コケ植物生および非コケ植物生盤菌類4種が日本新産種として発表されました

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12月28日の22時51分、Twitterの投稿でこの様な投稿がタイムラインに流れてきた。

【コケ植物生チャワンタケの報告】
日本初のコケ植物生チャワンタケの論文が遂にネット公開されました! コケ植物から生えるチャワンタケがいることをご存じでしょうか!? 最初の発見から数年間を経て、やっと論文化できました 和文なので、ぜひサクッと読んでみてください! https://jstage.jst.go.jp/article/jjom/62/2/62_jjom.R02-22/_article/-char/ja/

https://twitter.com/natugom/status/1475826758188679171

この論文に関わられた モグラ探知機@1/3人前 さんの投稿である。

コケ植物生という言葉はあまり馴染みが無いかもしれないが、簡単に言うと、その言葉通りコケを宿主として共生または寄生しているものや、古くなったコケを分解している腐生性のものなど、コケとあらゆる関係を持ち生活している菌類たちの事なのである。また、どのコケでも良い、というワケではなく、コケの種類によって、それを宿主としている菌類の種類も違うのだそうな。
これでまた、きのこクラスター達の悩みがひとつ増えた。
それは

コケの種類も覚えなあかんの? ( ;∀;)

はい、その通りです。
これらの盤菌たちを探すには、まずはその宿主となるコケを探さないとダメなのです (#^.^#)
では、今回記載された4種類を モグラ探知機@1/3人前 さんが解説をしながらアップしてくれましたのでその写真と文章を流用させてもらうことにします。

ゼニゴケツブチャワンタケ Octospora ithacaensis

誰もが知ってるあのゼニゴケから生えるコケチャワンタケ。 今回の論文の中では唯一剛毛がないけど、Octospora系統全体で見れば剛毛を持たない種も方が多いんだよなぁ... ふにふにしたグミのような質感が印象的。

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今回の論文の種は全て、宿主から直接子嚢盤を形成するからいいけど、コケチャワンの仲間には宿主コケ植物の周辺土壌から生える種もあったりする。 なので、過去には宿主の誤同定があったり、非コケ植物生の種がコケチャワンタケ属に組み込まれてしまったこともあったりした。 宿主の特定は極めて重要。

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ゼニゴケツブチャワンタケの探し方のコツは、秋~冬頃にゼニゴケのコロニーを探しまくる。 公園や民家の脇みたいな場所のゼニゴケからも生えているみたいで、じっくり探すと意外と身近なヤツなのかもしれない。 低地でも亜高山帯でも見つけてるので、ひょっとしたら皆さんの家の周りにもいるかも!?

余談だけど、去年や今年の珍菌賞で、このコケチャワンタケの仲間を出したい欲がすごかった。 しかし、まだその時点では論文化できてないし、指をくわえながら開催期間が終わる感じだった(笑) 見つけたものをちゃんと論文化するの大事。 こ、これからもがんばろう(汗

ちなみに 属名の「Octospora」は「8つの胞子」, 種小名の「ithacaensis」は「イサカ(米国 NY州の地名)の」なので,直訳だと 「8つ胞子を持つイサカの菌」なんだよね。 もっとコケっぽさは出せなかったものか…。 てか, 子嚢あたり8つの胞子を持つ子嚢菌って,沢山ありすぎて何の説明にもなってない気が…

ケゼニゴケニセチャワンタケ Octosporopsis erinacea

奄美大島で見つけたケゼニゴケから発生するチャワンタケ。 他のOctospora系統の菌とは少し変わって硬い剛毛をまばらに持つコケチャワン。 本種は2018年にボルネオで新種記載されて以来、世界2例目の発見となる。 二例目が日本なのが嬉しいね。

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なんとなくボルネオのものよりも色が黄色い印象。 論文にも書いた通り、子嚢などの大きさが違っていたり、宿主が亜種レベルで違っていたりと気になるところの多いヤツ。 ちなみに、幼菌時はこんな感じで丸くてぷにぷにだけど、しっかり剛毛は持ってる。

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探し方のコツは、やはりケゼニゴケのコロニーを探すこと。 一般にコケチャワンタケの仲間は宿主特異性が強いと言われているので、宿主から探すのが有効だと思う。 本種が本当に亜熱帯性の種なのかについては今後も検討が必要。 なんたってまだ世界2例目、n数が少なすぎる。 見つけたら教えてください!

アラゲタチゴケチャワンタケ Neottiella albocincta

鮮やかなオレンジ色と白い剛毛がかわいいコケチャワン。 コケ植物生チャワンタケの中でも大型な印象で、慣れてくると歩きながらでも見つけられる 宿主のナミガタタチゴケも一回覚えると分かり易く探しやすいので入門者向きコケチャワンだと思う。

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コケ植物から直接生えるってどういうこと? と思われる方もいると思いますが、ホントに文字通りです。 宿主ごと丁寧に本種を切ってみると、宿主から菌糸を伸ばしているのが分かります。 でも、面白いことに割と宿主は元気で、枯死したり弱ってたりする様子はあまり見られないです。

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探し方のコツとしては、まずタチゴケ属(特にナミガタタチゴケ)を覚えることが大事。 個人的には、夏ごろに亜高山帯にあるタチゴケ属のコロニーを入念に調べると見つかる印象。 ただある場所にはたくさんあるけど、地域が異なると全然見つからない…。 タチゴケ自体はどこでもあるんだけどなぁ…。

ワタゲシロチャワンタケ Leucoscypha leucotricha

ふわふわした剛毛と真っ白な子嚢盤が印象的なチャワンタケ。 今回の論文の中で唯一の非コケ植物生菌。 一見、ビョウタケ目シロヒメノチャワンタケ属の仲間の様にも見えるが、無柄でより肉質な椀型を成す点で肉眼でも見分けられる もちろん子嚢は有弁。

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紡錘形で表面がイボ状の特徴的な胞子を持つので、顕微鏡で見ても容易に判別できる(と思う)。 大部分がコケ植物生の生態を持つOctospora系統の中で、Rhodoscypha属、Rhodotarzetta属を含め本属は例外的に非コケ植物生というのが興味深い。

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論文にあるように、日本ではカバノキ科の樹木の下で見つかっていて、特にダケカンバ、シラカンバで多い印象。 探し方のコツとしては、夏~秋頃にカバノキ科の根本近くの裸地を探したり、落ち葉を丁寧に除けるとたまに見つかったりする。 地下生菌を探すような感じに少しだけ近いかも…?

余談だけど、ワタゲシロチャワンタケが初めて観察したOctospora系統の菌で、最初に学会発表した菌なので、一番思い入れがあるチャワンタケだったりする。 初めて見たときには、この純白でふわふわした子嚢盤の美しさに本当に感動した。 思えばあれが小型のチャワンタケ目菌に目覚めた瞬間だと思う(笑)

終わりに

いかがでしたでしょうか?
そして モグラ探知機 さん、まるまるツイートを引用させていただき有難うございました。

今回「Octospora 系統」の4つの盤菌が報告されました。
この中で白く、まるでシロキツネノサカズキの様な剛毛が生えている Leucoscypha leucotricha を除いてコケ植物生のチャワンタケの仲間である。
コケ植物生に関しては、べべひろさんがモグラ探知機さんにこんな質問をされています。

>べべひろさん
コケ植物生菌ってコケのエンドファイトとして、普段生活しているんですか?

>モグラ探知機さん
コケチャワンの仲間は、コケ植物寄生(bryoparasitc)とされることが多いです。 ただ、宿主に対して顕著な病状はないみたいで、宿主との詳しい関係はよくわかっていません。 これらは宿主仮根に付着器を形成して、吸器を刺し込むことが確認されてます。 生態も不明な点が多いですが、特異で面白いです!

https://twitter.com/sornance/status/1476749500903718916

エンドファイトというのは「内生菌」のことで、こちらはWikipediaの内容を引用しておきます。

内生菌(ないせいきん)とは内部共生体の一種で、少なくとも植物生活環の一時期に宿主の体内で生息し、かつ病原性がないことが明らかなものである[1][2][3][4]。多くの場合、細菌真菌である。エンドファイトともいう。内生菌は普遍的な存在であり、今日まで、地衣類[5] や藻類[6] を含むあらゆる植物のあらゆる部位から発見されている[7][8][9][10]。ただし、内生菌と宿主の植物との関係ははっきり判明していない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%94%9F%E8%8F%8C

つまりはコケ植物生の盤菌たちは、確かにコケと共生または寄生しているのだけど、例えば菌根菌の様に植物との栄養の交換をしているかどうかなどはまだわかっていない、ということだそうな。

ただ、少なくともコケ植物生の盤菌たちはコケがあるところにしか発生しませんし、どのコケにも発生するのではなく、コケの種類によって発生する盤菌の種類も異なるのですね(一部例外あり)。これは例えばテングタケの様にブナ科の樹木と共生もすれば、マツなどの針葉樹とも共生してしまうキノコなど比べ、宿主特異性が極めて高いキノコだとも言えます。

ゼニゴケツブチャワンタケはどうしてゼニゴケにしか発生しないのか?

ゼニゴケだけが保有する成分がゼニゴケツブチャワンタケの大好物なのだろうか?それとも他のコケ類には別の菌類と共生しているので入っていく隙間がないのだろうか?などなどいろいろ考えてします。
ただ、宿主側としては複数の菌類と共生できるだけのポテンシャルが無さそうな気がします。つまり樹木などはその大きな個体を支えるために多くの菌類たちと共生しなければならないが、コケ類はそこまで多くの菌類たちと栄養のやり取りをする必要性もないのでしょうね。

また、例えばミズゴケノハナとかコケの中に良く発生しているヒナノヒガサなどは一体コケとどのように一緒に生活しているのだろう?単なるコケが保有する水分を吸収するためだけの存在なのか?それともコケたちと栄養の交換を行っているのだろうか?はたまたコケの体内に入り込んで分解的な事をしているのだろうか?
・・・なんて考えるとますます面白くなっていきますね。

寄生なのか、共生なのか?

寄生と言っても例えばセミなどに発生する冬虫夏草の種類の中にも体内に入り込みセミに対して栄養を供給しているものもあるそうな、、、
またヤグラタケなどはクロハツの仲間に「寄生」していると言われていますが、果たしてそうなのだろうか?
もう胞子もすっかり飛ばし、老成し黒くなった子実体の上に子実体を発生させていますが、それは本当に寄生していると言えるのでしょうか?

菌類と植物の間には目に見えなくって、そしてまだまだ知られていない複雑な共生方法が存在していて、一見すると搾取されている様に見えることでも、広い目で見れば生存戦略の手段だったりすることも沢山ある。
人間から見た視点だけで物事の損得を考えるのではなく、ミクロな視点から、多くの事象を考えていく必要があるのだろうと思われる。

このコケの上に発生する小さなキノコを見て、こんな楽しい妄想を繰り広げる大晦日の夜でした(笑)

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