ヘビキノコモドキを分解する
「当たり年」という言葉がある。
「今年はマツタケの当たり年らしく、これでもう30kgも収穫した」
なんて使い方をする。
年によって大発生したり、またはまったく見れなかったりするのはどうしてなんだろう?と考えてしまうのだが、一つには雨の影響があると思われる。
雨の降るタイミングと菌糸たちが「そろそろ子実体を作らねば」と考えるタイミングが上手く重なれば、大発生するだろうし、それがズレてしまえば結局出ずじまいだった、ということもある。つまりはいくら菌糸がやる気満々であったとしても、肝心の水分補給がなければ子実体を作ろうにも作れない、という事態が発生するのですね。
そう言う意味では今年は「ヘビキノコモドキの当たり年」と言っていいかもしれない。 少なくとも近所の公園ではね(笑) 。
朝、ランニングをしていると、「待っていましたよ」と言わんばかりに出ているし、雨が降ったなぁ、、何か出てるかな?と思って見に行くと「ふふふ、良く来たな」と言いながら出迎えてくれる。日照り続きの暗い森の中をあきらめ気味に歩いていても、「わしカピカピやけど、結構元気やで」と胞子を振り撒いたりもしているのだ。 いわば「普通種」ではあるものの、それゆえに「馴染み深く」、そして何より「格好良い」ヘビキノコモドキについて書いてみることにする。
ヘビキノコモドキとは何ものなのか?
「ヘビキノコモドキ」と聞いた時に「何その名前?」と思われる方は多い。
語感だけ聞くとゲゲゲの鬼太郎に出てくる妖怪の様な名前であるが、そうではない。
名前を分解するといかに「名は体を表す」というのが良くわかる。
「ヘビ(蛇)」+「キノコ(茸)」+「モドキ(擬き)」
簡単に言うと「ヘビキノコ」というキノコに似ているキノコ、というわけである。
ただ「ヘビキノコ」というキノコはどの図鑑の索引にも載っていない(はず)。
何故ならヘビキノコは正式名ではなく(俗称でいいのかな?)、正式な和名は「キリンタケ」という名称である。 つまり「ヘビキノコモドキ」というのは「ヘビキノコ」と呼ばれていたキノコに似ている、というので和名が付けられたのだけれど、ヘビキノコというのは正式名では無いので、結局モドキの方だけ残された、という梯子を外された感満載の和名なのですな(きのこあるあるではありますが w)。
ヘビキノコモドキ本人からすれば
「え?名前変えたの??じゃあさぁ、オレ誰のモドキなんだよ~」
という悲痛な叫びが聞こえてきそうです・・・。
さて、そのご本家「ヘビキノコ(正式和名:キリンタケ)」とは一体どういうキノコなのでしょうか?
実は僕自身「キリンタケ」というキノコを見たことはありません。 また、キノコ猛者の39氏に聞いても「これぞキリンタケ、というのは見たことがない」と言われ、「テングの鬼」と呼ばれているOAk氏に聞いても「これ、キリンタケだと思うのですがぁ、、」と恐る恐る写真を送ってくれたりする。
またネット上で2つの名前を検索しても
キリンタケ:約 1,170 件 (0.46 秒)
ヘビキノコモドキ:約 413,000 件 (0.55 秒)
とヘビキノコモドキの方が400倍と圧倒している。
もしかしてキリンタケというのはかなりレアなきのこではないだろうか?
また、ネット上の「キリンタケ」を眺めていると、「これは本当にキリンタケなのだろうか?」というものにも出会う。恐らくだが、同定自体もかなり難しいキノコなんだろうなぁ、、と思っている。まぁ出会ったことが無いので「これ違うよ」とも言えないんだけど。
ただ、今回はヘビキノコモドキのお話なので、キリンタケのことはまたの機会に置いときましょう。
※結構面白い話になること間違いなしなの (#^.^#)
またいつかキリンタケを発見したときに詳しくレポートしたいと思っています。
ヘビキノコモドキを分解する
検鏡するなら必須の図鑑「北陸のきのこ図鑑」で調べてみました。
https://amzn.to/3AnDKeg大分類 | 小分類 | 内容 |
生態 | 場所 | アカマツ混生林,コナラ、クヌギ、カシ、 シイなどの林下に群生 |
状態 | 単生 | |
分布 | 日本、韓国、中国 | |
傘 | 径 | 4~12cm |
形 | 半球形→饅頭形→扁平→椀形 | |
粘性 | 粘性なく | |
色 | 暗褐色繊維紋で中央暗褐色~黒褐色、周辺淡く全面に黒褐色粒状外被膜破片を散布 | |
柄 | 大きさ | 7~11 ×0.6~1cm |
形 | 逆棍棒形で髄状 | |
色 | 灰色~灰褐色の繊維状細鱗片に覆われ | |
ツバ | 頂部に乳白色膜質つば垂下し、表面 に縦条あり | |
ツボ | 肥大基部表面につぼは灰色~黒褐色粒の層をなす | |
ひだ | 形態 | 密 |
色 | 白色。 | |
肉 | 色 | 白色 |
形態 | 薄く無味で弱臭あり | |
胞子 | 形 | 類球形~広楕円形 |
大きさ | 8~10.5×7~8um | |
菌糸 | クランプ | なし |
ヘビキノコモドキの特徴をざっと見て欲しい。
この特徴の中でヘビキノコモドキの「蛇」と形容される所以がその傘の模様にある。
文章で言うと
暗褐色繊維紋で中央暗褐色~黒褐色、周辺淡く全面に黒褐色粒状外被膜破片を散布
の部分である。
ここで最も注目、そして写真をよく観察していただきたいのだが、ヘビキノコモドキにはイボがありません。
この上の写真で見ればわかるように、外皮膜の名残りが、黒く破片状になって傘の上で幾何学模様を作っている様に見えますね。
これがヘビキノコモドキの最大の特徴と言って良く、まさに「蛇」の模様に見えなくもありません。
ヘビキノコモドキのやや成菌になりかけの子実体です。
傘の外皮膜にひびが入っている状態が見て取れますでしょうか?そして傘のアップ写真と比べて少し表面が粉状であることが見て取れます。これは「黒褐色粒状外皮膜」という表現がぴったりですが、かなりややこしい言い回しなので絶対に覚えられません(笑)。
なので、分かりやすく言えば
「ややこげ茶色をしていて、少し粉状の被膜の名残り」
という感じかなぁ、、その名残が生長とともに破片状になって残っていく様はテングツルタケと特徴が良く似ておりますね。
ただし、このヘビキノコモドキには条線はありませんし、その他いろんなパーツの特徴が異なりますので、見分ける方法は特に難しくはありません。
これは先ほどの写真のものよりさらに幼菌の状態です。
ただし、被膜の破片には少し突起状になっており、かなり被膜が分厚かったものだと思われます。
また上記3つの写真をよく見ると傘の地色はすべて黒褐色であります。
つまりヘビキノコモドキは黒褐色の地の上に、さらに濃い色の被膜が破片状になって点在している、というのがわかります。
それら幼菌から成菌までの特徴をしっかり観察して目に焼き付けたら容易に「ヘビキノコモドキ」という同定は可能になってくる。
、、、はずですが・・・・?
これはヘビキノコモドキなのだろうか?
今年はヘビキノコモドキの当たり年、というのは先に述べた。
あちらこちらで見るのでこのキノコも 「あぁ、ヘビキノコモドキね」 で済ませていたのだが、見れば見るほどだんだんヘビキノコモドキではないんじゃないか?と思うようになってきた。
ポイントポイントを確認していけばいくほどその根拠が揺らいでくるのだ。
ってことで、このヘビキノコモドキモドキ(と名づけてみる)の「ヘビキノコモドキじゃない」特徴は以下の3点。
・傘の鱗片が灰色
・傘の地の色が白っぽい
・柄が白く、ダンダラらしきものは無い
と、これらの違いはとても大きい。「これぞヘビキノコモドキ!」という特徴がこのキノコには無いのだ。
傘の裏と柄を見てみましょう。
ヒダはやや密で白。
先ほどは「ダンダラらしきものは無い」と書きましたが、こうやって見ると柄にはかすかにダンダラ模様が確認できますね。
そして膜状のツバが柄の上部にあり、白色。
ただ、ヘビキノコモドキの力強さは感じないのですよね。
では別の日に見た子実体を見てください。
先ほどのものよりは傘に被膜の跡が残っているのが分かってもらえるでしょうか?
かなり粉状ではありますが、中心は被膜の破片が密集しており、その破片が放射状に広がったのちに周辺になるとまばらになっていく様子がうかがえます。確かに破片の形だけみるとヘビキノコモドキとは良く似ていますが、同じものであるとは言いにくい。
これを「テングの鬼」と呼ばれるOAk氏に見せてもヘビキノコモドキとは断言してくれませんでした(笑)
柄には確かに薄ーいダンダラが確認できます。
そしてツバがあり、ツバより上にはツバの痕跡が残っている様に見えます。
これを見て「ヘビキノコモドキです!」と言い切れる人がいるだろうか・・・?
さて、じゃあこのキノコは一体なにものなのだろうか?と思っていろいろ検索しているとこの記事が出てきた。
「ドキッときのこ ー テングタケ属sp.③」
http://dokitto.com/D-top2.htm
この記事中で紹介されているキノコが大きさは少し小さめ、というところは気になるところであるが、傘の外皮膜の破片状になっているところや傘の地色が薄い灰色をしている点など、僕が見たキノコによく似ている(先ほどのヘビキノコモドキとの差異など含めて)。 記事中では結局 テングタケ属 sp. となっていることから、種の特定までには至っていない。
ってことは不明種なのだろうか・・・?
確かに海外の図鑑を見てもこれと同じようなものは見当たらず、やはり「Amanita sp.」とするしかないなぁ、、、
という思いが頭をよぎるのであるが、、、実はこの9月11日にもう一つの出会いがあったのです。
それがこのキノコです。
これ、ヘビキノコモドキですよね?
傘の表面がメタリックな茶褐色で、外皮膜の跡が破片状になって散らばっています。
柄は写っておりませんが、ヘビキノコモドキと思わしき子実体の傘だと思われます。
では、これはなんでしょ?
これは例のヘビキノコモドキモドキですよね?
先ほど2つ並んでいたものの1つを採取し傘の表面を撮影したものです。
粉状になっているのは外皮膜の名残がやや粉っぽい欠片となって傘の表面にへばりついている、という感じを受けます。
実はこの2つの子実体は同じ日にほぼ同じ場所(5m離れていたが)で発生していました。 「だから同じ種類なのです」とは簡単に言い切れませんが、僕はこの時キラリと閃いたのです。 やはりこいつはヘビキノコモドキだ、、、とね。
写真では分かりづらいかも知れませんが、この二つの質感はとっても良く似ておりましたし、発生環境もまったく同じ(アラカシ林の地上)なのです。唯一違うのが、ヘビキノコモドキらしい子実体は少し日の当たる場所から発生していて、もう一つのモドキモドキはアラカシの葉で空が全く見えず、太陽光が当たらない場所で発生していたものでした。
つまり 日が当たる場所では 傘の破片も黒くなり、傘の表面も黒光りするのではないか?
また、日の当たらない場所で発生したヘビキノコモドキは、上記の様な特徴が出てこず、全体的に灰色っぽいままで、傘の欠片も幼菌の頃の粉状性質がそのまま温存されて、放射状に散在していくのではないだろうか?
そんな風に考えております。
ヘビキノコモドキは元来太陽光が好きなキノコであり、そのせいもあって日焼けして黒っぽくなっていくのではないか?ということ。
そう言えばあまり日陰で細々と発生しているヘビキノコモドキの印象は無く、日が差す場所に発生し、いぶし銀の様な一種独特の輝きを放っている感じしかありません。
発生する場所によってこの様に姿を変える、というのがヘビキノコモドキというキノコの特徴なのではないでしょうか?
ヘビキノコモドキバリエーション
以前役に立たないきのこ氏がTwitterの方で「これヘビキノコモドキ???」と「?」が3つもつくようなモヤっと画像をアップされていたので(笑)、今回お願いしてその画像を使わせてもらいました。
まずこのキノコはヘビキノコモドキの典型的なものに近いように思います。
・傘の地色がグレーであること
・傘に光沢があること
・傘に張り付いている外皮膜が破片状で、しかも粉っぽいこと
・柄に明確なダンダラがあること
などなど。
これは僕には分かりやすいヘビキノコモドキだと思っています。
少しモヤっとしました?(笑)
たぶんモヤ度はわずかだと思います(笑)
ただし、見ようによっては結構傘の上が粉っぽいので、コナカブリテングタケとか、関西で有名なティラミステングタケに見えなくもありませんが、両キノコとももっと粉っぽいので、判別は可能ですね。
これも
・傘の地色がグレーであること
・傘に光沢があること
・傘に張り付いている外皮膜が破片状で、しかも粉っぽいこと
などは確認できます。
柄はこの写真からは確認できませんが、黒っぽい被膜が破れている様になっているのはわかります。
もしかして、この被膜が破れてダンダラになるのかな?と思います。
モヤ度がだんだん上がっていきます(笑)
これに限っては傘の地色がかなり白っぽいです。中央になるにしたがって色は濃くなっていきますが、肝心の光沢という面では少し弱い感じですね。
もしかしてこれは木の側から発生しているので、日当たりの良くない場所から出ている色白のヘビキノコモドキかもしれません。
しかし外皮膜の破片はちゃんと付着していますし、柄もダンダラらしいものが見えておりますので、やはりヘビキノコモドキの範疇なのでしょう。
結構難しいところですが・・・(苦笑)
これもモヤ度がかなり高いですね~(笑)
どこにモヤっとするかというとやはり傘の地色と破片に、でしょうか?
・傘の地色がコテングタケモドキの様だ
・外皮膜の破片に粉っぽさがない
まぁ、そんなところでしょうかね。
ただ、これも含めてしまえばヘビキノコモドキの範疇としか言いようがないのです。
結構日当たりのいい場所の様ですので、傘の色が濃くなり、そして光沢が増し増しになる。
これは僕が見た白っぽいヘビキノコモドキからの推察である。
モヤ度100%ですね(笑)
これは一見ヘビキノコモドキに見えてしまいますが、傘にはれっきとしたイボがあります。
外皮膜のなごり的な「破片」ではなく、幼少の頃から尖っていたであろう「イボ」がそこにはあります(隣の幼菌を見れば一目瞭然)。
これはヘビキノコモドキとは言ってはいけません(笑)
じゃあ何か?と問われると、これこそヘビキノコモドキの名前の元になったヘビキノコ(正式名キリンタケ)ではないか、と思っています。
全然蛇らしくない?
そう、何故これが「ヘビキノコ」と名付けられたのか、、、それが実は最大の謎なのです。