棒形。先端は肥厚する。薄壁。
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大きさ |
63.0~73.5×5.9~6.7μm。
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胞子 |
8個の胞子をはじめ1列に生じるが、のちにはほぼ2列に並んで先端付近に固まる
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頂孔 |
メルツァー液で青変する
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側糸 | 形 |
糸状。基部付近に隔壁がある
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大きさ |
基部付近で径1.5~20μm程度, 先端付近で径2.5~3.0μm程度
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その他 |
ほぼ全長にわたって無色の内容物を含む。
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子嚢胞子 | 形 |
楕円形~卵型、末端側がわずかに細く伸びる
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色 | 無色・薄壁 | |
大きさ |
5.7~8.0×2.7~3.2μm
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形 |
隔壁はなく, 顕著な内容物も見られない
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シロヒナノチャワンタケと違うのはまずは大きさで、一回り小さいですね。
また、ハンノキクズチャワンタケの表面全体が平滑なのに対して、シロヒナノチャワンタケは子嚢盤の外面に微毛が生えております。
また決定的な違いがシロヒナノチャワンタケの柄が長い、という点。
ハンノキクズチャワンタケには短いものがあるらしいですが、ほぼ見えません。
こうやって見るとかなりの違いがありますね!!
では顕微鏡で見てみましょう。
子嚢の大きさは50μm~60μmぐらいで、確認しずらいが、子嚢は直列に並んでいるのではなく、やや斜めに並んでいるのがわかります。
子嚢の先端をよくご確認ください。
メルツアー液で染めてみると先端に青いぽっちりが見えますよね?
これが頂孔アミロイドというやつですね。
これを見て子嚢菌マニアは萌えちゃいます(笑)
胞子のサイズは5.17~7.45 x 2.30~3.69μmで図鑑の5.7~8.0×2.7~3.2μmとまぁほぼ同じ大きさと言っていいでしょうね。
いかがでしたでしょうか?
まだまだ寒さが残る早春。担子菌のキノコたちがまだまだ目覚めてない頃。
ハンノキ属の樹木を探し、その樹下で一生懸命球果をごそごそと怪しまれないように探してみてください(笑)。
ハンノキクズチャワンタケの白い姿を見ることができるかもしれません。
いや、僕はまだ見たことがないのですが、シロヒナノチャワンタケも見れちゃうかもしれません。
まだ寒いから、、とか、キノコが出てないから、、、とか言うてる場合じゃないです。
いざ、フィールドへGO!!