キンチャ似ヤマイグチを分解する
ちょうどいま時期であろうか、、北海道のきのこびと達が自慢げにアップするキノコがある。
キンチャヤマイグチ
どうだ、まいったか!という感じだろうか?
我々関西人達はその「まいったか」に対して平伏するしかない、そんなキノコなのである。
何故なら関西にあるのは「キンチャ似ヤマイグチ」だからだ。
しかし、この写真の兵庫県産のヤマイグチ、どうみてもキンチャヤマイグチに見えませんか?
北海道のN嶋さんにこれを見せて
「これねぇ、キンチャヤマイグチじゃないんですよね~」
というとこんな顔をするのだ => w(゜o゜)w
いやFacebookの向こうにいるので顔は見えないが、間違いなくこんな顔をしているハズだ。
北海道の人からすればこんなフォルムをしているもの、と言えば該当するのはキンチャヤマイグチしかないし、北海道以外の人からしても図鑑で載っているこのフォルムを探せば間違いなくキンチャヤマイグチに到達するだろう。
だってほんとに良く似てるんだもんなぁ、、、
以下に Leccinum versipelle(キンチャヤマイグチ)でGoogle検索してみました結果を貼っておきます。
キンチャヤマイグチの特徴
さて、このキンチャ似ヤマイグチなのだが実はまだ「不明種」なのだそうな。
少なくとも「キンチャヤマイグチではない」ということはわかっているそうなのだが、どこがキンチャヤマイグチではないのか?というのをちょっと検証してみたいと思います。
「日本のきのこ」(ヤマケイ新版)
キンチャヤマイグチ Leccinium versipelle (Fr.) Snell
大分類 | 中分類 | 特徴 |
傘 | 径 | 4~10(20)cm |
形態 | 縁部は膜状となり管孔部から突出する | |
色 | 帯掲橙黄色 | |
管孔 | 色 | 汚白色~帯灰色 |
柄 | 長さ | 5~14(20)cm |
表面 | ほぼ黒色の細鱗片を多数つける | |
肉 | 色 | 白色(柄の基部は帯緑色)、切断すると淡ワイン色のちほとんど黒色となる。 |
発生 | 時期 | 夏~秋 |
場所 | カバノキ林内 |
赤字の部分は特徴が合致しているところ
さて見てもらえばわかりますようにほとんどが真っ赤(合致)になっています。
ただその中で特徴的に合わないのが
「樺の木林内に発生する」
という一点のみ。
兵庫で発見したものは1枚めの写真でみたらおよそわかるように赤松の樹下に発生しているので、おそらく赤松と共生しているのだと思われます。
ましてや「樺の木」などはありませんし、ここの標高は200~300mぐらいの低山地。そして関西。樺の木が自生する環境ではありません。
Wikipediaの「カバノキ属」を引用してみます。
世界に約40種、日本に約10種がある(分類によって数は一定しない)。落葉広葉樹で、北半球の亜寒帯から温帯にかけて広く分布する。高原の木として知られるシラカバや亜高山帯のダケカンバが代表的である。
Wikipedia「カバノキ属」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%8E%E3%82%AD%E5%B1%9E
ということで、シラカバやダケカンバが自生するのは亜寒帯や亜高山帯であることがわかります。僕も中学校の修学旅行で信州を訪れ、黒四ダムへ向かうバスの中でくねくね道を上がっていく途中の木々の樹皮が白くなっていくのを見て
「これかぁ、シラカバっちゅうのは!」
とバス酔いしながら思ったもんです (*^^*)
まぁ僕のバス酔いの話は置いといて、カバノキというのはそういう場所にしか自生しないのです。ってことで
「これはキンチャヤマイグチではない」
と言い切って良いものだろうか?
キンチャ似ヤマイグチを分解する
1枚めの写真の近所にこの2つの子実体があった。
実は大きい方の左下に幼菌もいるのだよ (*^^*)
これもパッと見はキンチャヤマイグチに見えると思います。
ただ、少しキンチャヤマイグチにしては柄がか細い点と傘の色が薄い点が気になります。
しかし、特徴を合わせていくとキンチャヤマイグチの範疇に入りますね。
この細粒点を見てください!!まさに「僕はヤマイグチじゃ~」っていう細粒点ですよね?
しかしこのページのキンチャヤマイグチを見てください。
abit image, Leccinum versipelle, REH8498, Valday District, Russia (30.5).
https://www.researchgate.net/figure/Habit-image-Leccinum-versipelle-REH8498-Valday-District-Russia-305_fig2_223976742
もうね、僕が見たキンチャヤマイグチが「毛」だとしたら、URL先のキンチャヤマイグチは「剛毛」ですわな。もう「ワシはヤマイグチじゃ~」 という感じ(笑)
細粒点が荒々しいのがわかってもらえると思います。
まだ傘が完全に開いたわけではありませんが、図鑑の表現「帯掲橙黄色」という色には間違いありません。誰にも文句は言わせませんよ(笑)
管孔は孔口が菌糸で埋められているように見えますがどうでしょうか?
色は図鑑には「汚白色~帯灰色」 とありますが、まぁその範囲と言っていいでしょう。
切断してみました。
肉は白ですが切断すると柄の上部と傘の部分が若干黒っぽく変色しておりますね。
これを「淡ワイン色」と表現するかはちょっと微妙ですが、次の写真を見てください。
黒変していってるのが良くわかります。
図鑑には「切断すると淡ワイン色のちほとんど黒色となる。」とありますので、これもキンチャヤマイグチの特徴と合致します。
うーむ、うーむ、うーむ、ここまで一緒なのに「これがキンチャヤマイグチではない」とする根拠が見当たりません。
決定的に違うのは「カバノキの林内に発生」という部分だけ。
しかしヤマドリタケモドキなどは関西にも発生するし、北海道にも発生します。
一部では「北海道のものはススケヤマドリタケ」と言われたりしていますが、間違いなくヤマドリタケモドキらしいものも発生しております。
ってことは逆に言うと赤松の木と共生するキンチャヤマイグチがあってもおかしくないのでは?
なんて思うのですが・・・・
キンチャ似ヤマイグチを検鏡する
まずは胞子を観察してみました。
胞子の形は紡錘形でKOHaq。
胞子の大きさは15 x 5μmぐらい。 図鑑では 11~17(18) x 3.5~5(6) μm となっていますのでちゃんと範囲内の収まっているように見えます。
胞子を観た限りはキンチャヤマイグチと合っているように見えます。
ではシスチジアを観察してみます。
薄くて見にくいですが、メモリの上の部分がたぶん側シスチジアと思われます。
頂部に結晶物を付着させているように見えます。
大きさは約50x 5μmぐらい。
またまた見にくいですが、たぶん縁シスチジアじゃないか?と思われます。
類紡錘形で大きさが 20 x 4μmぐらい。
図鑑では 25~40 x 7~13μm とちょっと図鑑の方が大きいのでもしかしてこれは縁シスチジアではないかと思われますが?
はい、すいません、顕微鏡に関してはまだまだ知識がたりませぬ。
なので、これを読んだ方も参考程度にお考えください。
このキノコは一体何ものか?
さてさて、この見た目キンチャヤマイグチにそっくりのキンチャ似ヤマイグチ、一体何ものなのでしょうか?
と思って何気に「Fungi Of Temperate Of Europe」でLeccinumのページを開いてみた。
するとこんな写真が飛び込んできた
これみんなキンチャヤマイグチに見えちゃいますよね?(笑)
パッと見る限りではあるが、傘の色の違い、柄の細粒点の違いはあれどどれもキンチャヤマイグチにみえる。
左上から
- Leccinum albostiputatum
- Leccinum quercinum
- Leccinum versipelle
- Leccinum vulpinum
となっていて、この中で日本の「キンチャヤマイグチ」は3番目の「Leccinum versipelle」 である。
他のものはいわば「キンチャ似ヤマイグチ」と言っていいだろう(笑)
また、もしかしてこの3種類のうちのどれかが僕が見つけたキンチャ似ヤマイグチかもしれないし、違うかもしれない。
そして驚いたことにイグチの大家、牛研さんからTwitterでこんな事を教えてもらいました。
「日本の図鑑ではとりあえず学名が適用されている」
そして
「日本産はすべて Leccinum sp. である可能性が高い」
もうちゃぶ台をひっくり返された様な感じで、目の前が真っ暗になってきました(大げさな w)
しかし、、、じゃあ北海道の人たちが
「キンチャヤマイグチだぞ~!」
とアップしているキンチャヤマイグチは 今のところ Leccinum sp. ということですか、、、
ってことで、北海道のN嶋さんにキンチャヤマイグチの写真をお借りしましたので貼り付けてみます。
こうやって見ると確かに Leccinum versipelle にとってもよく似ている気がします。
では、北欧に行ってIさんが 撮影してきた東欧産「キンチャヤマイグチ」を貼らしてもらいます。
※このキンチャヤマイグチは Leccinum versipelle という確証はありません
傘の色や柄の細粒点大小(または多い少ない)がマチマチだということがわかります。
これはもしかして違う種がまざっているのかもしれないし、単なる個体差かもしれません。
ただ、同時期に同じ様なポイントで採取されているので、同種の可能性が高いのです。
しかし、上記4種類のうちのどれか?と聞かれれば Leccinum versipelle に近いでしょうね。
そして今はじめて気が付いたことがあります。
それは
関西のキンチャ似ヤマイグチと Leccinum versipelle は肉の黒変範囲が違う。
ということ。
もう一度見てみる
これに比べ Leccinum versipelle はこんな感じ(写真の右端に注目)
黒変の仕方が著しいのと、柄の全体が黒くなっている印象です。
ここの違いはかなり大きいものだと思われます。
それと柄の最下部が黄色味を帯びているのがわかりますでしょうか?
これは日本の図鑑には載っていない特徴でありますが、本種(Leccinum versipelle)の特徴かもしれません。
それに比べ、別の種である Leccinum quercinum の黒変を見てみると、、、
かなり黒変は薄い感じで、どちらかと言うと柄の上部と傘が中心に黒変していると思われる。
ただしこちらは柄の下部も黒変&青変しているように見えるが・・・???
それと Leccinum quercinum は
- 細粒点が細かい
- 黒変が薄い
- マツやトウヒから発生する
という点がキンチャ似ヤマイグチと類似する点である。
では、関西のキンチャ似ヤマイグチは Leccinum quercinum なのだろうか?