アンズオチバタケと仮称をつけた話

2020.07.11 大阪

「アンズオチバタケ」という名前。
知ってる人は知ってるけど、知らない人は知らない。
しかも「知らない」っていう人が圧倒的に多い。図鑑にも載っていないし、ネットで検索してもほとんど出てこないはず。

何故ならその名称は僕がつけたからだ(笑)

ではその経緯をお話しましょう。

大阪のとある公園。

梅雨の真っ最中。土曜日の昼下がり。
その日は雨は止んでいたが、仕事が立て込んでいたので朝からずーーっと家の中にいた。
こんなキノコ日和なのに、、と鬱屈していた僕はもうあかん、とばかりに家を飛び出したのであった。

公園に着いてまもなく、キノコはかなり出ていた。

「うっしっし、やっぱたくさん出ておるわい、、、」

実はその日に菌友が何人かその公園を訪れており、Facebookにてキノコの写真を何枚かアップしていたのであった。
あぁ、あのキノコはここでやな、このキノコはこっちかいな、、、探していると次々と菌友たちが歩いた後がわかるという、、もう道標状態でありました(笑)

そんな中、例のごとく地べたに張り付きながらキノコを探しているとオレンジ色の小さな傘が目についた。

はて、これはなんぞなもし?

そのキノコの周辺をよく見ると似たようなヤツが何本か発生している。
ふむふむ、群生とまではいかないが、結構まとめて生える種なのですな、、、
でも、今まで図鑑でも、実物も見た覚えがない。

これは「高橋さん案件」やな、、、

「八重山諸島のきのこ」というWEBサイトを開いておられる高橋春樹さんのことである。

「きのこの下に死体は眠る!?」という吹春俊光先生が書かれた本にこんな感じで紹介されているお方なのです。

日本のきのこ学の中ではアマチュアの活動は欠かせない。例えば1990年代から2000年代の前半期に、日本産きのこの新種を最もたくさん記載したのは、現在石垣島在住の菌類を職業としていない方である。

「きのこの下には死体が眠る!?」 吹春俊光著

特徴を観察してみる

2020.07.11 大阪

傘の形は幼菌の頃はまんじゅう形をしていますが、この写真の様に成菌になれば円錐形(または山形)と言っていい形になります。
傘の径は1cm。色はオレンジ色に近い褐色。傘の周辺にわずかながら条線が確認できます。

この傘の形態だけを見て、いくつかのキノコの仲間を連想してみる。

例えば、、、

  • クヌギタケの仲間(クヌギタケ属)
  • ヒナノヒガサの仲間(ヒナノヒガサ属)
  • ホウライタケの仲間(シロホウライタケ属、ホウライタケ属)
  • ヒメコガサの仲間(ケコガサタケ属)

こんな感じでしょうか?(他にあったらツッコんでください)

2020.07.11 大阪

ヒダの色は白。やや粗。長いヒダと短いヒダが交互にある。
この写真で見る限り、ヒダは柄に離生しているいるように見えます。

2020.07.11 大阪

柄は太さ1mm、長さ5cmぐらい。
上部は白く、下部に行くに従って褐色が濃くなっています。

2020.07.11 大阪

そして注目はこれ、柄の下部と基質であるアラカシ(シラカシかも?)の葉っぱとの間にある白い菌糸の塊。これはクヌギタケの仲間を撮影したときもこの様な毛の存在がありました。


少なくともこれらの特徴を持ったキノコは僕が持っている図鑑にはありませんでした。

高橋さんに聞いてみる

ちょうど「このキノコはなんだろうか??」と悩んでいるところに高橋さんがこんなツイートしているのを見かけた。
石垣島のカエンオチバタケ類似種の写真である。

これを見て「わっ、めっちゃ似てる!」と思ってすかさず、こんなコメントをした。

ここでは「シラカシ」と書きましたが、この場所はアラカシの木もあるため、もしかしてアラカシかもしれません。

そして、アップしたツイートがこれです。

「柄の気分」となっているのは「柄の基部」のタイプミスです(苦笑)

そして高橋さんから頂いたコメントがこれです。


ヒカゲオチエダタケ Marasmius occultatus Har. Takah.

「わっ、またやってしまった!」と思った。
ヒカゲオチエダタケというのは学名を見れば分かるように高橋さんが新種記載したキノコ。
高橋さんのWEBサイト「八重山諸島のきのこ」をちゃんと読んでいれば出てくるキノコなのですが、見落としておりました!(なんて粗忽なのでしょう)
言い訳をさせてもらえれば、この間、キクモンクヌギタケというのを教えてもらった時に、クヌギタケ属(Mycena)の項目はひとしきり読んだのだが、ホウライタケ属(Marasmius)のところは見てなかったという・・・(^_^;)

そんなこんなで、このキノコは一旦「ヒカゲオチエダタケ近縁種」ということになった。

が、しかし、またも高橋さんからこんな内容アドバイスを頂いたので、ちょうど採取していたサンプルで検鏡することにしてみた。
もしかしてこれが新種だったらワクワクものである (*^^*)

※高橋さんより「大阪の標本は下部を中心にやや粉状物」とありますが、この「分状物」という表現よりも「少鱗片」という表現の方が適切かもしれない、との訂正が入りました。

柄の下部組織を検鏡してみる

まぁしかし、今までヒダの部分は検鏡したことはあるが柄の組織はまったく検鏡したことがありません。
ですので、正直どうやって、なにを見たら良いのかはわかりませんでしたが、柄の下部をピンセットでつまみ出し、アンモニア水をかけて細胞をもみほぐしバラバラに。
そしてこの組織ってなんじゃろうか、、と思いつつも撮影してみました。

そして撮影した写真を高橋さんに見てもらいました。

写真①

写真②

写真③

写真④

写真⑤
写真⑥

この写真を高橋さんに送った後の返信をそのまま引用させてもらいます。

顕鏡写真ありがとうございます。(*ˊᗜˋ*)!!
お写真①の中央部にカエンオチバタケ型の分岐した細胞のようなものが見られます。稀に存在するのかもしれませんが、やや気になります。その他のお写真は分化した異形細胞(柄シスチジア)は見当たりません。お写真⑤と写真⑥は柄表皮のこん棒形の末端細胞が束状の集団を形成しており、この組織が恐らく柄の下部の粉状構造を形成していたものと考えられます。このような特徴はヒカゲオチエダタケに通常見られないもので、落ち葉から発生していた点を考え合わせると、新たに見つかった系統である事が示唆されます。 ヒカゲオチエダタケは、子実体が発生している材の周辺に付着した落ち葉に菌糸体が拡がるような形で落ち葉から子実体を発生させる場合がありますが、これはむしろ例外で、通常は枯れ枝のみから発生します。やはり落ち葉のみから発生するタイプは別系統と考えるべきでしょう。 というわけで、関西地域で新たに見つかったヒカゲオチエダタケ近縁群の新種候補として、とりあえず仮称を与えて区別しておきたいと思います。つきましては、発見者の特権で仮称の命名をお願いできますでしょうか? 落ち葉から出ているのでオチエダという名称は使えませんが、「ヒカゲオチバタケ」と言う仮称は既に青木実さんが使用しておられます。まあ、堅く考えず、単なるニックネームにすぎませんので、できるだけ分かりやすく、シンプルで覚えやすい名称でよろしいかと思います。よろしくお願いいたします(o^▽^)o)ペコッ

さて、ここで注目が緑の下線部分。

「やはり落ち葉のみから発生するタイプは別系統と考えるべきでしょう」

ですね。通常ヒカゲオチエダタケは落ち枝から発生するのが一般的で、この様な葉っぱを基質として発生するのはまれということ。つまり枝から発生するか、葉っぱから発生するかによって、それは違う種の可能性が高い、ということですね。
今までは、落ち葉であれ、落ち枝であれ、どちらも一緒だと思っていたのですが、よくよく考えてみると葉っぱから出てるものは枝から出てないし、逆に枝から出ているものは葉っぱから出るということはあまりない、という事に今更ながらに気づきました(遅いわ w)。

そして

「つきましては、発見者の特権で仮称の命名をお願いできますでしょうか?」

とな! (@_@;)
今まで「勝手に名前をつけるシリーズ」で勝手に名前を付けてきた僕であるが、ついにこの時がやってきたのだ。

(入佐仮称)

こんな時がやってくるとは思いも寄らなかったですなぁ~(*^^*)
そしてイノウエヤスコさんにちょっと相談して(意外と一人では決めれないタイプ w)ヒントを頂いた後に決めた名前が

「アンズオチバタケ」

なのでした。
杏の香りがするわけじゃないけど、この特徴的な色合いを「日本の伝統色」の中から探したところ「杏色」がとっても近い色で、しかも名前も覚えやすいので、じゃあそれにしよう、ということになったのです。

ヒカゲオチエダタケとはどんなキノコか?

このアンズオチバタケとヒカゲオチエダタケとは発生基質が「葉っぱから出るか?」それとも「枝から発生するか?」の違い、であると言える。
ですので、その違いを除けば今のところは近縁種、と言えるかもしれない。

そこで高橋さんの許可を頂いたので、その特徴をピックアップしてみます。
写真は神戸にてイノウエヤスコさんによって撮影されたアンズオチバタケ(と思われるもの)の写真を使用させてもらいます。
実は神戸でも同様のキノコを発見し、この記事のためにわざわざ撮影してもらったキノコたちであった。

2020.07.14 神戸 撮影:イノウエヤスコさん (アンズオチバタケと同種と思われるもの)

ヒカゲオチエダタケMarasmius occultatus Har. Takah., Mycoscience 41: 313-321, 2000
http://www7a.biglobe.ne.jp/~har-takah/page030.html

大分類 小分類 特徴
12-27 mm
  最初半球形,の饅頭形~平開し,平坦, 周縁部に浅い溝線を表し, 乾性, 光沢を欠き, ビロ-ド状, しばしば成熟すると著しい白色粉状帯を表す
  帯褐橙色~褐色または淡褐色, 中央部はやや暗色になる
厚さ 薄く (1 mm以下)
  傘より淡色
  特別な味や臭いはない
大きさ 30-50 ×0.8-1.3 mm
  円柱形, 中心生, やせ型, 強靱、中空、光沢あり, 平滑
  傘と同色, 頂部は淡色
  基部 発達した白色の長い剛毛状菌糸体に被われる
ヒダ 形態 やや離生~上生, やや疎~やや密 (柄に到達するヒダは 17-20)
  2.5 mm
  白色
  発達した連絡脈は見られない、縁部は平坦, 同色. 胞子紋は白色
担子胞子 大きさ 14-16×3-4 μm
  幅の狭いこん棒形~円柱状紡錘形, 平坦
  無色, 非アミロイド
担子器 大きさ 23-32×6-8 μm
  こん棒形
  形態 4胞子性、偽担子器は紡錘形~紡錘状こん棒形

2020.07.14 神戸 撮影:イノウエヤスコさん (アンズオチバタケと同種と思われるもの)

2020.07.14 神戸 撮影:イノウエヤスコさん (アンズオチバタケと同種と思われるもの)

2020.07.14 神戸 撮影:イノウエヤスコさん (アンズオチバタケと同種と思われるもの)

本当に丁寧に撮ってもらった写真!!感謝感謝!

ちなみにこの写真、その時に来ていた黒いTシャツを脱いで黒バックで撮ってくれたとのこと。

え?もしかして上半身裸で撮ったのか!?(@_@;)

カメラマン根性むき出しのヤスコであった・・・(笑)

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