イッポンシメジ図鑑「フチドリモミウラタケ」
2020年夏の観察会でこんなキノコが同定会の机の上にあった。
なんだこりゃ?
とは思ったが、その独特のほのかな色合いに心が惹かれる。
日本の伝統色で言うと「肌色」に該当するかな?ハダイロガサの色合いをもっと薄めた感じではある。ハダイロガサも相当惹かれるきのこであるが、「惹かれ具合」に関しては決して引けを取らないよね (#^.^#)
そしてここで僕が注目したのがその「縁どり」である。
「これ、縁どりがあるやん!!」と思わず隣の人に興奮してその縁どりを見せたのであるが、隣の人は「ふーん」と興味がなさげで、共感してもらえなかったことにとても寂しい思いをしたのを覚えている(笑)。
「これが温度差というものなのね・・・」(遠い目)
さて、縁どりと言うのは種を判別する大きな手がかりとなる。
よってこの「なんだこりゃ」なキノコもこれを手掛かりにして名前がわかるかも知れないのだ。
※実際こいつの正体はこの縁どりによって判明したことを先に告白する。この縁どりをダイレクトに和名にした方に感謝を申し上げたい (#^.^#)
傘を真上から撮った写真。
これを見て「イッポンシメジ属」だと分かった。
全てのイッポンシメジ属がそうではないのだが、例えばこの間記事で書いたワカクサウラベニタケやウスアオモミウラタケなどの一部の小型イッポンシメジ属のものが共通に有する特徴がこの傘から見て取れるのです。
- 傘の中央が窪む
- 傘全体に細かい鱗片が付着している
- 傘中央に濃い鱗片が付着している
- 全体的な傘の質感
らじかる先生の表現によると「ヒメコン系」というものがもつ特徴。
実際、ヒメコンイロイッポンシメジという謎のイッポンシメジがこの特徴を有しているかと言えば「?」なのであるが、まぁ分かりやすいようにヒメコン系という風に呼んであげて良いかと思います。
ただ、このきのこ、同定台の上に載せられたときは既に抜かれた状態で(当たり前ですが)、これがどういうところに発生していたのかを見ておりませんでした。
採取してきた人に聞くと
「来る途中で見つけた」
とのこと。
いったいこれは何ものだろうか・・・??
そう考えて「イッポンシメジ フチドリ」で検索すると一発で出てきました (#^.^#)
「フチドリモミウラタケ」
そりゃ、この縁取りを見たらこの名前にするよなぁ、、、
なんて思いつつ、イッポンシメジフェチとしては「どうしても発生いるところを見たい!!」と思いながらも2020年度は結局お目にかかることが出来ず除夜の鐘を聞きながら年が明けることになったのでした。
フチドリモミウラタケを分解する
その子たちとの出会いは偶然であった。
菌友ときのこ散策をしていたとき、別の観察(恐らく生物)をしているグループと池の前ですれ違った。
グループの代表だろうか?池のすぐ上でモリアオガエルらしき卵を指して解説をしていたのだが、そのおしゃべりの途中でキノコを見つけたらしく
「お!ここにはキノコが生えてますねぇ~」
という言葉が解説を聞いている聴衆の耳に届いた。
もちろん、横を通っている僕たちも敏感にその言葉に反応し(「きのこ」という言葉のアンテナは常に張っているのよね w)、解説している人や聴衆が視線を向けている方向を見た。
すると何と「一度発生しているのを見てみたい!」と熱望していたそのキノコであった。
柔らかそうな傘の質感、色、傘全体に付着している鱗片、そして中央の窪み。この傘の姿を見ただけで僕のきのこセンサーは素早くフチドリモミウラタケだと判別した。
やったー!!と大きな声では叫ばなかった。
だっていきものがかりの人たちがいるからね(笑)
あそこにあるのなら、他の場所でも出ているかもしれない、、、そう思って周辺を探してみると案の定5mぐらい先に何本か発生しているのを見つけた。
それがこれ
うひょー!!
この立ち姿、、たまらんですなぁ、、ヒメコン系のイッポンシメジは何故こんなにも胸を締め付けられるのだろうか・・・(#^.^#)
さて、ではこのフチドリモミウラタケについて解説してみます。
実はこのフチドリモミウラタケ、新種記載されたのがなんと2019年のこと。
糟谷大河さん、名部みち代さん、Noordeloos博士らによってこの小さく、可憐なキノコが「新種」として世界にデビューしたのでした。
ですので、もちろん最新の図鑑にさえ「フチドリモミウラタケ」は載っていません。
※「日本きのこ図版」には「フチドリウラベニタケ(Entoloma sp.)」は載っていますが・・・
ですので詳しい内容は記載者でもある名部さんが「菌懇会通信」の記事として書かれているものしかありません。
ここではそこから抜粋して特徴を記しておきたいと思います。
フチドリモミウラタケ
Entoloma nipponicum T. Kasuya, Nabe, Noordel. & Dima Persoonia 42,2019:291-473)
大分類 | 小分類 | 内容 |
傘 | 径 | 10~50mm |
形 |
半球形から平らに開き、中央部はつねに窪む
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色 | 淡橙色~淡肉桂色, 中央は濃色で鱗片状, 周辺に向かって淡色となる。 しばしば縁部はライラック色~濃青色を帯びる |
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条線 | 欠く | |
ひだ | 形 | 直生 |
形2 | やや疎 | |
色 |
類白色ないしクリーム色のち肉色
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表面 |
縁部は鋸歯状~ざらざらした粉状
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色 |
肉桂褐色あるいは濃青色
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肉 | 厚み | 薄く |
色 |
類白色あるいはわずかに淡橙色をおび
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味・匂い |
特別な味や匂いはない
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柄 | 大きさ |
25~60×3~5mm
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形 |
上下ほぼ同径で基部はやや太まり、ときに偏圧される
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形2 | 中空 | |
色 |
淡橙色、下方に向かって淡色
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基部 |
白色の菌糸に覆われる
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担子胞子 | 大きさ |
8~11(~12) × 6.5~8μm
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担子器 | 大きさ |
25~39×7~10μm
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形等 |
こん棒形, 4胞子性, クランプを欠く
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それでは細かい特徴を見ていきましょう
小型のイッポンシメジ属の仲間に良くある共通の特徴はこの中央の窪みです。
特にこのフチドリモミウラタケは窪み過ぎてしまって「穴が空いてしまう」状態になるようですね(笑)
どうもどれを見ても窪んだ末に穴が空くのが「生長の証」なのでしょうね。
それと傘の色よりも濃い茶褐色の鱗片が中央の方がより密に存在しており、周辺に行くにしたがってまばらになっていますね。
傘の周辺部は鱗片は少なく、色も中央部に比べて薄くなっております。これは肉色と言っていいでしょう。
上記の表現「しばしば縁部はライラック色~濃青色を帯びる」というものは今回は見ることは出来ませんでした。
また拡大してみるとわかるのが「条線は欠く」となっているのですが、この子実体には薄っすら条線らしきものがある様に感じます。ただこれを「条線」というかどうかは議論が必要なレベル。
ヒダはやや疎で、柄に直生。
そしてこれが最大の特徴である「縁取り」がこれでも確認できますね!!
上下は同径で色は傘の色よりもやや薄く、下部にいくにしたがいその色ももっと薄くなっております。
あと、これも特徴の一つである、柄の基部に白色の菌糸が纏わりついているのがわかりますね (#^.^#)
さて、このフチドリモミウラタケはいかがでしたでしょうか?
イッポンシメジ属の中では「食べられない」部類なので食べ菌の人たちからは間違いなくスルーされるきのこですから(笑)、簡単に抜き取られたりはしないでしょう。
しかし、 フチドリモミウラタケでネットを検索しても中々出てきません。
ってことは発生自体が稀なのか、それとも誰にも興味が示されずにシカトされちゃうのか、、、
恐らく僕は前者だと思っています。
何はともあれ、とっても綺麗で可愛いキノコなので、もし「これかな?」と思ったらお知らせくださいませ!!