タマゴタケのダンダラの謎を解く
「タマゴタケの柄はなぜダンダラなのか?」からの続編である。
出来うるならばまずそちらを先に読んでいただくと話の流れが分かりやすくなります。
というか、読まんかったらなんのこっちゃわからんよ(笑)
ではでは、前回から引き継いだタマゴタケのダンダラの謎について、僕がじっくり観察を続けてきて、やっとわかったことを解説したいと思っています。
とその前に、ダンダラの謎を解くことになったきっかけについて話をしましょう。
タマゴタケにはダンダラが無いものが存在するというのは前回も説明しました。僕個人の結論としては、ダンダラが無いものは種が異なるというワケではなく、単なる個体差の範囲であり、その大きな要因としては環境による変異であると考えています。
「ダンダラが無いものは西洋タマゴタケ(Amanita Caesarea)だ」
というあられもない噂が流れておりますが、それは都市伝説レベル。
マスクをしている女性は口裂け女だ、というのと同じだよね(今はみんなしてるけどね w)。
そんなダンダラが無いタマゴタケで衝撃を受けた1枚の写真がある。
その写真を一目見て
「ダンダラが無いタマゴタケはこうなってたのか!!」
という疑問が氷解した1枚でもあるのです。
菌友のHayamaさんが撮影したタマゴタケの写真である。
2年以上前の写真であるのが、この写真がFacebookでアップされたときには思わず目が釘付けになった。
ではこの写真を解説を試みてみましょう。
まず傘の下にオレンジ色の膜質のものがありますね、、これはなんでしょう?
バカにすな!とお怒りのことでしょう、、(笑)
いくら何でもこれを見て「何でしょう?」と質問するのはまさに愚の骨頂。
パンツ一枚の人に、「貴方の履いているのは何ですか?」と聞いているようなもの。
少しでもきのこを知ってる人なら誰でもわかりますよね?
では答えを言いますよ、、、これは、、「ツバ」であります。
しかし違和感を感じませんか?
ツバは元々内皮膜と言って幼菌の時にヒダを保護するために覆っているもの、と言われています。
良く見るとツバには縦の条溝線があるのが見えますか?この条溝線は見るからにヒダの名残なんですよね。
ツバになっていく過程としては
- 傘が大きく成長していく
- 内皮膜が付着している柄の上部も成長する
- そして内皮膜はヒダや柄の生長についてけなくなり
- ヒダから落下して柄の上部にツバとして残る
というプロセスが「ツバ」というものの発生過程である。
だとするならば、このツバの下部に存在する膜状の「モノ」に強い違和感を感じるのは僕だけではないよね?
これは何に見えるかと言うと・・・・
柄に張り付いているはずの表皮がツバにくっついて剥がされている
という風に見えますよね?
従来表皮は柄の周りを取り囲むようにして張り付いています。またツバの元になる内皮膜はヒダに蓋をするようにして張り付いているはずです。しかしこの二つの組織は傘が閉じている状態でしかもまだ柄が生長していない状況の時は、ほぼくっついた状態でいるのは想像するに難くはありません。
そしてまた注目すべきポイントは、
この二つの組織は最下部のところで密着しているのではないか?
と考えられるのである。
まだ卵の中では二つの組織は密着しているものの、柄が伸びていく段階で、その二つの組織は切り離され、一方は柄に張り付いて表皮となり、もう一方はヒダにくっついていき、最後に切り離されてツバとなっていく。
その様な過程で生長していくはずなのだが、何らかのハプニングが起きて二つの組織が切り離されることなく生長してしまった結果「ダンダラの無いタマゴタケ」なるものが生み出されたのではないか?と考えているのです。
ダンダラの無いタマゴタケの発見
最初に言っておくが、タマゴタケの発生に関しては関西は関東に比べて圧倒的に少ない。これはタマゴタケの発生件数・場所の統計を取っているべにてんぐの会さんからお聞きしたのでほぼ間違いないだろう。
関東でタマゴタケ祭りが開かれていて、あちらこちらでワッショイ、ワッショイしている時、関西ではその祭りを黙って指をくわえて見ているか、もしくはタマゴタケが小規模のホームパーティを開かれている場所をピンポイントで探しに行くしかないのだ。
しかも僕自身、未だかつてダンダラの無いタマゴタケを関西で見つけたことは無い。全てダンダラ付きで出迎えてくれるのだ。
しかし今年は7月に入っても全く見つけることが出来なかった。ほとんどが空振り。どこに行っても見つからない。
あぁ、、、と天を仰いだある日。耳寄りな情報が流れてきた。
「ミカワクロアミアシイグチがまた発生していました」
という4乃さんのTweet!
さっそく場所を教えて頂き、ミカワクロアミアシイグチの撮影した後、ちょっと足を延ばして以前行った事のある山の頂上あたりにさしかかると、なんとタマゴタケを発見したのだ。
恋愛と一緒やね、追いかけてばかりじゃ相手は振り向いてくれないの、とほほ(笑)
そして何本があったタマゴタケの中にこんな状態の1本があった。
これ、、ダンダラが半分無いんじゃね?うぉーーーーーっ!!
と、ついに発見したダンダラの無いタマゴタケ、、、と言いたいところですが、ダンダラ、柄の下の方に見えてますね(笑)
しかし、柄の中間からツバがある所まではダンダラがありません。
この現象は「柄に張り付いているはずの表皮がめくれ上がった」と解釈してよろしいでしょうか?ダメだと言っても受け付けませんけどね w
ではもう少し拡大してみてみましょう。
ヒダを覆っていたツバには、確かにヒダと合体していて付いたであろう皴が確認できますね。そしてヒダの下にはくしゃくしゃに丸まった感じの表皮が存在します。そしてヒダと表皮の間には少し白い被膜が見えますが、これは恐らくヒダと表皮の接合部なのでしょう。
一番の注目は柄に残っている表皮の残骸らしきもの。恐らく柄はもう少し白っぽいのであるが、表皮のオレンジ色の色素が抜け落ちて柄の表面に付着しているように見えます。
これは柄に付着していて無理矢理剝がされた、、、そんな形跡にみえますね。
つまり表皮が剝がされずに残ったのが生長するとひび割れてダンダラとなるが、一部のタマゴタケは生長段階で内皮膜(ヒダになる部分)と結合したまま柄から剝がされてしまう。そんな「事実」をこの写真は物語っているのではないでしょうか?
ではその「事実」を検証するためにやらなければ事があります。
これをやりたいがために2年間ずっと「卵に入った状態のタマゴタケ」を探し求めたのでした。
そしてやっと今年の9月、念願のタマゴタケの卵を見つけたのだ。
タマゴタケの卵を検証する
なぜタマゴタケの卵の検証が必要なのでしょうか?
ダンダラの無いタマゴタケが出来る要因として「表皮が内被膜(ツバ)とどこかで結合していて、ヒダがその結合部が切り離されないから、表皮が柄から剥がされ、結果としてダンダラの無いタマゴタケが発生する」と考えている。
とするならば
- 柄の表皮は卵の中にいるときから柄に張り付いているのか?
- 柄の表皮と内皮膜はどこかで結合しているのか?
という2点を確認する必要があるのだ。
いやぁ、、美しいですねぇ、、、
こうやって見ると柄の部分は黄色く、傘と柄は密着しており、その密着した間に内被膜(ツバとなるもの)が挟まれているのだと思われる。
ではこの卵(外皮膜)を剝いてみましょう。
外皮膜(たまご部分)を一皮剝いてみました。
柄と傘になる部分が明確に分かれていて、柄はこの段階ではやや黄色味を帯びた肌色という感じで、少しも赤くはありません。
これが卵から傘が出ていき、柄も延びていく段階で赤くなっていくのでしょうか?
傘はたまごにくるまっていたにも関わらず、既に赤い色をしておりますな。
では、傘をはがしてみることにします。
無理矢理はぎ取ってみましたよ (#^.^#)
するとものの見事に柄から切り離されヒダの原型が見えてきました。
ここから分かることは
- ヒダは既に黄色味を帯びている
- ヒダ同士はかなり密着している
- ツバになるべく内皮膜が載っている(正確にはヒダを覆っている)
の3点。
ツバの原型(内皮膜)はこんな感じなのか、、、と感慨深いものがある。
思ったよりもしっかりしているのだけど、これが大きくなるに従って組織が伸長していき「膜状」になるのだろうか?
では、傘をはぎ取った柄の部分を見てみましょう。
そして傘の部分がはぎ取られた後の柄の原型の写真です。
これを見て
え? (@_@;)
と思った方、、、おるよね?
想像していた柄と表皮じゃない!!
と思った人、、、手を挙げて!
これ、柄に張り付いているものもかなりしっかりしていて、どう見ても「表皮」という感じではなさそうですし、ダンダラのがこれから作られるのだ、とは想像できません。
では、ちょっとその皮らしきもを引っぺがしてみます。
案外綺麗にめくれますなぁ、、、しかも結構しっかりしてますがな。
さてさて困りました。これをどう解釈していいのか?
傘の裏にへばりついていた内皮膜(ツバ)も、この表皮だと思われるやつも結構丈夫な素材でできているように見えます。しかし生長したツバやツバの下に張り付いていた表皮はかなり柔らかい素材でできていました。
一体どういうことなのか?
また、幼菌の傘をはぎ取ると、傘の裏にツバが張り付いていって、その下にもピンセットでめくることが出来る様な皮が引っ付いている。
これまた一体どういうことなのか?
僕は柄の表皮は「元々柄に張り付いているはず」と考えていた。
しかしどう見ても表皮が柄に張り付いているとは考えにくいものがある。
うーむ、うーむ、うーむ。
タマゴタケの卵を分解しながら僕はある一つの仮説に頭が支配されるようになった。
いや、これは仮説などではない。
この目の前でしっかりと証明されていることなのだ。
事実をしっかりと受け止め、事実を忠実に伝えなければならない。
それがきのこびとの使命なのだ。
はい、すんません、、大げさで(笑)
しかしこの事実は結構検索しても出てこないので、もしかして今回が初めての発表かと思うとドキがムネムネしてくる。
その発表とは
タマゴタケのツバは2重である。
と言うコト。
実はハマクサギタマゴタケやミヤマタマゴタケなどはツバが2重であることは良く知られている。
このタマゴタケ節の2種においては、
大型種であるがゆえに、ツバも2重であってもおかしくないだろう、、、
なんていう、何故かしら納得してしまうような理屈でもって理解してきたが、タマゴタケ(特に赤いやつ)に関してもかなり大型になるものがある。
この記事の一番最初のタマゴタケなどは傘の径が15cmぐらいある大型である。
なので、タマゴタケのツバは2重であったとしてもなんらおかしくはないのである。
つまり、、、
- タマゴタケの内皮膜は2重であり
- ヒダに近い方のツバは、純粋にツバとしてヒダに付着し
- 柄に近い方のツバは、柄と密着し、大きくなった柄の表面でダンダラとなる
- また柄に密着出来なかった柄に近いツバはもう一つのツバに引っ張られて剥がされてしまう
そんなストーリーを考えたのだがどうだろう?
前回の記事で僕はこんな疑問を掲げた
「ダンダラになっている表皮は果たして必要なのでしょうか?」
柄にくっついた方のツバ(今までは表皮と言っていたもの)は柄にくっついた段階で既に役目を終えているのではないか?という疑問は正しかったのだ。
つまりツバは2重で出来ており、それは2重の防御でヒダを守るべく発生したものであり、ヒダが開いていく過程で既にその役目を果たしている、、、、
だから、内側にあるツバは「表皮」として現出している時点では既に不要のものになっている。なのでダンダラであっても構わないのである。