謎イグチ図鑑 その7(謎の白いイグチ)

8月里山の公園を歩いていたら、道の脇から白いきのこが出ていた。
これはもしかしてオシロイシメジ?
近寄って写真を撮るまでは固くそう信じていた。
僕が良く行くエリアではオシロイシメジの発見例はなく、図鑑でしか見たことが無いきのこでした。傘の丸み、周辺が少し湾曲した感じなど頭に思い描いていたオシロイシメジらしききのこが、今、目の前に現れたのでした。
しかし、、
カメラのファインダーを覗いた時の何とも言えない違和感。
そして
「一本抜いてみていい?」
と一緒に観察に来ているものに声をかけて抜いた時の驚きは相当なものでした。

「イ、、、イグチやんけこれ!!」
思わず大阪弁が出てしまうぐらい驚いた。
確かに柄の太さを見ればオシロイシメジではないことが直ぐに分かる。
しかしイグチだったとは夢にも思わなかったのでした。
ではこのイグチ何者なのでしょう?
1枚目の写真を見て欲しい。
傘の大きさは3cm~4cm、粘性が無く、少しだけ粉っぽい感じがします。
傘が部分的に茶色くなっているのは木片が付着したからですが、ところどころで薄っすらピンク色をしているのが分かりますでしょうか?
これがこのキノコの大きな特徴ですね。
これは
指などで傘に触れると褐変(赤変)する
という特徴だと思われます。
柄などに触れると色が変わるイグチはありますが、傘に触れて色が変わるのはなかなかレアな部類ではないでしょうか?
では傘の裏の管孔を見てみましょう。
管孔の色は白に見えます。
孔口はかなり小さく、柄と接触しているところで陥入しているのが分かりますね。
柄は下方に行くにしたがって太くなっているのがわかります。色は傘と同色で、表面にピンクの模様が浮き出ている様に見えます。
これは恐らく何かが触れた跡だと思われ、傘同様触れると褐変するのが特徴なのでしょう。

それでは管孔に傷をつけてみます。
予想通り見事に褐変しますね。
傘も褐変、柄も褐変、そして管孔が褐変じゃなければ「騙された~」って感じですが、こいつは律儀な性格なのでしょう、ちゃんと褐変してくれましたわ(笑)
この褐変っぷりはなかなか見事ですし、少なくともこの事実をもってイグチの属が推測できますね。
ただし齧っても苦くはありませんでした(ここ重要)

それではカットしてみます。
肉は白で、少しだけ赤みがかっております。
ただ「褐変」という感じではなく、これは「色は変わらない」と言っていいでしょう。

胞子は紡錘形で大きさは9μm~11μm x 3μm~4μm 。

シスチジアは紡錘形で先端に突起状のものがあります。
大きさはおよそ20μmぐらい。
このシスチジアは黄褐色で、内容物があるのが確認できます。
この辺りがこの種の他のものと異なる特徴と言えるかもしれません。
さて、ここまで特徴をいろいろ書いてきました。
これらの特徴からイグチの何属か?ということを考えてみます。
まず考えられる属としてはニガイグチ属(Tylopilus)が考えられます。
理由としては
管孔の色は白いが、傷つけると褐変(赤変)する。
というところですね。
この特徴はニガイグチ属のものに多い特徴で、もう少し成熟してくると、管孔全体がピンク色になってくるはずです。
これは胞子の色がピンクであることに起因しているようです。
さて、属までは推測できましたが、どの図鑑にもこのキノコは掲載されていません。
そこで「白い イグチ」で検索をかけてみますと、予想通り「ホオベニシロアシイグチ」などが多数上位にヒットしますが、 「白い ニガイグチ」 で検索してみると以下の様なサイトが引っかかります。
「幻の白いニガイグチ」(あいなのきのこ(藍那のキノコ))
http://aina.kinokomodoki.pinoko.jp/?eid=19
このブログの元を追っていくとどうも兵庫キノコ研究会のブログの様ですね。
ここではこの白いニガイグチの事を「シロニガイグチ(中嶋仮称)」と書かれています。
またこのページでは特徴がきちんと書かれています。
「あいな観察会2014.09.06」
https://hyogo-kinoko.jp/aina/k20140906/aina20140906.html
シロニガイグチ(仮称)
管孔が薄紅色のニガイグチの仲間で、傘の表面がつや消し〜やや微毛状の真っ白なキノコ。白いニガイグチは珍しい。柄に網目なく、上下同大ないし中央から下半分がややふくれた形。傷つくと褐変する。管孔はところによりやや長く1cm。肉には変色性なく白色。傘表皮および孔口はKOHでも褐変する(肉は試していない)。
胞子は長円形で8〜10μm x 4~5μm、アミロイド反応無し。シスチジアは褐色で瓶型14〜20μm x 4〜8μm。
Tylopilus paralbidus に近いのではとの幸徳氏のお話で、確かに特徴は良く符合しますが、まだ日本では発生の報告が無いようです。
https://hyogo-kinoko.jp/aina/k20140906/aina20140906.html
それ以外に横浜の方でも発見されているようです。
「まっ白いイグチ」(★貴美子★ 白い絵の具と水彩画★キノコ)
http://jike.art.coocan.jp/m-siroiiguti22.htm
写真で見てもこのキノコの特徴とかなり一致している、と言っていいでしょう。
ネットで検索しても、このイグチの発見例はなかなか少なく(兵庫と横浜?)、つまりそれは発生件数も少ないのだと思われます。今回はいろいろ調べたあと、成仏させましたが、本当はちゃんとした標本にして、しかるべき施設に送るべきキノコではないかと考えております。
“謎イグチ図鑑 その7(謎の白いイグチ)” に対して2件のコメントがあります。
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お邪魔します。
当方も良く似た謎の白いイグチに名古屋東部で遭遇しました。
uploderに上げてみました。
安全なサイトですのでよろしければ是非ご覧下さい。
https://dotup.org/uploda/dotup.org2706381.jpg
https://dotup.org/uploda/dotup.org2706382.jpg
1枚目は2009年8月、2枚目は2017年8月の画像です。
今の所、この2回のみの遭遇ですので
確かに発生頻度は高くない様です。
次回遭遇した折にはきちんと採取したいと思います。
まねき屋さん
確かによく似ていますね(たぶん同じ)。
白い小型のニガイグチ属で、管孔を傷つけると茶変する。
まだ青木図版は調べておりませんが、まず日本未記載種だろうと思います。
海外には大型ですが、似たようなニガイグチがあります。
Tylopilus rhoadsiae
https://www.mushroomexpert.com/tylopilus_rhoadsiae.html
Tylopilus peralbidus
https://boletes.wpamushroomclub.org/product/tylopilus-peralbidus/