タマゴタケモドキを分解する
タマゴタケモドキ、これで出会ったのは3回めとなる。
遠目に見たら「キタマゴタケ?」と思ったのであるが、発生環境がキタマゴタケとは大きく異なっているので、すぐに気づいた。タマゴタケモドキだ。
1度目の出会いは観察会のあと、登って来たのと別のコースを降りていく最中でのもの。
まだ幼菌の状態だったので、調べて調べて調べてやっと出した結論が
「これはタマゴタケモドキしかないな・・・」
といういわば消去法でタマゴタケモドキと決めたものであった。
そして2回めは一人で六甲の山々を縦走していて終盤にとあるお寺を通り過ぎ、激下りの道をヒーヒー言いながら歩いていたときのこと。
ふと脇道を見ると、黄色い、すっくと立っているキノコがあった。
その時の印象は「もしやタマゴタケモドキじゃないかな?」であった。
その時はなんせ縦走の途中、分解道具も持っておらず、しかも美しかったので採取するわけもなく、写真だけ撮って帰ったわけです。
そして帰ってからもう一度詳しく調べた結論が
「ツバさえあればタマゴタケモドキだなぁ、、」
であった。
で、その写真をSNSにアップしたところ、某らじかる氏から
「見えるやん、傘の下に薄っすら白いの、、あれ落ちてツバになるんだわ」
との指摘。
むむむ、さすが、傘の下の白い膜まで見通せるのか・・・と感心したものでした。
そんなタマゴタケモドキ達との出会いがあり、ようやく今回、一見しただけで「タマゴタケモドキ」と判断できるものに出会えたのでした。
美しきタマゴタケモドキ
まず皆さん、今回タマゴタケモドキの特集に当たって覚えておいて欲しいことがあります。
それは
「タマゴタケモドキはとっても美しいきのこである」
ということです。
ではその美しさについて僕がじっくり語らせてもらいましょう。
幼少のタマゴタケモドキ
おかっぱ頭で、少しお転婆そうな姿にも関わらず、そこにはある種の「気品」が漂っておりますな。
ただし、持って生まれた「狂気」といいますか、どこか近寄りがたい「殺気」といいますか、そんな尋常ならざる雰囲気を感じてしまうのは僕だけでしょうか。決して群れず、交じりあわず、屹立とした姿がいかにも「幼少の美」とも言える美しさを醸し出しているのが見て取れますね。
傘の色はレモンイエロー。条線はなし。柄の色は白いのですが、うっすら黄色いダンダラ模様があるのはきっとなにかの被膜の跡のようなものがあったのでしょうか。それともタマゴタケと同じ様に表皮が生長によって裂けて被膜となって残っているのでしょうか?
青年の頃のタマゴタケモドキ
人間で言うところの思春期を過ぎたあたりであろうか?
白くすっくと伸びた脚は、まるでツルタケを思わせる様なスッキリ具合だが、幼菌の頃と同じように柄に少し黄色めの被膜を付けているというのが、このキノコのオシャレなところかもしれない。
「素足はイヤなのよね」
とでも言いたげな感じだ。
そして、やはり目を引くのはこの傘の色であろう。
メタリックな光沢を放つレモンイエローの傘には少し絣(かすり)模様が入っているように見える。白い足に黄色い傘。ここでもタマゴタケモドキらしいキリリとした潔い生き方が伺えるようだ。
さて、この写真を見て「はっ」と気づいたあなたは素晴らしい。
きっとキノコ廃人であろう(笑)
そう、ここにはタマゴタケモドキの特徴である「ツバ」はありません。ツバはまだこの傘の裏にひっついており、その大切な大切なヒダを守っているのであります。
ヒダとは人間で言う生殖器の最も大切な部分であります。その大切な部分を守るため、人間にも「毛」というものが生えているように、キノコにも内被膜というものがあり、それがヒダを守っておるのです。
その内被膜は、もうヒダを守る必要がなくなれば(役割を終えれば)、ヒダから離脱し、ツバとなってその姿を現すのですね。
成人となったタマゴタケモドキ
皆さん、その目にくっきりと見えるでしょうか?
純白に輝いたヒダとそのすぐ下に下にひらめていいるこれまた清潔感あふれる純白のツバ。
これぞタマゴタケモドキ!
タマゴタケモドキであるならこうでなくてはならない、というぐらいの美菌でありますな。
丘の上で優雅に立つ黄色い傘の貴婦人・・・・誰の目にもそう映るであろう。
「死の貴婦人 (黄婦人)」
そんな呼び名に相応しいほど可憐な姿をしている(僕が名付けただけですが w)。
さて「風立ちぬ」というジブリの映画をご存知だろうか?
映画の中で主人公の堀越二郎とヒロイン里見菜穂子は療養先の軽井沢で出会い恋に落ちます。
その出会いのシーンを覚えていますか?
ヒロイン菜穂子が丘の上に立ってスケッチをしているシーン。
そう、僕はこのタマゴタケモドキを見た時に、このシーンを思い出しました。
映画の中でもっとも心躍るシーンの一つではないでしょうか?
青い空にぽっかり雲が浮かび、黄色い服・そして純白のエプロンを着たお嬢さんが、薄黄色の日傘を刺しながらスケッチをする。
なんとも優雅で爽やかなひととき。
どこからどう見てもタマゴタケモドキですよね?(笑)
僕は密かにこの菜穂子のモデルはタマゴタケモドキではないか?と思っているのですが、いかがでしょう?? (*^^*)
タマゴタケモドキを分解する
さて、いままでさんざんタマゴタケモドキと言ってきましたが、こやつらは本当にタマゴタケモドキなのでしょうか?
やはりきっちりと検証してみなければいけません。
タマゴタケモドキ(擬卵茸) Amanita subjunquillea
大分類 | 小分類 | 内容 |
発生 | 季節 | 夏~秋 |
樹下 | 針葉(トウヒ),広葉(落葉ブナ科,シラ カバ)の林下に単生,群生 | |
分布 | 日本、 ロシア沿海州、 中国東北部 | |
傘 | 径 | 3~8cm |
形 | 円錐形→饅頭形→扁平 | |
表面 | 湿時弱粘性 | |
色 |
橙黄色~黄土色地に暗色繊維状鱗片が覆い、中央暗橙黄色で周辺黄土色 |
|
柄 | 大きさ | 6~11×0.6~1.2cm |
形 | 逆棍棒形で膨大した基部は白色厚膜袋状つぼ付着し中実 | |
表面 | 頂部に上面白色、下面淡黄色膜質つばを垂下 その下方は黄色繊維状鱗片に覆われ、下方淡色。 |
|
ひだ | 色 | 白色 |
形 | 密で幅狭く4 ~5mm、小ひだは切断型に近い | |
肉 | 色 | 薄く白色 |
表皮 | 下表面色を帯び無味無臭 | |
胞子 | 形 | 類球形 |
大きさ | 径6.5~9um | |
菌糸 | クランプ | なし |
※赤字の部分は特徴が合致している箇所です。
ではもう一度写真と見比べてみましょう。
傘の特徴を見てみましょう
- 傘の中央はかなり濃い黄色、図鑑で言う暗橙黄色となってるが、僕的には金色と表現したい
- 周辺は色が薄くなっており、黄色と黄土色の中間ぐらいの色をしている
- 条線はありません
- 傘の縁にはやや外皮膜の破片が確認できます
- 白い膜は重なってたキノコのツバですので無視(笑)
ヒダとツバの特徴を見てみましょう
- ヒダの色は真っ白です(これが最大の特徴)
- 間隔は蜜と言っていいと思います。
- ヒダは柄に離生してますね(日本新菌類図鑑しか載ってない)
- ツバは膜質でこれも真っ白です。北陸図鑑では「淡黄色膜質」と書いてありますが、日本新菌類図鑑には「白色膜質」と書いてあります。
- またツバは柄の上方に付いています
柄とツボの特徴を見てみましょう
- 柄にはダンダラがありますが、タマゴタケのそれとは大きく異なります。図鑑の表現でいくと「黄色繊維状鱗片」となっています。
- 柄の地色は白
- 白色膜質袋状のツボが確認できますね
最後に胞子を見てみましょう
- 形は球形、類球形
- 大きさは約6.5μm
さて、いかがでしたでしょうか?
このタマゴタケモドキ、タマゴタケと間違えるとか、キタマゴタケと間違えるとかそんな話はありますが、細かく特徴を追っていくと、間違いようのないキノコでありますね。
もし、まだ自信の無い方はこちらを再度お読みくだされ。