オダワラノボリリュウタケを分解する

2021.10.30 東京 写真:M橋さん

去年の11月のことである。
東京に在住のM橋さんからTwitterのメッセンジャーであるキノコの胞子を見て欲しい、という内容のメッセージが届いた。そのキノコはまだ正式に記載されているわけではなく、未だ仮称が付けられただけのキノコ。その名前は

「オダワラノボリリュウタケ」

2000年に神奈川県の小田原市で発見された子嚢菌である。その形態や生態から判断すると現在のところノボリリュウ属(Helvella) であることはまず間違いないでしょう。

最初の写真を見ると「クロノボリリュウ」の様に見えます。
黒みがかった子嚢盤、太い短い柄とその柄に刻まれた縦の筋線。ノボリリュウタケの仲間で柄に縦の筋線が入るのはノボリリュウタケとクロノボリリュウの2つが思い浮かびます。またこの様に腐食した材や腐葉土などが堆積した場所から発生しているというのもクロノボリリュウらしい発生環境だと言えます。

ですので、現在の知見のみから判断するとこれは「クロノボリリュウ」ということになります。

しかしながら、この子実体を見て「??」となる部分があります。
キノコマニアと称するいわゆる変態たちはその部分に違和感を感じるのですな(笑)。
その違和感を感じでもらうために送ってもらった写真を何枚かアップしてみます。

2021.10.24 東京 写真:M橋さん

2021.10.24 東京 写真:M橋さん

2021.10.24 東京 写真:M橋さん

2021.11.14 東京 写真:M橋さん

はい、違和感を感じてもらえたでしょうか?(笑)

この写真のHelvella達の最大の特徴は子嚢盤にある細かな凸凹と絨毛が密生していること

なんですね。

ちなみに昨年一度だけ見つけたクロノボリリュウの子実体を見てみましょう。

2021.7.4 神戸

子嚢盤の表面には少し凸凹はありますが、かなり緩やかな曲線となっておりますし、また表面はかなり平滑で絨毛らしきものが生えている様にはみえませんね。
この辺りの質感はどう見てもクロノボリリュウとは違うのではないか?と思われるポイントであります。

そのうえ、柄の黒さも際立っていて、クロノボリリュウは白が目立つのに対して、オダワラノボリリュウタケはかなり濃い灰色をしていますね。また上記4枚目の写真では柄にも絨毛の様なものが見えますでしょうか?
これもクロノボリリュウにはない特徴なのだと思われます。

ではもう少し、我が家に届く前の乾燥された子実体の写真をば見てもらいましょう。

2021.11.06 東京 写真:M橋さん

2021.11.06 東京 写真:M橋さん

2021.11.06 東京 写真:M橋さん

子実体の高さは大きな方で約10cm。
これはクロノボリリュウのサイズ感とはかなり異なりますね。


ではでは、依頼のあった胞子を見てみることにしましょう。

オダワラノボリリュウタケ

オダワラノボリリュウタケ

大きめの胞子を6つ計測してみました。

子嚢胞子サイズ平均:14.76 μm x 10.58 μm でした。

その他胞子の特徴を見ていきますと類球形~楕円形、大きな油球があるように見えますね。
ちなみにクロノボリリュウの胞子サイズは14~22μm x 10~19μm。この範囲には確かに入っておりますが、同じものだとするには無理があるかもしれません。

それでは、神奈川キノコの会の会報「くさびら」で報告された内容に基づいて特徴を書き出してみます。

オダワラノボリリュウタケ Helvella sp.

大分類 小分類
特徴
 
発生 場所
モミ、スダジイ等常緑広葉樹林、道路わき、落ち葉の吹き溜まり、落石、切り株付近
 
  季節 10~11月。  
       
子実体 大きさ
高さは4~10cm。
 
子嚢盤 大きさ 径4~7cm。  
 
縁部は三つのめくれた襞状をなし
 
  褐色  
  子実層面
2~3mmの丸い凸部に一面に覆われ
 
  子実層托
外皮層は300~400μm、径20μm、長さ40~50μmの無色で薄膜の菌糸が連なってできた、糸状の菌糸が10数本格み合って繊毛状をなす
 
  子実下層
50~70μm、多角菌組織~円形菌組織。
 
  髄層
700~900μm。絡み合い菌組織で菌糸は薄膜、無色。
 
       
子嚢
円筒形、薄膜、下方に行くほど細まり、下方には粒状物があり偽アミロイド
 
  大きさ
18~22μm×300~320μm
 
  胞子
8個の子嚢胞子を生じる
 
子嚢胞子
類球形~楕円形、薄膜、平滑
 
  大きさ
10~12μm×10~15μm。
 
側糸 種類
子嚢状と糸状の2種類があり
 
  大きさ
子嚢状側糸は18~22μm×300~320μm
 
   
糸状側糸は5~6μm×320~330μm
 
 
子嚢状側糸は薄膜、隔壁はない。
 
   
糸状側糸は上部先端は尖り、薄膜、隔壁はない。
 
       
大きさ
0.5~2.4cm×4~9cm
 
 
動脈状の襞を生じ、上部は細く下方に行くにつれ太まり、最下部では再び細まる。
 
  表面
全体に繊毛状で、基部に白色の菌糸をまとう
 
 
子嚢盤よりも赤みがかった褐色。
 

今回東京から我が家にやって来たオダワラノボリリュウタケと思われるキノコ。
肉眼的な形態に関してはほぼ同じものであると思われます。
また、子嚢胞子を検鏡したところ形、大きさなどは小田原で採取されたものと同じでした。
ただし、大きな油球が一つあるのを確認したのですが、小田原の報告ではその記載がありませんでした。

また、このオダワラノボリリュウタケですが、現在発見されているのが、ネットで検索したところ神奈川県、山口県、そして今回の東京都の3か所となります。
小田原からいきなり山口県に飛ぶ、というのもおかしいので、恐らく他の地域でも発生はしているのだけど、発見されていないか、もしくはクロノボリリュウに誤認されているのではないか?と思われます。
ですので、「これもしかしてオダワラノボリリュウタケ?」と思われた方、是非ご一報ください(笑)

P.S.
ネット上では「オダワラノボリリュウ」の名称が流布している様ですが、この会報の報告では「オダワラノボリリュウタケ」となっていますので、ここではこの名称を採用しております。

『参考』
くさびら(神奈川キノコの会会報)No.24 2002年5月 オダワラノボリリュウタケ

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